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読書記録「残像に口紅を」筒井康隆 著※ネタバレあり

あらすじ

小説家・佐治勝男は「現実そのものが虚構であり」「虚構こそが現実だ」と考えている。
佐治は友人から、世界から徐々に「音」が消えていく物語を書くように持ち掛けられる。
たとえば「あ」の音が消えれば、「愛」や「あなた」のような言葉が消え、「ぱ」の音が消えると、「パン」という言葉が消える。
物語として作られた虚構の中で消えていく言葉が、現実の佐治の世界でも同様に失われていく。
おそろしいことに、名前が消えると存在が消え、概念が消え、親しかったはずの人も思い出せなくなってしまう。
少しずつ言葉が消えてしまう世界で、佐治はどう生きるのか?

感想

かなり実験的な小説だった。

序盤は、現実がどうの、虚構がどうのと、何を言っているのかわからん小難しい小説だと思ってはいたが、津田から提案された趣向は面白く、そこからの展開が楽しみになった。
中盤までは、言葉が失われていることを感じさせない作者の語彙や表現が面白い。
音の大半を失ってからの情交のシーンは、巧妙であり滑稽でもある。

終盤。
自分の知らない単語が韻を踏みながらリズミカルに飛び交う。
はじめは辞書を引きながら読むのだが、それはあまり意味がないと悟り、
ただ語感を楽しむ方がいいと分かる。
おそらく作者も、それほど意味を持たせていないように思う。

少ない音素と単語でありながら、何が起きているのかを描写できる作者の表現力がえげつない。

何を言っているのか、分からんようで分かる。
分かるようで、やっぱり分からん。

まだまだ自分の知らない言葉があり、この先も使うことのない言葉がある。
辞書を引いて、読み方と意味をメモをした単語はほとんど覚えていない。
なんか逆にそれでもいいや。と思わせてくれた気がする。

世界から徐々に言葉が失われる世界に生きるとしたら、
僕にはどんな言葉が残るのだろう。

それでも何かを伝えていきたい。
たどたどしくとも。おぼつかなくとも。

僕の知っている言葉で。

残された言葉で。

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