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能登(のと)殿が耶雲(やくも)の地にやって来たのは、むせかえる様に暑い夏の日のことだっ…
遷都。 それこそが、能登殿が誓筮京からはるばる耶雲へ預けられた理由である。 霊場を多…
「神隠しだなんて、内親王としては箔がつくのかしらね」 「ちょっと。当時は唯の皇女さまでし…
山背にしがみついた、能登の体がぎくりと揺れる。念の為、腰に帯びてきた剣の柄に手を置き、…
能登はぽつりぽつりと語り出した。一番いい景色は御所の裏手側にある高台で、だけど訪れるこ…
山護に、打ち勝つ。 思いもよらぬ能登の言葉に、山背は応じることが出来ぬまま、ただ深く…
能登は続けて語り出した。 直系の子がいない帝の後継に目されているたの五名。元々は能登の兄ではなく、父が跡目の一人だった。 今は口が思うように動かない、食べ物も上手く咀嚼できないという有様である。数年前に高熱にかかってそれ以来、顔面が麻痺してしまったのだ。完全に閉まらぬ口で何とか意思疎通ができるものの、天下を統べるには相応しくない。そういう意理由で跡目争いからは脱落させられた。 これが残り四人のうちの誰かが毒を盛ったことは、火を見るより明らかだった。 だが、誰も何もで
「突然申し訳ない。近くへ立ち寄ったものだから」 涼し気な笑みを浮かべ西宮の敷居をまたい…
稲穂比古に山背が出会ったのは、かれこれ五年前。隣国七節との戦の折である。耶雲の人間にと…
七節へ向かう旅の支度は、あれよという間に整った。整えられてしまった、というのが正しいか…
停戦が結ばれた隣国へ足を踏み入れる時、山背は不思議な感覚に襲われた。この土地の人たちと…