WHO ECDD 大麻及び大麻関連物質 レビュー 2018 仮訳
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2018年にWHO ECDD(世界保健機関 薬物依存専門家委員会)により、実施された大麻及び大麻関連物質クリティカル・レビューの報告書(仮訳)を公表しています。(印刷用PDF2MB)
このレビューの結果行われた勧告により、国連麻薬委員会は大麻の治療上の可能性を認め、もっとも危険な薬物の分類から大麻を削除しました。
WHOレビューは、2009年の麻薬委員会に日本政府が提出したWHOによる大麻レビューを要請する決議案により採決された国連決議(CND Resolution 52/5)にしたがって行われましたが、日本政府代表はWHOによる勧告のすべてに「No」と投票し、国民への説明責任も果たしていません。
このレビュー以前に、WHOは一度も正式な大麻のレビューを行ったことはありませんでした。レビューの結果は、今後の日本の大麻政策を決める上で重要な役割を果たすエビデンスとなります。
このレビューが公表されて以来、厚生労働省麻薬対策課に対して電子内容証明郵便を送付するなどして、再三にわたってホームページの大麻に関する記述を更新するよう求めていますが、現在のところ未だに情報は更新されておらず、科学的に期限切れとなったままの状態で無責任に放置されています。[2021年1月4日現在]以下本文です。
WHO Technical Report Series 1018
WHO 薬物依存専門家委員会
第 41 会期 報告書
この報告書は、国際的な専門家グループの見解を含むものであり、必ずしも世界保健機関の決定あるいは公式の方針を表すものであるとは限りません。
世界保健機関
原文
WHO Expert Committee on Drug Dependence: forty-first report (WHO Technical Report Series, No. 1018)
ISBN 978-92-4-121027-0
ISSN 0512-3054 https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/325073/9789241210270- eng.pdf?ua=1
©World Health Organization 2018
WHO Expert Committee on Drug Dependence: forty-first report. Geneva: World Health Organization; 2019 (WHO Technical Report Series, No. 1018). Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO.
7 大麻及び大麻関連物質
WHO による(通常予算外資金の利用可能性の対象とする)大麻に関する更新された報告書を要 請した CND 決議 52/5(2009)、並びに更なる情報が入手可能になった際に INCB と協議のうえ、 適切にドロナビノール及びその立体異性体のレビューを行うことを要請する CND 決議 50/2 に応 じ、大麻の附表分類の正式なレビューは ECDD によってこれまでに実施されていないことを認識 し、WHO は大麻及び大麻関連物質の附表分類のレビューに着手した。
レビューの期間中に、委員会は大麻及び大麻関連物質は 1972 年の議定書によって改正された 1961 年の麻薬に関する単一条約及び 1971 年の向精神薬に関する条約の両方に下記のように附表分類されていることに留意した:
1961 年の条約
• 大麻及び大麻樹脂は附表I及びIVに含まれている。
• 大麻のエキス及びチンキは附表Iに含まれている。
1972 年の条約
• Δ9-テトラヒドロカンナビノールはドロナビノール及びその立体異性体として付表 II に 含まれている。
• テトラヒドロカンナビノールの異性体Δ6a(10a)-テトラヒドロカンナビノール、Δ6a(7)-テ トラヒドロカンナビノール、Δ7-テトラヒドロカンナビノール、Δ8-テトラヒドロカンナ ビノール、Δ10-テトラヒドロカンナビノール、 及び Δ9(11) テトラヒドロカンナビノール は付表 I に含まれている。
委員会はこれらの物質の附表分類以降、多数の重要な進展が生じたことに留意した。これらの進展は、大麻及び大麻関連物質の附表分類に関するいかなる審議においても考慮される必要があ る。特に:
1. 麻薬に関する単一条約採択の時点において、大麻の主要な活性化合物は確定されていなかった。その後の科学的研究は Δ9-THC を主要な精神活性化合物として明確 に特定した。
2. このような事情に鑑みて、あへん及びコカ葉の活性化合物(それぞれモルヒネ及び コカイン)は 1961 年の条約制定の時点で知られており、それぞれの植物とともに附表 I に含められたのに対して、”大麻のエキス及びチンキ”は大麻の活性物質を含 有すると解されており、既知の活性物質の代わりに附表 I に含められたと現在では理解することが出来る。
3. Δ9-THC の活性立体異性体ドロナビノール((−)-trans-Δ9-THC)はもともとこの 物質の医薬品の形態のみを指すものと解されていた。それは現在 1971 年の条約の付表 II に含められているが、その位置付けの変更のためのいくつかの勧告がある。 CND に対する初期の勧告は医薬品の形態のみに存在する純粋な物質としての Δ9- THC に関する認識に基づいている。しかしながら特に過去 10 年間において大麻植物から調製された違法物質の使用の増加があった。これらの物質は Δ9-THC 及び 特にその活性立体異性体(−) trans-Δ9-THC あるいはドロナビノールを最高 90%の 範囲内の純度で含有している。そのような物質は現在の附表分類におけるいくつかの難解さを提起する:
- これらの物質がエキス及びチンキの例(これによって 1961 年の条約のもとで 考慮される)としてみなされるべきか、とりわけ Δ9-THC(特にその活性化合物ドロナビノール)の純度が比較的高い場合に 1971 年の条約のもとの Δ9- THC の形態としてみなされるべきかどうか不明確である。
- この状態は、他の製剤がエキス及びチンキの定義の通常の判定基準を明確に満 たす一方で、一部の高濃度 Δ9-THC 製剤は、この定義の範囲内に捉えられない方法で生産されているためにさらに複雑になる。これらの物質の適切な管理には、複雑で手間のかかる化学分析によってのみ判定可能な生産の方法についての知識が要求される。
- 高純度 Δ9-THC の喫煙の形態は、公衆衛生に対する重大なリスクと関連してい るが、経口で投与される医薬品の形態の Δ9-THC は同様のリスクと関連していない。
