見出し画像

政治講座ⅴ478「インドネシア高速道路の顛末と中国経済の衰退・破綻」

日本が先行して準備を進めいていたにも拘わらず、途中から中国が参戦し、最終的には、中国側に契約を奪われたプロジェクトの進捗はどうなったのであろうか。悔しい思いをして「ザマ見ろ!」という方にお届けする。

         皇紀2682年10月24日
         さいたま市桜区
         政治研究者 田村 司

中国にさらわれたインドネシア高速鉄道プロジェクトはいま…

予想外に膨らんだコスト、営業開始から数年で経営破綻の可能性も

2021.9.23(木)塚田 俊三

2016年1月、インドネシアの西ジャワ州チカロンウェタンで開かれたジャカルタ-バンドン間を結ぶ高速鉄道工事の起工式で披露された車両模型(写真:AP/アフロ)ギャラリーページへ


(塚田俊三:立命館アジア太平洋大学客員教授)

 インドネシアの首都ジャカルタと第三の都市バンドンとを結ぶ高速鉄道プロジェクトは、ご承知の通り、日本が先行して準備を進めいていたにも拘わらず、途中から中国が参戦し、最終的には、中国側に契約を奪われた。日本にとっては苦々しい思いが残るプロジェクトである。

 2015年9月に中国に発注され、今月でちょうど6年になるそのプロジェクトは、現在どのような状態にあるのだろうか? 残念ながらそれは、中国の当初の売り込み時点での提案からかけ離れたものとなっている。当初、2019年には操業開始としていたが、プロジェクトは、操業どころか、今もなお工事中である。プロジェクトコストに至っては、その総額は大きく膨れ上がり、当初の予定価格を4割も上回るとされている*1。

 着工当時は大きな脚光を浴びて登場したプロジェクトが、今どうしてこのような残念な状況に陥っているのであろうか? 事業者側(中国側)に非があったからなのか? あるいは、発注者側(インドネシア側)に十分なプロジェクト実施能力がなかったからなのか?

 本稿においては、これまでの経緯を詳しくレヴューするとともに、その契約の裏に隠された構造を明らかにすることにより、これらの問いに答えてみたい。*1 TEMMPO.CO. Jakarta, 2021年9月1日及びVOI, 2021年9月2日

初めから疑問視されていたプロジェクトの経済性

 上記のプロジェクトの構想は、突然浮かび上がったものではなかった。当初は、インドネシアの二大都市であるジャカルタとスラバヤとを高速鉄道で結ぶとする構想であった。だが、実際にこれら2つの都市を結ぶとなると、730kmもの鉄道路線を建設する必要があり(東京—広島間に匹敵する距離)、その投資額は巨額となり、インドネシアの当時の財政事情からみて、到底取り上げられるようなプロジェクトではなかった。

 しかし、このプロジェクトに対する地元政財界の関心は高く、その推進派は、代替案として、プロジェクトを二期に分け、第一期でジャカルタとバンドンを結び、第二期でスラバヤまで延伸するという案を出してきた。一見すると現実的な案に見えるが、これは当初案以上に難しいプロジェクトであった。

 というのも、ジャカルタ—バンドン間はわずか142kmしかなく、日本でいえば、東京—静岡間に当たり、高速鉄道を走らせるにはいかにも中途半端な距離であった。加えて、バンドンは標高700mの高地にあり、これを沿岸都市であるジャカルタから結ぶとなると大変な勾配を車両が駆け上らなければならない。更に、数多くのトンネル(13カ所)を建設する必要があった。また、一部経路は、人口集積地を通ることから、路線全体の4割弱は高架に、1割は地下に路線を建設する必要があり、建設コストは並外れて高いものになると予想された。JICAが2012年に行ったフィージビリティスタディ(F/S調査)でも、建設費の半分は政府が出さなければ採算は取れないとしていた。

日中の受注合戦

 では、このように採算がとれそうもないプロジェクトが、どうして、国の最優先プロジェクトにまで伸し上がったのであろうか? それは、このプロジェクトがインフラ開発を最優先に掲げる3人の有力政治家の着目するところとなり、それ以来、このプロジェクトは、経済ベースでというよりは、むしろ政治家ベースで議論が進められるようになったからである。

 1人目は日本の安倍晋三首相(当時)だ。2012年末に発足した第二次安倍政権は、海外インフラの開発をその優先課題として取り上げ、中でも、日本技術の粋ともいえる新幹線技術の輸出には格段の力を入れた。

 他方、中国の習近平総書記は2013年に一帯一路構想を打ち出し、その拡大を、海外進出政策の核として推進していた。中でも、新幹線技術については、日本に劣らぬ高い技術を有することを世界に誇示したいと考えていた。彼が2人目の政治家だ。

 3人目はもちろんインドネシアのジョコ・ウィドド大統領である。2014年10月に大統領に就任したジョコ氏は、就任早々、インフラ・プランを打ち出し、これを政権の最優先施策とするとした。同大統領は、当初は、ジャカルタとバンドンとを結ぶ高速鉄道プロジェクトはコストがかかりすぎるとして懐疑的に見ていたが、途中で、「日中間の競争をうまく利用すれば、有利な条件を引き出せるかもしれない」と考え、その可能性を探るべく、翌年3月に、先ず日本を訪れ、安倍総理に会い、また、その足で中国を訪れ、習近平総書記とも会い、両首脳からプロジェクトに対する支援を取り付けた。こうしてインドネシアの高速鉄道計画は、3人の政治家の思惑が激しく交錯するプロジェクトとなった。

