「いつも綺麗にご利用」していますか？

初めて行くショッピングモール。新しいショッピングモールができれば、みんな何の用事もないけど何となく行ってみる。文字に起こせば滑稽に感じるが、自分も例に漏れずにそのショッピングモールに吸い込まれる。

ただ、新しいショッピングモールに行くと不思議とテンションが上がる。新築の匂いとか、フロアの構造がまだ分からなくてマップを見ながら歩き進める冒険感、行き慣れた地元のショッピングモールでは味わえない楽しみがそこにはある。まあその楽しみも気づかぬうちに消えていく。いつどこで消えたのか分からないほどナチュラルに。地元のショッピングモールがそうであったのと同じくらいに。

新しいショッピングモールならトイレに行くことにも躊躇がない。やはり外でトイレに行く時は何だか少し抵抗があるが、新築となれば話は別だ。何なら自宅のトイレ以上に綺麗な設備が整っているだろう。そんな見知らぬトイレに期待と膀胱を膨らませて行くと、ドラゴンボールくらい摩訶不思議な張り紙を目にする。

「いつも綺麗にご利用いただきありがとうございます！」

はて？初めてきたトイレで「いつもありがとうございます」と言われるなんて、俺も大物になったものだ。逆にこの張り紙を作る時に「初めてきた人が見たら意味分からないだろうな」っと考え直さなかったのだろうか。普通に「綺麗にご利用いただきますようご協力お願いします」ではダメなのだろうか。ちょっと格好つけすぎだろ。

「いつも」の部分を百歩譲ったとしても、「綺麗にご利用いただき」の部分は絶対に違う。そもそもトイレを綺麗に利用した記憶もない。なぜなら尿を垂らしているのだから。糞を脱しているのだから。汚れる一方だろう。恐らくトイレを汚しているであろう利用者に対して、「綺麗にご利用いただきありがとうございます」なんてよく言えるな。貴様のプライドは夏の心地良い風に吹かれてどこかメルヘンな国へ飛んで行ったのだろうか。

初めて行くところで、身に覚えもないことにお礼を言われるなんて何だか不気味だ。それも一度や二度ではなく、居酒屋や公共の施設の公衆トイレに行く度に言われる。その度に天邪鬼な俺はこの張り紙に小便をかけてやろうかと思う。今頃バンクシーがトイレの張り紙に小便をかけている風刺画を描いているだろう。

まあ人生とは他人からの「ありがとう」を集めるRPGだからここでひとつ「ありがとう」を稼げるのは大きい。みんな他人からの「ありがとう」を集めようと今日も偽善者を装っている。公衆トイレとATMを使い終わった後はノーコストで「ありがとう」が稼げそうだ。

トイレを汚される前に先に釘を刺しておこう、という頭脳プレーを装った煽りなのかもしれないけども、トイレのくせに何ともスッキリしない。