4. 大麻植物に含まれる精神賦活特性を有さない物質の一つカンナビジオールは最近、 治療抵抗性の小児てんかんへの薬物療法として有効であることが示されており、こ の目的に向けた医薬品として登録されている。2018 年 6 月の第 40 会期会議において、委員会は純粋な形態のカンナビジオールは条約のもとに規制されないと勧告し た。しかしながら、もし大麻のエキス及びチンキとして獲得される(それは現在登 録されている医薬製品の製造方法である)ならば、カンナビジオールは 1961 年の 条約のもとの規制物質とみなされる可能性がある。委員会は、精神活性作用を有さず、乱用と依存の対象でない医薬製品は長年にわたってけしから得られていることに留意した。これらの医薬製品はノスカピン及びバパベリンなどのような物質を含んでおり、製剤が 1961 年の条約のもとに規制されているあへん由来物質(モルヒネ及びコデインなど)を相当量含んでいないために条約のもとで管理されていない。全ての大麻のエキス及びチンキが精神賦活特性を有するか否かに関わらず附表に含められているために、医療用途の可能性を有する大麻植物由来の非精神活性製 品にともなって難解さが発生する。
5. 委員会は 1961 年の条約が産業あるいは園芸目的に用いられる大麻の部類を規制から特別に除外することに留意した。これらの植物は一般にヘンプとして知られてお り、極めて低い濃度の Δ9-THC を含んでいる。委員会は近年極めて低い濃度の Δ9-THC を有する大麻植物が育てられているが、産業あるいは園芸目的でない用途に用いられており、通常はヘンプ植物とみなされないことに留意した。これらの植物は主に高濃度のカンナビジオールを含むために育てられている。これらの植物の栽培は製薬会社によって行われているが、製薬資格あるいは関与のない個人によっても行われている。これらの植物の条約における位置付けは、特にそれらが国際的及び国家的規制の枠組みの中で育てられ、生産されていない場合に不明確である。
委員会はこれらの進展が大麻と大麻関連物質の現在の附表分類の解釈を複雑にする可能性を有することに留意した。また、これらの進展並びに医療目的のための薬物使用を可能にしつつ乱用と依存の問題を最小にする規制を可能にする条約の趣旨を認識すると同時に、いかにして最大の明瞭さを提供する形で最良の対処を可能にするかを考慮することに取り組んだ。
7.1 大麻及び大麻樹脂
物質同定
大麻は通常雌雄異株(すなわち、雄花と雌花を別々の株につける)の顕花植物である。それはモノテルペン、セスキテルペン及び他のテルペノイド様化合物を含む揮発性化合物の混合物に起因する特徴的な香気を有する。
大麻の頂部及び大麻樹脂(”ハシシュ”と呼ばれることもある)は一般に燃焼ののち吸入によって(すなわち、喫煙によって)投与される。大麻は1961 年の国連麻薬に関する単一条約によって、花又は果実のついた枝端で樹脂が抽出されていないもの(枝端から離れた種子及び葉を除く。)と定義されている。
大麻樹脂は、粗のものであると精製されたものであるとを問わず、大麻植物から得た樹脂で分離されているものと定義されている。植物の樹脂状分泌物は植物の花序全体に発生するより高い濃度の Δ9-THC の製品を産出するために採取することが出来る。分泌物に加えて大麻樹脂は微細な植物性物質からなり、生産の方法次第で緩いあるいは圧縮された粘着性の粉末のようにみえる。
WHO レビューの歴史
大麻、大麻樹脂、大麻のエキス及びチンキは 1961 年の国連麻薬に関する単一条約の附表 I に分類されている。大麻植物及び樹脂は、乱用され及び悪影響を及ぼすおそれの著しいものであり、そ のような影響を相殺するほどの治療上の利点を有さない物質を含む、この条約の附表 IV にも含められている。
大麻及び大麻樹脂のプレレビューは第 40 会期 ECDD 会議で実施され、その時点で委員会はクリティカルレビューを勧告した。これより以前に大麻は一度も WHO による公式のレビューの対象とされたことがなかった。
既知の物質との類似性及び中枢神経系への影響
大麻の摂取は多幸感、笑声及び多弁を誘発し、知覚及び時間感覚を変容させ、運動制御及び判断力を損なう可能性がある。
大麻は食欲を刺激し、口腔乾燥症及びめまいを生じさせる可能性がある。急性の大麻使用は注意力、学習と記憶などのような特定の種類の認知機能を損なう。
依存の可能性
制御された実験室での研究において経験豊富な大麻使用者は容易に大麻を喫煙し、低用量より高用量を選択した。ヒトの被験者は大麻の煙をプラセボの煙から容易に識別することを学習することが出来た。実験室での研究における喫煙された大麻と関連する自己報告による自覚効果は”薬物 効果”、”ハイ”、”ストーンド”の評価において用量依存的な増加を含む。類似した作用は経口あるいは喫煙で投与された場合の Δ9-THC 単体によっても引き起こされ、大麻成分の植物の強化効果の原因は Δ9-THC であることを示している。CB1 受容体アンタゴニスト、リモナバントは少なくとも、一部の実例で大麻によって誘発される陶酔を後退させることが示された。
国際的な臨床診断ガイドラインは大麻依存症の存在を認識している: これは常用の中断における離脱症状の形成を含む。離脱の症状は気分の変化、被刺激性、怒りの増加、不安、渇望、不穏、睡眠障害、胃腸障害、食欲減退を含み、大部分の人が 4 つあるいはそれ以上の症状を報告している。これらの症状は一般に常用の中止の 1〜2 日以内に生じ、通常最後の使用ののち 2〜6 日にピークに達し、2〜3 週間持続する可能性がある。Δ9-THC の比率が低い大麻の常用が依存を形成する可能性がある一方、Δ9-THC の比率が高い大麻の常用はより高い重症度の離脱症状と関連している。およそ 10 人に 1 人の大麻使用者が大麻使用障害を発症するが、この統計は研究や国によって様々である。大麻使用と大麻使用障害の割合は国やそれぞれの国の別々の地域の間で著しく異なる。大麻使用障害は 30 歳以下の人々において最もよくみられる。
乱用の実態及び/あるいは乱用のエビデンス
前臨床研究は大麻及び大麻樹脂の致死量がヒトによって得られないようであることを示しており、大麻使用がオピオイド類などのような他の薬物の過剰摂取による死亡率を高めることを示すエビデンスは不十分である。頻拍、血圧の上昇などのような急性投与ののちの心血管系作用は極小あるいは一過性のようであり、耐性とともに治まる。一部の研究では大麻使用と心臓発作の因果関係が示されたが、関連性は不明確である。
幼い子供は大麻の作用に特に敏感である可能性がある。症例報告は、偶発的に大麻を摂取した幼い子供が呼吸抑制、頻拍、一時的昏睡を経験する可能性があることを示す。
大麻の摂取は多幸感を引き起こし、時間感覚を変容する可能性がある。一部の使用者は、不安やパニック反応を経験する可能性がある。急性の大麻陶酔は、薬物の作用が減衰すれば元に戻る短期間の精神病状態を誘発する可能性がある。
大麻の陶酔は、注意力及び短期記憶の低下を含む作用を伴って、認知機能を損なう可能性がある。大麻使用は緊急事態シナリオにおける不適切な反応の促進と同時に運転能力を損なう可能性があり、低〜中程度(20–30%)の事故リスクの増加につながっている。大麻使用は緊急事態シナリ オにおける不適切な反応を促進するのみならず、反応時間、車線制御、速度計監視、手及び身体の力調節安定性、制動時間を損なう。
大麻の急性の影響に加えて、長期的使用の影響も存在する。若年者における大麻使用は精神障害発症のリスクの増加と関連しているが、関係性は複雑であり、遺伝的要因によって調整されるようである。妊娠中に大麻を喫煙した女性は、平均して妊娠中に大麻を吸わなかった女性と比べて低い出生児体重の新生児を出産する。大麻喫煙は精巣がんのリスクの 2.5 倍の増加につながると報告されている。
