【論文抄読】ストレッチのエビデンスについて
*専門家向けです。注:3800文字程度あります
久しぶりに論文抄読noteを書きます。いやね、論文は読んでたんですがね…時間がね…
つまりはサボりです。(どーん)
今回、主に参考にした論文がこちら!↓
(クリックすると論文に飛びます。*すみません、リンクが切れてたみたいです。2020年12月25日貼り替え)
これはストレッチに関する効果をレビューした論文で、2011年発行のものなので少し古いですが、ストレッチについて分かっていることを網羅する上ではかなり有用です!
19ページもあるので、少し大変ですが気になる人はチェック!
内容だけさらっと知りたい方は、このnoteを参考にしてくださいね〜(^^)それでは行ってみましょう!
ストレッチについて効果があると思われていること
ストレッチと聞くと、なんだか身体に良さそうですよね?
僕も部活や体育などの前には必ずストレッチをやっていました。
ストレッチについて一般的に効果がある“だろう”と言われているのは、上記スライドのような事柄です。
みなさんも大きくは否定されないと思います。
しかし、これらの効果についてはいま現在に至ってもエビデンスが不十分であると言われています。
従来のウォームアップというと、、
大体、上記のようなことが多いかと思います。
有酸素運動については体温の上昇、筋の神経伝達速度の向上などパフォーマンス向上につながる要素が認められています。
一方で、スタティックストレッチは「健常者の関節可動域を増やす」ということは証明されているものの、傷害予防やパフォーマンスの向上についてはエビデンスが不十分なのです。
スタティックストレッチの効果
では、本日の論文の内容に移っていきましょう。
下記スライドは、スタティックストレッチが筋力や筋パワーに及ぼす影響をレビューしたものです。
結果、スタティックストレッチは筋発揮に対して“有意な変化を与えない”(Non-Significant Change)か、むしろ“悪影響を及ぼす”(Significant Impairment)の結果を示す論文が多数を占めました。
また、多くのスポーツで利用されるランやジャンプなどのパフォーマンスについてはどうでしょうか?
結果、パフォーマンスにおいてもスタティックストレッチは、あまり良い影響を与えるとは言えませんでした。
むしろジャンプパフォーマンスにおいては、ストレッチ後にジャンプ高が低下する結果を示した研究が数多く報告されました。
実はいわゆる筋肉の硬さとパフォーマンス能力には、正の相関があることが示されています。
要は、硬い筋肉ほど数値で表現できるパフォーマンスは高いという結果が出たのです。
一つの考察によれば、筋や腱が硬いことにより逆に長さ-張力の関係が改善されていると言われています。剛性の高い筋・腱は力の伝達効率が初期段階でより良好であり、力の発生率を増加させていると考えられているのです。
実は、僕も大学生時代に「女子バレーボール部員における筋の硬さと傷害発生」について卒業研究を行った際、この事実を確認していました。
たしかに傷害を負いやすい部位は、その硬い筋もしくは筋周囲の関節にありました。
しかし一方で、筋発揮やジャンプなどのパフォーマンスが良かったのも、その筋の硬さが認められた側肢だったのです。
その時は、研究のお礼に評価結果から女子バレーボール部員毎のストレッチ表をお渡ししたのですが、今思えば全くの逆効果だったのかもしれません。
スタティックストレッチの生理学
「筋肉を伸ばすには、長い時間をかけてストレッチする」というのがストレッチの定石ではありますが、パフォーマンスにおいてはストレッチ時間が長い程にパフォーマンスは低下していくという負の相関が認められています。
ではなぜ、スタティックストレッチで筋パフォーマンスが低下してしまうのでしょうか?
