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ご贔屓の地元クラフトビール醸造所を持つ

ボストン暮らしをしていたとき、クラフトビール醸造所に併設されたバーをよく見かけた。家族、友人、学校や仕事の仲間などが、ビールグラスを片手にお喋りに興じている。フードはあまり頼まず、ビールだけじっくり味わうのがアメリカンスタイルのようだ。


タップルームでは、ヨガクラスや盆栽クラスなどを定期開催する醸造所も。

▶醸造所との距離が近いタップルームやブリューパブ

醸造所に併設されたバーではできたて生ビールを頂ける。お気に入りの一品を味わうのもよいし、季節限定の銘柄にチャレンジしてみるのも楽しい。

ナッツやチップスなどの簡単なおつまみだけ販売しているところから、生牡蠣やムール貝、アンガス牛を用いたハンバーガーなどレストラン並みに充実しているところまでさまざまだ(ちなみに前者を「タップルーム/ Tap Room」、後者のようなキッチン併設型を「ブリューパブ/ Brewpub」と呼ぶ)。

初夏を迎える頃には、人気のクラフト醸造所が眺めの良い公園にビアガーデンを開催し始める。Tシャツに短パンやコットンワンピといったラフな格好に身を包んだ地元民らしき人々が集う。年齢層も様々だ。

太陽のもとで飲むビールは人を饒舌にさせる。西洋人特有のよく通る声で議論し合う声が辺りに心地よく響いていた。やがて陽が傾いてくると小さなステージでギター演奏が始まることもある。

5月にもなるとビアガーデンがオープンし始める。平日昼間でもこの客入り。

▶アメリカのクラフトビールブームは絶賛継続中

日本でも大人気のクラフトビールだが、アメリカのクラフトビールブームはそれを上回る。下の曲線グラフ(Historical U.S. Brewery Count)を見ると、2007年辺りからアメリカのビール醸造所の軒数が一気に増えているのが分かる。2022年時点で9709軒のぼる。ちなみにこのうち9552軒がタップルームやブリューパブを含むクラフトビールの醸造所だ(※その下の表Recent U.S. Brewery Countを参照)。

アメリカの業界団体Brewers Associationによると、アメリカではクラフトビール生産量がマーケット全体の13.2%を占めている(2022年時点)。日本ではまだ1%と言われているので、その勢いのほどが分かる。

Historical U.S. Brewery Count

                               ©2024 Brewers Association

 Recent U.S. Brewery Count

                              ©2024 Brewers Association
この蛇口のような注ぎ口をタップというので、タップルーム。

▶リカーショップの冷蔵庫に収まりきらない、斬新なラベルたち

リカーショップへ行くと、30~40種類ものご当地クラフトビールがずらりと陳列されている。これだけあると選ぶのも一苦労だ。ジャケ買いしようとするのだが各社のラベル熱がまたすごい

奇抜なカラーや模様で目を引くもの、マスコットキャラで統一したもの、幻想的な風景画をシリーズ展開したもの。各社しのぎを削ったデザインが並ぶ、さながら現代美術展

新規ブランドが続々と参入しているため、よほどの人気商品でない限り、銘柄は定期的に入れ替えられる。せっかく見つけたお気に入りの一品が、いつの間にか店頭から消えていたなんてこともしばしば。

スーパーやドラッグストアではアルコールを販売していないのでリカーショップで調達。

その点、醸造所が運営するタップルームへ行けば、お気に入りの一品がいつでも手に入る。

古いレンガ造りに小さな裸電球たちが灯るアットホームなタップルームもあれば、コンクリート打ちっぱなしビルの洗練された雰囲気のタップルームもある。

ここではラベルからは見えなかった醸造所の個性やこだわりを体験できるのが楽しい。よく醸造所のツアーガイドなどで「タップルーム体験(Taproom experience)」と書かれているのを見かけるが的を射た表現だと思う。

