【小説】 変える、変われる。 : 89
お風呂に入って、身体が温かい内にベッドに入った。
「目覚まし掛けないで寝て見ましょうか。」
室内灯をポチっと消しながら聞いてみた。
「でも明日、出掛けるんですよね?」
「予定の時間に起きたら出掛けて、寝過ごしたら、そのままはどうでしょう?」
暗さに目が慣れないのをいいことに、石黒さんにグっと近づいて話をしている。
「わたし、起きられるか自信が無いです!」
元気良く「起きられません」と宣言している、そしてその顔はニコニコしている。
「僕もどうだかわかんないです。えへへ。チャレンジしてみましょう。ただ寝るだけですけど。」
「うん! 寝過ごしたら?」
「どこまで寝てるか、どっちが伸び伸び寝ていられるか勝負しましょう。」
「勝てそう!」
「僕も自信があります。勝った方がご飯を負けた方にご馳走するの。」
「あははは、良いですよ!」
「よし、じゃあ、寝ましょう、おやすみ。」
「おやすみなさいっ」
石黒さんがグっと抱き着いてきたから、僕も抱きしめて石黒さんの顔に自分の顔をすりすりっと猫みたいにこすりつけた。
石黒さんも笑いながら、お返しですりすりしてくれた。
すりすりし合って地味にイチャイチャしている内に、二人とも眠ってしまった。
目が覚めるとすりすりした状態で寝ていたようで、石黒さんの顔がほぼ目の前にある。
寝顔がニコニコのままなのが、たまらなく可愛い。
そして・・、起きる気配が全く無い、完全に負けました。
またまた寝顔を堪能していると、誘われたのか二度寝に突入してしまったようだ。
次に目が覚めた時には、石黒さんが僕の顔を見ていた。
「おはよう。。」
「おはようございます。 負けちゃった。」
笑いながら石黒さんが、すりすりしてきた。
「実は二度寝です」と言おうかなと思ったけど、黙っておくことにした。
可愛い寝顔を今回も堪能させて貰ったからご飯はご馳走するべきだ。
ほとんどお昼に近い時間に近くの公園まで行って、レストランでご飯を食べて散歩して。
夕飯の材料を買って、帰って二人で部屋の掃除をして、夕飯を作って食べて。
お風呂に入って上がって、お茶を飲みながらおしゃべりをしていたら、玉ちゃんから電話が掛かって来た。
石黒さんが僕の隣から離れて、タオルで口元を覆った。
フイのくしゃみを警戒しているらしい。
「もしもし、起きていますかな?」
「今晩は、起きていますよ。」
「新聞は取っているかい?」
「え? 新聞は取っていないです。なんで?」
「経済欄に吉報の記事が載っているのだよ。」
「玉ちゃん、新聞取ってるの?」
「・・、社会を知ることは大事ですわよ。」
「あ、そうだね。」
石黒さんをチラっと見ると、石黒さんも僕を見ている。
「で、何が載っているの?」
「人事。重大な人事が載っていたよ。昨日。」
「お知り合い?」
「知らないけど、重要な人。これから、山が動く鍵の人。」
「ダレ? 捕まったの?」
「人事だっつーの。 来週を待つだよ。」
「何だかわからないですよ。」
「いいのよ、動くから山が。 それまで頼んだよ。」
「なんなの??」
「またね、来週連絡する。」
電話は一方的にプツっと切れて、これまでで最大に訳の分からない電話だった。
もはや離職票は玉ちゃんの脳内には無いのかもしれない。。
「電話、楽しそうでしたね。」
石黒さんが戻って来て、隣に座った。
「うーん、玉ちゃんは楽しそうだったけど、何の話かよくわからなかった。」
パソコンを立ち上げて、新聞社のサイトを見たけど人事の話でピンと来るものは自分には無かった。
けど、横で見ていた石黒さんは、
「あ、畠山さん。。。」
有名企業の常務が退任との記事にその名前が載っている。
「知っている人?」
「一番の取引先の常務さんです。」
「ふーん。。。」
玉ちゃんの言っていた人事とやらは、恐らくこの人に違いないんだろうけど、そんなに鍵になる人物なのかな、常務だけに・・?
「この方が交代するのは知ってた?」
「いえ、、ちゃんとお話したことは無いので。」
「うーん。」
パソコンを仕舞って、早々にベッドに入ってゴロゴロしながら話をしていたけど、頭では「山が動く鍵の人」のことばかり考えてしまった。
次の日も安定して早起きは出来なくて、揃って寝坊した。
プラプラとまた公園へ行ってご飯を食べて、散歩してのお決まりコースを過ごした。
夕飯を食べた後は、またアパートの部屋まで送って行った。
「また明日の夕方にね。」
石黒さんはまた曇った表情に早変わり。
玉ちゃんの山の話が当たるなら、明日から何かが変わるはず。
というか、変わってくれ!!
石黒さんをギュっと抱きしめた。
「明日、またね。」
「うん。お休みなさい。」
帰ったら、常務のことを少し調べてみよう。
玉ちゃんの話にヒントは殆んど無いんだけど。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?