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政治講座ⅴ1356「台湾有事と疑米論」

ロシアのウクライナ侵攻をみて、疑米論が現実化する姿をウクライナのロシア侵略から感じ取ったのであろう。以前から米国社会は競争社会であり「天は自らを助くるものを助く」
つまり、自ら努力した者だけが成果を得られる。「努力しない他力本願する者には神様もたすけないよ!ということ。中華民国=台湾を日本は国家承認していない、中華人民共和国を国家承認している。この状態で中華民国vs中華人民共和国の戦いは日本は中国国内問題であると主張されたら手出しできるか? 否である。中国共産党の解放軍が台湾を侵略したら、日本は、中華人民共和国と国交断絶して、中華民国を国家承認して、国交を結ぶ必要がでてくるだろう。米国が軍隊を出動する場合は、米国人保護を名目として一時的な軍事介入しか手立てがないのであろう。ただし、米国領土を攻撃されれば、戦争介入の大義名分ができるのでその時は本格的な軍事攻撃に着手するのであろう。中国共産党はそこまで愚かではないだろうが、中国経済が疲弊して中国共産党の政権能力の正統性を疑われるならば、「窮鼠猫を噛む」行為に出るのであろう。その精神破壊による行為を恐れるのである。
今回はそのような報道記事を紹介する。
蛇足:歴史的には、中華民国(台湾)と中国共産党(中華人民共和国)の戦いは、最終決着に至っていないのである。故に、中国大陸を支配する正統性を主張できないのである。一時的に中国大陸を武力制圧して占有しているだけであり、中国流の易姓革命が完結していないのである。だから、武力を行使しても征服を諦めないのである。短期間せ勝敗を決するつもりのロシアがウクライナとの戦合いで長期戦になっていることから、台湾人を懐柔する長期作戦に切り替える可能性は否定できない。それまで中国経済の疲弊と中国共産党が存在できるかである。中国の経済破綻で政権交代が予想される。

     皇紀2683年9月13日
     さいたま市桜区
     政治研究者 田村 司


人民解放軍を誰よりも知る日本人研究者が語る「台湾有事、中国側はこんな超短期決戦をしかけてくる」


2023.09.06週刊現代講談社  プロフィール

戦後数十年にわたって「あり得ない」と考えられていた「次の戦争」が、目と鼻の先まで迫っている。人命が犠牲となり、世の中が大混乱に陥ってからでは遅い。今、この国にできることは何なのか。

想像を超える超短期決戦

いまなお世界中で読み継がれている「孫子の兵法」には、こんな一節がある。

およそ戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ

勝利とは、まずは正攻法で敵と対峙しながら、奇策によって得るもの、ということだ。

アメリカと日本、そして中国は精緻に相手の戦力を分析しながら対峙している「正を以た」状態だ。であれば、台湾有事において「攻める側」となる中国は、孫子の兵法に書かれている通り、奇を以て戦闘に勝利しようと目論んでいるのではないか。

「人民解放軍も冷静に戦力を比較すれば、アメリカとの全面戦争に勝てないことはわかっているでしょう。しかし、習近平主席が『台湾統一は是が非でも実現する』と決断したら、人民解放軍はその決定に従い、勝てる策を考えて実行しなければならないのです。そのとき、彼らの軍事的合理性は、必ずしも我々と同じ”方程式”では計算できないのです」

こう語るのは、笹川平和財団の主任研究員・山本勝也氏だ。

防衛大を卒業後、海上自衛官として統幕防衛交流班長や米海軍大学教授、防衛研究所教育部長などを歴任した山本氏は、胡錦濤政権時代の'07年に中国人民解放軍国防大学に留学。その後、北京の日本大使館で防衛駐在官を3年務め、以降中国の軍事動向について調査研究を続けている。いわば「日本で誰よりも人民解放軍を知る男」だ。

山本氏によると、台湾有事における人民解放軍の戦略の前提は次のようになる。

(1)短期間で
(2)台湾の都市部と指揮中枢を無力化し
(3)アメリカ・日本に介入の口実を与えず
(4)香港や新疆地区でそうしてきたように、「国内問題」として台湾の掃討・鎮圧・統治を進めていく―