グラスやマグカップ、Tシャツなどのオリジナルグッズを見るのも楽しい。

▶醸造所が地元愛を高めると、地元民もファンになってくれる

アメリカのクラフトビール醸造所の傾向として地元に根ざした活動が盛んだ。

地元の地名を冠したビール、地元特産物を用いたビール、地元農家と提携、地域イベントの開催ーーいくつもの仕掛けで醸造所が地元愛をアピール。それに応じる形で地元ファンが増え、繋がり、サポートしていくという好循環ができているようだ。

ある醸造所の公式インスタでは、飲みに来ているお客さんの写真を定期的にアップしていた。友人5〜6人で飲みに訪れたときに、店員さんが写真を撮ってくれて、「この一枚(友人2人が写っているもの)を公式インスタにアップしてよい?」と聞かれたインスタを見るとビール片手にいい笑顔をした地元民がたくさん映し出されている。まさにこれが地域コミュニティのひとつの形なんだろう。ここを1つの拠点として地元の人々が顔の見える関係性を築いていく。

ただ消費するだけの買い物より、どうせなら何かしらの体験ができたり、繋がったり育てたり、そんなプラスアルファの体験がある買い物をしたい。誰だってそうだろう。だったら地元のサッカーチームをサポートするみたいに、地元のクラフトビール醸造所をサポートするのもよいかもしれない。

▶ボストンで贔屓にしたいクラフトビール醸造所2選

最後に私がボストン滞在中、好きだった醸造所を2つ写真でご紹介したい。

ボストンには、クラフトビールブームのパイオニアでもあるボストン・ビール社がある(1984年創業)。

看板商品は「サミュエルアダムス・ボストンラガー」。アメリカ人が飲みたいビール1位の栄誉に輝く、全米で最も売られているクラフトビールだ。

そのせいか有名な醸造所がたくさんある。今回はまだ日本ではあまり知られていない今が旬の醸造所を選んだ。

✓Trillium Brewing Company

年間100種以上もの商品を提供する研究熱心な醸造所トゥリリアム。驚異的なクオリティの高さで、何を飲んでも本当に美味しい

ビール評価サイトの"Ratebeer"で、2019年に「世界で最も優れたブリュワリーランキング」で3位、2020年に4位を獲得しているかなりの実力派。是非一度試していただきたい。

ここの人気商品IPA「Melcher Street」。実際ボストンにある通りの名前。マンゴーの香りがする爽やかな一品。
ボストン湾岸エリアにあるFORT POINT店。ここでは地元農家でインスピレーションを得たという料理が提供される。チーズの盛り合わせとムール貝。ボリュームはアメリカン。

✓Lamplighter Brewing Company

MITやハーバードのあるケンブリッジエリア(ボストン隣接地域)を拠点にするランプライター。色鮮やかなラベル缶がトレードマーク。

ここのダブルIPA「Rabbit Rabbit」は斬新で風味豊かな逸品。春になるとこの辺りによく出没する野ウサギにちなんで名付けたのだとか。

Lamplighter Brewingの本店(Broadway)。自動車修理工場だった建物を再利用している。
ここの缶ラベルは色使いが鮮やかでつい手にとってみたくなる。

▶そして最後に買ったもの

日本帰国時、スーツケースは生活必需品でいっぱいだった。重量制限があるので「余計なもの」は極力おさえなければならないのだが、こいつたちにはスペースを許した。

左からトゥリリアムのグラス。前述のトゥリリアムのIPA「Melcher Street」、ランプライターのダブルIPA「Rabbit Rabbit」

トゥリリアムのグラスは早速重宝しているが、今でもこのビール達は冷蔵庫の一番奥で眠っている。開封したら終わってしまう。それは寂しすぎるから。

夏になったら、代々木公園へキャンプ用のテーブルとイスを持っていって、開封の儀をしよう。アメリカンスタイルにならって、おつまみは最低限に。抜けるように青い空の下で、ボストンのビアガーデンを少しだけ懐かしもう。そして地元で贔屓の醸造所探しを始めてみるのもよいかもしれない。

初夏に訪れたトゥリリアムのビアガーデン。いつかまた行きたいなぁ。

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