 他方、F/S調査については、日本は2012年に既に実施していたが、その内容は採算面で問題ありとするものであったこともあり、インドネシアは、中国に対してもF/S調査を実施するよう上記訪問中に求めた。これを受けて、中国側は即座にF/S調査に取り掛かり、わずか3カ月で報告書を仕上げた(環境影響調査に至ってはわずか7日間で)*2。JICAのF/S調査が1年弱を要したことを考えると、中国側のF/S調査はいかにも拙速との感を免れないが、いずれにせよ、報告書の内容は、JICAのそれとは際立った対照を見せた。プロジェクトの操業開始時期は、JICAが2023年とみていたのに対し、中国側は大統領選が行われる2019年には操業を開始できるとした。建設コストについても、JICAは61億ドルを要するとみていたところを、中国は55億ドルで完成できるとした。

 これ以降、高速鉄道プロジェクトを巡る日中間の競争は激しさを増す。そのような中で、中国側は、2015年4月突如プロジェクト企画書をインドネシア政府に提出したが、これは、日本側から見れば、不意打ちとも映る行為であった。このように激しさを増す両国間の競争を見て、インドネシア政府は、2015年7月、日中両国の事業者に対し、それぞれ提案を出すよう求めた。その後の2カ月は、両国間の競争は、入札を巡る技術的な競争の域を超え、現地でのロビー合戦に発展した。


2015年8月、習近平主席の特使としてジャカルタを訪問した中国の徐紹史・国家発展改革員会主任らと会談するジョコ・ウィドド大統領。中国側はこの時、高速鉄道事業化に向けた報告書を提出した(写真:新華社/アフロ)ギャラリーページへ

 両国事業者の提案に対する審査結果は、関係者の間では、2015年9月初めに出るとみられていたところ、9月3日インドネシア政府は、突如会見を開き、その場において、高速鉄道プロジェクトはキャンセルすると発表した。同時に、仮に実施するとしても、G-Gベース(政府対政府ベース)では難しく、business-to-businessベース(企業対企業ベース)で進めるしかないとした。この背景には、インドネシア政府が、これ以上海外からの借入れ(政府の債務保証も含む)を増やせば、政府の対外債務の上限に達することが明らかになったことがある。*2Liao,J. Katada, N.(2020), "Geoeconomics, easy money, and political opportunism: the Perils under China and Japan’s high-Speed rail competition;, Contemporary Politics

この予想外の発表を受けて、中国側はいち早く対応し、2015年9月半ば、改訂版入札書をインドネシア側に再提出した。そこで、プロジェクトはbusiness-to-businessベースに切り替えることを明確にするとともに、インドネシア政府からは一切の政府支出を求めないし、政府保証も不要とした

 中国側の提案はインドネシア側の要望を全面的に受け入れたものであったことから、9月下旬、インドネシア政府は、高速鉄道プロジェクトは中国に発注すると発表した。インドネシア政府のこの唐突な発表を受け、菅官房長官は即座にジョコ政権に対し遺憾の意を表明したが、時すでに遅しであった。

 この発表を受けて、中国の国営企業(中国鉄道建設公社)は、インドネシアの国営企業3社(建設会社のWijaya Karyaがリーディングカンパニー)との間で、高速鉄道プロジェクトの実施に関する契約を締結し、両者の出資による特別目的会社(SPC)を設置することに合意した。総コストは、55億ドルと見積もり、建設期間は、2016年から2019年までとし、その後50年間は政府から得るコンセッションの下、高速鉄道サービスを提供し、その事業収入をもって初期投資コストを回収するとするBOT(=Build Operate Transfer。民間が施設を建設・維持管理・運営し、契約期間終了後に公共へ所有権を移転する方式)に準じた契約構造を取るとした。更に、本プロジェクトの建設に係る必要資金は、中国開発銀行を通じて提供するとし、融資比率は、総コストの75%、grace periodは10年間、融資期間は50年とした。

遅れに遅れたプロジェクトの建設

 契約当時、ジョコ大統領は日中間の競争を巧みに利用し、インドネシアに有利な条件を引き出したとして、大きな喝采を浴びた。だが、プロジェクトが実際に始まると形勢は大きく変わり、中国ぺースで事が運び、インドネシア側は、常に守勢に立たされることになった

 プロジェクトは2016年1月に開催された起工式で始まった。この起工式はジョコ大統領の列席の下華々しく開催されたが、その後は、土地収用が思うように進まず、建設工事はなかなか始まらなかった運輸省からの「建設」許可は、直ぐには発出されず、2016年8月まで待たされた。また、路線の一部が空軍基地に掛かったことから、49haの土地は翌年3月まで明け渡されなかった。

 このような土地収用の遅れに対し中国側からは再三にわたりその促進を促されていた。このため、インドネシアは、国営企業大臣を北京に派遣し、中国政府への直接説明を行ったほどであった。

 中国開発銀行からも厳しい条件が提示され、土地収用が100%終了しなければ、融資は開始しないとされた同行が資金を供給し始めたのは、起工式から2年半も経った2018年5月からであった。

 このように出足は大きく遅れたが、2018年半ばからは建設工事は徐々に進み始め、2019年に入るとそのスピードは加速化し、2019年5月には、工事進捗の象徴ともいえる最初のトンネルが完成した。

 一方、工事が進み始めると、逆に、周辺地域の環境への影響が増大し、地元企業、住民からの苦情が相次ぎ、2020年初めには2週間の工事中止命令が出されたほどであった。これに追い打ちをかけるように、2020年3月からは、新型コロナが蔓延し始め、このため、建設工事は一時中断された。

 このように個別問題は次々と発生したものの、工事全体的としては、順調に進み始め、2021年3月時点では、70%が完了した。このまま順調に進めば、工事は2022年末までには完成するであろうとの見通しを出せるまでになった。


