複合動詞の分類と例句
複合動詞とは
「飲み始める」「光り輝く」のように、2つの動詞が複合してできた動詞を複合動詞という。複合動詞において、前に位置する動詞を「前項動詞」、後に位置する動詞を「後項動詞」と呼ぶ。前項動詞は連用形となり後項動詞につながる。
世界的に見ると、2動詞の連結表現は日本に限らずアジア圏で一般的だが、日本語の複合動詞は数の多さと表現力の多様性において群を抜いている。
統語的複合動詞と語彙的複合動詞
複合動詞は「統語的複合動詞」と「語彙的複合動詞」に分類される。統語的複合動詞は、前項動詞が後項動詞の主語や目的語になっている複合動詞である。
例(統語的複合動詞)
・働き過ぎる
働くことが過ぎる。前項動詞が主語。
・知り得る
知ることを得る。前項動詞が目的語。
「過ぎる」は統語的複合動詞を形成する後項動詞の一つである。「食べ過ぎる」「寝すぎる」のように、様々な前項動詞と結合することができる。
統語的複合動詞を形成する後項動詞は30語しかない。一覧は後述する。
一方、語彙的複合動詞には一語としてのまとまりが強いという特徴があり、意味の面で動詞の組合せに制限がある。例えば、「思い知る」とは言えるが「考え知る」とは言えない。
例(語彙的複合動詞)
・思い知る
「思う」は「知る」の主語でも目的語でもない
・飲み歩く
「飲む」は「歩く」の主語でも目的語でもない
語彙的複合動詞は2,700語以上ある。
語彙的複合動詞は、複合動詞レキシコンというオンライン検索システムにて検索が可能である。
統語的複合動詞の後項動詞一覧
複合動詞は使わなくても生きていける。今までに使ったことのない複合動詞もあるに違いない。しかしそれらを自分の語彙とすることで、細かいニュアンスを表現できる可能性が増え、作句の幅が広がると思う。
統語的複合動詞は30パターンしかないので学ぶには手頃である。統語的複合動詞を形成する後項動詞30語は下記の通り。
始動:かける、だす、始める、かかる
継続:まくる、続ける
完了:終える、終わる、尽くす、きる、通す、抜く、果てる
未遂:損なう、損じる、そびれる、かねる、遅れる、忘れる、残す、誤る、あぐねる、損ねる
過剰行為:過ぎる
再試行:直す
習慣:つける、慣れる、飽きる
相互行為:合う
可能:得る
例句
統語的複合動詞を使用した例句をいくつか挙げる。
「~かける」
暮れかけてまた来る客や秋の園 上川井梨葉
・秋の園(秋):秋の公園や庭園のこと。
「~出す」
鰯雲甕担がれてうごき出す 石田波郷
・鰯雲(秋):巻積雲または高積雲で、さざ波に似た小さな雲片の集まりが空一面に広がる。
・甕:瓶。底深く口径の広い土製・陶磁製や金属製の容器。
「~続く」
明易し蚕は糸を吐きつづけ 村上喜代子
・明易し(夏):夏の夜の明けが早いこと。短夜の傍題。
なほ母をうしなひつづけ霧ぶすま 櫂未知子
・霧襖(秋):霧が濃く襖のようにみえるさま。霧の傍題。
毛糸編みつづけ横顔見せつづけ 右城暮石
・毛糸編む(冬):毛糸でセーター・マフラー・手袋などを編むこと。
「~終える」
白玉や浮舟の巻読み終へて 松本旭
・白玉(夏):米から作った白玉粉を水で練り、小さく丸めて茹でて作る団子。
・浮舟:『源氏物語』五十四帖の巻名の一つ。第51帖。
「~尽くす」
村見尽して夕晴れの木守柿 廣瀬直人
・木守柿(秋):来年もよく実るようにとのまじないで、木の先端に一つ二つ取り残しておく柿の実。柿の傍題。
「~きる」 (俳句では多い印象)
寒肥を吸ひきつてまた土眠る 横澤放川
・寒肥(冬):寒中に施す肥料のこと。
枯れきつて育む命ありにけり 西宮舞
・枯る(冬):冬枯の傍題。
咲き切つて薔薇の容を超えけるも 中村草田男
・薔薇(夏)
月草や澄みきる空を花の色 蓼太
・月草(秋):露草の傍題。
サマードレスの腕が伸びきり受話器とる 河野多希女
・サマードレス(夏):女性の盛夏服。背や腕に露出部分が多く、高原や避暑地などのレジャー着としてよく見かける。夏服の傍題。
「~損じる」
ごきぶりを打ち損じたる余力かな 能村登四郎
・ごきぶり(夏)
「~直す」
甚平をたたみ直して夫は亡し 八染藍子
・甚平(夏):袖なしの甚平羽織を着物仕立てにした単衣。
「~合う」
濃き影を幹に寄せ合ふ夜の鹿 柘植史子
・鹿(秋)
「~得る」
雪の朝独り干鮭を嚙み得たり 芭蕉
・干鮭(冬):内臓をとり除いて干した鮭。乾鮭の傍題。
参考URL
日本語教科書における複合動詞
https://www2.rikkyo.ac.jp/web/i7nobuko/2015/20155YK.pdf
複合動詞レキシコン
https://vvlexicon.ninjal.ac.jp/
株式会社篠研 -複合動詞
https://www.kanjifumi.jp/keyword/fu/
きごさい 歳時記
https://kigosai.sub.jp/001/
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