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漕いで、歌って。体育コンプレックスを乗り越えたい

いやはや。
笑っちゃうほど、仕事がうまくいかない一週間だった。

月曜日に雪山で遭難し、なんとか掘っ立て小屋に駆け込み下山スケジュールを立てたところで一日が終わり、火曜にそろりそろりと四分の一ほど山を下りることに成功したかと思いきや毒沼に頭から落っこちて、水曜にやっとこさ毒沼から這い出てきて木曜、凶悪なドラゴンがこんにちは、みたいな、種類もとるべき対応も異なったトラブルが方々から湧き出てきて、これはもう一旦お亡くなりになった方が早いのではないかと思われるほどの(ドラクエの話です)、目が回るようなトラブルの嵐だった。
まぁ私のツメが甘いことがすべての元凶なので、ただの自業自得の自縄自縛とも言えるのですけれども……。

ま、とりあえず週末だ。
しばし休戦。
パソコンを勢いよく閉じて会社を飛び出し、ウキウキと電車に揺られる。
よーし、土日は徹底的にストレス散らしたろ。何をしようかな。

以前従姉と江戸川区に住んでいた頃、ダントツのストレス解消法はソーラン節だった。
二人で夜中に近くの河原まで走っては、汗だくになるまでソーラン節を踊り、帰りにコンビニに寄ってアイスやコーラを買ったものだった。
ソーラン節ってよく中学生なんかが文化祭なんかでチャラチャラっと踊っているイメージありますけど、実は一つひとつの動作が大きくてめっちゃ疲れるんですよ。
ザ・全身運動って感じ。
でも、一曲丸々踊ると爆発的な爽快感が得られるので、とても気に入っていたストレス発散方法だった。
さすがに外で一人で踊る根性はないので、引っ越し後に一度だけ床の薄い部屋でおそるおそる踊ってみた。
当然ながらあの夜のような高揚感や解放感は、ない。
結局、今はほとんど踊っていない。

そういえば最近急に、同世代の友だちが一斉に運動を始めたような気がする。
マラソンや社交ダンス、スイミング、ヨガ、ジム。
体育が苦手だったかつての同志たちの唐突な手のひら返しに、私はかなり面食らっている。
なんでみんないきなり運動始めたの?
しかも、けっこう楽しそう。
友人の一人に聞くと、「私ずっと体育が嫌いだと思ってきたけど、球技がダメだっただけみたい」。
そうなの?

たしかに学校の体育は、球技が大半を占めている。球技が苦手だと、それだけで「体育ができない人」と自他ともに思い込んでしまうような気もする。

サッカーや野球、テニスにバスケ、バレーボールにラグビー、ドッヂボール。
私は全部、苦手だった。
サッカーやラグビーはわざわざボールの周りを右往左往するのが億劫で、ワッとボールに向かって駆け出すみんなの背中にタラタラとついていったらチームメイトにめっちゃ怒られたし、バスケとバレーは数えきれないほど突き指したし、野球とテニスはバット、ラケットに球が当たったらそれだけで満足だった。
しかし一番苦手なのは、ドッヂボールだった。
私は169センチと背が高い方なので、クラス替えしたすぐ後であればみんな警戒して私を狙ってこない。
しかし己の戦闘能力が限りなくゼロに近い(取れない・投げない・避けられない)ことがバレて以降は、格好の標的になる。
内野にいる時間は生きた心地がしなかったし、あっさりと当たって外野に回るともう完全なる役立たずとしてグラウンドの景色に溶け込むしかなかった。
つらい時間だったな。

そんな風にぐちぐちと過去を引きずっているのは私だけで、友人たちはとっくに体育の呪縛から逃れ、各々のスポーツライフを楽しんでいるらしい。
いっちょ運動、してみるかぁ。

私の家の周りは、わりと坂が多い。隣駅まで自転車で走ったら、けっこうな運動&ストレス発散になるかもしれない。
思い立ったが吉日、金曜の夜にさっそく自転車にまたがった。
ビバ!スポーツの秋!

しばらく漕いでいると身体が温まってきて、夜風の冷たさがちょうどいい。
ほとんど人のいない通りを走りながら、
あぁ〜〜〜〜」「ゔ〜〜〜〜」とため息に声を乗せると、だんだんと気持ちも軽くなっていく。

誰もいないのをいいことに、

「ちっくしょ〜、疲れたよ〜う」とぼやき、

「フザケヤガッテ フザケヤガッテ フザケヤガッテ コノヤロー」(ハナ肇とクレージーキャッツ「ハイそれまでョ」)と節をつけて呟き、

「シオシオのパーーーー!!!」(快獣ブースカ)と声に出した。

そして最終的に私は、スーパーのテーマソングを歌いながら大通りを爆走していた。

何かの折に口をついて出る歌がベルクやCGCといったスーパーや、薬局クリエイトのテーマなのはなんとなく物悲しい気もするけれど、それらの底抜けの明るさやテンションの高さに、どうしようもなく惹かれてしまう。

「あなたのベルク〜暮らしにベルク〜Just for Your Life〜♪」

「あなたも 私も C・G・C〜〜♪」

「クリエイトSD!クリエイトSD!クリエイトSD!すっぱだーすたー(“スーパードラッグストア”が正しい発音らしい)」

あぁ、たのしい。
そういえば昔、まだ私が中高生だった頃。
サイクリングロードを走っていたら、自転車を漕ぎながらご機嫌で歌っているおばさんがいた。
陽のあたる〜坂道を〜自転車で駆けのぼるぅ〜♪」(つじあやの「風になる」)

このゆるやかな坂でそれを歌いたくなる気持ちはめっちゃわかるけど、これほど歌詞がはっきりくっきり聞こえてくるのは、ちょっと恥ずかしいな。
笑いをこらえながら追い抜きざまにちらっと振り返ると、母だった
あの時の恥ずかしさはすでに忘却の彼方。
そして私もまた、自転車を漕ぎながら平気で歌う人間になった。

耳と口を歌で塞いで、足はペダルを漕ぎ、手はハンドルを支え、頭の中はベルクの歌詞でいっぱい。
仕事のことを考える余白は、これっぽっちもない。
身体を動かすって、歌うって、これほど嬉しく、楽しいことだったんだなぁ。知らなかった。

秋は、まだまだこれから。
仕事も、まだまだこれから(泣)。
今年はしっかり漕いで、歌って、図太くなるのだ。

お読みいただきありがとうございました😆