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【短編小説】 お豆な正義の味方!

寒い日に外に出るほど不幸なことは無い気がする。

しかし彼女に「買いに行ってきてよ」なんて言えるはずも無く、あまりにもなヨレヨレの部屋着から着替えて、ダウンを着こみボサボサの髪を隠してくれる暖かいニット帽をスポっと被る。

厚着をしているけどサンダルを履いて出掛ける。


近くのコンビニまで徒歩約10分。

地元の友人に「遠いんだよね」と話したら「こっちは車で15分だろうが」と軽くキレながら言われることを思い出す。「迂闊な話」のひとつ。都会に住んでいるとそんなこともちゃっかり忘れてしまうものである。


そんなことを考えながら歩いていると後ろから「正義の味方登場!!」と聞こえて来た。

幼稚園児くらいの男の子が散歩中のすれ違うポメラニアンを威嚇している。その「正義の味方」の後ろには、小さな女の子が「正義の味方」の「M」とデカデカとプリントされている長袖Tシャツの背中を掴んで隠れている。

「M」・・・、サザエさん方式を応用して「豆くん」と命名。

女の子はジャケットを着ているけど、「豆くん」は長袖Tシャツと短パン、ノー靴下。何で幼児とか小学生男子って薄着なんだろう。

「豆くん」は無事、ポメラニアンを「倒し」て女の子を守ったらしい。

「大丈夫だったろう?」と得意気に女の子に話している。


飼い主さんとソックリな「柴犬」が2匹、今度は側道からやってきた。

夕方は早朝と並んで散歩に持って来いの時間だ。

体のサイズは「豆柴」なのか子犬なのか、小ぶりだけど散歩が楽しくてしょうがない様子で「ワンワンっ」と同じ顔の飼い主さんにジャレついている。

「正義の味方」は若干ひるんだ様子だが、「大丈夫だ!!」と自分に言い聞かせるように発して、果敢に戦いを挑んでいる。柴犬との間合いは1メートル以上だし、飼い主さんは笑いながらリードを強く引いているから「遊んで欲しい」犬は「正義の味方」に近づこうとするけれど、前足が宙をシャッシャっと引っ掻くばかり。

「正義の味方」、辛くも勝利。

ポメラニアンの時よりもやや小声で「ほら、大丈夫だったろ・・」と女の子に威厳を見せている。女の子はニコっとしながら頷いている。


二人はタタタっと自分と同じでコンビニ方面へ駆けて行った。

自分も寒いので早歩きでコンビニへ向かう。


せっかく「3匹」の敵を倒したというのに、コンビニの入り口ほぼ真ん前にかなりデカめなゴールデンレトリーバーが座っている。穏やかな犬種だけど成犬だと「おおっと・・」と大人でも思うタイプである。おあつらえ向きに色が黒、見た目のインパクトは相当だ。ラスボス登場。

「正義の味方」から「豆くん」に戻ってしまったようで、泣き出しそうな顔だけど、女の子の手前、ギリギリ泣くことを堪えている様子で顔が真っ赤になっている。女の子もギューっとシャツを握っているので、「豆くん」の背中がチラっと見えてしまっている。

ゴールデンレトリーバーの飼い主がコンビニから出て来る様子は残念ながら無い。

自分はスマホを取り出して、そっと「豆くん」の後ろに立った。

「ああ、オレ。何だっけ肉まんだっけ? ピザまんだったっけ? から揚げ買うけど、いる?」

張り上げるようにデカイ声で話し始めると、ゴールデンレトリーバーはビクっとしてこちらを見上げると、コンビニの入り口からノロノロと立ち上がってリードが伸びるだけ移動した。

「正義の味方」は女の子を背中に隠したまま、ソロソロっとコンビニ店内へ駆け込んで行った。

「いま、ダイエット中だからいらなーい。ダイエットコーラ希望!」

スマホからは暖かい部屋と同じくらい、ほわっとした緊張感ゼロの返事が聞こえて来た。

「了解~」

ゴールデンレトリーバーは迷惑そうにこちらを見ている。


店に入ると女の子が「けんちゃん凄いね、ワンちゃん、あっちに行っちゃったね!!」と「正義の味方」へ真っ赤なほっぺとキラキラした目で話し掛けていた。

「豆くん」改め「けんちゃん」は「だから大丈夫だったろう!」とクリームパンを握り締めて得意気だ。

自分はダイエットコーラとから揚げと「肉まん」を買って店を出た。玄関脇のゴールデンレトリーバーはもういない。

「正義の味方」は元気マンマンで帰ることが出来るだろう。


「何で買ってきたのぉ??」とブツブツ言いながら、彼女は「肉まん」をダイエットコーラと一緒に食べるだろう。

オレは「正義の味方」か「悪者」か?

あー、けんちゃんになりたい。


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