治療的有用性
大麻は、HIV/エイズに伴う食欲不振、慢性疼痛、クローン病、糖尿病性神経障害、神経障害性疼痛、片頭痛及び群発頭痛、パーキンソン病の治療において肯定的な結果と有意な効果の欠如の両方が示されている。大麻の有効性の完全な評価を可能にする更なるデータが必要とされている; しかしながら、研究は多種多様な治療適応症における有効な値を示している。
大麻製剤は現在、1961 年の麻薬に関する単一条約の第二条、第 3 項のもとで大麻と同じレベルの規制の対象とされている。大麻の製剤は、他の薬剤によって常に制御されるとは限らない多発性硬化症に伴う筋痙縮の抑制に用いられている。一部の慢性疼痛患者もまた、他の利用可能な薬剤が有効でない場合に、大麻製剤による緩和を得ていることが示されている。
前臨床報告は、カンナビノイドが多数の種類のがん細胞において、がん細胞の遊走及び血管新生を抑制すると同時に、がん細胞の増殖を減少させ、これらの細胞のアポトーシスを誘発することを示す。カンナビノイド及び大麻使用はまた、実験動物及びヒトにおいて、それぞれ免疫抑制作用及び抗炎症作用を有することが示されている。これらの研究結果は、大麻及びカンナビノイドのその他の治療への応用の可能性を示唆する。
大麻及び大麻樹脂は WHO EML あるいは WHO 小児用必須医薬品モデルリストに含まれていない。
勧告
1961 年の麻薬に関する単一条約において、大麻及び大麻樹脂はそれぞれ、大麻植物の花又は果実 のついた枝端で樹脂が抽出されていないもの(枝端から離れた種子及び葉を除く。)、 粗のものであると精製されたものであるとを問わず、大麻植物から得た樹脂で分離されているものと記述されている。大麻についての以下の論及は大麻樹脂も含むものとなるであろう。大麻に含まれる多くの化合物の中で、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)は大麻の主要な精神活性成分であり、一方でカンナビジオールも存在するが、精神活性はない。
大麻摂取ののちに経験される有害作用はめまいや運動制御及び認知機能の低下を含む。運動や 認知への影響によって、大麻使用は運転能力を損なう可能性がある。これらの大麻摂取の急性の有害作用は Δ9- THC 単体によって引き起こされるものと同様である。小児における大麻への曝露と関連する呼吸抑制、頻拍、昏睡などのような特定のリスクがある。
様々な有害作用、特に、不安、抑うつ、精神病などのような精神保健障害のリスクの増加が長期的大麻使用と関連している。慢性的な大麻の常用は、脳の発達への影響のために特に若年者にとって問題である。
大麻は、薬物を毎日あるいは日常的に使用する人々に身体依存を引き起こす可能性がある。 これは断薬期間に引き起こされる大麻離脱症候群の発症によって示される; これらの症状は、胃腸障害、食欲変化、被刺激性、不穏状態、睡眠減損を含む。精神疾患の診断・統計マニュアル第 5 版(DSM-5)や疾病及び関連保健問題の国際統計分類第 10 版(ICD-10)などのような臨床診断ガイドラインは、大麻依存症及び他の大麻使用に関連する障害を識別している。
委員会は、大麻の治療の適応症と現在進行中の医療用途の可能性についての研究に関する情報 について検討した。いくつかの国々が、化学療法による吐き気と嘔吐、痛み、腰痛、睡眠障害、 多発性硬化症に関連する痙縮などのような医学的症状の治療のための大麻使用を許可している。 委員会は、大麻の治療用途に関するわずかな確固たる科学的エビデンスを認識した。しかしながら、一部の大麻の経口の医薬製剤は、特定の種類の痛み及びてんかんなどのような症状の治療に治療的利点を有する。大麻の製剤は、調合剤、固形物、あるいは大麻を含む液体として定義され、それらは一般に 1961 年の麻薬に関する単一条約の第 2 条 3 により、大麻及び大麻樹脂と同じ統制措置の対象となる。
大麻及び大麻樹脂は 1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I 及び IV に含まれる。これらの附表の両方に含まれる物質は、乱用及び悪影響を及ぼすおそれの著しいものであり、治療用途をほとんどあるいは全く有さない。附表 I 及び IV の両方に含まれる他の物質は、フェンタニル類似体、ヘロイン及び特に危険であると考慮されるその他のオピオイドである。これら全ての物質の使用は死亡の重大なリスクと関連しているが、大麻使用はそのようなリスクとは関連していない。
委員会に提出されたエビデンスは大麻及び大麻樹脂が 1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 IV に含まれる他の物質と同様の悪影響を及ぼすおそれが著しいことを示さなかった。さらに、大麻の製剤は、痛み、並びにてんかん及び多発性硬化症に関連する痙縮などの他の薬剤によって常 に制御されるとは限らない、その他の医学的症状の治療に治療的可能性があることが示されてい る。大麻及び大麻樹脂は、大麻使用によって引き起こされる害を防ぎ、同時に医療用途の大麻関連製剤の利用、研究及び開発の妨げとならないような規制のレベルに附表分類されるべきである。
委員会は、大麻及び大麻樹脂は附表 IV への配置の分類基準に適合しないと結論づけた。
そして委員会は、大麻及び大麻樹脂は 1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I あるいは附表 II のどちらに位置づけられるのが適切か検討した。委員会は、大麻が附表 I に位置づけられている他の大部分の薬物によって引き起こされるものと同じレベルの健康へのリスクと関連しているとはみなさなかったが、大麻使用に起因する高い割合の公衆衛生問題及びそのような問題の世界 的な広がりを認めた。これらの理由から委員会は、大麻及び大麻樹脂は 1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I に継続して含められることを勧告した。
• 勧告: 委員会は、大麻及び大麻樹脂を1961年の麻薬に関する単一条約の附表IVから削 除するよう勧告した。
7.2 デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC; ドロナビノール)
物質同定
現在までに、カンナビノイド(大麻植物特有の 100 種類以上の化学物質)、テルペノイド及びア ルカロイドを含む大麻植物における 500 種類以上の天然由来の化合物が特定されている。Δ9- THC はカンナビス・サティバの主要な陶酔成分と考えられている。
デルタ-9-テトラヒドロカンナビノールは以下の 4 つの立体異性体を指す:
• (−)-trans-delta-9-tetrahydrocannabinol (ドロナビノールとしても知られる)
• (+)-trans-delta-9-tetrahydrocannabinol
• (−)-cis-delta-9-tetrahydrocannabinol
• (+)-cis-delta-9-tetrahydrocannabinol