2020年4月、ジャカルタ-バンドン間で3番目となるトンネルの
貫通に喜ぶ作業員たち(写真:新華社/アフロ)ギャラリーページへ

膨れ上がったプロジェクトコスト

 建設工事の遅れは、ここに来て漸く解決の目途が付いたが、ここで別の問題が浮上してきた。それは、コストオーバーラン問題であった。プロジェクトコストは、契約締結当時は55億ドルとされていたが、その翌年には、早くも、61億ドルに膨れ上がり、この9月1日の国会での国営建設会社の証言によれば、75~80億ドルに達するであろうとされた。
 このような大幅なコストオーバーランが発生したのは、そもそも中国が拙速で準備したF/S調査のコスト見積もりが低過ぎたことに起因するが、勿論中国側が、これを認める訳はなく、このコストオーバーランは、主に、土地収用の遅れ等によるものとされた。
 このように言われてしまうのは、一つには、プロジェクトは(特別目的会社が下請けに出した)インドネシアの国営建設会社によって実施されていたからである。このようなアレンジの下では、プロジェクトの遅れや費用の拡大は、工事の実施業者の責任とされがちである。
 上記の国営建設会社がSPCと結んだサブコントラクトは、Engineering, Procurement and Construction契約(EPC契約)に基づくものであったが、Engineering部分は中国鉄道建設公団に委託して行われ、そこでは、資機材等は、中国の高速鉄道の規格に準じたものとすべしとされ、また、Procurementに関しては、中国開発銀行の貸付条件に従い、その資機材等はすべて中国サプライヤーから購入しなければならないとされた。通常のEPC契約であれば、これら資機材等については、幾つかのサプライヤーから見積もりを取り、それらを見比べたうえ、最も安価なものを購入するのが通常であるが、このプロジェクトにおいては、このような原則は働かず、全ての資機材、システムは、中国のサプライヤーから、しかも、その言い値で購入するしかない。このようなアレンジの下では、資機材やシステムの購入価格は、高いものにつきがちであり、今回のコストオーバーランの背景には実は、このような要因が隠されていたと推察される。

このコストオーバーランは、国営企業が負担しうる額を遥かに超えていたので、国営企業省は、この問題を政府レベルでの討議に持ち込んだ。これに対するジョコ大統領の指示は、「本件国有鉄道の運営は、ジャカルタ-バンドン間だけでは、営業距離が短く、商業的には成り立たないので、これをスラバヤまで延伸すべきであり、このためには、日本側と協議を行い、その参画の可能性を当たってみるべきだ」とするものであった。これを受け、2020年7月、インドネシア側は、日本との交渉に入った。しかし、日本側は、これまでの経緯もあり、当然のことながら後向きの回答を行った

 このような回答を受けたインドネシアは、今度は、中国側との折衝に入り、そこでSPCへの追加の資本投入を求めた(2021年1月)。その交渉結果は、“いつもの通り”明らかにされていないが、中国側からもいい返事はもらえなかったのであろうと推定される。

 これら2つの打開策が受け入れられなかったことから、インドネシア政府は、自ら動かざるを得なくなり、国営企業省は、本年7月に国会に対し、国営企業への追加の資本投入を認めるよう求めた。これを受けて、下院VI委員会は、3つの国営企業に対する33兆ルピアの資本注入を認め、その一部はSPCへの追加出資に当てられることとなった*3。ただ、この金額だけでは、コストオーバーランをカバーするには十分ではなかったので、現在更なる追加支援策について下院VI委員会で議論されている模様である*4。
*3 KONTAN.CO.ID. Jakarta, 2021年7月14日
*4 TEMMPO.CO. Jakarta, 2021年9月1日及びVOI, 2021年9月2日

政府が乗り出さざるを得なくなった理由

 先にみたように、このプロジェクトは、business-to-businessベースで進めることが合意されたのであるから、インドネシア政府は、大幅なコストオーバーランが出たとしても、それは民間ベースで処理すればよいとして突き放しておけばよかったはずあるが、何故に、政府が、財政資金を使ってまで、その解決に乗り出さざるを得なくなったのであろうか? 以下、ここに至るまでの、経緯を分析することによって、この問いに答えたい。

●中国側は、ジャカルタ-バンドン間の高速鉄道という、コスト高で、到底採算がとれそうもないプロジェクトを、コストを(人為的に)低く見積もり、その上で、これをいわゆるBOTベースで進めれば商業ベースに乗りうるとして売り込みをかけた。

●インドネシア側は、この提案に乗り、中国側に契約を付与した。その後、プロジェクトは建設段階に入るが、その過程で、大幅なコストオーバーランが生じた。通常のBOTプロジェクトであれば、プロジェクトは、海外企業*5が実施するので、コストオーバーラン問題も、外国側に(中国側に)に処理させておけばよかったはずである。

●だが、このプロジェクトは上手く仕組まれており、プロジェクトを実施するために設置された特別目的会社は、インドネシアの企業で、しかも、その資本の6割は国営企業が保有している。このような体制の下では、コストオーバーランが起きれば、インドネシアの国営企業が大半を負担しなければならなくなる。

●ところが、これら国営企業は、既に多額の対外債務を抱えており、このような支払を行えるような財務状況にはない。このまま放置すれば、国営企業は破産に追い込まれることとなるので、このような事態を避けるため、国営企業の保有者である政府は、国営企業に対する財政支援に乗り出さざるを得なくなった。これが、本来は民間ベースで進められるべきであったプロジェクトに、政府が財政支援を行わなければならなくなった理由である。
*5 外国企業が株式の大半を有する合弁企業も含む

今後更に起きうる、より大きな問題

 上記の問題は、数年間の建設期間中の問題であるが、プロジェクトは一旦完成すれば、その後50年間事業運営されることになる。従って、この間、もしも、経営が成り立たなくなれば、それは累積し、より大きな問題となる可能性がある。特に懸念されるのが、キャッシュフローの問題である。

