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真相を知って、バカを見て、後悔して…

2023年11月某日。私はSさんと新宿のとある居酒屋にて、飲みに行く約束をしていた。


Sさんとは、私が上京したての頃の会社からの付き合いである。元々、某大手企業に勤めていたSさんは、定年退職に伴い、私が入社してから半年経過した後に入ってきたのである。

たまたま座っているデスクが向かい側だったということもあり、何気ない会話から少しずつ意気投合するようになった。気づけば、会社がらみの飲み会だけでなく、仕事帰りに一緒に呑みに行くような、親しい間柄にもなっていたのであった。


こうして2人だけで酒を交わすも、前職で勤めていた時以来、実に数年ぶりだった。

世間はまだコロナ禍で静まり返っていた頃であり、同時に私自身、地元の実家と東京の自宅を行き来している状態が続いていて、なかなか会って飲み交わすこともできず仕舞いでいた。

合間を縫って、ようやく落ち着いて近況を話しながら、飲み明かすことができる。

そう思いつつも私は、素直に喜ぶことができないでいた。Sさんに対して、どうしても確かめなければならないことが一つだけあった。

別段、それを知っても知らなくても、何かが確実に変わるわけではない。しかし私自身、地元にある営業所に飛ばされて以降、不本意ながら一つの事実を、とある先輩から聞いてしまったのである。

実際問題、Sさんを毛嫌いしている社内の人間は多くいる。ことあるごとに誰か一人か二人ぐらい、Sさんに対して陰口を叩いているのを見受けられた。

一体どうして、そういった事態に発展してしまったのか。それを自ら聞き出すべく、飲みに行く口実を私の方から設けたのだった。


ちなみにSさんは、3年前に私と同じ会社に入り、営業部の顧問として就いている。勤務日数は、一週間に2〜3回ほどと限られている。

とはいえ、私はまたSさんと同じ場所で仕事ができる。そういった話を聞いた時は、心から歓喜していた。それも束の間、日が経つごとに自分が想像もしていなかった悲劇に自分自身、いつの間にか追い込まれることになるのであった。


一通り注文してきた料理が運ばれ、お互いにビールを2、3杯を飲み干し、いい感じに酔いが回ってきている。

久々の再会に、会話は他愛のないことを中心にかなり弾んでいた。ひと段落してきたタイミングで、私はSさんに本来聞くべきである話を切り出したのだった。


「実はMさんから、Sさんが以前にここの会社ウチの商品を買うなと言っていたと、そう聞いたのですが」


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