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月乃
2024年8月31日 19:33
菜の花。暖かな春に咲く鮮やかな黄色の可愛い花。その名前に引き寄せられるように選んだ病院だった。久しぶりに外へ出る決意をした日。春はもうとっくに過ぎていて、夏も超えて、秋も十分に深まった頃だった。ようやく自分が少し壊れてしまっていることを自覚し、病院に行くことを決めた。_ 当時、私は自宅から歩いて数分の歯科医院で働いていた。男性歯科医一人と衛生士の先輩と私だけの小さな医院だった。事
2024年8月21日 10:14
椛だったか、桜だったか。何か模様の入ったガラスの引き戸だった。その昭和レトロガラスと呼ばれるガラスは、今はとても貴重なものらしい。私にとって、トラウマのようなそのガラスの存在は、いつまでも記憶の一番奥の引き出しに眠っている。両親が離婚して、母と弟と3人で暮らしていた頃。六畳二間の狭い借家にそれはあった。ある暑い夏の日。朝早くに目が覚めて、いつも隣に寝ているはずの母がいないことに気