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【読書感想文】今井悠介さん「体験格差」

僕は今、京都でLaughterというコーヒーショップを運営しています。

2021年、「親ガチャ」という言葉が流行語大賞にノミネートされました。
生まれもった容姿や能力、家庭環境によって人生が大きく左右されるという認識に立ち、「生まれてくる子供は親を選べない」ことを指した言葉です。

主に親の経済力によって子がどんな生活を送れるか?という点に焦点が当てられ、「学力」や「経済力」の格差が注目されますが、その根幹ともいえる「人生経験」の格差に着目したのが、今井悠介さんの『体験格差』

公益財団法人チャンス・フォー・チルドレンを立ち上げ、経済的困難を抱える子供たちに向けて、学習や文化、スポーツ体験等で使える「スタディクーポン」の配布などの活動をされてきた今井さん。

活動を通じ、子供たちの「体験格差」に関する網羅的なデータが不足していると感じ、自ら調査に乗り出します。

その調査に個別のインタビューや、これまでの活動を踏まえた今後の対応策をまとめたのがこの本です。


・「親ガチャ」はある種仕方ないと思っていた

そもそも皆さんは「親ガチャ」という概念についてはどんなイメージをお持ちでしょうか。
僕は、親によって人生が左右される部分があることについてはある種仕方がない部分もあるのかなと思っていました。

人類全員が同じ環境で生まれることは不可能ですし、親のバックグラウンドによって子に与えようとするものが変わることはどうしようもない事でもあるなと。

オリンピック選手で、親御さんが元選手だったり、その競技の教室を開いていたりして、家に練習設備があったから物心ついたころからその競技にのめり込んでいた…。というエピソードを聞くことがあります。

これも「親ガチャ」の一つでしょう。
(その後めちゃくちゃ努力されたことはもちろんですが、競技への接点をいち早く恵まれた環境で手に入れたという意味です)

僕自身、現在はコーヒー屋をしておりますが、実は21歳までコーヒーを一切飲んだことがありませんでした。
これも、両親がコーヒー嫌いで我が家ではコーヒーを飲む習慣が一切なかったことが結構影響していると思っています。

マンガをほぼ読まない両親だったので、週刊少年ジャンプを読んだことはなく、我が家では金曜ロードショーを見る習慣が無かったので、ジブリ映画を一本も見ることなく27歳になりました。

その家ごとにカレーの作り方が違って、「我が家のカレー」が出来上がるように、育ち方の違いも個性の一つだと考えていました。

しかし、この本を読んでいくとただ「育て方の違い」では片づけられない深刻な状況が浮かび上がってきます。

・「育て方の違い」で片づけられない深刻な状況

この本を読み始めたとき、「体験格差」といっても「旅行や習い事などのやりたいことが全てやらせてもらえるわけではない」位の事だと思っていました。
しかし、今井さんの調査によると、年収300万円未満の世帯では直近一年でスポーツ系や文化系の習い事への参加もなければ、家族旅行や地域のお祭りへの参加も何もない「体験ゼロ」の子が29.9%いるそうです。

「体験を我慢したことがある」ではなく、「ここ一年一切体験活動をしていない」子が約3割なんです。これには驚きという以上に言葉が出ませんでした…。

辛うじてこうした体験が出来ていても、「金銭的余裕がないので車で20分かけて地域の公民館で将棋をしている」「年に一回無料の日だけ動物園に連れていける」というケースも。

部活には参加で来ていても、遠征や合宿には行けない子もいるそうです。

「勉強だけが人生じゃないから!」と軽々しく言えない時代になっているといえます。むしろ、勉強こそが最も公平にそれぞれの子供たちに与えられているものかもしれません…。

・じゃあ、どうやって体験を支えるのか?

となると、どうすれば良いのか。
結局は、収入や資産に余裕のある方が支援できる仕組みの構築や、退職後の方や学生といった、ボランティアに近い形で稼働できる人材をうまく活用していくしかないのかなという気はしています。

本書の中でも書かれていますが、チャンス・フォー・チルドレンさんの支援もどうしても学習機会の確保が優先され、体験機会の提供にリソースを割くことが中々難しかったようです。

こうした体験は人生の余白を彩るようなものなので、その重要性や緊急度はどうしても下の方になってしまいます。

今の時代こういった「余白」がどんどん奪われて行っている感覚があります。国民生活はどんどんひっ迫して、金銭的余裕が失われつつある中に、SNSなどの発達で、常に何かに追われているような感覚がある…。
効率が重視され、色んなものに最短距離で近づくことが良しとされる。
しかし、僕の人生を振り返ってもそういった余白の部分が、かけがえのない人間関係に繋がったり、進路選択の上でキーになったりしました。

そして、一コーヒー屋として、そんな「余白」を大切にできるお店でありたいし、社会問題と言えるこの課題に自分には何ができるかを考え続けていきたいと思います。


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