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上五を「や」で切ったときの句末表現

名月や男がつくる手打そば 森澄雄

この句のように、上五を「4音の季語+や」とし、中七・下五を一続きのフレーズとする構成は、基本的かつ典型的な俳句の型と言われている。

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中でも下五を体言(名詞)とする句は非常に多いが、体言止めでない句も少なくない。

上五を「や」で切ったときの句末に着目し、歳時記を眺めてみた。句末の形ごとに例句を挙げる。

体言

まずは体言止めの句。

立冬や青竹割れば中の白 鷹羽狩行

立冬:二十四節気の一つで、11月7日ごろにあたる。暦の上ではこの日から冬に入る。

冬凪や置きたるごとく桜島 轡田進

冬凪:冬の日のおだやかな海のこと。冬の海は、西高東低の気圧配置の影響で荒れることが多いが、ときには風もなく波もほとんどたたないことがある。

中年や独語おどろく冬の坂 西東三鬼

上五で季語以外の言葉を「や」で詠嘆するパターンもある。

活用語の終止形

活用語とは、後続の単語に応じて活用する単語。つまり、動詞、形容詞、形容動詞、助動詞のこと。

降る雪や玉のごとくにランプ拭く 飯田蛇笏

雪:雪は春の花、秋の月と並んで冬の美を代表する。雪国と呼ばれる日本海沿岸の豪雪地帯では雪は美しいものであるどころか、白魔と恐れられる。

冬枯やときをり遠き木の光る 井出野浩貴

冬枯:冬の草木が枯れ果てた荒涼とした景を言う。草や樹、一木一草の枯れのこともいうが、野山一面枯れ色となった景のことでもある。

ふくろふやいまらふそくの燈のゆらぐ 柿本多映

梟:フクロウ科の猛禽。夜間活動し、野鼠や昆虫などを捕食する。

活用語の連体形

連体形とは、「飛ぶ鳥」「良き人」「豊かなる日々」「言はざること」のように、名詞が後に付くときの活用のこと。

梨むくや甘き雫の刃を垂るゝ 正岡子規

「垂るゝ」は、ラ行下二段活用動詞「る」の連体形。「垂る」は{れ/れ/る/るる/るれ/れよ}と活用する。

ふゆの夜や針うしなうておそろしき 梅室

「うしなうて」は「うしなひて」のウ音便化。読みは「ウシノーテ」となる。

寒晴やあはれ舞妓の背の高き 飯島晴子

寒晴:厳寒中の晴天のこと。空気は乾燥して、はるかまで冴え冴えと澄み渡る。冬晴よりも温度感は低い。

3句とも、最後に「ことよ」を補って読むことができる。

……垂るゝことよ
……おそろしきことよ
……高きことよ

活用語の連用形

連用形とは、「書きて」「黒かりき」「あはれなりけり」「たり」のように、助動詞「き・けり・たり」や助詞「て」が後に付くときの活用のこと。

爽やかや風のことばを波が継ぎ 鷹羽狩行

爽やか:もともとはさらりと乾いた秋風が吹くことをいう。次にその風に包まれるときの感じをいうようになり、さらに秋のここちよい気分をいうようになった。

霜晴や汽車はレールにみちびかれ 鶴岡加苗

霜晴:霜のおりた日の天候が晴れていること。霜の傍題。

手袋や或る楽章のうつくしく 山西雅子

3句ともに、連用形で句を終えることにより、動作や状態が継続する印象を与える効果がある。

助詞

助詞で終わる句も少なくなかった。

水仙やあしたは海の向うから 大島雄作

水仙:ヒガンバナ科の多年草。花の中央には副花冠という部分が襟のように環状に立つ。

水仙

「あしたは海の向うから(来る)」のように、動詞が省略されていると読める。

惜別や初冬のひかり地に人に 赤城さかえ

この句も、「初冬のひかり地に人に(降る、当たる)」のように動詞が省略されている。

スケートや右に左に影投げて 鈴木花蓑

この句の場合、右に左に影を投げるようにスケートをしているわけなので、倒置の結果「て」で句が終わっていると言える。


どの形で句を終えるのがよいかは、結局のところケースバイケースかと思います。作句の際には複数パターンを作って比較する必要があるかと思います。

参考URL
https://kigosai.sub.jp/001/27701-2


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