山本氏が解説する。

「中国にとって最も重要な戦略は、台湾だけを相手に戦う、つまりアメリカや日本に介入させないことです。そのための策を逆算して考えていく。

となると、まず短期間での決戦が大前提となります。戦闘の期間が長引けば長引くほど米軍は戦力を結集することができ、中国に不利になる。

また台湾の市民がウクライナのように中国側の非道を国際社会に向けて繰り返し発信すれば、アメリカや日本を中心に、世界中から台湾への支持が集まります。ロシアと同じように泥沼に引きずりこまれることになれば、中国が勝つことは困難になる」

専門家が予測する台湾制圧作戦のシナリオ

短期決戦の作戦はおよそこのように進められる。作戦1日目の早朝に、まずはサイバー戦部隊が台湾のインフラを破壊する。これによって大変な社会混乱がもたらされる。ほぼ同時に、弾道ミサイルや爆撃機によって台湾の都市部と台湾軍の指揮中枢を破壊。容赦ない数のミサイルが放たれ、台湾は恐怖の炎に包まれることになる。

「同時に人民解放軍の特殊部隊が台北の中心に侵攻し台湾の首脳陣や軍の幹部を次々と殺害します。これが最も困難な作戦になるでしょうが、ここで台湾の首脳陣を取り逃したり、東部に逃げられたりすれば、まさにゼレンスキー大統領がウクライナの象徴となり頑強な抵抗が始まったように、台湾の長期的な抵抗のきっかけを与えてしまう」

さらに重要な作戦方針がひとつ。それは「日本の領土領海には手を出さないこと」だ。

アメリカや日本側のシミュレーションでは、中国が与那国島や尖閣に攻撃を加えたり、一時的に占領したりすることで、日本が防衛出動し、日米同盟が発動し、中国を迎え撃つ……と想定されているものが多くあります。

しかし、中国側の合理を考えると、現在のように戦力差で日米に劣るとわかっているなかで、あえて日本とアメリカを参戦させるためのきっかけを与えるとは思えません。

また、日本の領土に手を出さないことで、中国は『今回の紛争はあくまで中国国内の問題である』と国際社会に対してメッセージを発信することができるのです。

日本の領土に攻撃をしかけてこなければ、日本も自衛権を発動する口実がなくなってしまう、と中国は考えるでしょう」

中国が勝てるとすれば「超短期決戦」。台北が破壊され、台湾の指導部が一掃されたうえに米国内世論がまとまらない状況で、即座に米軍が動けるのだろうか。

「中国は『これは内政問題だ』と強硬に持論を唱え続ける。そして、台北を落とした後で、『国内の反乱勢力の掃討作戦』を時間をかけて実施するのです。チベットや新疆地区、香港でそうしたように、『国内の反乱』を鎮圧するのは中国は大得意です。鎮圧のための部隊や法の整備を整えて、一気に掃討を進めるでしょう。

反乱勢力を排除してしまえば台湾の統一が果たされアメリカも干渉のタイミングと口実を失ってしまう―これが、習近平の決断に対する、人民解放軍の回答案となるのでは、と私は推測しています」

世界大戦の引き金に

もちろん、これはあくまでひとつの想定だ。しかし、台湾有事における人民解放軍の基本戦略が「米日に介入の隙を与えず」「超短期間の決戦を仕掛け」「国内問題として処理を進める」となることはほぼ間違いないだろうと読む。

「日米を中心に様々なシミュレーションが行われていますが、想定する中国側の行動態様が、はたして彼らの軍事的合理性、行動倫理や優先順位に即しているのかと感じることがあります。アメリカや日本からすれば『合理的に考えれば中国はこう行動するだろう』となっても、中国には中国の合理がある。

