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「天才とホームレス」 第21話 『ゴスペルライブとライブペインティング』

とてつもない勢いで、大きな絵を描き切った後で、
リコさんは僕とてっぺいに言った。

「あなたたちが天才くんたちね!
 今日はありがとう! あなたたちが作ったお祭り、最高よ!!」
汗だくのリコさんは美しかった。
僕らをぎゅっと抱きしめてくれた。


祭りは10時ごろから始まった。

ゴスペルライブとライブペインティングは、午前と午後に分けて2回やる。
午前はリコさんという人が描き、午後はそのリコさんの夫が描くのだ。
そして一つの絵を完成させるらしい。

河川敷には、徐々に人が増えていった。
てっぺいのばあちゃんのおにぎりも、牧場の猪肉も飛ぶように売れていく。
牧場から何頭かの牛が連れてこられていて、乳搾り体験もできた。
美味しそうに草を食べている。

町工場で発明された小物たちも大人気だった。
たくさんのおじいさんおばあさんが小型のセグウェイで移動していた。
小型のバイオガス発電機も、たくさんの人が興味を持っていた。

キッチンカーもたくさん並んでいた。
テツ、シュン、ダイチの手は、食べ物でいっぱいになっていた。
3人はそれぞれの店のおじさんと、とても仲が良いようだ。
実は3人が繋げて、牧場の肉を彼らに卸しているらしい。
おじさんたちはとても感謝していて、それでタダでたくさんくれたんだ、とてっぺいが教えてくれた。

穏やかな時間が流れていたその時、
「ババーーン!!」と、オルガンの音が河川敷中に響いた。
続いてパウロ神父の声。
「♪Dance Now! Everybody! Shout Now!  Listen up!
 Our Praise!  Loud!  Dancing in this Freedom we know!! Yeah!!!」
楽しげなダンスミューージックだ。

「ミナサーン! 今からライブが始まりマース!」
礼拝堂の扉は大きく開かれ、人々が続々と入っていった。
僕らも後から入った。

外にいるときはわからなかったが、200人はいる!
大きな礼拝堂がいっぱいになっていた。
てっぺいのじいちゃんばあちゃんもいるし、牧場の人たちもいる。

前には椅子のないスペースがあって、小さな子どもたちがいた。
流れている演奏ですでに踊り出している。

その横には、横長のでっかいキャンパスと若い女性。
それがリコさんだ。
パリで壁画を描いたこともあるという。
名の知れたアーティストらしい。
楽しげな音楽の中で、目を瞑って静かに立っているのが印象的だった。
何かを呟いている。

その横にしゃがんでいるのは、絵の具を渡す役割の男性。
リコさんの夫で、ソウさんと神父は呼んでいた。
彼もまたアーティストで、午後の部では同じように描くのだ。
しっかりとリコさんの手を握っている。

「Yeah-------!!!!」
リハーサル通りに、パウロ神父の叫び声で始まった。

そしてゴスペルクワイヤーも叫ぶ。
やはり心が震えている。

そこからは圧巻のライブだった。
パウロ神父は声量もさることながら、めちゃくちゃ歌がうまい。
黒人の人のノリは日本人には出せないものがある気がする。
声の出し方から違うのだ。

激しく、楽しく、あっという間の1時間だった。

子どもたちはずっと踊っていて、最後には大人たちも踊り出していた。
てっぺいのじいちゃんばあちゃんも楽しそうに手拍子をしていた。

りこさんの方を見ると、見事な「ライオン」が描かれていた。
大きな口で吠えている。叫んでいるようにも見える。
凄まじい目力と、大迫力のタテガミだ。

「素晴らしい絵だ! ありがとう、リコ!」
と、最後に神父が紹介したとき、
「うおーーー!!!」
気づいたら叫んでいた。
なんと力の湧き出る絵だろうか。

ライブが終わってまた、河川敷に人が広がっていった。
出る前にリコさんに声をかけた。
「ありがとう」と伝え、「ありがとう」と抱きしめられた。
その感触を反芻しながら外に出た。

教会からは音楽が鳴り続けていて、河川敷にいる皆がまだ踊っているようだった。
そして人は増え続けていた。

河川敷にはリコさんやソウさんの作品が並び、なんとてっぺいの絵も並べられた。
祭りはさらにカラフルになった。

雑誌のライターが新聞の人も来ていた。
神父に聞いたら僕に取材したらいいと言われたらしい。
横にはてっぺいがいたから、緊張したけどなんとか思いを伝えることができた。
てっぺいはヘラヘラしながら「おまえに任せた」という顔をしていた。

3時になった頃、再びパウロ神父の大きな声で、礼拝堂に人が集められた。
午前の部の倍はいた。
立ち見の人もいる。僕らもそうだった。

ステージの左側にはリコさんの絵がある。
その反対側に、真っ白なキャンバスが置かれていた。
ソウさんはどんな絵を描くのか。

流れ出した音楽は、午前の部とはまた違ったものだった。
楽しく踊り出したくなるものではあったが、激しさはない。
むしろ滑らかな、綺麗なメロディーのものだった。
てっぺいがジャズっぽいと言っていた。
ジャズも知ってんのかコイツ。。。

その時、前の方に見知った顔を見つけてしまった。
両親だ。

来てたのか、、、。
心臓がギュッとなった。
あんなに楽しかったライブを、ぜんぜん楽しめなくなった。
二人がどんな顔をしているかが気になる。

せっかく楽しかったのに。
嬉しかったのに。
この音楽を楽しみたいのに。
この雰囲気を喜びたいのに。

イライラする。
母さんは楽しそうだが、父さんは相変わらずの仏頂面だ。
なぜそれを気にしなければならない! 僕が!

と、その時、
その二人の奥の絵に気がついた。
ソウさんが描いている絵だ。

それは大きな「祈りの手」だった。
たくさん傷のついた、皺だらけの手が合わさっている。
カラフルなリコさんの絵に比べ、地味な色のリアルな手だ。
それが目の前に迫ってきたように感じた。

その時、耳に歌う声が届いた。
「 I will follow him~♪
 Follow him everywhere he may go~♪」

そしたら嘘のように、僕の心が静かになった。

ライブが終わって、僕はソウさんの絵の前に立った。
時が止まったようで、
しばらく立ち尽くしていた。

ソウさんもまた、僕らを抱きしめてくれた。
「これからもパウロ神父をよろしくな!
 僕らもいつでも飛んでくるからね!」
そう言って、何度も「ありがとう」と言ってくれた。

外はだんだん日が傾いて、祭りも終わりに近づいていた。

肉が売り切れて手持ち無沙汰になった牧場の人たちと一緒に牛を撫でていたらふいに、
「ゆきや!」
という声がしてビクッとなった。

父さんの声だったからだ。

父さんは言った。
「あのな、
 今日は、この祭りは、なんというか、よかった。
 お前が取材を受けているのも見た。
 む、昨日は、悪かったな。
 お前、頑張ってるんだな。
 よくやった。」

祭りの片付けは夜遅くまで続いた。



※絵はイメージです   



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