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「おかえり」が聞ける場所。
実家に帰省し「ただいま」と声をかけると、「ただいまじゃないでしょう。あなたはもう家を出たんだから」と両親に窘められる。
私はなんと答えればいいのかわからなくて(「こんにちは」だと他人行儀だし)、ただへらへらと笑って気まずい時間をやり過ごす。
「ただいまじゃないでしょう」がはじまったのは、私が結婚してからだ。
実家を出ても独身だった頃は「ただいま」が許されていた。
結婚した兄に対しても「ただいまじゃないでしょう」は発動しているので、嫁に行く or 家を継ぐ、みたいなことは両親にとって重要ではないらしい(その点はとても尊敬している)。
配偶者と築いていく家庭があるんだから、帰る場所はここじゃない。
両親のそのピシャリとした態度を、“冷たい”と感じることもあるけれど、さっさと自立できたのはそんな教育のお陰だなとも思う。
◇◇◇
「結婚した子供は家を出たんだから、帰省時に“ただいま”という挨拶は適さない」この考え方は、どこまで一般的なんだろう。
すくなくとも夫はそんな私の両親を見てぎょっとしていたし、家族みんなが帰る場所みたいな文脈で赤ん坊を連れた女性が「ただいま」と実家に帰省する住宅CMもみたことがある。
「ただいま」「おかえり」
温かくていい言葉だ。相手が受けいれてくれるという信頼関係のもとに成りたつ挨拶。
自立を促してくれた両親には感謝しているけど、私にはもう、「ただいま」を言える相手が夫しかいない。
ひとりでも「おかえり」を言ってくれる人がいるだけで幸運なのは重々承知だけれど。そんなひとりをきちんと大切にしたいと思っているけれど。
自分の写っていない家族写真が送られてくるたびに(兄に家族が増えて、両親が孫フィーバーを起こしている…)、「ただいまじゃないでしょう」という両親の声が、頭のなかでリフレインしてちょっぴり寂しい秋なのです。
お読み頂き、ありがとうございました。 読んでくれる方がいるだけで、めっちゃ嬉しいです!