ぬか床と別れた８人の理由
まるで恋愛コラムのようなタイトルですが、ぬか床の話です。
埼玉でぬか床とラブラブ同棲生活を送っていたころのこと。
友だちにぬか床の話をすると、「やってみた～い、食べてみた～い」と興味を持ってもらえることがけっこうあって。
そのたびに私は、きゅうりやカブなどのぬか漬け界のトップスターを埋め込んだぬか床を「味が好きだったらそのまま漬けてみて。苦手だったら返して」と各人に派遣しておりました。
ぬか床は食材を漬ければ漬けるほど食材から出た水分ですぐにゆるくなってしまうので、それが気になる場合はぬかや塩、昆布などの副材料を足して硬さや味を調整する必要がありまして。
そうしてかさが増えたぬか床をふた掴みほどジップロックに入れて、友だちに配っていたのです。
あのぬか床たちは、いまどうしているのだろう。
ふと気になって、友人たちに連絡を取ってみました。
すると、私が譲渡したほぼすべてのぬか床はすでに持ち主から別れを告げられていたことが明らかになりました。
「ごめん！いろいろあって捨てちゃった」
な、なんですと？？？
衝撃でワナワナ震えながらその「いろいろ」を掘り下げたところ、「家族の反対にあって」「つい放置してしまって」「相手（ぬか床）の変化に耐えられなくて」等々、まるで恋人との別れ話のようなエピソードを8人から聞くことができました。
今回はそのエピソードを紹介しつつ、所感を綴ってまいります。
ぬか床との関係に悩んでいる人、ぬか床との別れを引きずっている人、ぬか床とより親密になりたい人のヒントになれば幸いです。
Case1. 家族の反対にあって
私はぬか漬け好きだったんだけど、夫や子どもがぬか漬けの匂いや味が苦手で……。
自分だけのためにぬか床を続けるのがしんどくて、捨てちゃったの。
しょっぱなから『ロミオとジュリエット』みたいな展開。
家族によって引き裂かれる、あなたとぬか漬けのラブロマンス。
「ぬか漬けを取るべきか家族を取るべきか、それが問題だ」
ハムレットはさておき、一緒に食卓を囲んでいるのなら家族にあなたとぬか床の関係を認めてもらうのは難しい気がします。
好きな人にとっては気にならない匂いでも、嫌いな人にとっては悪臭だし……。
私だったら、タッパーのようなぬか床からチューブタイプのぬか床に切り替えるかも。そしたら日ごろの手入れはいらないし、食べたいときだけ食べられるし。
もっともチューブタイプにもいろいろなお味があるので、お気に入りがあればの話ですが。
あるいは近くにぬか床をやっている親しい家族や友だちがいたら、遊びに行く前に漬けておいてほしい食材をリクエストしておくのも手かもしれません。
ぬか漬けを肴に飲む酒はうまい。家族に阻まれたくらいで諦めるのは、惜しい。
Case2. 突然変わり果てた姿に
大好きだったのよ。ほぼ毎日漬けていたし、そのたびにちゃんとかき回してもいたし。
それなのに……ある日ちょっと冷蔵庫から出しっぱなしにしていたら、あっという間に変色していたの！
その友だちは、私の友だちのなかでもダントツにマメな人でした。
彼女の家に遊びに行ったときにゆで卵のぬか漬けをご馳走になったこともあるし、「最近味が薄くなってきたんだけど、どうしたらいい？」なんて相談を受けたこともあるほど。
そんなふうに大事にされてきたぬか床の体調が、急変。にわかには信じられませんでした。
冷蔵庫育ちのぬか床は、私たちが思っているよりも環境の変化に弱く、繊細なのかもしれません。
本によっては「カビさえ取り除けば無問題」と書いてあるものもありますが、本人曰く「もう匂いを嗅いだ瞬間にダメだと悟った」。
こういうときは、自分の動物的勘に従った方がいいのかもしれません。
いつか気を取り直して、Newぬか床と再出発してほしい。
Case3. 放置してしまった
うっかり混ぜるのを忘れてて、あっという間に数か月。もう蓋を開けるのが怖くなっちゃって、容器に入ったままポリ袋で包んでさよならしてしまった。
夏野菜の時期は毎日漬けていたんだけど、秋冬は特に漬けたいものがないな～と思っていたらそのまま放置しちゃってて。
もうさすがに捨てた方がいいかもと思って、捨てちゃった。
転職したら仕事に慣れるので精一杯で、生活リズムが変わったらぬか床を整える習慣もなくなっちゃって。
放置はぬか床との別れのなかで、おそらく一番多い原因かと思われます。
恋愛でいう、自然消滅。
恋愛での自然消滅は、こちらがもう終わったのかな？と思ったタイミングで向こうから連絡が来たりして、「え、この人まだ続いてるつもりなの？意味わかんない」と終わろうにも終わらせられずに混乱したりしますよね。
ぬか床との自然消滅の末の別れは、異臭が決定打となることが多いようです。
ある日突然ぬか容器からただよう異臭、ハッと思い出すぬか床の存在、そしてお別れ……。
3人とも、そんな流れだったのだそう。
その対策として「忘れないようにする」というのは無茶なので、極力毎日コミュニケーションを取ることを習慣にできたらよいのかも。