(−)-trans-Δ9-THC の立体異性体は大麻植物に天然に存在する唯一のものであり、一般に研究されている唯一の立体異性体である。ドロナビノールはこの異性体の国際一般名である。この報告書の中で”Δ9-THC”という用語が特記事項なしで用いられている箇所は(−)-trans-Δ9- THC あるいはドロナビノールを指す。参考文献が異なる異性体に対して付されている場合は明確に特記される。
ドロナビノールは治療的使用のために、経口用にゼラチンカプセル(Marinol®)、経口液 (Syndros®)として供給されている。
WHOレビューの歴史
デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)及びその立体化学的変異体は変異体の一つであるドロナビノール((−)-trans-Δ9- THC)とともに 1971 年の向精神薬に関する条約の付表 II に置かれている。Δ9-THC はその立体化学的変異体とともに、当初 1971 年の条約の付表 I に採択の時 点では含められていた。
• 1989年、WHO ECDDは1988年の第26会期会議において行われたドロナビノールの クリティカルレビューに基づき、他の異性体及び立体化学的変異体を付表 I に留める一 方で、ドロナビノールを付表 II に移動するよう勧告した。ドロナビノールを付表 II に移 行する WHO の提案は麻薬委員会によって 1990 年の第 11 会期特別会議において却下された。
• 1990年の第20会期会議においてECDDはΔ9-THCに関する更新された情報のクリティカルレビューを実施した。委員会は Δ9-THC 及びその立体化学的変異体を 1971 年の付表 I から付表 II へと再分類するよう勧告した。これは Δ9-THC とその立体化学的変異体との区別、異なる付表のもとへの配置を取り消し、潜在的な法的及び法医学的分析的問題を防ぐために提案された。この勧告は麻薬委員会によって、1991 年の第 34 会期 会議において採択された。
• 2002年の第33会期会議において、Δ9-THCはECDDによって再び批評的にレビューされた。委員会はドロナビノール及びその立体化学的変異体を 1971 年の条約の付表 II から付表 IV へと再分類するよう勧告した。しかしながら、更なる手続き上の段階は何ら執られておらず、WHO から麻薬委員会へのこの勧告についての正式なコミュニケーションはなかった。
• 2006年の第34会期会議において、ECDDはドロナビノールの更新されたクリティカル レビューのアセスメントを実施した。委員会はドロナビノールが公衆衛生に対する重大 なリスクの構成要素となるものの、このリスクは 1961 年の条約のもとに規制されている大麻に関連するものとは異なると結論づけた。この物質は中程度の治療的有用性を有し、医療使用の増加は継続する臨床研究の結果である可能性が高いと判明した。したがって、委員会はドロナビノール及びその立体化学的変異体は 1971 年の条約の付表 II から付表 III へと再分類するよう勧告した。
• 2007年3月、第50会期会議において麻薬委員会はドロナビノール及びその立体化学的変異体を 1971 年の条約の付表 II から付表 III へと移行する WHO の勧告に関する投票を行わないことを合意によって決定した。その上、麻薬委員会は WHO に、INCB と協議のうえ、適切に、麻薬委員会の検討のために、更なる情報が入手可能になった際にドロナビノール及びその立体異性体のレビューを行うよう要請した(CND Decision 50/2)。
• 2012年の第35会期会議において、ECDDは2007年の麻薬委員会の勧告について議論した。委員会はドロナビノールのレビューを実施しなかったが、第 34 会期会議において形成されたドロナビノール及びその立体化学的変異体は 1971 年の条約の付表 II から付表 III へと移動する勧告を復権させた。ECDD は、第 34 会期会議で形成された付表分類の勧告を実質的に改めるような新しいエビデンスは何も分かっていないことから、ド ロナビノール及びその立体化学的変異体に関する以前の決定は有効であるべきであると決定した。この勧告は 2012 年 10 月に、WHO 事務局長によって国連事務総長へ通達された。
• 麻薬委員会は2013年3月の第56会期会議においてこの問題を再検討した。WHOから受けた勧告にもかかわらず、ドロナビノール及びその立体化学的変異体の再分類に対し て麻薬委員会による決定が未だに何ら行われていないことについて、いくつかの国の代表によって懸念が表明された。いくつかの国の代表は、勧告が国際的な大麻乱用防止の努力を妨げ、大麻使用に関連する害について混乱したメッセージを送信する可能性があるとして、ドロナビノールに関する WHO によって形成された勧告を支持出来ないことを認めた。麻薬委員会は WHO がドロナビノールのレビューを継続すべきであると提案 した。
• 2014年3月、ECDDによって2012年の第35会期会議において形成された勧告に基づいて、麻薬委員会はドロナビノール及びその立体化学的変異体の 1971 年の条約の付表 II から付表 III への移動に対して投票を行った。
• 2016年の第38会期会議において、ECDDはΔ9-THCが大麻及び大麻樹脂、大麻のエ キス及びチンキ、カンナビジオール及び THC の異性体とともにプレレビューされるよう要請した。
• 2018年6月の第40会期会議において、ECDDは上記のプレレビューの評価を行い、 2018 年 11 月の第 41 会期会議において、大麻及び大麻樹脂、大麻のエキス及びチンキ、Δ9-THC 及び THC の異性体についてのクリティカルレビューへ進行するよう勧告した。
他の既知の物質との類似性及び中枢神経系への影響
ヒトにおいて、Δ9-THC は大麻の薬理作用及び自覚作用と非常によく似た作用を有する。使用者は多幸感、笑声及び多弁を示す可能性がある。Δ9-THC は食欲を増進し、口腔乾燥症及び時折のめまいを引き起こし、視覚、嗅覚、聴覚を変容させる。Δ9-THC は、注意力及び短期記憶の低下などのような微細な認知障害を引き起こし得る。高用量の Δ9-THC は、一部の使用者における不 安、パニック、混乱、見当識障害と関連している。Δ9-THC はまた、一部の健康な被験者における一過性の精神病様の徴候を誘発し得る。
Δ9-THC は極めて低い致死作用を引き起こす可能性を有する。致死量は 70kg のヒトに対しておよそ 4g と見積もられており、ヒトにおける物質の経口摂取、喫煙、ヴェイパライジングでは通常そのような用量に達しない。
ヒトにおける Δ9-THC への急性の曝露は頻拍を引き起こす; しかしながらこれらの作用に対して耐性が生じ、その後の曝露とともに血圧及び心拍数に低下が生じる可能性がある。Δ9-THC は気管支拡張薬である。動物におけるイン・ビトロ及びイン・ビボ研究は、高用量の Δ9-THC が複雑な方法で免疫系を調節し得ることを実証した一方で、低用量の Δ9-THC が投与された、ヒトにおける2つの研究では免疫系における有意な影響は見出されなかった。
