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はじめまして。ハンドメイド変態ツルカワです。そんなわたしは、如何にして、ハンドメイドに愛情を注ぐようになったか。(第九回)

ギャラリーは、できてしまった。

インフルエンザが治ってから、そっと入った自分の城。こぢんまりとしていて、その第1印象は小さな窓からの差し込む光が、あまりにもおぼろげで、「独房…??」というなんともはやなものだったが。

兎にも角にも、狭くとも独房みたいだろうとも、ハンドメイド変態としては、ここを決意通り、豊かなハンドメイドの表現の場にしなければいけない。
ということは。あたりまえだが、
つまり、1日も早く展示を行わなければいけない。
勿論そのことは承知していたので、ギャラリー建設中から、いままでの企画展業でお付き合いのあった作家さんに声をかけて、個展をしてくれないかというお声掛けを、複数、年明けから行なっていた。
そのなかで、オープニング展示を引き受けてくれた作家さんの創作のペースなどを確かめ合ううちに、自然と、オープンの日は6月と決まった。

さて、ここにきての問題は、いままで「リフォームの工事をします」としか伝えていなかったご近所さんに、どう「ギャラリーを作ってたんです、実は〜」とカミングアウトするかである。なんせ閑静な住宅地。商業地ではないので、あまり騒がしいことをするわけにもいかない。そうでなくとも、商売をするということになれば、一言挨拶をしなければならない。実はギャラリー計画の中で、これが一番緊張し気掛かりだった案件だったのだ。
とはいえ、竣工後、すぐに看板は付けてしまい、おそらく「なんだこりゃ」とみなさまお思いのはずなので、先に延ばすわけにもいかなかった。

というわけで、意を決して手紙をしたため、向こう隣の数軒のお宅に簡単な手土産を手に、ご挨拶に伺った。みなさま、長くこの土地に暮らしている方々ばかり。こういうとき、新住民はなかなか肩身がせまいものである。
ちなみに、手紙を書いたのは、口ではうまくその場で説明できる自信がなかったからである。その思惑通り、ご挨拶といっても、玄関先で案の定しどろもどろになり、とりあえずこれをお読みください、よろしくお願い申し上げます、と手土産とともに、手紙を押し付けてスゴスゴ帰ってきた、というのが、現実であった。

そんなものだから、果たしてご理解頂けたか…とその夜は気掛かりで落ち着かず過ごしたのだが、その次の朝、ポストに1枚の手紙を見つけ、そしてそれが、ご挨拶したうちの一軒の奥さまからだと手にして知った時は、緊張でひっくり返りそうになった。
おそるおそる、封を切り、文を読む。
そこにはこのような文が、丁寧な字で綴ってあった。

「…てしごとのものを扱うギャラリーとは、女性らしい発想、素敵ですね。オープンしたら伺わせてくださいね」

…ほぅ…と大きく安堵と感謝の溜息を大きく吐いたのは勿論のことである。同時に心強くて、ちょっと涙が出た。何しろそれまで、近所付き合いらしいものは、ほぼ、おこなっていなかったので。
迷惑かけないように、やらなきゃな。改めて心に固く誓い、真新しいギャラリーをみつめなおすわたしがいた。

(第十回に続く)


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