 というのは、先に述べたように、このプロジェクトは、高速鉄道プロジェクトとしては、中途半端な距離であり、また、ジャカルタ、バンドンの二都市間には、既に既存路線が走っていることから、十分な運賃収入が見込めない。また、鉄道事業は、一種の装置産業であることから、(多額の減価償却費は勿論)高い維持管理費を払う必要がある。このような状況下では、営業段階に入ると、すぐに赤字経営に陥る可能性がある。

 それでも最初の数年間は、債務の弁済は猶予されているので、何とかしのいでいけるとしても、grace periodが終わる2026年からは毎年債務支払義務が発生する。この毎年の債務の支払は、SPCの経営に重い負担となる。なんとなれば、その金額は、元本に50年間の累積金利を足し合わせたものを40年間の均等払いとして計算される。これが、例えば、ADBからの融資であれば、その金利は1%弱(今年8月段階では0.856%)と低利であり、50年間の累積金利はそれほど高くはならないが、それが中国開発銀行からの融資である場合は、その金利は6%台と高く50年間の累積金利額も多額となる。要するに、2026年からは、この債務負担がSPCの経営に重く圧し掛かり、数年もしないうち経営破綻に陥ってしまう可能性が高い

インドネシア側が今後取りうる対応

 このように、このプロジェクトは、一旦事業運営段階に入れば、営業赤字に陥り、その赤字額は雪だるま式に増え続けていくと予想される。ということであれば、このプロジェクトについては、早めに見切りをつけ、出来るだけ早く撤退した方がいいということになる。

 だが、できるだけ早くと言っても、建設途中の今、これを投げ出し、巨大な施設を錆び付かせてしまうことは、現実的な方策とは言えない。兎にも角にも、残り3割の工事は終わらせ、鉄道プロジェクトとして一応完成させるべきであろう。プロジェクトが完成すれば、インドネシアは、専門家パネルを設置し、そこで、このプロジェクトを継続し、次の営業段階に入るべきか、あるいは、ここでプロジェクトをストップさせ、その解散に踏み切るべきかを、ファイナンスの問題を中心に検討する必要があろう。

 おそらくそこで出て来るである結論は、このままプロジェクトを継続すれば、累積赤字は年々増えていくことが予想されるので、傷口を最小に抑えるためのには、営業段階に入る前にこのプロジェクトをストップさせ、早期にSPCを解散させてしまうべきだ、ということになろう。

するとSPCはdefaultを起こすことになるので、中国開発銀行は、即座に債権の回収に乗り出すであろう。その際、SPCが有する唯一の資産はプロジェクト資産、即ちジャカルタ-バンドン間の高速鉄道施設、であるから、中国開発銀行はこれを先ず差し押さえるであろう。すると、高速鉄道施設の所有権は中国側に移ることとなるが、これは必ずしもインドネシア側にとって悪いことではない。というのは、インドネシアは、この赤字を生むだけの巨大な「ホワイトエレファント」を手放すことができるようになるからである。

 高速鉄道が中国の手に渡れば、中国側は、これを遊ばせておこうとはせず、直に事業運営に入ろうとするであろう。その際、鉄道サービスだけでは十分採算がとれないとして、必ずや、周辺地域での土地開発の権利の付与求めて来ると予想される。

 中国側がこの土地開発権を得たとしても、それだけでは十分ではないとみた場合は、更に要求を拡大し、他国で行ったように)原油や他の地下資源の採掘権も併せ、要求して来る可能性がある。

 そこまで、中国側の要求が拡大すれば、インドネシアとしてはこれを頑としてはねのけなければならない。というのは、中国からの借り入れ事案においては一旦債務の罠にはまってしまうと、どんどん深みにはまってしまい、ついには身動きがとれなくなる恐れがあるからである。これは、どこかで食い止める必要があり、このためには、断固とした姿勢で交渉に臨む必要がある。

 ただ、中国側も、インドネシアはスリランカやタジキスタンのような小国とは異なることは十分承知しているので、両国間の関係を悪化させてまで強引な要求を持ち出すことは避けようとするかもしれず、その場合は、インドネシア側も、中国側と対等に交渉できよう。

おわりに

 以上、本プロジェクトについてその経緯をレヴューし、その隠された構造を明らかにしてきたが、ここで冒頭で取り上げた2つの問いに戻りたい。

 第一の問い〈プロジェクトの遅れやコストオーバーランは事業者の非か〉に関しては、事業者側の非というよりは、むしろそれは戦略だったといった方が適切であろう。

 中国側が設定した工事の完成時期は、技術者の積み上げに拠って弾き出したものではなく、ジョコ大統領の再選時期に合わせて、政治的に設定されたものであり、初めから無理と分かっていたと言えよう。プロジェクトコストも、日本との競争に勝つために、JICAのそれよりは低めに出したというだけのことである。一旦これで受注を獲得すれば、工事の執行段階で、何かと理由をつけて、これを変えることはできるとみていたのであろう

 BOT契約においては最初に出したコミットメントはこれを守らなければならないが、請負契約の場合は、正当な事由があればこれを変更できるので、契約の運用形態も、(当初これに基づくとされていた)BOTから、徐々に請負契約的なものに替えられていったように見える。中国側はこれを意識的にやったとは言わないが、少なくともインドネシア側は、この微妙な契約の変質に気が付かなかったと言える

 第二の問い〈インドネシアは十分なプロジェクト実施能力を有していたのかどうか〉に関しては、プロジェクトの実施能力が欠けていたとまでは言わないが、事業者に最初にコミットした約束を守らせることができなかったという点で事業監督能力が不足していたと言えよう。

 というのは、事業を的確に監督するためには資機材の価格を始めとするコスト関係情報を十分に把握している必要があるが、高速鉄道に関する情報は、中国側に独占的に保有されており、インドネシア側はこのような情報を持たないので、サプライヤーの言い値をそのまま受け入れるしかなく、プロジェクトコストは徐々に膨らんでいった。

