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初期衝動

僕がカメラを初めて手にした頃の話。

僕は当時電車通勤で、大阪の鶴橋駅を利用していた。

鶴橋駅というのはご存じの方は今からの内容に深く頷いてくださると思いますが、

とーっても個性豊かな駅です。

日本最大のコリアンタウンの中にあることもあり、サラリーマンが家路を急ぐ時間のホームには周囲にあるたくさんの焼肉屋さんから肉の油の香ばしい香りとその煙がホームにまで漂ってくるという感じで、

まぁダイエット中や空腹時に降り立ってはいけない駅ナンバーワンではないでしょうか。

JRと近鉄が乗り合わせているので、当然人も多い。割に近鉄のホームは狭い。
煙と一緒に運ばれてくる油なのかな、なんか地面は脂ギッシュでネットリしている。(今はどうかわかりませんが当時の僕にはそう感じていました。)
ホームにはゴミやビールの空き缶なんてころがってても普通〜というような、わかりませんが、「ザ・オオサカ」的な味のある駅なんです。

話は戻ってカメラの話。

で当時の僕はカメラを始めたかったわけでもなく、ただ配属された部署が写真の部署で、カメラが近くにあって、だからカメラを借りたってぐらいの、興味のレベルでした。

確かになんか面白そうなものでは在るなぁとは感じながらも、
なにを撮りたいとかもなく 、それこそなにがいい写真かなんてわかるわけもなく、押してはふーんって感じの日々でした。


そんな状態の僕がある日の帰宅時の鶴橋駅、

ホームのベンチに座って電車を待っていると、

前のベンチに女の人が座った。

顔も年齢も何も覚えていない。

覚えているのは、唯一、その女性は真っ赤できれいなヒールを履いていた。

うつむいてカメラをいじっていた僕の視界に急に飛び込んできた赤いヒールは僕のこころをキッと掴んだ。

焼き肉の煙油でベトベトで、
タバコの吸殻とかゴミとか落ちてるようなホームの上(昔の話ですよ、すいません)に、
あまりに不釣り合いな綺麗なピカピカの赤いヒール。


すこしすると電車が煙と油の匂いをかき分けながらホームに入ってきた。

赤いヒールは左右をさっともとに戻して、綺麗に先端をそろえたあと、颯爽と列車の方に向かっていく。

その時、
ホームの地面に転がっていたビールの空き缶が誰かに蹴られて、
僕のヒールへ視線の中に飛び込んできた。



僕は思わずシャッターを切った。



電車とともに赤いヒールは行ってしまった。

カメラのモニターにはぶれてはいるが残っている赤いヒール。

今、目の前にあるのはビールの空き缶とベトベトの床。


なんかその時、
写真が好きになった。

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