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本棚を組むとき何を考えている?(クリエイティブ司書に訊く)

📚文字から棚への宇宙の拡大

本は、一冊一冊が編集され組み上げられた情報の繋がりです。文字が重なり文章となり、文章が積み上がりページとなり、ページが章を構成し、章が編み上げられることで本となります。

そうして組みあがった本もまた、別の本と繋がることで別の意味をもつことができます。本と本が「ある並び」に配置されることでそこに文脈が生まれ、その文脈を総括するのが本棚です。そして本棚と本棚ともまた、隣り合う位置関係のもとで複合されていく…。

文字というミクロ・コスモスから本、本棚、本棚同士の相互作用という情報の宇宙への連なりを構築することこそが、真に図書館司書が観察し配慮しなければならない「棚づくり」なのです。

📚ある並べ方をすれば、本は時間と空間を超えていく

僕が棚づくりの際に念頭に置いているのは、角川武蔵野ミュージアム館長(編集工学研究所所長)の松岡正剛氏が語る「ある並べ方をすれば、本は時間と空間を超えていく」という、宣言にも似た言葉です。ここで面白いのは、時間と空間を超えていくというサイバーパンクな響きをもつ表現が「本」という、ある種前時代的な物質について用いられている…いや、本の存在なくしては時間と空間を超えるような情報の表現はできないのだという真実が明らかにされていることです。

今回は椎葉村図書館「ぶん文Bun」に直木賞作家の今村翔吾さんがいらっしゃるということで、代表作である『塞王の楯』や『じんかん』、『童の神』、『幸村を討て』を中心とした棚を組み上げることにしました。

📚意志あるところ本あり

『塞王の楯』を語る文脈において「組み上げる」という言葉が用いられるからには、当然のごとく本棚は「石垣」となるわけです。いわば棚に用いる本は石、図書館司書はその石を積む者であるという、小説の主題をそのまま体感するような棚の編集作業が始まるわけです。私は「これは『塞王の楯』でいうところの‘懸’だ」と自らを奮い立たせ、ぶん文Bunでサイン会に臨む「大将」今村翔吾さんを護る石垣を組むつもりで棚を組みました。何から護るのかはよくわかりませんが…。

そしてもう一つ私が本棚づくりのキーワードとしているのが「意志あるところ本あり」です。これは‘Where there is a will, there is a way.’を図書館用に解釈しなおしているわけですが、しっかりと棚のコンセプトを描けば必ずぴったりと来る本が現れてくれるものです。

まず「石垣」について探してみれば、早速『図解 誰でもできる石積み』という本が出てきます。一見歴史小説とは関係ないし『塞王の楯』で穴太衆が達人技を披露する石積みとはてんで異なるようですが、かえって「誰でもできる」なんて謳っているのが面白いところ。喜んで棚のキー本にしちゃいました。

そして『塞王の楯』において守備の石垣と真っ向から対峙する攻撃の「銃」。これについては『和銃の歴史』というこれぞぴったりな本があるのですが、銃があるならそれを撃つ人も、ということで見つけてきたのが『図説狙撃手百科』です。原題は‘Snipers at War’ということで「いやそれは違うやろ」と突っ込まれそうな一冊ですが、この「近接的跳躍」こそが「時間と空間を超えていく」ための必須要素となります。戦国時代のイクサと現代の戦争という「文脈的には近いけれどカテゴリは違う」分野が、たった二冊の本がもたらす連想で一気に融和し飛び超えられていきます。

📚新しい関心を開くしかけは、紙の本だからこそできる業

ここで私が狙うのは「歴史小説に興味があるけど現代の戦争には関係がないと思っている」層が、銃というデバイスを通して「歴史と現代は繋がっている」と、関心の進化を体感してくれることです。それはまさに、異なる本をある文脈で並べたからこそ開かれる「関心の扉」であり、これこそが「紙の本だからこそできる業」なのです。

ちなみにこの棚を設置し今村翔吾さんのサイン会が終わってすぐ、『塞王の楯』と一緒に「うちの家の石垣も積まないかんから~」と言いながら『図解 誰でもできる石積み』を借りていかれる方がいらっしゃいました。まさに、戦国時代のイクサと現代の暮らしが棚によって繋がる瞬間でした。きっと、自宅の石垣を穴太衆ばりに組み上げられることでしょう…。

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とまあこんな風に「棚を見る人が元々は関心がなかった世界を開くこと」を念頭におきながら棚づくりをしています。今回の棚は、作家さんご本人にご覧いただくということではちゃめちゃに緊張しながらつくりました。いい石垣だっただろうか…。

椎葉村図書館「ぶん文Bun」のコハチローを掴んでくれた今村翔吾さん
「今村翔吾のまつり旅」の立役者「たび丸」さんと
こうしてファンの方一人一人と記念撮影をしてくださいました
代表して、コハチローからのメッセージを代筆いたしました
「ダンス講師時代に『小説を書こう』と思い最初にしたことは何ですか?」というクリエイティブ司書の質問に対して、はちゃめちゃにカッコイイお答えをくれた今村翔吾さん
秘書さんに撮影していただいたこの写真が一番の笑顔でした!

「今村翔吾のまつり旅」YouTubeチャンネルでも、追って椎葉村図書館「ぶん文Bun」でのサイン会の様子が公開されるはずです。ぜひ今のうちからチャンネル登録をされてはいかがでしょうか?

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ちなみに今回の「本棚を組むとき何を考えている?」という話は「特集棚」だけに関することではありません。椎葉村図書館「ぶん文Bun」の場合は、全ての棚がこのように「ある並べ方をすれば、本は時間と空間を超えていく」ことを心に留め置きながら築かれています。

日本三大秘境・椎葉村でしか実現できない、生きた本棚。

ぜひ一度さわりに、くぐりに、潜りにいらしてください。