どこかで誰かが私を好きになる

自己紹介が苦手だ。
学生時代から、今でもそう。
どんな言葉で自分を語ればいいのか分からない。

誕生日や血液型、出身地、そういう事実を伝えるだけなら、そんなに難しいことじゃない。
だけど、それ以外にわざわざ他人に伝えてプラスになる特技や経歴なんて私には何もなかった。

名前を言って、「あとは、これから知ってください」だけでおしまいにできたらありがたいけれど、この言いまわしを使うのも少しスカしてる気がする。

自分自身の特性をしっかり把握し、ポジティブにアピールできる人がうらやましい。
クセのないやり方でそう振る舞えるならなおさらだ。悪目立ちもしたくない。
受け取る側に負担のないやり方で、インパクトはなくともマイナスイメージさえつかなければベター。
要は「ふつう」にできればいいわけだった。

ついこの間、Instagramのプロフィールを更新したときに「自己紹介」も新しくすることにした。
そこで私は例によってつまずく。

何を書いたらいいのか分からない。
どう書けばいいのか分からない。

ひとりで考えてもらちがあかないので、他の人はどんなふうにしているのかチェックすると、スラッシュやハッシュタグで単語を区切って、本人の属性や趣味嗜好だと思われることがらを羅列しているタイプの自己紹介が多く目に入った。
好きなものを並べて見せることで自分のことを知ってもらうのは、SNSの文字数の制限を考えても、効率的なやり方だ。

自分もそれにならって、ハッシュタグをつけて好きなものを書き出した。

#酒 #肉

あとが続かない。
自分が好きなものとしてパッと浮かぶのなんて、せいぜいこのくらいだった。
この2つしか思い浮かばないなら、あと2文字足して #酒池肉林 という四字熟語だけ書いても良かったのかもしれない。

それが素直な気持ちではあるけれど、自分にも一応の建前みたいなものはある。
酒と肉だけで満ちたりる人間だ!と宣言するのは少しはばかられた。

#小説 #映画 #旅行 #酒 #肉 #家族 #友達

くだらないプライドをいくつか足した。
どれも酒や肉に比べれば愛着は薄いけれど、嘘はついていないと思う。

#小説 #映画 #旅行 #酒 #肉 #家族 #友達 #高校中退 #ひきこもり #八重歯 #二十歳

好きな異性のタイプをプラスした。
高校を中退しひきこもっている八重歯の可愛い二十歳の人がハッシュタグを通じて私に連絡をくれるかもしれない。
自己紹介によって出会いの可能性まで広がる。

しかし、ここでふと疑問が浮かぶ。
はたして、みんなが自己紹介欄にスラッシュやハッシュタグで区切って並べているのは、本当に本人の属性や、好きなものを示す単語なのだろうか。

#JK2
こう書いてあっても、「苦手なもの」をあえて示した可能性だってある。

#JK2
また、それが属性なのか「好きなもの」なのかによって、だいぶ印象は変わってくる。
私の #二十歳 と同じように......。

#川瀬破水 #山田きなこ #佐々木秀人 #夏目兆太郎 #藤代永和 #虫巻かなめ #花墨冥路 #霞ヶ関幽号
#中村カルマ #縁側ひらめ (すしボーイ)

自分で考えた架空の人物名にハッシュタグをつけて並べた。この羅列は一体、なんなのだろうか。
私の頭にしかない名前、この世の中に存在しない者たちの行列、なんの意味もない言葉の並びだ。

だけどこうして文字にして並べてみると、なんとなくその人物の個性が浮き上がってくるように思える。輪郭をとらえたような気持ちになる。
私はなんだか少しだけ、もう彼らが好きになっている。
どこにも誰も、いないけれど。

#小説 #映画 #旅行 #酒 #肉 #家族 #友達 #高校中退 #ひきこもり #八重歯 #二十歳
#川瀬破水 #山田きなこ #佐々木秀人 #夏目兆太郎 #藤代永和 #虫巻かなめ #花墨冥路 #霞ヶ関幽号 #中村カルマ #縁側ひらめ (すしボーイ) #塚本オルガ

好きなものを羅列して、Instagramの自己紹介を更新した。それが私を構成する要素なのか、自分の性質をアピールする働きをしているのかも、よくは分からなかった。
やっぱり自己紹介は苦手だ。

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