これには、2つ理由があります。
すなわち、1)力学的変化と2)神経生理学的変化 です。
1)力学的な変化
これは単に筋の長さ変わることによる物理的な変化を要因としています。
一言でいうと、長さ-張力曲線の至適長が変化することで筋発揮が低下すると考えられています。
一般的にヒトの身体というのは「効率性」を重視しています。
もしあなたが右利きで、テニスなどで右側を酷使しているとすれば、右側肢を中心に筋が硬くなっていくことが考えられます。
筋は、そのヒトの生活様式やパフォーマンス様式に即したアライメントに変化していき、それを至適として効率よく筋発揮を行うように効率化していきます。
つまりは、不要な可動域を排除するように筋の長さを変化させているのですね。
それにも関わらず、現状の身体を“至適”としている筋をストレッチ等で急に伸ばしていくと、今まで保たれていた“長さ-張力の関係”が変化してしまいます。よって、その直後の筋発揮にアンバランスを引き起こすのです。
2)神経生理学的変化
もう一つの要因としては神経生理学的な要因です。
これは筋の伸張刺激による求心性入力がさまざまな神経要素に働きかけて、抑制に傾かせます。
筋電図や電極を用いた研究では、ストレッチ後の筋発揮時に実際に活動が低下したことが確認されています。
つまり、ストレッチによって筋肉への神経入力が抑制され結果、筋発揮が低下してしまうんですね。
現状では、ストレッチによる上記2つの変化によって、パフォーマンスの低下を引き起こしていると考えられています。
ちなみにストレッチの持続時間が90秒を越えるとより顕著に筋出力の低下が見られるようです。逆に30秒以内では、著明な低下は認められませんでした。
別の研究ですが、6秒間の静的ストレッチを6回繰り返すだけでもROMは改善するという報告(Murphy et al,2010)もあり、ROMの拡大とパフォーマンス能力の保持の目的を共存させるならば、あまり長時間のストレッチでなくても良さそうです。
ストレッチの強度
ストレッチの強度についても報告があります。
ストレッチにおける不快と感じるポイント=POD(point of disconfort)を最大の強度とした際に、その90%の強さでストレッチを行うと筋力パフォーマンスやジャンプ高に影響がなかった、と報告されています。(Young et al,2006)
どうですか?みなさんもストレッチするときには、なんとなく痛みを感じる不快なポイントまでやっていませんか?それはもしかすると、伸ばしすぎなのかもしれません。
強度というとどうしても主観的にはなりますが、ひとまず「ちょっと痛いな〜」くらいがちょうどいいのかもしれません。
*
ここまではスタティックストレッチにおける現在のエビデンスについてまとめてみました。
どうやら時間、強度ともに伸ばしすぎは、その直後のパフォーマンスに悪影響を及ぼしそうです。
一方で、パフォーマンスに悪影響を及ぼさない、むしろ好反応があるストレッチとして注目されているのがダイナミックストレッチです。
ダイナミックストレッチ
ダイナミックストレッチとは、簡単に定義してしまうと「拮抗筋の作用で可動域を広げて、目的筋を伸ばす」(例:リズミカルなSLR運動により、ハムストリングスを伸張させる)といった、相反神経メカニズムの作用を利用したストレッチになります。
スタティックストレッチほどではありませんが、このダイナミックストレッチについても研究が進んでいます。
その中でわかってきたことは、ダイナミックストレッチはパフォーマンスに悪影響を与えない。それどころか、パフォーマンスを促進させる可能性すらあるということです。
なぜ、スタティックストレッチと違ってパフォーマンス促進の作用があるかというと、上記3つの作用が考えられています。
筋自体を作用させたストレッチですので、有酸素運動のように筋血流を増加し、体温上昇を促します。また、目的筋を対象とした主動-拮抗筋の構造的、神経生理学的な反応も向上させると考えられ、これがパフォーマンスに好影響を与えると考えられます。
僕もハムストリングスが硬くて、自分でストレッチなどを行ってきました。けれど、全然可動域が変わらなかったんですね。
しかし、ピラティスを始めてから可動域が広がりました。いま思うと、ピラティスのエクササイズの中にはダイナミックストレッチに似たような動きがいくつかあって、その効果によって可動域が広がったのかなと思います。
ちまたで言われる“しなやかな筋肉”というのは、可動域いっぱいに筋を活動させられる筋のことだと僕は思っています。
そう言った観点では、ダイナミックストレッチやピラティスは自己作用で可動域を広げる点で、まさにパフォーマンス向上に役立ちそうな気がします。
まとめ
・スタティックストレッチは可動域を広げる、以外にはエビデンスが不十分
・むしろパフォーマンスには悪影響を及ぼすことが示唆されている
・スタティックストレッチを行うならば短時間および不快に感じない程度で十分
・スポーツなどのパフォーマンス前にはダイナミックストレッチが推奨される
今回は簡単ではありますが、ストレッチについてまとめてみました〜!
それではっ!
noteに書かれていることは
正しさや分かりやすさを
保証するものではありません。
内容をちゃんと知りたい、
という方はぜひ原著、原品をお目通しください。
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