 要するに、このプロジェクトは、発注段階までは、インドネシアのペースで運んだが、一旦、実施段階に入ると中国ペースで進み、建築工事はいつの間にかBOTというよりは、むしろ請負契約に近い形で運用されてしまった。最後には、当初払わなくてもいいとされていた財政資金をインドネシア政府がつぎ込むこまざるを得なくなった。一方、中国側は、当初は儲からないとみられてきたプロジェクトから、その資機材等の納入を通じ、着実に利益を上げていった。

 このように契約が中国ペースで運用されてしまったことの背景には、インドネシア側が(中国版)高速鉄道に関する詳細情報を持っていなかったことに由来するが、この‟情報の非対称性“の影響がより顕著な形で現れるのは、プロジェクトが運営段階に入ってからである。この段階で何か問題が起きたとしても、高速鉄道の経営に関する十分な情報を持たないインドネシア側は中国側と有効に議論できず、結局は相手方の言いなりになるしかない。このような状況下では、プロジェクトは長く持てば持つほど、不利になり、相手側に取り込まれてしまう恐れがあるので、このプロジェクトについては、先に述べたように、早めに撤退し、SPCを解散した方がより賢明な選択といえよう。

 ただ、この最後の手段を取るに当たって、一点チェックしなければならないことがある。それは中国側と結んだ契約書である。中国側が途上国と結ぶ契約は、通常、対外秘とされ*6、国際慣習に添わない不利益条項が多々含まれている。特に、注意を要するのは、キャンセル条項である。これまで、中国とのプロジェクトを途中で破棄したいとする途上国は幾つかあったが、その際降りかかってくるペナルティーの額があまりにも大きいので、マレーシアの例に見られるように、これを諦めた国が多い。途上国が中国と契約を締結するときは、その内容に格段の注意を払う必要があるが、今回インドネシアが中国と結んだ契約はそのような不利益条項を含んでいなかったことを希望する。*6 この点については、世銀を始めとする国際機関が、透明性に欠けるとして、問題にしている

一帯一路が内包する問題点

 このように、一帯一路下で進められるインフラ開発は、途上国における企業主体の商業的活動であるので、どうしても儲け主義に走りがちであり、このため、現地で種々の問題を引き起こすことになる。その主な問題点を列記すると以下の通りである。

【高コスト】:一般に中国企業が提案するプロジェクトは低コストであると解されているが、実は逆で、高コストのプロジェクトが多い。

 例えばケニアの鉄道プロジェクトは、通常価格よりも3倍も高いといわれており、モルディブの首都マリに建設された病院は、通常価格の2.6倍であったといわれている。これ程大幅な価格アップではないとしても、3~4割高めのプロジェクトはざらにある。例えば、マレーシアの東海岸鉄道プロジェクトは、いったんは前政権の下で調印されたものの、新しく選ばれたマハティール首相は、プロジェクト・コストが高すぎるとし、再交渉に持ち込み、当初の見積価格を3割3分引き下げることに成功した。パキスタンでも、政府はML-1鉄道のコスト見積もりは高すぎるとして、再交渉に持ち込み、当初見積価格を2割6分引き下げた。

 どうして、一帯一路の下では高めのコスト設定が可能なのかというと、それは中国からのローンはタイド(ひも付き)であり、また通常の経済協力案件のように国際競争入札に掛ける必要がないので、中国企業は他社の応札価格を気にすることなく、必要と見込まれる費用はすべて盛り込んで請負価格を設定することができるからである。

 さらに、施工段階に入ってからも、請負企業は、正当な理由がありさえすれば、当初の契約価格の更改を求めることができ、このような形でのコストアップも珍しくない。

【中国基準の押し付け】:中国の国営企業が一帯一路の下で受注する請負契約は、一種の「Turn-key契約」(設計から建設及び試運転までの全業務を単一のコントラクターが一括して請け負い、キーを回しさえすれば稼働できる状態で発注者に引き渡す契約)、あるいは「Engineering, Procurement, and Construction契約」(設計エンジニアリング、調達、建設を一括して請負う契約)である。その下ではコントラクターは、基本設計から詳細設計、建設、引き渡しに至るまですべて自分でコントロールできるので、請負企業は、自国で慣れ親しんだやり方で工事を進め、自国で製造される資機材をそのまま現地に持ち込んで、迅速に建設できるように詳細設計を書き上げることができる。

 これが通常の経済協力案件であれば、先ずコンサルタントが選定され、そこが基本設計、予備設計等を実施し、プロジェクトの詳細が決まると、建設業者・コントラクターが別途雇用され、コンサルタントが先に準備した予備設計に基づき、工事を実施するとする二段階方式が採られる。
だが一帯一路の下では、中国の国営企業がこの両方の段階を一括して引き受け、プロジェクトの発掘から設計、建設、引き渡しまで一気通貫で行うので、自由度が高い。このため、プロジェクトの迅速なデリバリーは可能となるが、工事の施工は、事業者寄りの、効率一点張りのものとなり、途上国側の希望は反映されないものになりがちである。

 実際、一帯一路下でのプロジェクトは、そのほとんどすべてが中国の基準に従って設計されており、そこで使われる資機材もほとんど中国製である。

 例えば、インドネシアのバンドン・ジャカルタ間の高速鉄道プロジェクトでは、高速鉄道車両は勿論、通信システムからレールに至るまで、すべて中国で製造され、それがインドネシアに運ばれ、現地で組み立てられる形を取った。調達価格も比較的自由に設定できるので、そこに、不透明な費用(tea moneyやpalm greasing)も潜り込ませることもでき、それが後々プロジェクトの“円滑な実施”に役立つことがある。

