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よかれと思って聞き続けた成れの果て

今や元先輩となったKさんは、常日頃から「つまんない」と言い続けてばかりいた。



やがて私が先月まで勤めていた会社を辞めた後も、LINEを通じて連絡がきている。しかしほとんどの内容は、仕事や同僚を含めた会社に対する不平不満の小言であった。

そのこともあって、最近は返事もせずLINE自体を極力見ないようにしている。Kさんには悪いが、そうしなければネガティブな言葉一つ一つに、自分の心がいつまでも捉われ続けてしまうからだ。

私が辞めるまでの間も、Kさんは出勤時から退勤時まで「疲れた」「つまんない」「やる気でない」などと口々に漏らしてばかりいた。それに対して私は時に賛同することがあれば、時に叱咤することもあった。

ほぼ毎日同じ発言…それも聞いていて耳障りになるような台詞を、繰り返してばかりいる。いい加減に何かしら反発せねば、自分のためそしてKさん自身のためにもならない。月日が経つごとに、彼に対するイメージが変わっていったのだった。


もっともKさん自身も、会社の一方的な不都合で人生およびキャリアを棒に振り回された一人である。度重なる理不尽に苛立ちを覚え、コロナ禍に入る前に会社を辞める手立てを取っていたそうだ。

しかし、日本のみならず世界がパンデミックに突入してしまうと、独立すること断念せざるを得ない状態に陥ってしまう。加えて上長から必死の説得により、なくなく居残ることを余儀なくされたとも話していた。

その選択を誤ってしまったのかもしれない。少なくともKさんの口からは、そうした同僚ないし先輩後輩に対して「仕事ができないまたはしない」などと愚痴を漏らしていた。

大して売りもしようとしない商品を続々と仕入れたりする上長。仕事をロクにしないで高い給料を貰っているベテランの先輩。取引先から良い様に転がされてばかりの後輩。自分の都合で好きなように勝手に休んでいる事務員。

そして私も目の当たりにした、典型的な「指示待ち」タイプにして言動にも難ありの新人。

また本社にいる人間においても、週一のペースでおこなう会議の議事録に目をうつすたび、おつむが弱いと豪語していた。私もこの数年間の間、営業所を含む場所で彼らたちと仕事をしてきた者として、確実に的を射ているとも思えた。


しかし、仲が良いと公言していたKさん自身については正直に言うと、常に人の悪口を垂れていて心の底から快いとは思わないのだ。たしかに実情が実情であるとはいえ、他人を否定するばかりの姿を一方的に容認するなど考えていない。

いずれKさんも私に倣うようにして、会社を離れていくことになるだろう。だがその問題はKさん自身が解決すべきことであり、私が気にする問題ではない。


「会社やその人間たちに対して不平不満ばっか言ってる暇があるなら、まず行動へと移しなさい!」


ほぼ毎日のように言い続けてきたKさんに対する言動が、社会から離脱して丸一ヶ月経過した自分に返ってくるなんて、思いもしなかっただろう。

今の自分に必要なのは、周囲の空気に惑わされずかつ流されず、自らの意思を持って行動することを貫く勇気なのかもしれない。

人に対して愚痴を溢すことよりも、自分をもっと高みのある場所へと進ませなくてはいけない。その考えは変わらないが、およそ一年半もの間に渡って愚痴を延々と聞き続けた挙句、湿りきったこの身が乾くまでまだ時間がかかってしまいそうだ。



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