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『嗣永伝 NO.4』 嗣永の自己紹介というか、活字に苦手意識を持っている人間が、自身で小説を書くようになった経緯を語っていく。


デリヘル嬢の彼女に小説の主人公のモデルを引き受けてもらえたぼくは、『蝶々と灰色のやらかい悪魔』の執筆に取りかかったのだった。

彼女からの取材をもとに、まずぼくは『蝶々と灰色のやらかい悪魔』の世界観の設定に取りかかる。と言ってもモデルだけは決まっているので、それを元に設定の肉付けをするだけなのだが、そのほかの足りない部分の設定をストーリーに矛盾がでないように補っていく。

設定がある程度完成したら、今度はストーリーなのだが、ぼくの小説の書き方は、冒頭から思いつくままに筆を走らせるスタイルなので、基本的にストーリーの構成は、そこまで細かく先のことを決めたりはしない。

(なので、調子の波は激しいし、詰まるととことん詰まってしまう……)

とりあえず書いてみて、それを元に、どういうストーリーにするのかは、徐々に決めていくというか、書き進めるにつれて物語の雰囲気などから、次の展開を決めていくので、実際に書いている自分でも、正直なところ、その先のストーリーは、あまり見えていない。

ほんとに、ざっくりとストーリーの雰囲気だけが決まっていたり、最後の結末だけが決まっているけど、そこに至るまでのあらすじとか経緯みたいなものは、曖昧だったり、まちまちだ。

ちなみに『蝶々と灰色のやらかい悪魔』(以後、〝蝶々〟と略す)は、書き進めていく段階で、結末だけは先に決まっていた。ほんとはもっとストーリーを長くして、ミステリーの要素も取り入れようかとも考えていたのだが、文藝賞に応募する都合上、これ以上、物語を長くしてしまうと、原稿用紙300枚という規定に引っかかってしまうため、断念した。というか、現在の『蝶々』の終わり方が、ぼく的には一番キレイでスキなので、今後続編を書くつもりは今のところない。

それに、書かなければいけない、ネタが山ほどありすぎて、そこまで手をつける余裕がないというほうが、正しいのかもしれない……。

また、話が脱線しそうになったので、『蝶々』の執筆に話を戻す。

ということで、『蝶々』の細かな設定と、ざっくりとしたストーリーが決まったぼくは、徐々に小説を書き進めていくことになる。

そのとき執筆作業と並行して、会社員としての仕事も続けていたので、執筆する時間は、会社が終わってから帰宅する前に、自宅近くのコンビニで車内で執筆することが多かった。その際、なるべく広い駐車場のあるコンビニを選ぶようにしていたのだが、理由としては、長いときには2時間も3時間も、無断で駐車場に車を停めて執筆することもあったので、さすがにスタッフや人の目が気になるので、なるべく目立たないように、トラックの運ちゃんとかも休憩ついでに、停めているような広目の駐車場のあるコンビニを選んでいるだけだ。

ちなみになぜ自宅では執筆をしないのかというと、単純に執筆に集中できなくなるからである。家には猫もいるし、そのときは母親と同居していたこともあり、喋りかけられたり、猫に遊びの相手をせがまれたりと、執筆を妨害する要因が多数あったため、会社帰りにコンビニで執筆をするようになった。何回か自宅の一階にある自分の契約している駐車場で執筆をしていたことがあったのだが、その際に一度だけ、「不審者がいる」と近所の人に通報されてしまったことがあったため、それはしないようにしていた。

で、ほんとは半年くらいで、『蝶々』の執筆を終わらせる予定だったのだが、なにせ仕事をしながら執筆をしていることもあり、そんな短期間では長編の執筆は終わるわけもなく、結果的に一年半もかかって『蝶々と灰色のやらかい悪魔』が完成することとなった。

ちなみに余談なのだが、その間、何回かモデルの彼女に、執筆の進み具合を報告&追加取材するために会いに行っている。ただ、毎回、そういう目的(大人の目的)ではなく、彼女に会いに行っているために、彼女も申し訳なく思ったらしく、「数万円も払ってもらって、執筆の状況報告だけさせるのは、ちょっと気が引けるから……」と、ほんとは禁止されているらしいのだが、途中からLINEの交換をしてもらえることになった。

そして、原稿が完成し、前回は10年越しのスランプを抜けて小説を完成させた喜びで、放心状態だったのだが、今回のは1年半越しの執筆活動の末に、長編小説を完成させただけに、そのときの感動は、前回に匹敵するものがあった。いや、それ以上か……?

目をつむると、そのときの情景が、今でも頭に浮かんでくるほど、しばらく放心していたと思う。涙が込み上げてくるわけでもなく、胸の底から、ジーーーンっと、何かが込み上げてくるような、じんわりとした暖かい感動が、頭の先まで伝わってくるような、そんなゆっくりとした静かな感動だったのを、今でも鮮明に覚えている。

小説を書いて鳥肌が立ったのは、後にも先にもそのときだけだった。


ちなみに、そのとき書き上げた『蝶々と灰色のやらかい悪魔』の最終回が、これだ……。



次回へ続く……




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