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『嗣永伝 NO.3』 嗣永の自己紹介というか、活字に苦手意識を持っている人間が、自身で小説を書くようになった経緯を語っていく。


そんなこんなで、やっとの思いで小説を1本書き上げたぼくは、この時点で小説を執筆しはじめて、10年の月日が経っているのだった。

ちなみにこのときには、家庭の事情で地元の福岡に戻ってきており、福岡で会社員として働いていた。

あ、ついでにつけ加えると、福岡は地元なだけで、出身地はべつにある……。

それはさておき、それからしばらく経ち、短編とはいえ1本の小説を書き終えたぼくは、もしかしたらこの勢いで、長編も書けるのではないか? 文芸賞にも応募出来るのではないか? と密かに野心を抱きはじめる。

とはいえ、長編小説となると、さすがに全編成り行き任せの、行き当たりばったりで、書き上げるわけにはいかない。

テーマくらいは必要になるだろう。

主人公の設定はどうするのか?

舞台はどこにするのか?

あらすじはどういう風に組み立てるのか?

最低限の設計図くらいは、考える必要がある。

どうするか???   どうしようか???

そんなときに、一つのアイデアが頭に浮かぶ!!!

あーーーー、風俗業界の純文学って見たことないわ!!!!

(実際はあるかもしれないけど、ぼくは読んだことがなかったので、そう思い立ち、すぐに行動に移す)

よし、では、まずは取材だ!!

といっても、風俗慣れなどしていないぼくは、いきなり店に行くのは怖かったので、とりあえず天国のサイト(成人男性なら誰でも知っている)で、写メ日記を読み漁ることにした。

ふつうは「お礼日記」や、「今日はどこどこで、何を食べました♡」などの、どこぞのインフルエンサーが、ツイートしてそうな内容の日記ばかりが、大抵は呟かれているのだが、ここで一人だけ、「お!!」と、目を引く女の子の写メ日記に目が止まる。

「この人だ!! この人に取材を申し込もう!!」

さっそくその女の子の出勤してる日程を調べ、店に予約の連絡を入れる。

この時点で〝心臓はバクバク〟である。

かなり愛想のいい男性スタッフが電話に出てくれ、「あー、わかりました。○○ちゃんですね。あ、その時間なら大丈夫ですよ」と、思いのほか、すんなりと予約を取り付けることができた。

当日は慣れないホテル街へ足を運び、ネットで調べたホテルの場所に向かう。(取材拒否を食らう可能性もあったので、なるべくホテル安いところを選んだ)

またも〝心臓はバクバク〟である。

あーー、取材拒否されたら、どうしよう……
キモがられたら、どうしようか……
いきなり「小説の主人公のモデルになってください!!」なんて、さすがにヤバイ人確定だよな……

などと考え事をしながら、受付で会計を済ませ、ホテルの部屋へと上がる。

たばこ臭い殺風景な部屋が広がっており、照明をつけても、どこかどんよりとした雰囲気があった。

30分ほど女性の到着を待っていると、とつぜん部屋の電話が鳴る。

「おつれさまが到着されました……」

「はい。お願いします」

そう短いやりとりを済ませ、女性の到着を待っていた。

コン、コン、コン……

部屋のドアをノックする音が聞こえ、ドアに向かう。

恐る恐るドアを開けると、写メで見た通りの、小柄な女性が立っていた。

「どうぞ……」

と彼女を部屋に招き入れる。

ほとんど会話らしい会話もなく、彼女がぼくの後ろを着いて、部屋へと入ってくる。

この時点で緊張しすぎていて、その後、実際にどんな会話をしたのかも覚えてないが、「何時間コースにするのか?」なども確認事項を聞かれ、「予約通りでいいです」的なことを言ったのではないかと思う。

その後は彼女が事務的にお店への連絡を済ませ、ぼくから金額の受けとると、軽い世間話を交えたあとに、

「じゃあ、シャワーでも、行きましょうか?」

と、ぼくを誘う。

※ あ、一つ言っておきますけど、お色気シーンはないので、それを期待して読んでる人は、ブラウザバックでお願いします。

「あ、いや……」

力ないぼくの言葉に、彼女が首を傾げてきょとんとしたまま呆けている。

意を決してあの言葉を伝えた。

「あ、あの、ぼく小説を書いてるんですけど、といっても、まだプロじゃなくて、デリヘル業界を舞台にした小説を書きたいと思ってるんです。それで、今日をあなたを呼んだんですけど、あの、も、もしよければ、ぼくの書く小説のモデルになってもらえませんか!?」

ここまで、ほとんど一息で、畳みかけるように目の前の彼女に思いの丈を打つけた。

きょとんとした顔が、今度は唖然となり、小首を傾げたまま、彼女の表情が固まる。

ハトが豆鉄砲ならぬ、デリヘル嬢が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。

あーー、やらかした!!!!

固まる彼女を前に、内心、頭を抱え込んでいると、次の瞬間、

「いいですよ」

と、彼女が予想外のことを言う

「へ?」

今度はこちらが、豆鉄砲を食らう……。

「いや、だから、その小説の主人公。いいですよ。モデルになっても……」

まかさ引き受けてくれるとは思ってもおらず、落胆して帰ることを想像していただけに、そのときの気持ちは、まるで初恋の相手にでも告白して、OKの返事をもらったときのような、学年一のマドンナに告白して、運良く高嶺の花をGETできたときのような、そんな気持ちだった。

ちなみに、この時点で、ぼくは35、6歳だったと思う……。


そして、こうして書きはじめたのが、ぼくの処女作でもあり、代表作でもある

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』



であった。


次回へ続く……



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