経口の Δ9-THC はドライビングシミュレータと路上の両方において運転技術の低下を引き起 こすことが報告された。用量 10mg 及び 20mg の Δ9-THC は横ぶれの標準偏差(道路追従制御の 低下を示す)及び速度を適合させるために必要とした時間(反応時間の増加を示す)を増加させた。
依存の可能性
動物モデルにおいて、Δ9-THC の作用に対して発達する明白な耐性が示された。慢性投与の中断 後の自然発生的離脱症状は比較的軽度であるようにみえるが、アンタゴニスト誘発離脱症状は、 振せん及び運動失調などのような明白な身体徴候によって特徴づけられる。
耐性はヒトにおいても実証されており、4 日間の短い期間の投与後の中断における離脱症候群 のエビデンスが存在する。離脱症状が実証された研究において投与された Δ9-THC の用量は、治療への応用に向けた臨床試験において用いられた用量を超えるものであった。不眠は Δ9-THC からの離脱の最も顕著な症状であるようにみえる。
乱用の実態及び/あるいは乱用のエビデンス
Δ9-THC を含有する医薬製品は乱用されるようにみえない。経口で投与される Δ9-THC を含有す る医薬製剤は、低く変動しやすい比率の自己投与とともにヒトにおける弱い強化特性のみを有す るようにみえる。喫煙される大麻はより好まれている。Δ9-THC の医療用途に関するエビデンスは、医薬製品の非医療目的への転換はないこと、及び乱用のエビデンスはないことを示してい る。
ヒトにおける喫煙あるいはヴェイパライズされた純粋な Δ9-THC の強化作用に関する有意な エビデンスはない。しかしながら、主にエキスとしての新しい(非医療の)大麻植物の製剤は、 非常に高い濃度の Δ9-THC を含有しており、時として 80%を超えている。ブタンハッシュオイル を含むそのような製剤は、加熱ののち蒸気吸入によって投与される。以前には、唯一の比較的純 粋な Δ9-THC は薬用であった。高純度の Δ9-THC 製品の発達は、依存のリスクの増加を含む重 大な健康リスクと関連している。
治療的有用性
Δ9-THC(ドロナビノール)は多くの国々で後天性免疫不全症候群(AIDS)患者の体重減少と関連 する食欲不振及び従来の制吐薬治療に十分な緩和を得られない患者におけるがん化学療法と関連 する吐き気と嘔吐を含む適応症に向けて承認されている。
Δ9-THC は他の適応症に向けて調査されている。例えば、神経障害性疼痛の減少、慢性疼痛患 者における不安の減少、神経性食欲不振症患者における体重増加の増大、慢性疼痛へのオピオイドの補助剤として与えられた際の疼痛強度の減少及び患者満足度の増加、多発性硬化症患者の痙縮の減少、トゥレット症候群患者におけるチックの改善(あるいはそのような改善に向けた傾 向)において、少なくとも部分的な有効性が実証されている。
Δ9-THC(ドロナビノール)は WHO EML(第 20 版)あるいは WHO 小児用必須医薬品モデ ルリストに含まれていない。
勧告
大麻植物に含まれる主要な精神活性物質は Δ9-THC の 4 つの立体異性体の一つである。この物質は治療用途を有し、国際一般名ドロナビノールとしても知られている。これは現在、1971 年の向精神薬に関する条約の付表 II に位置づけられている。
1961 年の麻薬に関する単一条約採択の時点では、科学的研究は Δ9-THC を大麻の主要な精神活性化合物として特定していなかった。後に Δ9-THC は 1971 年の向精神薬に関する条約に開始の時点で含められた。以前の ECDD レビューでは、ドロナビノールとして知られる天然に存在する活性の Δ9-THC の立体異性体は化学合成型の医薬製剤と考えられていた。第 27 会期 ECDD からの勧告に従って、ドロナビノールは 1971 年の向精神薬に関する条約の付表 II に位置づけられた。しかしながら麻薬委員会は、その後のドロナビノールを 1971 年の向精神薬に関する条約の付 表 III に位置づける勧告を採用しなかった。
委員会は、これらの以前の Δ9-THC 及び特にその活性の立体異性体ドロナビノールのレビュ ーは、医薬製剤としての化学合成型について検討されていたが、Δ9-THC は今日では大麻の主な精神活性成分を意味するものでもあり、違法な大麻由来の精神活性製品における最も重要な化合物であることに留意した。これらの製品のうち、あるものは Δ9-THC を 90%もの高濃度で含む。 ブタンハッシュオイルは最近出現し、ヴェイパーによる加熱と吸入で使用される高純度 Δ9-THC の違法な大麻由来製品の例である。このような高純度の抽出形態では、Δ9-THC は悪影響、依存と乱用の可能性を生じ、それは少なくとも 1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I に位置付けられている大麻と同じ程度に大きい。
1961 年の麻薬に関する単一条約に既に附表分類されている物質と同様の乱用及び悪影響を生じるおそれのある物質は、通常、当該規制物質と同じ方法で附表分類される。Δ9-THC は大麻と同様の乱用及び悪影響のおそれがあり、1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I の分類基準を満たす。それは、コカに含まれる主要な活性化合物であるコカインがコカ葉とともに 1961 年の麻薬 に関する単一条約の附表 I に位置付けられていることからさらに認められた。そのうえ、あへんの主要な活性化合物であるモルヒネはあへんと同じ附表に位置付けられている。大麻の主要な活性化合物である Δ9-THC を大麻と同じ附表に位置付けることはこの手法と一致するであろう。
• 勧告: 委員会は、ドロナビノール及びその立体異性体(デルタ-9-テトラヒドロカンナビ ノール)を 1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I に追加するよう勧告した。
国際的統制に向けた精神活性物質の WHO レビューに関するガイダンス(4)に示されているように、国際的統制体制の効率的な運営を容易にするために、物質を複数の条約の下に位置付ける ことは望ましくない。したがって:
• 勧告: 委員会は、麻薬委員会がドロナビノール及びその立体異性体(デルタ-9 テトラヒ ドロカンナビノール)を 1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I に追加する勧告を採用することを条件として、ドロナビノール及びその立体異性体(デルタ-9-テトラヒドロ カンナビノール)の 1971 年の向精神薬に関する条約の付表 II からの削除を勧告した。
7.3 テトラヒドロカンナビノール(THC の異性体)
物質同定
1971 年の向精神薬に関する条約の付表 I で特定されている 6 つの分子を含む THC の異性体はそれらの立体化学的変異体を含んでいる。これらの分子は化学名称とともに表 1 に記載されてい る。大部分は化学的研究目的のみのために存在する; しかしながら、それらの使用についての現在進行中の科学的研究はないようにみえる。付表におけるこの項目にデルタ-9-テトラヒドロカンナ ビノール(Δ9-THC; ドロナビノール)は含まれていない。
表 1.