台湾有事を未然に防ぐためには、中国側の思考を読み解きながら、より多角的に分析し、想定外を極限していく必要があると思います」

最後に山本氏は「中国による台湾統一は、日本への直接侵攻がなくとも悪夢であることに変わりはなく、中国が台湾に侵攻すれば日本もアメリカもずっと黙っているはずはありません。ただ、国際社会の支持を得て最終的に台湾が勝利したとしても、台湾社会や市民が甚大な被害を受けることはウクライナを見れば明らか」と加える。

台湾侵攻に失敗すれば、国際社会の非難はもちろん、中国人民の支持も失い習近平政権は崩壊するでしょう。

そのとき、習主席に代わる後継者が共産党を指導して中国国内の『戦後処理』を担うことができればよいのでしょうが、後継者候補を排除したいま、国内の不安の高まりを抑えきれず、共産党が弱体化することが考えられます

そうなると中国の政情は極めて不安定になり、内乱が起こったり、あるいは分裂するようなこともあるかもしれない。

それは、世界全体に新たな負担がのしかかることを意味する。新しい世界大戦の引き金となるかもしれない。

「台湾有事は一度起こってしまえば、どんな結果になろうが国際社会に甚大な混乱をもたらすことは間違いないのです。ゆえに、なんとしてでもこれを防がなければならない。そのためには、中国に『勝てる』と錯覚させてはいけません。日米を基軸に台湾、豪州、欧州や韓国が安全保障の協力連携を強化して防衛力・抑止力を高めることはもちろん、同時に中国との対話も強化して、『勝てると思ってはいけない』と繰り返し伝えることが必要なのです

最悪の結末を防ぐためにも、日本は中国側の「合理的な戦略」を読み解き続けなければならない。

「台湾有事など絵空事だ」...習近平を「ひきこもり皇帝」と揶揄している側近たちと習近平が本当に気にしている「プーチンの運命」

週刊現代 によるストーリー •12 時間

戦後数十年にわたって「あり得ない」と考えられていた「次の戦争」が、目と鼻の先まで迫っている。人命が犠牲となり、世の中が大混乱に陥ってからでは遅い。今、この国にできることは何なのか。

「引きこもり」の皇帝

最終的に台湾侵攻の決断を下すのは、中国の最高司令官(中央軍事委員会主席)である習近平だ。台湾統一を「中国の夢」と語り、今年3月に異例の3期目へと突入した国家主席はいま何を思うのか。コロナ、ウクライナ戦争という世界的動乱を経て、21世紀の皇帝の心境は激しく揺れ動いているようだ。その胸の内を覗く、インサイドレポート。
家里蹲皇帝(家のなかにこもった皇帝)」―昨年末まで丸3年間にわたって、悪名高きゼロコロナ政策に固執した習近平主席は、「中南海」(北京中心部の最高幹部の職住地)で、密かにこう揶揄されてきた。日本語に直せば、「引きこもり皇帝」である。
習主席のコロナウイルスに対する怯えとも言える恐がりようは、半端なものではなかった。'20年1月にミャンマーを訪問してから、'22年9月にウズベキスタンを訪問するまで、2年8ヵ月にわたって、一度も外遊に出なかったのだ。主要国でこのような国家元首は、他に例がない。

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部下たちがいくら外遊を勧めても、「感染したらどうするんだ!」の一点張り。昨年2月に北京冬季オリンピックが開かれるまで、外国の要人が北京に足を踏み入れることも禁じていた。
習主席はどこへ行くにも、約300人もの警備隊をゾロゾロと引き連れているが、その中に「消毒隊」を作らせたほどだ。彼らは、習主席の行くところ、常に40分前に現れ、徹底消毒・除菌をする。歩く床、周囲の壁、座る椅子、使うテーブルにマイク……。この光景を初めて見た幹部たちは皆、唖然とすると同時に、口にこそ出せないが心の中でこう思う。
「外国メディアが『ウクライナの次は中国が台湾に侵攻する』などと騒ぎ立てるが、絵空事だ。コロナにも怯える皇帝に、戦争なんか起こせるわけがない
事実、習主席の頭の中にはこの数年、不安しかない。コロナショックが和らいだいまは、新たな不安の種に支配されている。内乱への不安だ。きっかけとなったのは、言うまでもなくロシアとウクライナの戦争である。

