実子誘拐から7年目。それでも子どもは逞しく育ってゆく
vol.60【ワタシノ子育てノセカイ】
絶対的な世界では命が続かない。自分の世界が絶対であるほど、対話の可能性が失われ、世界の可能性が失われるから。
個々の世界が強くなり、ひとつに固まってしまうほど、多様性は消えてゆく。違いの繋がりを忘れて、ただただ同化する世界は、生命を蝕んでゆくんだ。
多様性が生命で、対話するヒトの世界が、持続可能となるのかもしれないな。
◇
ところで私には「実子誘拐」で6年間離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。
◇
2023年12月8日、実子誘拐から7年目に突入する。
長男タロウは8歳からまもなく15歳に。次男ジロウは5歳から11歳へ。すっぽり思春期である。
母親がいなくても子は育つらしく、一抹の寂しさはあるものの、逞しく成長するタロジロには感謝しかない。
子を授かれた私はほんとにラッキー。親として、人として、タロウとジロウに、どれほど育ててもらったことか。
2017年の私に伝えてあげたいんだ。ちゃっかりまだ生きてますよって。タロウもジロウも逞しく育ってますよって。そして育っているのは、母親があなただからなんですよって。
震える体で情報をかき集め、食事睡眠なくなぜか過ごせた、実子誘拐直後の5日間。その後も、なんだかんだで、生きておる。
体力オバケに生んでくれた、父と母にも感謝だな。
◇
タロウは弁が立つ。気がついたのは3歳くらいだったかな。出かける先々で「お喋り上手やねぇ」と、しょっちゅう話しかけられたのが、気づいたきっかけ。
言われてみれば、喋れるからか、私の言葉もよく理解してくれた気がする。幼少期に手がかかった記憶がないんだ。
ご飯食べよかーと言えば椅子に座ったし、お風呂入ろかーと言えば服を脱いだし、出かけよかーと言えば靴をはいた。子どもはそんなもんだと思っていた。
タロウは父方では初めての男の子で、母方いとこ群では第1子。後続する次男や甥姪と過ごし、めちゃくちゃ手のかからない乳幼児かも、とだんだんわかってくる。
当時の私はすこぶる白黒、百零、完璧主義。第1子がタロウじゃなかったら、まともに子育てできなかったに違いない。
タロウは誕生から幼少期で、一生分の親孝行をしてくれたんだ。
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お喋りタロウは14歳になった今でも健在。私とは漫画の話で盛り上がる。集めた情報のアウトプットやフィードバックにて、タロウの個性を知らせてくれる対話に、とても感謝をしているんだ。
2023年の冬は「炎炎ノ消防隊」が、現実のメタファーとして、私たち親子の時間を充実させている。アニメ第一話↓↓は無料らしい。ちなみに私が面白くなったのは10巻以降。
ある日の16巻ぐらいまで読んだあたり。物語の核となるアマテラスについて、タロウが問い立てを始めた。主要キャラもアマテラス存在の謎を解く仕立て。
あーかな?こーかな?とクルクル喋るタロウに、アマテラスが日本の最高神で、天皇の始祖と同じ名前だと私はパスする。
するとタロウは「神楽関係ある?首いっぱいある龍のやつ」と顔をパッと華やかせる。11月の父方地域の秋祭りの話だ。アマテラスの弟スサノオが、ヤマタノオロチから草薙の剣をゲットする、古事記の名場面である。
私は古事記が大好きで、いつか息子らにも触れてほしいと願っている。日本を深く知れる、すばらしい物語だと思うから。
これまでも母子の対話中に、私はポロポロと漏らしまくっていて、そのつどタロジロは興味を持つ。特にタロウは入れ食う勢い。
自分と母国のルーツは、自分そのものだから、そら知りたかろう。ついでに親こそ、わかりやすい子のルーツ。途絶えると、それこそわかりやすく、支障をきたす。
◇
私は実子誘拐に陥ってからのしばらく、家族や親子の日本のあり方にパニックになった。そして不合理性を問うて、もがいているうちに、いつしか古典に流れ着く。
そしたらすべてに合点がついて、生きるのがすこぶる楽になったんだ。その分、絶望感は極限値になってるけど。
まぁとにかく、苦しさからどうにか解放されたくて、心理学にとびつくと、いつのまにか哲学に移り、歴史に興味をもった。そして結局、人の悩みは、昔の賢い人が、ほぼほぼ解決してると理解する。
その一つが古事記。神さまですらアホやから、人間の未熟さなんてしれている。スサノオとか、潔いくらいアホすぎて、もはや愛おしさすらわく。
漫画も神楽も、日本が誇る文化。文化に触れる日常は、心を呼び戻す瞬間なんだろうな。
炎炎ノ消防隊、大久保篤さん、講談社コミックスさん、子育てサポートありがとう。漫画、ほんまに、神ツール。
◇
お喋りなタロウを凌駕する勢いだったジロウは、ここ2年でなんだか寡黙キャラに変貌中。思春期感じる。
下校中の密会にて、私はジロウの横で運転しながら呪文を鼻歌。「ジロウは~勇気の塊~」。いつも喜んでつっこんでくれるんだ。
ところがジロウはなぜかしょんぼり。笑ってくれず、違う言葉がやってくる。「ジロウには勇気なんかないねん…」どうした!?勇気の塊さん!!
どうやら静粛にする場面で騒ぐ同級生に、静かにするよう伝えたかったらしい。騒がしくてジロウも困っていたそうだ。だけどジロウは見てみぬふりをしたから、自分には勇気がないと呟く。
なんとまぁ。だからこそジロウは勇気の塊やねん。心で、ちゃんと、自分を見つめてるやん。
◇
あれこれ対話するうちに、いつもの太陽みたいなジロウになった。アマテラス降臨。眩しくてふと「ジロウはほんまにお母ちゃんの宝物やわ」とこぼす。
ジロウはモノちゃうわ!!
めっちゃ全力でつっこまれる。たしかに。宝ならOKがでた。いやはや、対話での違いのすり合わせ、大事やな。
ちなみにジロウも神楽を鑑賞している。観劇中にクルクル変わる表情で、神楽役者のスカウトを受けたそう。人材不足らしい。地区の親御さんが、わざわざ私に知らせてくれた。
人が、文化を、継承してゆく。
7年目はどんな親子時間を過ごそうか。
不甲斐ない母を、たゆまず愛してくれて、タロジロ、ありがとう。
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