利益を生まず巨額の維持費を垂れ流し続ける「ホワイト・エレファント」

【ホワイト・エレファント】:先に述べた通り、国営企業は政府が掲げる「走進去」、「走先去」の下、海外事業の拡大に走ろうとするが、これに熱心なあまり、途上国の債務負担能力とは無関係に出来るだけ大きなプロジェクトを作り上げ、これを途上国に提示し、自己の売り上げを増やそうとすることが多い。

 例えば、ラオスのような低所得国に対し、急峻な山岳地帯を突き抜ける高規格の高速鉄道をつくることは(その総延長の6割はトンネルか橋梁にせざるを得ず、途轍もないコストが掛かることは目に見えている)、自己のエンジニアリング能力の高さを誇示するだけの提案であり、ラオスの経済規模からみて(このプロジェクトの総コストはラオスのGDPの4割に達する)、到底正当化されうるものではない。

 プロジェクトが完成すればするで、巨額の維持運営費がかかるので、とんでもないホワイト・エレファント(無用の長物)を背負わされてしまうことになる。


昨年12月に開通した中国・昆明とラオスのビエンチャンを結ぶ高速鉄道。このような急峻な地形を走る高速鉄道の建設には現在のラオスの国力に見合わない莫大な費用がかかった(写真:新華社/アフロ)ギャラリーページへ

【高い借入コスト】:これらの肥大化されたプロジェクトの費用を(当初の提示価格のみならず、正当な理由によるコストアップ部分も含めて)負担させられるのは(中国の国営企業ではなく)工事の発注元である途上国である。

 もちろん途上国側もこのような多額の費用を負担させられることは望まず、契約書にサインすることには躊躇するが、もしもそこに(通常は確保が難しい)必要資金をすぐさま貸してくれる銀行があり、また借入金の返済が始まるのも数年先のこととなるのであれば(長期資金の借入には通常5年程度のgrace periodが付く)、ついついこの銀行からお金を借りてしまう。

 これら資金の貸し手が、世銀、ADB等であれば、問題はさして大きくないが(世銀、ADBの貸付金利は1%程度。そもそも世銀、ADBがこのような返済の見込みのないプロジェクトにお金を貸してくれる訳はないが)、それが中国の国有銀行の場合は、その貸付金利は高く(譲渡性の高い融資を行うとされる中国輸出入銀行ですら2%台、ましてや、その4倍程度の融資実績を誇る中国開発銀行から借り入れた場合は6%台)、後々多額の返済義務を抱えることになる。

途上国側も蓋をし続けたい不透明契約

【不透明な契約条項】:中国との契約は、多くの秘密条項を含んでいる。例えば、途上国がデフォルトを起した場合、債務の肩代わりに天然資源の掘削権あるいは不動産開発権を中国企業に譲渡しなければならない、とする条項が含まれていることは稀ではない。

 資源の採掘権を外国に明け渡してしまうことには国民の反対が強く、その反対を受けて政府は中国と解約交渉に入らざるを得なくなることが多いが、いざ解約しようとすると、その際に課されるペナルティーの額が非常に高く設定されていたことが分かり、結局は契約解除を諦めざるを得なくなるのだ。

 解約とまではいかなくとも、契約の内容が不当であるとして、投資紛争に持ち込むことはできるが、いざ投資紛争に持ち込もうとすると、今度は「仲裁は中国国内で、しかも中国の手続きに従って行わなければならない」とする契約条項が効いてきて、結局は勝ち目はないことが分かり、諦めてしまうことになるのだ。

 一帯一路下のプロジェクトにはこのような一方的な内容の契約条項が数多く含まれており、その契約は原則外部秘となっている。

 実はこれらの契約を外部秘とすることを望むのは、むしろ途上国側という皮肉な実態もそこにはある。これらの秘密条項が明らかになれば、真っ先に批判されるのはこのような契約にサインした当の政権であるからだ

【地域社会との軋轢】:一帯一路に係る問題は、このような経済的問題に留まらず、社会的な問題にも及ぶ。プロジェクトが始まれば、多くの雇用機会が生まれると現地から期待されることが多いが、対外経済合作には、対外労務提供も含まれており、現地が期待するほどの雇用を生まないだけではなく、逆に中国から労働者が大挙して入ってくることになる(最近のプロジェクトでは、現地の労働者を使うものが増えてきてはいるが)。

 これらの労働者はプロジェクト終了後も(現地での婚約等を通じ)そのまま居着くことがあり、その多くが、現地で小売業を始め、現地の小売業界に少なからぬ影響を与えることがある。

 例えば、太平洋諸島の一国であるマーシャル諸島では、小売業の6割が、中国人一世または二世によって運営されていると言われている。一帯一路は、時の政権からは歓迎されるが、一般庶民からは強く反発される所以である。

以上、一帯一路が途上国でどのような問題を起こしているかを、典型的な事例に即してみてきたが、中国側は、一貫して、一帯一路は中国と途上国の双方にウィンウィンをもたらすとして、その意義を強調してきたが、実際上は、それは、(i)中国の国営企業にとっては請負事業増大の機会を*3、(ii)資機材のサプライヤーにとってはその資機材の輸出増の機会を 、(iii)国有銀行にとっては貸出増の機会を付与し、中国側には二重、三重の利益をもたらすものとなる一方、途上国にとっては益するところが少ない。そこでの「ウィン」は全て中国に帰属すると言って過言ではない。

 他方、途上国にとっては、「自力では作れないインフラを中国の支援のお陰で手に入れることができるのだから、それは途上国にとってもウィンではないか」とする反論がありうるが、もしも、当該インフラの規模が適切で、途上国が自力で維持管理できるものであればそうとも言えよう。だが、その施設が過大で、必要以上に立派なものであれば、当該施設は、完成後、収益どころか、累積赤字を生むだけのものとなり、それは途上国にとってはルーズ(lose、負け)でしかない。加えて、後々巨額の返済義務が残るのであれば、それはウィンウィンどころの話ではなく、途上国にとってはまさにルーズ・ルーズとなる。そしてたいがいの場合は、そのようになっている。

