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アフターコロナも継続利用?小売店舗のサービスとは

ECで買い物をした場合、家に届けていただくことが一般的ですが、最近では“ECで買ったものを店舗で受け取る”という買い物体験をしたことがある人も増えているのではないでしょうか?

コロナ禍をきっかけに密回避や非接触ニーズが高まっていることもあり、こうした新しい買い物体験の提供が加速しています。

海外ではECで購入した商品を店舗で受け取るBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)やドライブスルーのように店舗の駐車場でオンライン注文の商品を受け取るカーブサイドピックアップが流行し、日本でもセルフチェックレジが普及するほか、都内では無人店舗もチラホラと見かけるようになりました。

こうしたサービスに対する需要は、コロナ禍だけの一過性のものなのでしょうか?果たして、アフターコロナの世界でも残り続けるのでしょうか?

以前にも「これからの実店舗接客の役割」や「D2Cブランドのチャネル展開」といったテーマでnoteにご登場いただいた、小売業のDXに関する有識者である郡司昇氏に、このあたりの状況をお聞きしてみました。

新しい買い物行動へのニーズが、13カ国中1位の日本!?

――コロナをきっかけに小売業や飲食業ではBOPISやカーブサイドピックアップなどの新しいサービスが続々と登場していますが、こういったサービスはアフターコロナにも残っていくのでしょうか?

郡司氏:コロナ禍で新しく体験したサービス、今後も使い続けたいサービスについて、McKinsey & Companyがアメリカでアンケートをとっていました。

リンク:How retail can adapt supply chains to win in the next normal

これを見ると、レストランのカーブサイドピックアップ(オンラインで注文して店舗に車で取りに行く)の利用が一番増加しています。デリバリーの利用も比較的増えているのですが、ミールキットのデリバリーだけは少なめですね。

さらに肝心なのは継続利用意向です。今後も使い続けたいサービスの第1位がセルフチェックアウト(82%)。自分で会計を行う仕組みですね。そして、BOPIS(64%)の継続利用意向も高い数値を示しています。この2つが、アフターコロナでも引き続き利用されるサービスになりそうです。

セルフチェックアウトの話でいうと、コロナ禍でなるべく人と接触したくないという話だけではなく、アメリカでは自分で支払いをしたほうが快適と考える人が多いのではないでしょうか。

例えば、日本の場合はコンビニの店員さんに「ありがとうございました」と言われても、特に何も言わずにお店を出て行って 問題ありません。しかし、アメリカの場合、どんな店員でも(例えば不愛想な店員でも)、サンキューと挨拶をされたら、こちらも返事をしないといけない風潮があります。だからAmazon Goのようなお店が支持されているし、セルフレジも流行っているのです。実はこういった傾向は、日本でも出てくると予想しています。

また、McKinsey & Companyは先ほどのアンケートをアメリカ以外の国でも実施しています。日本もそのうちの一つです。結果を見てみると、「新しい買い物行動を試した」と回答した割合が最も高かったのはインドで、回答者の96%もの人が新しい買い物行動にトライしています。次いでインドネシア(92%)、中国(86%)と高い数値が続き、アメリカは73%で13カ国中6位でした。

そして日本は30%で、13カ国の中では一番低い割合となっています。さらに日本の場合、BOPISを提供しているお店がほぼないため、この30%のほとんどがセルフチェックアウトではないかと思っています。

――日本は他の国と比べるとBOPISなどの新しい買い物体験は浸透していなかったということなんですね。それでも今後、日本では新しい買い物体験が浸透するのでしょうか?

郡司氏:継続利用意向の数値を見ると、逆に13カ国中で日本が一番高いんです。こういった体験を続けたいと考えている人が一番多い国なのに、まだ提供できていない。つまり、小売店などのサービス提供側はBOPISやセルフチェックアウトを提供することで、消費者の支持を得られるチャンスがあると考えることもできますよね。

BOPISのメリットは、“ついで買い”と“データ活用”

――なるほど、今後もセルフチェックアウトやBOPISが浸透すると購買体験はより向上してきそうですね。導入メリットについて、もう少し詳しく教えてください。

郡司氏:新しい買い物体験を提供できるようになると、消費者の買い物データが溜まってきます。例えばBOPISが分かりやすいのですが、オンラインで注文する際に検討しているCookie情報が残ると、通常のECと同じように、どのようにしてこの商品にたどり着き、何と比較検討し、最終的にどのように注文したのかが分かるようになるんです。これらのデータを有効活用することで、よりパーソナライズされたサービスを提供できるようになります。

アメリカでWalmartやTHE HOME DEPOTのBOPISが伸びていますが、その継続利用意向が高いというデータを見る限り、単なるコロナ禍の影響にとどまらない、新しい購買体験を生み出しているのだと思います。なので、日本でも今後はBOPISを提供する店舗が増えてくるのではないでしょうか。

――日本でもBOPISを提供している店舗はありますか?

