⑦記憶の食と旅【タロジロと私。ときどきお父ちゃん】
愛息子タロジロへのラブレターです。
タロジロの記憶の片隅に埋もれた私の愛で、困難を乗り越えてくれるとうれしいな。
子どもに会えない親や親に会えない子どもは、愛していると伝え続けてほしい。
体験はかけがえのない人生の糧になる。踏み出す勇気を持ち続けよう!
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11歳タロウと8歳ジロウは、お母ちゃんの作るバナナケーキが大好きだ。
近頃はタロジロ二人でたまに焼く。
粉をパフパフさせるタロジロを眺めながら、時折自信喪失のお母ちゃんはフト質問。
「お母ちゃんのご飯で好きなの覚えてる?」
タロジロの表情はなんだかナヤマシゲ。
記憶にナイかと胸がザワツクお母ちゃん。
タロウがパッと顔をあげてはにかんで答えた。
「毎日いろんなご飯がでてきたから、どれが好きか選ばれへん!」
ジロウはいつの間にかお母ちゃんの膝にちょこんと落ち着き、満面の笑みでタロウにつづく。
「ジロウはピザかなぁ?」
狂気の食生活は、意外と私の愛を届けているのかもしれない。
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5歳タロウはジッと周囲を観察し、2歳ジロウは興味のおもむくまま動き回る2014年。
私はタロジロと親子三人でのお出かけを加速させる。
近場の公園や図書館から、川遊びや山登り、自宅近郊の県内外ショートトリップを、時間をみつけては楽しんだ。
私とタロジロの交通手段はもっぱら車。
電車やバスに乗るのは県外へ出るときくらい。
タロウ2011年、ジロウ2014年、ともに2歳で電車デビューする。
はじめて乗る電車に、タロジロは時が違えど大緊張。
タロウはともかく、2歳ジロウが終始座席に留まる奇跡が起きる。
タロウと顔を見合わせ、思わず目を丸めてクスッと笑ったな。
ジロウとのお出かけでは、私以上にタロウがいつも必死だ。
「ジロウおっちんしとくんやで」
「一人でどっか行ったら危ないからな」
「ジロウおやつ食べるか?」
電車に限らず車でも一緒。
あらゆる旅先で、柔軟ジロウの後を素直タロウは追いかけていく。
見知らぬ場所へ行けば行くほど、タロジロの成長は加速した。
あれだけ縦横無尽な2歳ジロウですら、知らない場所ともなると自ら考えて動きだす。
タロウはより責任感が芽生え、先を見越して振る舞うようになる。
日常と異なる環境は、タロジロの思考力と行動力をムクムク膨らました。
私にとって旅は最良の子育てだ。
初めての体験にクルクル飛び込むタロジロの目は、吸い込まれそうなくらいキラキラ輝く。
ほとんどの旅において、私は全力下調べと全力遊びでタロジロと楽しんだ。
あてのないお出かけも時々あったけれど、今思えば贅沢な時間だったな。
タロジロと一緒にいる時間が、永遠につづくと私は勘違いしていた。
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2016年、タロジロ初の海外滞在に、私はフィリピンを選んだ。
アジア屈指のスラム街のある国だ。
フィリピンである程度生活できれば、タロジロはどこへ行っても大丈夫だと思った。
日本がいかに素晴らしい国か、タロジロは感じとってくれると思った。
結果。
7歳タロウと4歳ジロウはヒョウヒョウと現地に馴染んでいく。
一方。
ストリートチルドレンの屈託ない笑顔に、感情がぐちゃぐちゃになる私。
タロジロ同世代のリアルに衝撃を受けた。
醜い価値観をまとう私を尻目に、タロジロは目の前の世界を着々と受け入れていく。
「お母ちゃん、なんでお金ほしいって言うん?」
「お母ちゃん、なんで子どもだけでおるん?」
「お母ちゃん、道汚いし建物ボロボロやな」
「お母ちゃん、パンとフルーツおいしいな」
「お母ちゃん、フィリピンの人は優しいな」
自身の日常との違いに興味をもち、体験するすべてを真っ直ぐに吸収するタロジロ。
二人の姿はとても眩しかった。
そして、
私にできる子育ては、世界の広さを見せるだけだと確信する。
フィリピンでのジロウは抱っこが激減し、タロウの後をテテテと追ってばかりいた。
タロウが先陣きってグングン歩んだからだ。
暑さと治安にお疲れのお母ちゃんより、タロウの方が頼もしかったんだろうな。
胸を張ってジロウに寄り添う7歳タロウを、もっともっと褒めて抱っこすればよかった。
ひと月のフィリピン滞在は、私にとっては現実逃避でもあった。
日常のショートトリップも逃避だ。
タロジロの眩しい姿に感動した私は、タロウがジロウにしたように、どうしてお父ちゃんにもっと寄り添ってあげなかったんだろう。
未熟にもほどがある。
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地球儀をクルクルさせながら、9歳タロウがお母ちゃんに質問する。
「フィリピンの豚の丸焼き、名前なんやったっけ?」
記憶がおぼろげな6歳ジロウも、二人の会話に負けじと参戦。
「マンゴージュース飲んだ気がする!」
旅先では「食」の記憶が色濃く残るタロジロ。
非日常での味わいを時折ムクムクと思い起こす。
でもタロジロの心には、お母ちゃんの狂気的な日常食も宿っている。
タロジロを産んでから私はずっと幸せだ。
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ー番外編②につづくー
⑦記憶の食と旅 ・Facebook編(2020.12.19記)
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⑥≪≪①≫≫番外編②
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