目標を達成していない新人が、有休を取りたいと言ったら
「目標達成していないのに期末に有休を取るなんて有り得ない。義務を果たしていないのに権利を主張することは許されない。」
新卒1年目も終わりに差し掛かった頃に先輩から言われた言葉です。先輩二人に。朝から小部屋に呼び出されて。
あの日のことは10年近く経った今でも覚えています。当時の私はまだギャルみたいなメイクをしていたので、先輩二人に詰められて泣いた結果、つけまつげは取れるわアイラインは消えるわでメイク直しが大変でした。と、そんなことはどうでもよくて、先輩の言葉の是非について未だに疑問を抱いています。
義務と権利。先輩たちの言うそれは至極もっともらしい説教だったと思います。
ここで言う義務は「営業目標を達成すること」を指していました。当時は広告の法人営業をしていて、3月末の期末が差し迫った時期に目標金額分まで売っていない新人の私が有給休暇を1日取りたいと言ったのでした。先輩としては「取るな」と言うのが当然なのでしょうか?
その時、私は泣きました。怒られてショックだったのでもなく、目標達成してないことを指摘されて悔しかったのでもなく、休みを取れないことが泣くほどに嫌だったのでもありません。あまりにも納得できなかったからです。
休みを取れるように商談のアポイントを調整し、社内調整(これが大失敗に終わったわけですが)も済ませたつもりであとは人事システムで申請するだけと思っていました。
目標達成していないことについては、その1日に稼働するか否かで達成できるような案件は抱えていなかったため、合理的に考えたら休むことによる影響はないと考えていたのです。
先輩の言う理屈では「目標達成していない状態では有休を取得すべきではない」ということになります。え、でも、それなら期初や期中のまだ目標に対して道半ばの段階では有休を取ってはいけないことになりますよね?みんな有休取って休んでましたよね?と思ったわけです。まぁ私はそんな屁理屈を捏ねたいのではなく、要するに先輩の主張の実態は「期末のクソ忙しい時に新人が呑気に有休なんて取るな」ってことで、私に求められていたのは義務だとか権利だとかいう話ではなく、「空気を読んで休まず働く姿勢」でした。
それならそうと言ってほしかった。
「有休は社員に等しく与えられた権利だ。だが期末はみんな必死に目標を達成しようと奔走している。そんな中、まだ達成していない営業マン、ましてや1年目が休むなんて許しがたい。他の社員と同じように1日も惜しまず奔走する姿勢を見せろ。」これならまだ私は化粧が流れるほどには泣かなかったでしょう。
そしてその上で納得できないことが、なぜ、周りが休まず頑張っているからという理由で私も休まず頑張らなければならない(少なくとも、その姿勢を見せなければならない)のかということです。
どうも社会には、「自分が苦労している時に同じく苦労していない人がいるのが許せない」空気感が蔓延しているように感じます。
いや、当時の先輩たちが必ずしもそういう思いから私を呼び出して説教したとは思っていません。もちろん、新人教育の一環として職場ひいては社会を叩き込んでくれたのでしょう。しかし、根源にあるのはそういう「みんな等しく苦労すべきだ」という思考だったのではないでしょうか。
さて、私が今、当時の先輩の立場だったとしたら。やはり休むことを止めるべきでしょうか?私がどうしたいかで言えば、まずはその新人の抱えている仕事が、その1日の有休に影響を受けるか否かを確認します。そこに問題がないならば、期末の追い込みで疲弊している周囲の営業マンもいることに配慮する心は持っておくようにとは伝えた上で、休むことについては容認したいです。
周りが頑張っているから、自分だけ休憩するなんていけないことだ。自分以外の人が苦労している分、自分も苦労していないといけない。ーーー少なくとも私はそんな風に考えていたらやっていられなくなるし、なによりそれを他人に押し付けるべきではないと思うのです。
でも、それが「会社」で、「日本で正社員として働くこと」なのかもしれない。私には向いていないことでしたが、その先輩たちをはじめとする社会でうまくやっている人たちの本心は一体どうなのでしょうか。もしも可能ならば、タイムマシーンで10年前のあの朝に返って、先輩たちに問うてみたいものです。
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