*3 当初から予想されている資機材の購入金額は、すでに請負契約の金額に含まれているため、この分は差し引いて考える必要があるが、施工期間中に発生するコストオーバーランに係る部分は貿易額の純増となる。

ついに軌道修正が

 一帯一路は、2013年に導入されて以来、急速に広まっていったが、実はその投資額は2016年をピークに、2017年から減少に転じている。これは一つには一帯一路の当初の目的であった「国内の余剰生産力のはけ口」としての役割が一巡したことにもよるが、それだけではなく、上記でのべたような問題点が徐々に噴出し始め、受入国側で一帯一路に対する警戒感が高まってきたことにもよる。

 このような問題事案の存在は、現地の状況に日々接する大使館・外務部においては既に認識されていたところであるが、これら外務部の認識・懸念は、政府部内で圧倒的な力を有する(一帯一路の主務官庁である)商務部の前にはかき消され、政府全体の意見とはならなかった。

 しかし、このような現地での問題は、党中枢の耳にも入り始め、一帯一路の進め方について見直しが行われ、党幹部が主宰する一帯一路建設工作指導小組からの指示もあり、2018年4月に、これまで商務部中心に進められてきた一帯一路の推進体制は大幅に改革され、国務院に新しく「国家国際発展協力署」が設置されることになった。同協力署には、それまで商務部内に置かれていた対外投資経済協力司が移管され、その運営は国家発展改革委員会が主導し、商務部、外務部がこれに参加する形となり、政府部内で外務部の声がより強く反映されるようになったのだった

中国で金融危機が深刻化、止まらない破綻の連鎖

10/5(水) 13:00配信

中国の金融危機が悪化の一途をたどっている。
最近では、巨額の貸し倒れを予想している中国の銀行は、貸倒引当金を積み増すために債券市場から2021年より30%ほど多い資金を調達するという大胆な措置を取った。銀行が抱える問題は驚くにあたらない。実際、1年以上前に不動産開発大手の恒大集団(Evergrande)が約3000億ドル(約43兆円)の債務を返済できなくなったと発表したことに端を発した危機が拡大する中での新たな動きにすぎない。
当時、中国政府は明らかに何が起こるか理解しておらず、それ以来、中国金融の特徴となっている破綻の連鎖の拡大を止めるために迅速かつ完全に十分な対応を取ることを拒否した
中国政府がもっと断固とした態度で臨まなければ、通常こうした破綻や危機は拡大し続ける
中国が経験していることは、金融危機がどのように展開するかをイラストで示す教科書のようなものだ。
ある業界の破綻が他業界の破綻を招き、それにともなう恐怖と信頼の欠如によってシステムがうまく機能しなくなり経済成長をまったく支えることができなくなっている。
恒大集団が破綻を発表した瞬間から問題は広がっていた。
同社の債務履行能力に頼っていた企業金融機関は直ちに損失を被る可能性に直面した。
そして金融の性質上、そうした企業や金融機関を当てにしていた人々もまた直ちに余波を被る存在となった。
直接あるいは二次的、三次的に恒大集団の影響を受けるかは問題ではなかった。
貸し手や潜在的なビジネスパートナーは皆、恒大集団が存続できるか疑問を持ち、他の不動産開発会社が恒大集団に続いて同様の発表をすればするほど疑念はさらに深まった。 このような疑念は中国の住宅ローンの貸し手にも広がった
これらの不動産開発会社が契約したプロジェクトを完成させることができないのではないかと懸念した借り手は住宅ローンの支払いを停止すると脅した。ほとんどの銀行がこうした住宅ローンを扱っていたため、この脅しによって中国の預金者は資金の安全性を心配し、中国人民銀行が一方的に引き出しを制限するとその恐怖は特に深刻なものになった。 この金融問題は明らかに経済に影響をおよぼしている
中国経済の弱体化はすでに歴然としており政府のインフラ支出はまだ続いているにもかかわらず、2022年の実質成長率目標はすでに引き下げられた5.5%を大きく下回るおそれがある
経済目標の未達を、新型コロナウイルス感染症の流行を受けて中国政府が取った厳しいロックダウン(都市封鎖)と隔離政策のせいにする人は多い
確かにこれらの措置が影響を及ぼしたのは間違いない。
しかし、中国政府と西側のメディアによって過小評価されているが、金融危機の影響も大きい人々は銀行預金の安全性に不安を感じると、支出を減らしたり止めたりする貸し手は企業や個人の借り手の返済能力を懸念し、有望なプロジェクト以外には資金を提供しなくなる
取引に関わる人々が仲間の存続を心配すれば、プロジェクトは停止する。こうしたことが商業と開発の足を引っ張ることがますます明白になった。

