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川内倫子の光の魔術師ぶりに感じ入る

東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「川内倫子 M/E  球体の上  無限の連なり」展へ。会期終了が近いので駆け込みで書き込み。

川内倫子(写真家、1972年生まれ)の作品の被写体は、主に「地球」と「生命」である。上空から遠くの地平線を写した作品は、人間などは小さな存在であり地球の営みのごく一部に過ぎないことを思わせる一方で、樹木のみずみずしさや鳥の飛来などが、地球のスケールに比べればミクロなものにこそ生命力は存在するのだということを感じさせる。柔和な表現による作品の数々をぼーっと見て歩くのはなかなか心地よく、いつの間にか川内の世界の中を自然な感覚で旅している自分がいることに気づいた。

さまざまな場面が切り替わるよう構成された映像作品も、心の落ち着きどころというのが今の不安定な世界のどこかにあって、見ているとそこに導かれるような気持ちになる。特にストーリーがあるわけではないのに、次の場面へといざなってくれるのだ。

そうしたテーマがこの上なく魅力的に見える大きな要素として、撮影する際の光のさまざまな回り込みを川内が極めて巧みに制御しているということがある。かすんだり、虹のような反射がレンズに入り込んだりといった、扱い方を間違えれば失敗写真にもなりかねないような写し方を川内は自在に使って、人の意識を現実よりもむしろ夢の世界へと連れて行ってくれる。光の魔術師ぶりに感じ入る経験をさせてくれる展覧会だった。

床一面をスクリーンにした映像作品《A whisper》。川の揺れる水面や反射する光が映し出されている。鑑賞者は中を歩いて通り抜ける
熊本・阿蘇の野焼きを撮影したシリーズ《あめつち》(2012〜13年)展示風景


二つのスクリーンでさまざまな場面の断片が移り変わる映像作品《M/E》(2022年)


【展覧会情報】
展覧会名:川内倫子 M/E  球体の上  無限の連なり
会場名:東京オペラシティアートギャラリー
会期:2022年10月8日〜12月18日
空間設計:中山英之(建築家)

写真家・川内倫子(1972–)は、柔らかい光をはらんだ淡い色調を特徴とし、初期から一貫して人間や動物、あらゆる生命がもつ神秘や輝き、儚さ、力強さを撮り続けています。身の回りの家族や植物、動物などの儚くささやかな存在から、長い時を経て形成される火山や氷河などの大地の営みまで等しく注がれる川内のまなざしは、それらが独自の感覚でつながり、同じ生命の輝きを放つ様子を写しとっています。国内の美術館では約6年ぶりとなる大規模個展である本展では、この10年の活動に焦点を当て、未発表作品を織り交ぜながら川内の作品の本質に迫ります。
展覧会タイトルでもある〈M/E〉は、本展のメインとなる新作のシリーズです。〈M/E〉とは、「母(Mother)」、「地球(Earth)」の頭文字であり、続けて読むと「母なる大地(Mother Earth)」、そして「私(Me)」でもあります。アイスランドの火山や流氷の姿や北海道の雪景色と、コロナ禍で撮影された日常の風景とは、一見するとかけ離れた無関係のものに思えますが、どちらもわたしたちの住む地球の上でおこっており、川内の写真はそこにあるつながりを意識させます。本展は、人間の命の営みや自然との関係についてあらためて問い直す機会となることでしょう。
東京オペラシティアートギャラリー「川内倫子 M/E  球体の上  無限の連なり」展ウェブサイト「イントロダクション」より引用


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