THC の分子と化学名
WHOレビューの歴史
THC の異性体は第 40 会期 ECDD 会議においてプレレビューされ、クリティカルレビューへの勧告が行われた。
既知の物質との類似性及び中枢神経系への影響
Δ8-THC 及び Δ9,11-THC はともに、ある動物モデルにおいて Δ9-THC 様の薬理作用を引き起こすが、Δ10-THC は引き起こさない。ヒトにおいて Δ8-THC はいくつかの異なる経路、例えば経口、静脈内、吸入によって投与された際に活性である。Δ6a,10a-THC はヒトにおいて Δ9-THC と類似した精神活性作用を有するが作用は弱い。また、Δ6a,10a-THC は喫煙された際に Δ9-THC 様の作用を引き起こすが、Δ9-THC より作用は不明瞭で短時間である。他の異性体はヒトにおいて試験されていない。
依存の可能性
THC の 6 つの異性体のどれについても依存の可能性を確認する動物あるいはヒトにおける研究のどちらによるエビデンスも入手可能でない。さらに、異性体の作用機序に関する詳細な研究はな く、それゆえにメカニズムの理解から依存の可能性を推定するのは不可能である。
乱用の実態及び/あるいは乱用の範囲
乱用の可能性に関連するヒト及び動物両方の研究によるデータは、ひいき目に見てもごくわずかであり、ある異性体については存在しない。どの異性体の乱用の可能性についてもはっきりと確証された作用機序に基づいて評価することは不可能である。研究されたどの異性体についても(乱用の可能性とは対照的に)乱用の実態についてのエビデンスはない。
動物における薬物弁別試験において、Δ9,11-THC はほとんどの研究で Δ9-THC の代替となること及び、自発運動活性の抑制、低体温、抗侵害受容作用、リングインモビリティを含む特徴的 な CB1 アゴニスト作用を誘発することが示されている。Δ8-THC は特徴的な CB1 アゴニスト作用及び Δ9-THC 様の弁別作用を誘発する。これら2つの化合物は Δ9-THC より弱い。対照的に Δ10-THC は動物モデルにおいて Δ9-THC 様の弁別作用を示さなかった。
これらの異性体のヒトにおける乱用の可能性に関するごくわずかなデータのみが入手可能である。Δ8-THC 及び Δ6a,10a-THC の2つの異性体が評価され、様々な経路で投与された際に Δ9- THC と類似した自覚作用を引き起こした。
要約すると、Δ8-THC は Δ9-THC と類似した型の乱用の可能性を有するという動物及びヒト の研究によるエビデンスがある。動物及びヒトの調査に基づく Δ9,11-THC 及び Δ6a,10a-THC の乱 用の可能性に関するさらに限られたエビデンスがある。Δ10-THC については唯一のエビデンスは 陰性であり、残り 2 つの異性体についてはエビデンスがない。
治療的有用性
1971 年の向精神薬に関する条約の付表 I に掲げられている 6 つの異性体は治療的有用性を有することが知られていない。
勧告
現在、テトラヒドロカンナビノール(THC)の 6 つの異性体が 1971 年の向精神薬に関する条約の 付表 I に掲げられている。これら 6 つの異性体は、現在 1971 年の向精神薬に関する条約の付表 II に掲げられている Δ9-THC と化学的に類似している。委員会は Δ9-THC をこの付表から削除 し、1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I に含めることを勧告した。
これら 6 つの異性体は Δ9-THC と化学的に類似しているが、これらの物質の乱用の可能性や 急性中毒に関するエビデンスはほとんどない。1971 年の条約の付表 I に掲げられている THC の 異性体が身体依存を引き起こす、あるいは公衆衛生問題や社会問題となるほどに乱用されつつあ る、または乱用されそうであるという報告はない。これらの異性体の医療あるいは動物医療の報告はない。
委員会は、入手可能なエビデンスはこれらの異性体の Δ9-THC に関連するものと類似した乱 用及び悪影響を示さなかったことを認識したが、各々6 つの異性体の Δ9-THC への分子類似性の ために、標準的な化学分析の方法を用いて Δ9-THC からこれら 6 つの異性体のいずれも識別する ことは非常に困難であることに留意した。
• 勧告: 委員会は、麻薬委員会がドロナビノール及びその立体異性体(デルタ 9-テトラヒドロカンナビノール)を 1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I に追加する勧告を採 用することを条件として、テトラヒドロカンナビノール(現在 1971 年の向精神薬に関する条約の付表 I に掲げられている 6 つの異性体を指すと解されている)を 1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I に追加するよう勧告した。
国際的統制に向けた精神活性物質の WHO レビューに関するガイダンス(4)に示されているよ うに、国際的統制体制の効率的な運営を容易にするために、物質を複数の条約の下に位置付けることは望ましくない。
• 勧告: 委員会は、麻薬委員会がテトラヒドロカンナビノールを 1961 年の麻薬に関する単 一条約の附表 I に追加する勧告を採用することを条件として、テトラヒドロカンナビノ ール(現在 1971 年の向精神薬に関する条約の付表 I に掲げられている 6 つの異性体を指すと解されている)を、1971 年の向精神薬に関する条約の付表 I から削除するよう勧告した。
委員会は、これら 6 つの異性体を Δ9-THC と同じ条約の同じ附表に位置付けることは、Δ9-THC の国際的統制の履行を円滑にし、同様に国家レベルでの統制措置の履行において加盟国を援助するであろうと認めた。
7.4 大麻のエキス及びチンキ
物質同定
大麻のエキス及びチンキはカンナビス・サティバの花序及び葉から抽出された製剤である。それ らは大麻オイル、ティー及び Sativex®(ほぼ同量の Δ9-THC とカンナビジオールを含む抽出物) を含む。大麻は抽出過程においてカンナビノイドなどのような要求された化合物を不要な生成物 から分離するための抽出プロセスを経る。エキスは色、味、匂い及び、製造工程によって粘性の低いオイルから固体までの粘度の度合いの変化を示し得る。またそれらはアルコール製剤あるい は水性製剤の形態をとり得る。
大麻のエキスは舌下、経口、吸入(喫煙あるいはベイピング)、直腸及び経皮を含む多様な投 与経路を通して送達される。大麻エキスの”用量”は、ほとんどの場合、製剤に含まれている Δ9- THC の量を指す。チンキは通例、経口消費のために舌下または食品あるいは飲料に加えて投与される。オイルは経口投与向けに食物または飲料に取り入れられ、またはベイプあるいは”ダブ” (加熱された製剤の蒸気吸入)される可能性がある。Sativex®は口腔粘膜スプレーとして製剤化さ れている。
オイル
オイルは様々な Δ9-THC 濃度で生産することができる。最も高い濃度はブタンハッシュオイルあ るいはプロパンハッシュオイルであり、50%から 90%の Δ9-THC の有効成分を含む可能性があ る。高濃度のカンナビジオールオイルもまた様々な方法を用いた抽出によって生産することがで きる。エッセンシャルオイル及びヘンプオイルなどのような一部のオイルは有意な濃度の Δ9- THC 及びカンナビジオールを含んでいない。
大麻オイルエキスはまた、広範囲の食料製品に取り入れることができる。
水性抽出物
C. サティバの水性抽出物はティーのことを指す場合が多い。熱湯を加えることは経口投与向けの大麻エキスを調製するシンプルでおそらく最も古い方法の一つである。この方法を用いて抽出された Δ9-THC の量は、他の方法を用いて得られるであろう量より大幅に少ない。
Sativex®
Sativex®は主なカンナビノイド、Δ9-THC とカンナビジオールをおよそ 1:1 の比率でその他の稀少なカンナビノイドとともに口腔粘膜スプレーとして送達する医療目的で承認された独自の大麻エキスである。
WHO レビューの歴史
大麻エキス及び大麻のチンキは 1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I に掲げられている。 大麻エキス及びチンキは第 40 会期 ECDD 会議においてプレレビューされ、クリティカルレビューへの勧告が行われた。
既知の物質との類似性及び中枢神経系への影響
Δ9-THC が豊富な大麻エキス、チンキ、オイル及びティーによって引き起こされた作用は、Δ9-THC にみられるものと類似しているが、上述のように、高濃度 Δ9-THC のエキスが吸引された際に作用はより顕著であり、心血管系作用などのような、より大きな有害作用のリスクと関連し ている。