習近平とプーチンの会談の真相

今年3月13日、異例の3期目となる習近平政権が発足。習主席は翌週の20日にはモスクワに飛んで、プーチン大統領とウクライナ戦争の善後策を話し合った。通訳だけを交えたサシのテタテ会談だけで、ゆうに4時間を超えた。
この「濃密な会談」をもって、「習主席は来たる台湾有事に向けて、ウクライナ侵攻の教訓をプーチン大統領から得ようとした」と評した報道が、内外にあふれた。
だが、事実はまったく異なる。習主席が知りたかったのは、ウクライナ戦争から得られる教訓などではなかった。
プーチン大統領が、ロシア国内で失脚する恐れがあるのかどうかを確かめなければならない

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訪露前、習主席は側近たちにこう漏らしていたのだ。なぜ「プーチン失脚」を恐れるかと言えば、強権体制のロシアで政変が起これば、次は中国でも同じことが必ず起こる、と習主席は思っているからだ。
7月6日、習主席は台湾侵攻を担当する東部戦区の司令部(南京)を急遽視察し、「常に実戦の準備をせよ!」と発破をかけた。それをもって、「中国の台湾侵攻近し」との観測が流れたが、習主席がこのようなパフォーマンスに出た真の目的もまた別にある。この視察の約2週間前、ロシアではプリゴジンによるクーデター未遂が起こった。これに焦った習主席は、軍部が逆らって「中国版プリゴジンの乱」を起こさないように、人民解放軍を掌握していることを、視察を通じてアピールしたのだ。
「ロシアと同じように、いつ側近たちが自分に牙を剥いて襲い掛かってくるかわからない。それを防ぐためにも、軍が強固にまとまっていて、歯向かうことなどできないと思わせなければ……」
これが習主席の偽らざる本音なのだ。

55%が「統一に賛成」

頭の中を不安に支配された習近平国家主席のもと、近未来に台湾侵攻は100パーセントないと言えるのか? 答えはノーだ。習主席の意向を無視して、人民解放軍が暴走していくリスクがあるからだ。
今年度の中国の国防予算は、前年比7・2%増の1兆5537億元(約30兆円)。'27年の「人民解放軍建軍100年」に向かって膨張を続けている。
肥大化した組織は、必ず暴走する。日本の真珠湾攻撃が、決断力のない政治家にしびれを切らした軍部の暴走によって始まったように、台湾有事も、弱気な皇帝を横目に軍部が「台湾侵攻すべし!」との声を上げ、それが抑えられなくなり突然始まる可能性が高い

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中国の国民もまた、経済的苦境や閉塞感を背景に、台湾侵攻を望むかもしれない。シンガポール国立大学とニューヨーク大学上海校の研究者が中国本土で約1800人を対象に行った調査によると、55%が「軍事侵攻による台湾統一に賛成する」と答えている。
軍部と民意の暴走によって中国が台湾侵攻の暴挙に出た場合、中国14億人の反応は、真っ二つに割れるに違いない。多くの庶民は「小粉紅(小さな愛国者)」となって、処理水を流した日本を叩いたように一丸となり台湾侵攻を支援する。一方で富裕層やインテリの一部は国外へ亡命する―。
ロシアの惨状を知ってなお、習近平は台湾統一に動くのか。「引きこもり皇帝」が突然武器を持って外に飛び出してこないことを願うしかない。
「週刊現代」2023年9月9日・16日合併号より


台湾で高まる「疑米論」

2023/4/18 19:17 矢板 明夫

米ロサンゼルス郊外での会談後、記者会見した台湾の蔡英文総統(左)とマッカーシー下院議長=5日(ゲッティ=共同)

台湾の蔡英文総統は米国カリフォルニア州に滞在していた今月6日の早朝、台湾への帰途につく前にホテルで同行記者団と懇談した。マッカーシー米下院議長と会談した翌朝だった。「米国の印象は」と聞かれた蔡氏は「台湾を支持するみなさんの熱意を強く感じた」と語った。

蔡氏がここで「米国の台湾への支持」を強調した背景には、最近の台湾で「疑米論」が台頭していることがある。疑米論とは、「米国は信用できない」「いざというとき、米国は台湾を助けに来ない」と米国を疑う論のことである。

台湾人は実は有事のアメリカ軍「本気」救援を疑っている!?

