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********** -夜鷹のさがしもの・失われた時間- 「ヨタカ、何してるんだ?」 クリスに声を掛けられて夜鷹は手に持っていたアルバムを閉じた。クリスの視線がそのアルバムに止まる。 「ああ、またグランパの写真か」 「Yes.」 人が増えたからか、息苦しさを感じて窓を開けるために席を立った。クリスはそんな夜鷹を面白そうに眺めて話を続ける。 「学校はどう?」 「悪くない」 「たまにはここに来ないで友達と遊んでもいいんだよ」 「どうやって? 車じゃないと移動できないじゃな
********** -孔雀のさがしもの・失われた時間- 最後の夏の大会も終わり、そろそろ勉強に本腰を入れなければならないことは分かっていたが、孔雀を容赦ない睡魔が襲う。 午後の数学の授業。謎の外来種の記号が黒板で蠢いている。きっとあれが教室に眠気をばらまいているに違いない。 どうでもいいような妄想をしていたら、ふとプールサイドの猫が目に入った。生い茂る緑の合間をちらちらと獲物を物色して動いている。 思わず、ノートを閉じて午睡をしようと思っていた手が止まった。
********** -雲雀のさがしもの・失われた時間- 春。校門前の桜並木を風が揺らし、花びらが舞っていた。裾のだぶつく真新しい制服が目に付き、去年の自分を思い出す。 とは言っても、昨年の春の記憶は曖昧だ。気がついたら自分はこの桜並木を両親と一緒に歩いていた。自分が既に中学生だということに、酷く違和感を感じた。 小学校時代、自分は何をしていたのだろう。記憶のない不安を抱えたまましばらくぼんやりと過ごした。 幸い、他の学区から”転校”してきた雲雀に、同級生は親切だ
********** -燕のさがしもの・失われた時間- 燕は今日も図書館に居た。 読んでいた本から顔を上げ、午後の陽の射し込む窓辺の席から外を眺める。落ち葉が木枯らしに舞っていた。 高いヒールの音が響いて振り返ると、知らない女の人の後ろ姿がスチール棚の奥に消えて行った。棚に並んだ色褪せた背表紙の群れ。そこにはまだまだ未知の世界が広がっていた。 学校の図書室に居るとやたらと声を掛けられるので、最近は学校帰りにこの図書館に寄ることにしていた。 無意識に心理学や脳科
********** -斑鳩のさがしもの・失われた時間- 中学に入っても相変わらず兄の後を追ってばかりいる自分を情けなく思いながらも、斑鳩はそれを変える術を持たなかった。 特に、曖昧な記憶を背負った心細さを紛らわすためには、何か確かなものに寄りかかっているしかなかったのだ。 永遠に見つからない探し物をしている気分だった。 そんな斑鳩に大学生の兄は、気晴らしに新しいスニーカーでも買って来いよと言って小遣いをくれた。ご丁寧におすすめの店まで教えてくれる。そして斑鳩は兄
夜鷹が話し終えると、雑木林に重い沈黙が降りてきた。先程まで聴こえていた筈の蝉の声さえ聴こえない。世界中から音が無くなってしまったようだった。 当然ながら話を聞いたからといって記憶が戻ったわけではなかった。しかしそれは全くの他人事にも思えなかった。そうだったのか。素直にそう思った。そんなことを経験したならば、確かに忘れてしまいたくなったかもしれない。 イーグルという猫の存在が心に引っかかる。それでもそれは、夜鷹にしたのと同じようには雲雀の記憶を引き戻してはくれなかった。
********** -夜鷹のさがしもの・冬- いよいよだな。 ここ数日、ずっと機会を伺っていた。ようやく計画実行できそうな日の朝、夜鷹は念のため鷲宮神社を訪れていた。万が一特別な行事があって、いつもと神社のスケジュールが違ったりしてはいけないと思ったからだ。 本殿の様子を見てどうやらその心配はなさそうだと分かり、安心して本殿脇の階段を上る。雑木林の小道を歩き始めると、落ち葉の道に午前中の柔らかい陽射しが降り注いでいた。 小さな池の端で煙草を加えながら釣り糸を垂れ
********** -孔雀のさがしもの・冬- 小学校最後の試合を勝利で飾っても、孔雀はそれを心から喜ぶことができなかった。 皆が帰った後、校庭のバスケットゴールの支柱にもたれて空を見上げると、リング越しに以前も見かけた大きめの鳥の影が目に入った。忘れられたバスケットボールがひとつ転がっている。孔雀は立ち上がってそれを拾い上げた。 幻の対戦相手は大人たちの影だった。夜鷹の両親、自分の両親……燕の私立進学を決めた両親だって敵だ。雲雀のことを信じなかった親も、斑鳩の思い
********** -雲雀のさがしもの・冬- 明日は大晦日だ。今日は両親ともに午前中で仕事を終え、会社の大掃除をして早めに帰宅することになっていた。 雲雀はその前にイーグルに会いに一人で秘密基地へ行った。そしてそのままなんとなくイーグルを連れて奥社側から鷲宮神社にお参りに来たのだ。 すぐに大晦日と新年が控えているので神社にも参道にも人は疎らだった。まだ設営途中の屋台が並んでいて、余計に寂れた感じを出していた。 雲雀はポケットから五円玉を一枚取り出して賽銭箱に投げ