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「やっと会えた」 BUMP OF CHICKEN、2年8ヶ月ぶりの有観客ライブを振り返る。

【7/2(土) BUMP OF CHICKEN 「Silver Jubilee at Makuhari Messe」 @ 幕張メッセ 9〜11ホール】

BUMP OF CHICKENは、その長きにわたる活動において、ライブの場におけるリスナーとの直接的なコミュニケーションを、何よりも重んじているバンドである。4人がライブに対して特に強い思い入れを持っているのは、自分たちが生み出した音楽は、リスナーとのコミュニケーションを通して初めて完成する、という確信があるからだ。(そしてそれは、ポップ・ミュージックの基本原則そのものでもある。)

ライブという空間が、いかにかけがえのないものであるか。コロナ禍に突入して以降の約2年半を通して、4人は、そして僕たちリスナーは、その事実を痛いほどに再確認することとなった。そして2022年7月、度重なる延期を経て、ついに、2年8ヶ月ぶりの有観客ライブが実現した。今回は、その初日の7月2日(土)の模様を振り返っていく。



1曲目を飾ったのは、コロナ禍でリリースされた新曲の一つ"アカシア"であった。間奏で、藤原基央が呟いた「やっと会えた」という言葉には、2年8ヶ月という時間を超えて、再びリスナーの前に立つことができた深い感慨が詰まっていたように思う。

2曲目の"Hello,world!"では、ラストの《ハロー どうも 僕はここ》という一節が、《ハロー どうも 「君」はここ》と歌詞を変えて歌われた。それは言うまでもなく、目の前のリスナーに向けて歌い届けるための特別なアレンジだったのだろう。

そして立て続けに披露されたのは、稀代のロック・アンセム"天体観測"だ。これまで何度も繰り返して披露されてきた楽曲ではあるが、最後の《もう一度君に会おうとして 望遠鏡をまた担いで/前と同じ 午前二時 フミキリまで駆けてくよ》という一節は、まさに「君」との再会を願う歌としての新たな意味合いをもって響いていたように思う。

この曲は、本来であれば、観客とのコール&レスポンスによって初めて完成する楽曲であるが、いつか自由に声を出してライブができるその日まで、観客が歌うパートは「空席」のまま空けておきたい、という想いが藤原から語られた。それは、彼らなりの誠意であり、そして、今はコール&レスポンスがなくても、この日、この時限りの"天体観測"が成立し得るという確信の表れでもあったのだろう。



冒頭3曲からハイライトの連続であった今回のライブには、振り返ると、大きく2つの意味合いがあったと思う。1つは、コロナ禍でリリースされた新曲たちを、初めて有観客ライブで披露する場であった、ということだ。

オープニングナンバーの"アカシア"をはじめ、"なないろ"や"Small world"、アンコールで披露された"クロノスタシス"は、あの日、リスナーたちの目の前で鳴らされた時、ついに、2度目の誕生を迎えることができたのだと思う。

藤原は、よくMCやインタビューなどで、「自分」「自分たち」ではなく、自分たちが生み出した「音楽」を主語として語ることが多い。それはまるで、BUMP OF CHICKENの「音楽」が独立した意志を持っているかのような語り口である。(また、ステージに掲げられたバンドのエンブレムを指差して、「こいつ」と呼ぶのも、同じように、とても彼らしい語り口であるように思う。)

4人はいつだって、自分たち自身の意志よりも、彼ら自身が生み出した「音楽」の意志を重んじている。そして、その「音楽」が望む方角へと導かれるように歩み続けている。とても抽象的な話ではあるが、これこそがBUMP OF CHICKENというバンドの確固たる活動原理なのだと思う。

このコロナ禍でリリースされた新曲たちは、ライブの場で、目の前のリスナーの前で鳴らされることを、長い間ずっと求め続けてきた。そうした「音楽」の想いに応えることができた今回のステージは、だからこそ4人にとって非常に感慨深いものになったのだろう。そして言うまでもなく、それは僕たちリスナーにとっても同じである。数あるパフォーマンスの中でも、観客が腕に装着した「PIXMOB(ピクスモブ)」が様々な色に光る演出が施された"なないろ"で広がった七色の壮大な景色は、特に、言葉を失うほどに美しかった。



今回のライブにおけるもう1つの大きな意味合いは、リスナーと一緒に、バンド結成25周年を祝い合うことであった。

もともと今回の公演は、2021年2月のバンド結成25周年の記念日のタイミングで開催することを見込んでいたものであった。延期に次ぐ延期によって1年以上遅れてしまう形にはなったが、オンラインライブで代替するのではなく、一緒にバンドの歴史をつくってきたリスナーと同じ空間でアニバーサリーを祝うことにこそ、深い意義があったのだと思う。

2016年2月、結成20周年のタイミングで開催されたスペシャルライブ「20」がそうであったように、今回も、これまでの歴史を網羅する形で様々な年代の楽曲が披露された。古い順に、"リトルブレイバー"(1999)、"乗車権"(2004)、"銀河鉄道"(2005)、"arrows"(2007)、"宇宙飛行士への手紙"(2010)というように、それぞれリリースされた年が違うからこそ、それらが1つのライブを通して披露されることで、バンドの歴史の重みと深みが改めて伝わってくる。

そして、終盤に披露された孤高のロック・アンセム"オンリー ロンリー グローリー"(2004)を通して生まれたフロアの熱気は、特に凄まじかった。また、アンコールで披露されたインディーズ時代の楽曲"BUMP OF CHICKENのテーマ"は、今回の周年記念ライブがいかに特別なものであるかを強く物語っていた。



なお、アンコールでは、コロナ禍で制作されたという未発表の新曲が初披露された。おそらくは、2019年の『aurora arc』に次ぐ新しいアルバムが完成する時が、確実に迫っているのだろう。これから始まる新しい季節がとても充実したものであることを、先んじて確信させてくれるような非常に美しい楽曲であった。

また8月には、3年ぶりの開催となる「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」における3日目のヘッドライナーとしてのステージも控えている。少しずつではあるが、確実に、BUMP OF CHICKENのライブが、僕たちの日常の中へと戻りつつある。そのことが、何よりも嬉しく、そして希望的であるように思う。

引き続き、4人の旅路を追い続けていきたい。





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