最もよくみられる Sativex®の有害作用は、軽度から中程度のめまい及び疲労感である。心拍数 増加及び血圧上昇、見当識障害、抑うつ、多幸感、一過性の精神病性反応及び解離などのような 一過性の有害作用もまた報告されている。
依存の可能性
大部分のエキスに存在する精神活性成分 Δ9-THC は依存の可能性を有することが示され、多数の動物及びヒトの研究によって支持されている。ブタンハッシュオイルなどのような特定の高濃度 Δ9-THC の大麻エキスの常用は依存の確率及び重症度を増加させるというエビデンスがある。
乱用の実態及び/あるいは乱用の範囲
大麻エキスの使用の範囲に関するわずかな疫学的情報が存在する。入手可能な情報は、高いレベ ルの Δ9-THC を含むオイルあるいはワックスの形態のエキスが少数の大麻使用者に用いられてい ることを示す。しかしながら、この割合は増加している可能性があり、そのようなエキスの使用はより高いレベルの大麻に関する身体依存に関連しているようにみえる。
大麻エキス、チンキ、オイル及びティーの毒性学に関する情報もまたごくわずかである。Δ9- THC が豊富な大麻エキス、チンキ、オイル及びティーによって引き起こされる毒性は Δ9-THC の毒性に類似している。しかしながら、上述のように、高濃度 Δ9-THC のエキスが吸入された際に作用はより顕著であり、より大きな有害作用のリスクを伴う可能性がある。
製造に用いられた方法によって、大麻エキスは残留溶媒(ナフサ、イソプロパノール、アセトン、ヘキサン、エチルアルコールあるいはブタン)を含む可能性があり、使用者によって摂取さ れた場合有害であり、点火された際に重症熱傷を引き起こす可能性がある。一部のエキスは殺虫 剤などのような汚染物質を含む。プロピレングリコール及びポリエチレングリコール 400(ベイピングカートリッジの粘性の大麻オイルの流れを円滑にするために用いられる)などのような希釈剤は特定の器具で加熱された際に、高濃度の有毒なアセトアルデヒド及びホルムアルデヒドを 生成する。さらに、テルペンは有害な分解物メタクロレイン(刺激物)及びベンゼン(発がん物 質)に転換され得る。
ベイピング及び喫煙は急速な精神活性作用を引き起こすかことが知られている。しかしながら、ヴェイパライジングによって投与された効力の高い大麻エキスの乱用の可能性はヒトにおいて研究されていない。
Sativex®の娯楽的な大麻使用者における乱用の可能性を評価する臨床試験は、高用量 Δ9-THC が大麻のような作用を引き起こすことを示したが。低用量ではこれは起こらなかった。Sativex®の 市販後調査では乱用は報告されていない。しかしながら、Sativex®の有害作用として多幸感が報告されている。
治療的有用性
Sativex®はいくつかの国で多発性硬化症による痙縮の治療、多発性硬化症における神経障害性疼痛及びがん性慢性疼痛の治療への販売許可が認められている。Sativex®は不安障害、大麻使用障害、 注意欠陥/多動性障害、抑うつ及び睡眠障害を含むが、それに限定されない多様な他の適応症に向けて研究されている。
大麻エキス及びチンキは WHO EML(第 20 版)あるいは WHO 小児用必須医薬品モデルリストに含まれていない。
勧告
大麻のエキス及びチンキは、大麻への溶媒の使用によって生産される製剤を含み、現在 1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I に位置付けられている。エキス及びチンキは、ほぼ同量のデルタ-9 テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール; Δ9-THC)とカンナビジオールの混合物を含有する医療用製剤とブタンハッシュオイルなどのような高濃度の Δ9-THC を含有する非医療製剤の両方を含む。医療用のエキス及びチンキが経口投与されるのに対し、ブタンハッシュオイルなどのような非医療用製剤は通常、気化によって吸引される。 カンナビジオールを含有する精神活性作用のないエキスも存在する。
委員会は、1961 年の麻薬に関する単一条約において述べられる”大麻のエキス及びチンキ”という用語は、精神賦活特性を有するものと有さないものの多様な製剤を含んでいることを認識し た。委員会はまた、これらの製剤の精神賦活特性における可変性は、主に現在 1971 年の向精神薬 に関する条約に付表分類されている Δ9-THC の様々な異なるレベルの濃度によるものであり、精神賦活特性がなく、主としてカンナビジオールを含む大麻の一部のエキス及びチンキは有望な治 療応用を有することを認識した。
1961 年の麻薬に関する単一条約により、附表 I あるいは II の物質を含む調合薬、固形物、液 体の製剤は、通常当該物質と同じ統制措置の対象となると定義されている。委員会は、この定義により、1961 年の麻薬に関する単一条約は全ての大麻のエキス及びチンキの製品を大麻の製剤と して、またもしもドロナビノールを 1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I に移動する委員会の 勧告が採用された場合、ドロナビノール及び異性体の製剤としても対象に含めることに留意し た。
• 勧告: 委員会は、大麻のエキス及びチンキを 1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I か ら削除することを勧告した。
委員会は、様々な異なるレベルの濃度の Δ9-THC を有する多様な製剤が同一の項目”エキス及び チンキ”の範囲内、同一の附表で規制されているという事実は、それぞれの国内で統制措置を履行する責任を負う当局者にとって難題であることを認めた。
7.5 カンナビジオール製剤
ECDD は第 40 会期会議において、カンナビジオールのクリティカルレビューを審議し、純粋な カンナビジオールとみなされる製剤は国際薬物統制条約の枠内に附表分類されるべきでないと勧 告した。カンナビジオールは大麻及び大麻樹脂に見出されるが、精神賦活特性を有しておらず、 乱用の可能性がなく、依存を生じさせる可能性もない。それは重大な悪影響を有していない。カンナビジオールは、特定の治療抵抗性の小児期発症のてんかん障害の制御に有効であることが示されている。この用途に向けて 2018 年にアメリカ合衆国で承認されており、現在欧州連合による承認の審議中である。
• カンナビジオールは化学的に合成すること、あるいは大麻植物から調製することが可能である。承認された薬剤(Epidiolex®)は、大麻植物の製剤である。委員会は、大麻植物の製剤として生産された精神活性作用のない医薬品は、微量の Δ9-THC(ドロナビノー ル)を含有していることに留意した。小児期発症てんかんの治療に向けて承認されたカンナビジオール製剤 Epidiolex®は、重量あたり 0.15%以下の Δ9-THC を含有しており、乱用あるいは依存の可能性を示す作用は有していない。純粋なカンナビジオールと みなされる物質は統制を受けないとする第 40 会期 ECDD の勧告に従って、委員会はそのような製剤には Epidiolex®における 0.15%などのような濃度の微量の Δ9-THC が発見される可能性があることを認識した。委員会は 0.15%の精度での Δ9-THC の化学分 析は一部の加盟国にとって困難である可能性があることを認め、最高 0.2%までの微量 の Δ9-THC を精密に検出する現在の各国の能力を考慮した。
• 勧告: 委員会は、1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I に”主としてカンナビジオールを含有し、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノールが 0.2%を超えない製剤は、国際統制の対象としない”とする脚注を追加するよう勧告した。
委員会は、レボメトルファン及びレボルファノールに関連する附表における脚注の使用の先行例、その立体異性体であるデキストロメトルファン及びデキストロファンは通常 1961 年の条約の 附表 I と同じレベルの規制の対象となるであろうことに留意した。なぜならば、これらの物質は乱用あるいは依存を生じるおそれがなく、医療的に使用されており、脚注はデキストロメトルフ ァン及びデキストロファンは国際統制の対象としないことを示しているからである。
7.6 大麻及びデルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール)の医薬製剤
