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井川直子さんの「美しい文章」に感動した話

「積読本が沢山あるし、興味ありそうな本何冊か貸してあげるよ」
先輩が貸してくれた本の一冊が井川直子さんの「昭和のお店に惹かれる理由」だった。

主に料理人、生産者、醸造家など、食と酒にまつわる「ひと」と「時代」をテーマとしたノンフィクションやエッセイを執筆している井川さん。
そんな井川さんが昭和から長い歴史を紡いでいた名店たちに足を運び、それぞれの歩みやこだわりを綴ったのがこの本だ。

しかしこの本。店主へのインタビュー本でもなければ、各店のおすすめを紹介するグルメ本でもない。

それぞれのお店が紡いできた歴史、魂、こだわり、苦悩、挫折、常連さんの声…。
ただ情報をかき集めただけではない「厚み」が伝わってくるのだ。

そして、自然と店のカウンターで一杯飲んでいる気分になる。そして、マスターや女将の心意気が手に取るように伝わってくる。美しい文章の余韻にいつまでも浸っていたい気持ちになった。

ここまで読んでくださった方は大変驚かれると思うが、この本では写真がほとんど使われていない。
各店の最初のページに外観の写真が一枚載っているのみで、店内の写真も、こだわりの料理の写真も、店主の写真も一枚もない。

美味しそうな料理の紹介や、声まで聞こえてきそうなインタビューなどを読んでいると、その目で見たくなるのだが写真での補足は一切ない。

「その魅力は実際に足を運んで確かめてね」と言わんばかりだ。
SNS全盛期の今、写真や動画が持つ力は計り知れないものがある。
回りくどい説明よりも、一本の動画や一枚の写真の方が効率よく、より沢山の情報を伝えられるのかもしれない。

しかし、こんな時代だからこそ文章を読んで想像を膨らませる楽しさを再確認させられた。

昔を懐かしがるわけでもない、伝統を押し付けてくるわけでもない。
それぞれのお店が生きてきた「証」がそこにはある。




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