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中村哲『天、共に在り アフガニスタン三十年の闘い』を読んでみた。

アフガニスタンで医療施設の拡充と共に灌漑事業に尽力し、数多くの難民を救った中村さんの本を読んだ。

中村さんは現地で医療にあたる中で、病気ではなく旱魃により命を落とす人々を数多く目にし、「今は命を救うのは医療ではなく水だ」と決意し、そこから医療と並行して現地で旱魃から人々を救うための灌漑事業をゼロから立ち上げ、リードして来た人だ。

残念ながら、中村さんは昨年12月に現地で何者かに射殺された。73才だった。

この本は、福岡で医者として働いていた中村さんがなぜアフガニスタンで医療を始めたのか、そして医療から灌漑事業に軸足を移した理由、そしてそれがどれだけ現地の人々の生活に文字通り潤いをもたらしたのかが、中村さん自身の言葉で語られている。

どれだけの苦労があったのだろうか。中村さんはその点については大まかにしか述べていないが、日本にいては想像もつかない苦労の連続であっただろうことだけは容易に想像がつく。アフガニスタンはアメリカによる空爆のターゲットになり、現地の政府は解体され、その過程で誕生したタリバンにも因縁をつけられ、米軍にも銃撃される。裏切り、交渉、死別。そして人間だけではなく自然にも翻弄される日々。拡大する旱魃とそれと相反する洪水。そういう状況にもかかわらず、ゼロから、自分の思いだけで、現地の人々を動かし、自らツルハシも手に取り水路を作り、砂漠を緑地に変えたのだ。この本にも多くのカラー写真が掲載されているが、JICAのホームページ掲載されている変化をまずは見て欲しい。これは偉業としか言いようがない。

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そしてそれと同時に、全てのことは必ず両サイドから見ないといけないと痛感した。それは昨日読了したエリン・メイヤーの『異文化理解力』で学んだことだ。ここに書かれているアフガニスタンの状況は、僕たちがニュースで知るアフガニスタンではない。反米でも反タリバンでもなく、ただ平和に暮らしたい農民の人々。戦争よりも今起こっている旱魃にどう対処するか、そして飢えゆく子どもの命をどうやって助ければいいのかもがく親たち。そんな現実は日本では全く報道されていなかったし、僕も正直中村さんが亡くなるまで、彼の偉業にも、現地の実情にも全く耳を傾けたことさえなかった。

散り散りになった両親の肉片を泣きながら集める子どもたち。中村さんがいうように、現地の実情も知らない政治家たちの都合で行われた戦争はゲームでしかなく、そこには憎しみしか生まれない。両親を殺された子どもたちが大人になった時、一体何が起こるだろうか。

一方で、水が命と生活を支える環境だからこそ、灌漑で潤った人とそうでない人の間で争いや葛藤があったのも事実だろう。それはこの本の中でも若干描写されている。そしてそこで生まれた利害が元で、中村さんは一部の人たちに誤解されてしまったのかもしれない。

実は、この本を買った当日に、著者の中村さんを殺害したとみられる男を拘束したというニュースが入った。中村さんの命は帰ってこないが、せめて真相がわかるといい。

でも一方で、この本を読了した今、 中村さん本人は「俺のことなんてどうでもいい」と天国で思ってるかもしれないとも思う。

まだ実現したいプロジェクトはたくさんあり、悔しかっただろう。天が、中村さんと共にありますように。心よりご冥福を祈ります。



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