現在、主に 2 種類の Δ9-THC(ドロナビノール)を含有する登録された医薬品が存在する。1 種類目は、精神賦活性の Δ9-THC と非精神賦活性のカンナビジオールの両方をほぼ等しい濃度で含 有する大麻の製剤である(Sativex®)。これは多発性硬化症による痙縮及び神経障害性疼痛、がん性 慢性疼痛の治療に用いられている。
2 種類目は、活性化合物として Δ9-THC のみを含有し、AIDS 患者の体重減少と関連する食欲不振及び従来の制吐薬治療に十分な応答のなかった患者のがん化学療法に伴う吐き気と嘔吐の治療に用いられている。現在、Δ9-THC のみを活性化合物とする承認された医薬品(例、 Marinol®、Syndros® )は、化学合成によって生産された Δ9-THC を用いているが、将来的に同量の Δ9-THC を有する医薬品が大麻から調製されることも起こり得る。合成 Δ9-THC の治療効果あるいは有害作用は大麻植物由来の Δ9-THC と比較して差異はない。これらの医薬品は全て経口で摂取され、多くの国々で使用が承認されている。
これらの Δ9-THC を含有する医薬品は、乱用及び依存の問題と関連していることが見出され ておらず、非医療目的に転用されていない。
委員会は、そのような医薬製剤は乱用のおそれのない方法で製造されていることを認識した。 さらに、Sativex®などのような大麻由来の製剤についての 1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 I に関連する現在の統制のレベル、あるいは Marinol®及び Syndros®などのような合成 Δ9-THC を用いた製剤についての 1971 年の向精神薬に関する条約の付表 II に関する統制のレベルを正当化するような範囲でのの実際の乱用あるいは悪影響のエビデンスはない。
これらの医薬品を利用する権利を妨げることのないように、また、1961 年の麻薬に関する単 一条約の第三条 4 を参照し:
• 勧告: 委員会は、単一または複数の成分によって医薬製剤として、デルタ-9-テトラヒド ロカンナビノール(ドロナビノール)が容易に利用出来る方法によって復元不可能、あるいは公衆衛生へのリスクを引き起こさない方法で調合された、化学合成あるいは大麻の製剤として生産されたデルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール)を含 有する製剤を 1961 年の麻薬に関する単一条約の附表 III へ追加するよう勧告した。
謝辞
この会議は、スイス、ジュネーブ、世界保健機関(WHO)ワクチン製薬、医薬品アクセス部内薬物 依存専門家委員会(ECDD)事務局によって構成された。全ての技術文書は Mari ngela Sim o、 Gilles Forte、Suzanne Hill、Dilkushi Poovendran 及び Wil de Zwart の全般的指導のもとで制作された。管理支援は Afrah Vogel、Christine Berling 及び Yosr Arfa によって提供された。
WHO は技術報告に貢献した下記の個人に謝意を表する:
Kim Wolff, King’s College London, England; Simon Brandt, Liverpool John Moores University, England; Sandra Comer, Columbia University, USA; Mayyada al Wazaify, University of Jordan, Jordan; Jenny Wiley, RTI International, USA; Ellen Walker, Temple University, USA.
Jonathon Arnold, University of Sydney, Australia; Susanna Babalonis, University of Kentucky, USA; Brock Bakewell, Thomas Jefferson University, USA; Giuseppe Cannazza, University of Modena and Reggio Emilia, Italy; Cinzia Citti, University of Modena and Reggio Emilia, Italy; Haya Fernandez, Centre for Addiction and Mental Health, Canada; Omer S.M. Hasan, Centre for Addiction and Mental Health, Canada; Kevin P. Hill, Harvard Medical School, USA; Jakob Manthey, Institute for Clinical Psychology and Psychotherapy, Germany; Astrid Otto, Centre for Addiction and Mental Health, Canada; Charles V. Pollack, Thomas Jefferson University, USA; Charlotte Probst, Centre for Addiction and Mental Health, Canada; Jurgen Rehm, Centre for Addiction and Mental Health, Canada; Julian Sauer, Centre for Addiction and Mental Health, Canada; Judith Spahr, Thomas Jefferson University, USA; Vidhi Thakkar, Centre for Addiction and Mental Health, Canada; Sharon Walsh, University of Kentucky, USA; Jenny Wiley, RTI International, USA.
技術編集は Susan Kaplan によって提供された。
参考文献
1. 1961 Single Convention on Narcotic Drugs (https://www.unodc.org/pdf/convention_1961_en.pdf ).
2. 1971 Convention on Psychotropic Substances (https://www.unodc.org/pdf/convention_1971_en.pdf ).
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(https://www.unodc.org/unodc/en/scientists/multilingual-dictionary-of-narcotic-drugs-and-psychotropic-substances-under-international-control.html).
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7. 2018 World drug report. Vienna: United Nations Office on Drugs and Crime; 2018
(https://www.unodc.org/wdr2018/).
8. Recommended methods for the identification and analysis of fentanyl and its analogues in biological specimens. Vienna: United Nations Office on Drugs and Crime; 2017 (https://www.unodc.org/documents/scientific/Recommended_methods_for_the_identification_a nd_analysis_of_Fentanyl.pdf ).
9. Guidelines on use of handheld Raman field identification devices for drugs. Vienna: United Nations Office on Drugs and Crime (https://www.unodc.org/documents/scientific/SCITEC_26- Guidelines_on_Raman_Handheld_Field_Identification_Devices.pdf).
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