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チーズフォンデュと世界から隠れたスイスワイン

2019年,世界がまだパンデミックの影を予感させていなかったころ、私はスイスに行った。

あの時は海外の大学院に進学することを少し検討しており、中でもアインシュタインの出身校、スイスのチューリッヒ工科大学に興味があった。
そこで、彼の足跡をたどり、その地の空気を自分の肺で感じたくて、スイスへと旅立ったのだ。

スイスは私が想像していた以上に息をのむような美しさで、アルプスの雄大な景色にはただただ圧倒された。

長野県出身の私は、自然の風景には慣れ親しんでいたつもりだったが、スイスのアルプスは、そのスケールの大きさで私の心に新たな感動をもたらしてくれた。
旅の大半を電車で移動し、窓からの絶景に目を奪われる時間は、まさに至福のひと時だった。


スイスの人々の生活に触れ、その穏やかな日常からも多くを学んだ。

道端で出会う家族の暖かい挨拶、道に迷った私にフランス語で親切に道を教えてくれた老婦人・・・。
アインシュタインがこの地で育ち、彼の柔軟な思考が養われた背景には、このような暖かなコミュニティの存在があったのかもしれない。

そして、スイスの食文化に触れた体験は、私の旅のハイライトの一つだ。
スイスはドイツ、イタリア、フランス、オーストリア、リヒテンシュタインの5か国に囲まれた国。そのため、国内の食文化は地域によって大きく異なり、ヨーロッパの豊かな味わいを一度に楽しむことができる。
北はドイツに近いのでドイツの名物であるソーセージ、南はイタリアに近いのでイタリアン、西はフランスに近いのでフランス風のパンやフレンチ料理を楽しめる。

一方で、周辺の国の食文化を色濃く反映しているため、“スイス特有”の食というのは少ない。
そんな中“スイスの名物”ともいえるのがチーズフォンデュとスイスのワインであるシャスラワインである。

酪農が盛んなスイスではチーズがたくさん取れるため、固くなってしまったチーズとパンを美味しく食べるために考案されたスイスの伝統料理だ。


作り方は非常にシンプル。
白ワインにチーズを溶かして、熱をかける。
そうするとチーズがとろとろに溶ける。
そこに一口大に切ったパンを絡めて食べる。

白ワインをベースにしたその料理は、白ワインとの組み合わせが、まさに口福の極みだった。
スイスと言えば世界でも有名な幻のワイン”シャスラーワイン”の原産地でもある。
スイスで栽培される”シャスラー”というブドウの品種を使ったワインだ。

シャスラーワインは、スイス国内でほとんど消費されてしまうため、世界ではあまり知られていない。しかし、その爽やかでフルーティーな香り、軽やかな味わいは、まるで春のアルプスを思わせるよう。チーズフォンデュとの組み合わせは、シンプルながらも味わいに深みを加えてくれた。

日本でも一時期ブームとなり、今やどこでも食べることができるチーズフォンデュだが、スイスのアルプスの麓で味わうその味は、まさに格別のものだった。スイスの旅は、私にとってただの場所の訪問以上のものとなり、心に深く刻まれた貴重な体験となった。


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