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映画『杜人』 〜 編み込まれる @日田リベルテ

「年々、暑さがひどくなっているね」という言葉を、夏になれば誰しもが必ず耳にする。あるいは、自らがそんな意味合いの言葉を発している。例に漏れず、今年も夏の暑さに拍車がかかっている。立秋を過ぎても、残暑というより、いまだ夏真っ盛りといった感じだ。

先日訪れた大分県日田市は、さらに暑さの質が違うように感じた。暑さと湿度が混じり合い、ずっしりとそれを体感。ちょっと前に、仕事の関係者で日田出身の方がいて、日田は暑いよ!と言われていたことを、後悔の念とともに思い出していた。

とはいえ、日田駅に到着した私は、昼食に東華ファミリーの甘めのカツ丼をお腹いっぱいに満たし、喜びを胸に一目散に目的地に向かった。

この写真だけだと、わざわざ日田までボーリングをしにきたの?と言われそうだが、そうではない。この隣に、日田リベルテという映画館が潜んでいる。なぜ「潜んでいる」と書いたかというと、初めて来た時、どこにあるかが本当に分からず、迷ってしまったからだ。今回は3回目なので、左の階段から登って入ることは大丈夫。

『杜人』およびその他作品のチラシ

8月19日、私は、日田リベルテで催された映画『杜人 環境再生医 矢野智徳の挑戦』の上映と前田せつ子監督のトークイベントを観覧してきた。
この作品を鑑賞するのは、今回で3回目。昨年、幾度か監督トークイベントに参加する機会があったものの、様々な事情が発生し叶わず。念願かなって、イベントに来ることができたことは、感無量だった。

杜人という存在

そもそも、なぜ私がこのドキュメンタリー映画に惹かれるのか。主人公である矢野智徳さんは、造園家であり、環境再生医と呼ばれている。風の剪定という手法で手入れをした場は、瞬時に風の通りが健やかになる(らしい。体感したい)。また手スコップを使って、傷んでしまった大地を甦らせることを、懸命に私たちに伝えてくれている。
杜人の「杜」という文字について、パンフレットにはこのようにある。

「『杜』とはこの場を『傷めず 穢さず 大事に使わせてください』と人が森の神に誓って 紐を張った場」

まさに、矢野さんは、私たちの先頭に立って杜を守ろうとしている「杜人」なのであろう。矢野さんが発する言葉は、私の思索に多くの活力を与えてくれる。

通底するもの

矢野さんの思考の方向性には、自然哲学の一つ、易経があると思っている。
易経の根本には、自然が存在し、自然の摂理、道理がまとめられ、何千年にもわたって大事に引き継がれてきた。実は、2020年秋、私は愛犬の大病をきっかけに、薬膳、中医学、そしてその土台となる易経へと学びを深めている。

すべての存在は、変化をし、その変化には一定の法則があり、このことを知れば、すべてのことは容易に理解できる。易経の三易という考え方。また「足りなさすぎる」「満たされすぎる」という過度な状態ではなく、中庸を尊ぶ。中することを何よりも大事にする。こんなに簡潔に言えるほど簡単なことではないが、矢野さんの思いはこの思想と通底しているように感じるのだ。

矢野さんは自然、つまりすべての生命に対して誰よりも責任を全うしようとしている。

「息をしている限りは可能性があって、人が決められることじゃなくて。息をしている限りは、ちゃんと生きる可能性がまだあるから、あきらめないっていうか。あきらめるわけにはいかないし」(パンフレット内のシナリオ引用)

矢野さんの生き様が、この発言だけとってみても、はっきりとわかる。

私ごとで恐縮だが、先ほど触れた愛犬、この数年、本当に大病が続いている。僧帽弁閉鎖不全症からはじまり、胸椎変形性脊椎症、脾臓の結節性増生に伴う摘出、急性膵炎、そしてこの7月には盲腸の悪性肉腫(GIST)および空腸炎症による切除など、文字にするだけで痛々しさが伝わってしまうと思う。しかしながら、その一方で、当の本人は、先日12歳の誕生日も迎え、自宅ではただただのんびりと過ごして、ごはんを食べ、散歩の途中で排泄をして、わんちゃん友だち(ワン友)とじゃれあい、日々を満喫してくれている。

私にとっての自然、生命は愛犬。どんなに小さな存在でも、大自然と変わらない。これぞ整体観念である。
そして、矢野さんの思いと通底しているように思う。
だから、私も、あきらめるわけにはいかない。「息をしている限りは」。

まだお目にかかったことのない、矢野さんにただならぬご縁を感じてしまうばかりだが、実は、矢野さんとは同郷。北九州市出身。さらには、私の母が30年近く入院していた病院のちょうど裏手に、矢野さんの旧家(現在は市が管理する植物園)があるという奇遇。加えて、前田監督は、命のスープ(玄米スープ)で大変著名な辰巳芳子さんともお仕事で深い関わりがあるとのこと。私の母は、この命のスープで、当時命を繋ぎ止めることができた。その時の経験から学んだことは、いまでも薬膳や易経の学びにおいて非常に助けられている。
前田監督との雑談の中で、矢野さんと辰巳さんの言葉には同じものを感じるとおっしゃっていた。
この数年のさまざまな体験を経験とし、同時に専門分野の知識や情報をかき集め学んできたことが、私の中で一つひとつ束ねられ丁寧に編み込まれていくかのようだ。愛犬から、闘病の母から、映画から、薬膳・中医学そして易経から、身の回りのすべての存在から。これらが、一つの大作に育まれていく感触がある。

映画『杜人 環境再生医 矢野智徳の挑戦』は、今まさに我々が直面しているあらゆる課題と問題を解きほぐし、または学びほぐす手立てになることを、信じてやまない。気になった方はぜひネットで検索を。
そして映画館で映画をご覧ください。


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