漬けたい野菜が少ない季節はゆで卵や鶏のささみ、厚揚げなどの季節を問わない食材を楽しんだり、冷凍庫で冬眠させるのもよいかもしれません。
追記：冬眠に関して勉強になるのが、こちらのはみんぐばーどさんの記事。
ジップロックに入れて、冷凍庫で保管するんですって。
Case4. そもそも料理をする習慣がない
野菜の切れっぱしとか使い残しを入れると便利って言っていたじゃない。でも、私そもそもそれほど料理する人じゃなかったんだよね。ぬか床のために時間を使うより、コンビニでごはん買った方が早いし。
これを機に自炊頑張るって言ってたやんけ！とがっくり脱力してしまったのですが、時間やお金の使い方は人それぞれなので何ともいえません。
何を楽とするか、早いとするかは、料理をする人とそうでない人でだいぶ異なります。
個人的には余った食材を入れておくだけでぬか床が勝手においしく調理してくれるから、時間的にも金銭的にもかなり楽になったんだけど。
ちょっと切ったり皮をむいてぬか床に埋め込んでおくだけで一品できるって、しかも見切り品の野菜でもおいしくなるって、超便利でお得だと思うんだけど。
「もしコンビニが潰れても、自力で食事を作れる自信」って、コンビニでは買えませんし。
こんなに手軽なのに、料理しない人からは「ぬか床持ってる＝料理ガチ勢」ってやたら尊敬のまなざしを向けてもらえるし。
全然そんなことないのにね。
いつか本当に自炊に目覚めたときに、ぬか床の偉大さに慄くがいい。
Case5. ぬか漬けに期待をかけすぎた
ぬか漬け食べると綺麗になるとか健康になるって聞いたから始めたんだけど、正直すぐには効果って出ないよね。
なかなか痩せないままだったから、別のダイエット始めたんだ。
食べものに、手っ取り早い効果を期待しないでください。
そんなに早く効果が出たら、それはもはや魔法か劇薬です。
そんな激重な期待をかけられた、ぬか床が気の毒！
たしかにぬか漬けには、ビタミンB群、ビタミンE、乳酸菌などが豊富に含まれています。
その栄養が身体をめぐることで、綺麗になったり健康になったりするかもしれないけれど、そんなふうに身体に具体的な効果が表れるには、ある程度の期間継続することが必要です。
それに、ぬか漬けはたしかにすごいのかもしれないけれど、ぬか漬け単体をむさぼり食えばいいってわけじゃなくて、ぬか漬けに合わせてご飯や魚が食卓にのぼることも美や健康につながっているんじゃないかなぁ。
ぬか漬けの「ばっかり食い」は、間違いなく塩分過多です、危険です。
期待をかけるのはほどほどに、気長に食べていきましょう。
Case6. 最初は好きだったが、徐々に味が変わってしまった
分けてもらったときの味は好きだったの。でも、だんだん酸っぱくなってきちゃって、あんまり好きじゃなくなってきて……食べるのが嫌になって捨てた。
酸っぱくなったら、塩や昆布を足しましょう。
酸味が弱いときは、かき回す間隔を空けましょう。
味を引き締めたいなら、山椒やぬかみそからしを入れましょう。
臭いがきついときは、しっかりとかき回しましょう。
私が普段ぬか床で気をつけているのは、だいたいそのくらいです。
食材を漬けるなかで、足しぬかをするなかで、ぬか床の味は日々変わっていきます。
時には好みの味から大きく外れてしまうことも。
でも、多少失敗してもリカバリーできるのがぬか床のいいところ。
ぬか漬けを食べて「ちょっと違うな」と思ったら、そこから軌道修正ができるのです。
自分好みの味に育てていけるのは、ぬか床の楽しみのひとつ。
気楽に付き合っていきましょう。
好きな味でも嫌いな味でも、等しく儚く移ろっていくんだから。
って、この子もぬか床捨てちゃったんだった……。
ていうか……
なんで誰も一言も相談してくれなかったのよー！！！
「だってあなたぬか床を溺愛してたから、こんなこと相談したら悪いと思ったんだもん」
全員から、そんな答えが返ってきました。
悪くない！ぜんっぜん悪くない！！！
むしろ、あとから「ぬか床？実は捨てちゃったんだよね」って聞く方がつらい！！！
なんならあなたたちの恋人より、あなたたちにあげたぬか床のことの方が私は気になっていたのに！！！
付き合い始めて盛り上がり、慣れてマンネリ化したりぎくしゃくしたりして、次第に落ち着いていく……恋愛もぬか床もそんなサイクルは同じです。
「マンネリ化したりぎくしゃくしたり」の部分で「ちょっと聞いてよ彼ったらさ……」と相談するように、ぬか床についても相談してくれたらよかったのに！
私のぬか床への異常な愛情がそれを妨げていたなら、それはもうどうしようもないけれど！
悪かったな、ぬか床が大好きで！（逆ギレ）
ああ。恋バナをするみたいに、ぬかバナを気軽にできるようになりたいものです。
みなさまのぬか床は、お元気ですか？
うちのぬか床には、今日もゆで卵が埋まっています。
お読みいただきありがとうございました😆