責任転嫁と行動力の欠如

 中国の鉄鋼業界の状況はまさにこの典型例だ。不動産開発企業がプロジェクトを中止し、そして信用不足のため、業界の約29%が倒産間近だと発表した。何十億トンも販売して利益をあげた昨年から大きな落ち込みだ。実際、昨年中国は世界の鉄鋼生産量の約半分を占めていた。 河北敬業集団の創業者でもある李赶坡会長は「業界全体が赤字で、今のところ転機は見えない」という。そして、こうした問題は当然ながら広がっている。
鉄鉱石の価格は3月以降36%下落している。鉄鋼業界は一例にすぎない。中国政府が破綻の拡大を食い止める行動を起こすまで、中国はこの種の後退に直面し続けるだろう。
中国政府が恒大集団の発表と同時に行動していれば、こうした経済的な痛みの多くを避けることができたはずだ。
不動産開発企業の破綻の脆弱性を軽減するために、破綻した不動産開発企業にではなく金融システム内の他企業に直接融資していれば、どうしようもなく広がった事態を回避できたかもしれない。
そうしていたら、信用を回復し、融資が引き続き商業の原動力となっていただろう。
中国人民銀行は民間の金融機関や国有銀行がより積極的に融資を行えるように、また預金の安全性に対する顧客の不安を解消するために、金融システムの貸付可能資金を増やすこともできたかもしれない
しかし中国政府は行動を起こさなかった
そのため、金融破綻とその懸念は中国の金融システム全体で教科書どおりに進行していった。中国政府が何かしら対策を取らない限り、経済への悪影響はますます深刻になることが予想される。
しかし残念なことに、中国政府が政策実施の必要性に完全に目覚めたという兆候はほとんど見られない。
今のところ中国の最高政策決定機関である政治局は、財政難という問題の対処では地方や省政府が主導権を握っていると主張している。このような責任転嫁は、中国の指導部がこれまで考えられていた以上に米政府を研究していることを示唆している。 と皮肉な冗談はさておき、
責任転嫁と行動力の欠如は中国経済にとって良いことではない。どう考えても、金融危機による財政難に地方政府、省政府では対応しきれない。中国政府は長年にわたって地方政府や省政府に中央が決めたインフラプロジェクトへの融資を強要してきたため、地方の政府機関は地方の問題、ましてや国の金融システムの必要性に対処するための財源を欠いている。その役割を果たせるのは政府だけであり、これまでのところ政府はわずかな金利引き下げ以上の行動を取ることを拒否している。

インドネシア高速鉄道の軌道敷設が完了、バリ島でのG20サミットで世界にアピールへ―中国メディア

Record China 2022/10/23 08:45

© Record China

 2022年10月22日、北京日報は、中国の支援で建設を進めているインドネシア高速鉄道の軌道敷設が全て完了したと報じた。

記事は、ジャカルタ―バンドン高速鉄道のボックスガーダー(鉄道橋)の敷設が全て完了したと伝え「これは、高速鉄道の敷設軌道が全面開通したことを意味する」と紹介。東南アジア発の高速鉄道となる同鉄道の総距離は142.3キロで、来年6月に営業開始の予定だとした上で、11月にバリ島で開かれるG20サミット期間中に、インドネシアは世界に向けて同高速鉄道の成果をアピールすることになると伝えた。

そして、軌道敷設を担当した中国電建水電七局ジャカルタ・バンドン高速鉄道プロジェクト部副チーフマネージャーである張進科(ジャン・ジンカー)氏が、当鉄道の建設にあたり現地に約1万5000人分の雇用を創出するとともに、多くの各種技術人材育成に貢献したと語るとともに、建設を進める上での苦労として「沿線が熱帯雨林気候区にあって、不良な地質や特殊な岩盤などがあり鉄道建設に大きな影響を与えた。2号トンネルの建設が最も厳しい工事だった。2019年に掘り始めてから崩落や地盤沈下など21回の危険な状況が発生した。両国の専門家が厳格なトンネル掘削、強化プランを制定して、無事開通に至った」と明かしたことを紹介している。

その上で、米誌ザ・ディプロマットが先日、インドネシアのジョコ大統領が13日に同鉄道の総合検査列車を視察した際に、同鉄道の開通によって人や貨物の流動性が向上して多くの産業が恩恵を受け、ジャカルタとバンドンに新たな経済成長のきっかけをもたらすとの見方を示したことを紹介。シンガポール紙海峡時報も「ジャカルタ・バンドン高速鉄道はインドネシアのインフラを豊かにし、サービス業やサービス貿易に新たな成長点をもたらす」と評したことを伝えた。

さらに、同高速鉄道はインドネシアにとってメリットになるだけでなく、中国高速鉄道の世界進出もアシストすると指摘。海南大学一帯一路研究院の梁海明(リアン・ハイミン)院長が「全線が中国高速鉄道の技術と規格を採用しており、全世界に中国高速鉄道のクオリティーの高さや実用性を証明するとともに、一帯一路沿線国に西側の規格を用いる必要がなく、中国との協力による鉄道建設が期待値の高いものであることを確信させるものだ」と述べたことを紹介した。(翻訳・編集/川尻)

My opinion

今、風向きが中国には向かい風が噴出している。
今後、数十年間は経済の低迷に苦しむことになりそう、とういうよりなっている。中国経済で不動産バブル崩壊が金融破綻に直結しそうな勢いで、預金者からの引き出し要求、ローンの返済拒絶、融資先の企業デフォルト、など国内問題が発生している。
根本的には融資判断の能力に欠けていたと思わざるを得ない。
そして、今後の国内問題は、「貸しはがし」が起こる事である。国民の不満も頂点に達して、暴動が多発することは、歴史を見れば分かる。
海外の問題としての「債務の罠」に嵌った債務国に対する取立は担保物件(国土・領土)の譲渡を迫る強権発動をするかもしれない。
どの様な形で中国は債務処理を進めるのかは今のところ不明である。
「共同富裕」の名のもとに、国民全員公平平等に貧しさに堪えて富を分配するという共産主義の原点に祖先返りするのであろう。日本からバブル崩壊を研究したと豪語していた共産党幹部は今どこに? すでに、粛清されているのか。 日本のバブル崩壊以上に中国の不動産バブル崩壊と金融破綻の影響は大きいのである。 どんとはれ!

参考文献・参考資料

中国にさらわれたインドネシア高速鉄道プロジェクトはいま… 予想外に膨らんだコスト、営業開始から数年で経営破綻の可能性も(1/7) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

中国で金融危機が深刻化、止まらない破綻の連鎖(Forbes JAPAN) - Yahoo!ニュース

インドネシア高速鉄道の軌道敷設が完了、バリ島でのG20サミットで世界にアピールへ―中国メディア (msn.com)

ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?