郡司氏:例えば、ユニクロやしまむらはECで買ったものを店舗で受け取るサービスを提供していますね。

ユニクロの場合は5,000円以上で送料無料なので、店舗で受け取るよりも自宅配送の方が圧倒的に多いのですが、しまむらの場合は店舗の受け取り比率が9割(92%)なんですね。なぜかというと、一律で送料が500円かかるから。

おそらく、しまむらの商品単価が高くないこともあって送料に500円支払うよりも店舗で受け取ることを選択するのだと思います。さらに注目すべきなのは、店舗に受け取りに行った際に「ついで買い」が発生しているんですよ。

IR(2022年2月期第3四半期決算説明会  P.21参照)を見ると、店頭での合わせ買い比率が第3四半期累計で46%となっています。

ただ、これは店舗在庫を利用しているわけではなく、受け取り拠点として利用しているので、正確にはBOPISではなくClick & Collectですね。いずれにせよ、既存の物流網を活用できる上に、ついで買いが発生しているので、店舗にとってメリットがあるのは間違いないでしょう。

Walmartから在庫管理ロボットを一掃した、BOPISのインパクト

――以前noteの記事(さまざまなアプローチから学ぶ、店舗でのロボット活用)で、WalmartとBossa Nova Roboticsの在庫管理ロボットに少し触れました。Walmartが在庫管理ロボットの利用を中止した理由について、コロナ禍でオンライン注文が急増したことが報道されている記事がありましたが、こちらについてご意見伺えますでしょうか?

郡司氏:単純にBOPISが増えたからではないかと思います。コロナ禍でお店にいる時間を減らしたいという需要が高まったこと、それから日本ほど宅配サービスの質が良くないので配送に抵抗があることも影響しているのではないでしょうか。向こうだと、荷物を放り投げられたり、盗まれる可能性もありますからね。

BOPISと言っても、アメリカの場合はカーブサイドピックアップ、車で商品を受け取るBOPISが主流ですが、それが増えた結果、ピックアップするための店員が増員され、棚の欠品状況が常に把握できるようになったんです。実際に、コロナ禍にアメリカのWalmartに行った知人の話では、店内で20〜30人のスタッフが常に商品をピックアップしていたそうです。

一方、ロボットの場合は安全性を考慮してお客さんや従業員に当たらないようにゆっくり動き、センサーで検知して何かあれば事前に止まるようになっています。そうなると、何十人も店員が店内を歩き回っている中でロボットがいると邪魔になったりするわけですね。だから単純に、BOPISの需要が増えたのでロボットを使用する必要がなくなったんです。ただ、当時は500店舗まで導入していたので、一定の効果はあったのだと思いますよ。

――なるほど、ではアフターコロナでまた利用する可能性はありますか?

郡司氏:BOPISの継続利用意向の高さを考えると、コロナ収束後に在庫管理ロボットが復活するかは微妙なところだと思います

――ありがとうございます。

日本ではまだ部分的な導入にとどまっているBOPISですが、先述した調査にもあるとおり、アフターコロナの新しい買い物行動に対するニーズは海外と比べても高いので、今後さまざまなジャンルでBOPISを体験する機会が増えると、日本にも一気に浸透する可能性も考えられるかもしれません。小売店舗のあり方を大きく変えるサービスは登場するのか、引き続き動向に注目していきたいと思います。

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【プロフィール】
郡司 昇(ぐんじ のぼる)
店舗のICT活用研究所 代表

ドラッグストア大手ココカラファインでEC事業会社社長として事業黒字化の後、全社マーケティング戦略を策定。マーケティングとECの責任者兼任。現職は小売業のデジタルトランスフォーメーションにおける小売業、ベンダー、顧客の三方良しを支援するコンサルタント。新著に『小売業の本質: 小売業5.0

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