2023.02.28 ウクライナ戦争の余波に揺れる台湾
田 輝

ウクライナ戦争を契機に

台湾で最近、「疑米論」という言葉が流行語のようになっている。これは、中国の台湾に対する軍事的圧力が高まる中、いざというときにアメリカが台湾を本気で助けないのではないかという疑念のことだ。
こうした考え自体は、米軍がアフガニスタンから撤退した2021年の段階ですでに「藍派」(国民党・親民党・新党など中国との協調を重視する野党系勢力で、民進党や時代力量、台湾基進など中国との距離を保とうとする「緑派」に対峙する。このほか、両派の中間的な存在である台湾民衆党は「白派」と言われる)の著名なメディア人趙少康氏が唱えており、取り立てて新味のある議論ではない。
しかし最近この言葉が頻出するようになった背景として、筆者の旧知の台湾のテレビ局元幹部(中立だが若干緑派寄り)は、ウクライナ戦争の悲惨な映像が毎日ニュースで報道されていること、欧米がウクライナに武器を売るだけで、派兵して共に戦おうとはしないことがあると指摘する。つまり、しばらく前から言われてきた「疑米論」がウクライナ戦争を契機に一定の説得力を持つものとなってきたということだ。
台湾政治の研究者で選挙予測に関しては台湾で「神」と呼ばれている東京外国語大学の小笠原欣幸教授が、2月中旬にフェイスブック上に投稿した「台湾に広がる疑米論」が台湾のネットメディア「関鍵評論網(The News Lens)」の日本版に掲載されると台湾のネット論壇とされるPTTでもさっそく様々な議論が展開されている。
ここで関鍵評論網について一言言及しておくと、筆者は創業者の楊士範氏と面識があるが、ハフィントンポストの台湾版のような位置づけのネットメディアを志向していて、自ら一次取材をする記者を多く抱えることはせず、主要メディアの報道する記事を重要度に応じて絞り込み、限られた記事について専門家のインタビューをしたり評論記事を載せたりする、日本で言うと硬派の週刊誌や月刊誌に近い存在と言える。
本題に戻り、小笠原教授は関鍵評論網に記した論考の中で「疑米論」が広がった要因として、先述のテレビ局幹部の指摘に加え、中国の軍事侵攻への警戒感が以前より上がったことを指摘していて、筆者も同じ考えである。

「どうやら習近平は本気だぞ」

習近平氏は2012年に総書記に就任した後、胡錦濤時代(正確には江沢民時代というべきだろうが)に人民解放軍を牛耳っていた徐才厚(あだ名は彼の地盤の東北地域をもじって「東北虎」)と郭伯雄(あだ名は同様に「西北狼」)という2人の前中央軍事委員会副主席を相次いで汚職で摘発、「軍幹部の官職はカネで買える」と当時言われていた人民解放軍に綱紀粛正の嵐を吹かせた。
そして習氏は「戦争ができ、戦争に勝てる軍隊」をキャッチフレーズに陸海空3軍の統合運用や情報化に邁進した。
また習氏は1985~2002年まで17年間福建省で仕事をしていたが、このころアモイに本拠を置いていた当時の南京軍区第31集団軍(現在の東部戦区第73集団軍)の将兵たちと関係を深め、習氏が党・軍のトップに立ってからはこの第31集団軍出身者を忠実な部下として重用することになる。
そして第31集団軍はかつて台湾の金門・馬祖両島に対する砲撃を行った台湾攻略の最前線の部隊であり、従来から陳炳徳・梁光烈・趙克石・蔡英挺・王寧・韓衛国・鄭和の各氏など軍の高級幹部を大量に輩出している。習氏に抜擢されたと見られる第31集団軍出身者としては、現在中央軍事委員会委員で政治工作部主任の苗華氏や元中部戦区政治委員の朱生嶺氏などがいる。
中でも最も注目されるのは、朱氏と江蘇省東台市の同郷で、台湾攻略を担当する東部戦区司令員を務めたあと、それまで党中央候補委員ですらなかったのに去年10月の党大会でいきなり政治局委員兼中央軍事委員会副主席に就任した何衛東氏である。
何氏は17歳で入隊した現場のたたき上げで、偵察兵というリスクの高い業務に長年従事してきた。彼が上海警備区司令員で59歳を迎えたとき、普通なら引退が予想されたはずのところが西部戦区副司令員兼陸軍司令員に抜擢され、その3年後には東部戦区司令員に再度抜擢、さらに去年1月には中央軍事員会統合作戦指揮センターを主管していることが判明した。そして去年10月の党大会で、中央軍事委員会副主席という軍人の最高ポスト(中央軍事委員会主席は「党の軍に対する絶対的指導」に基づき党の指導者が務める)に65歳の年齢で昇りつめた。
やや強引とも思えるこの人事は、習氏が信頼できる部下を引き上げて台湾攻略シフトを敷いたというのが常識的な見方であろう。実際、去年8月に米議会のペロシ下院議長が台湾を訪問すると、人民解放軍は間髪を置かずに大規模な台湾包囲の軍事演習を行い、その後も恒常的に戦闘機が台湾海峡の中間線を越えて台湾側に対する挑発行動を継続している。台湾人に対し「どうやら習近平は本気だぞ」と思わせているのである。

火をつけた国民党有力総裁選候補

さて、先述のテレビ局元幹部は疑米論の現状について、台湾の世論調査を見る限り若干増える傾向にあり、中でも主婦層や、戦争になると戦場に駆り出される可能性が高い若者の間で広がっているという。特に台湾ではニュースや情報を得る媒体として、日本以上にLINEやフェイスブックが重視されていて、こうしたネット上には煽情的な情報が流れて拡散しやすく、しかも「藍派」系とされる中国時報や聯合報がそれを増幅して伝えていると同元幹部は話す。

また、疑米論の広がりに中国共産党の関与があるかについては、「今のところ与党批判を強める台湾の藍派の裏に隠れている」と分析している。

こうした背景に火をつける形となったのが、今年1月1日に「我々は絶対に強国の駒ではない」という発言をした、国民党籍の侯友宜新北市長である(侯友宜喊「台灣不是強國的棋子」林濁水:開始學總統要講的話了!-風傳媒 (storm.mg))。

侯氏は2024年の総統選挙の国民党内最有力候補であり、現在、朱立倫党主席や郭台銘ホンハイ創業者と党内公認候補の座を争っている最中だ。もともと警察官僚出身で、政治家としてのキャリアは新北市の副市長を8年、市長が2期目に入ったばかりと中央政界での経験はなく、中国やアメリカとの関係については、これまで発言は少なかった。

今回の発言は特に国名は明示していないが、台湾人なら誰でもこの「強国」がアメリカであることが分かる。つまり、侯氏は「台湾は米国の駒に甘んじるつもりはない」と宣言したのである。

参考文献・参考資料

「台湾有事など絵空事だ」...習近平を「ひきこもり皇帝」と揶揄している側近たちと習近平が本当に気にしている「プーチンの運命」 (msn.com)

【矢板明夫の中国点描】台湾で高まる「疑米論」 - 産経ニュース (sankei.com)

台湾人は実は有事のアメリカ軍「本気」救援を疑っている!? (田 輝) | 現代ビジネス | 講談社(1/4) (gendai.media)

人民解放軍を誰よりも知る日本人研究者が語る「台湾有事、中国側はこんな超短期決戦をしかけてくる」(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/3) (gendai.media)

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