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トップがコーチをつけるといい理由(後編)

前回に続き、トップがコーチをつけるといい理由の後編です。
私がエグゼクティブコーチングにおいて最も価値あることだと思っていること。

それは、「どこにも見せられない自分、他では話せない話を出せる場になる」ということです。

人は、日々の生活の中で沢山の役割と関係性を持っています。
親、パートナー、兄弟姉妹、息子/娘、上司、部下、同僚、友達など、男性も女性も一人の人がいろんな顔を持っています。
そして、それぞれの場所で、それぞれに相応しいと思う顔と振る舞いをしています。

親なら、上司なら、妻なら、夫なら、子どもなら、こういう態度でいないと。こうしていた方がいいかな。

「自分がどんな状態で居てもいいと思える場所」は、そんなになかったりもします。

話す内容もそうです。

友達には話せるけど、夫・妻・パートナーには話せないこと。
パートナーには話せるけど、親には話せないこと。
親には話せるけど、自分の子供には話せないこと。
子供には話せるけど、会社では話せないこと。
上司には話せるけど、部下には話せないこと。
自分自身には話せるけど、決して他人には話せないこと。

「無条件で何でも話せる場所」というのがあまりなかったりします。

トップの場合は、この度合いがますます増していきます。

というのも、部下のうちは、上司に文句を言ったり、同僚に愚痴を言ったり、先輩に弱音を吐いたりできますが、
トップが周囲の人に怒りをぶつけたり、いつまでも愚痴を言っていたり、「もう辞めちゃおうかな」なんて呟いたりしたら、それは、トップが想像していないようなインパクトを引き起こす可能性があります。
投資家や銀行にこんな話をすれば、投資や融資に影響が出るかもしれないという心配も生じます。
家族に余計な心配をかけたくない、という方も少なくないです。

トップは孤独、というのはよく言われることです。

では、一人で孤独に耐え、怒りも辛さも全ての感情を抑えこみ、自分一人で自分を強く律していけ、ということでしょうか。

日本ではそうあるべきと考えている経営者の方は少なくないようにも思われますが、
感情という非常に重要なエネルギーとリソースを無視または抑制し、
心の奥底の本音を吐露せずにやっていくことは、心身ともにかなり不健康な状態になり得ます。
パフォーマンスにも影響が出ます。

そういう時こそ、コーチングは、一つの役立つ場所になります。

コーチとクライアントの関係は、実に特殊で、
コーチングセッションは、「どんな状態の自分でもそのまま話すことができる場所」となります。
全ての役割から離れて、「人と人」としての対話の関係になります。
コーチは、内容はもちろん、クライアントが誰であるかも守秘義務の対象となり、本人の許可なく、その人のコーチをしているということを他言することはできません。
その費用を会社が支払っている場合でも、セッションで話されたことを、コーチから会社の方に伝えることはありません。

本当に大切な時間を共有させていただいていて、私は、そのこと自体に感謝とリスペクトの気持ちを持っています。

コーチングを始められた最初の頃は、皆さん、”真っ当”なテーマを持っていらっしゃいますが、
私が本当にお役に立てているなと思うのは、どこにも出せないようなことを出せていらっしゃるときです。
弱気な声、何かに対する憤りや罵詈雑言、「疲れた」という一言、過去の失敗、大声で自慢したい大成功、可愛らしくてお茶目な様子、幼少期の辛かったこと、親との確執、パートナーには恥ずかしくて直接は伝えることができない深い愛、部下に本当はかけてあげたい声、など。

これらはどれも、コーチの側からすると、本当に尊いものばかりです。

体内にこれらを溜め込むのではなく、人に話すことで、滞っていたエネルギーが流れ始めます。
あるいは、何事もなかったかのように打ち消す代わりに、そこに命が吹き込まれます。
行き場のなかった感情は、ご本人にとって意味と価値のある形で昇華し、
長い間しこりとなっていたものは成仏します。

トップになる、トップでいることは、大変なことです。
それでも、それをやっているということは、そこに思いや熱や楽しさなど、何か自分を引きつけるものがあるからだろうと思います。
ご自分が思いを持って活動しているその場所で、満たされた自分で、望むようなパフォーマンスを出し続けていくために、
コーチングという、これ以上ないほどに心理的に安全な場所を持つこともぜひ選択肢の一つとして覚えておいていただけたらと思います。

5回にわたって、チームや組織を率いるような立場の方々に向けて書いてきました。
まだ書くことはありますが、このシリーズは一旦ここで終了とします。
まだそのようなポジションではない方々にとっても、お役に立っていれば幸いです。

では、今日もよい一日を!


◆今日の写真は、昨年の京都で泊まった宿より。対面セッションの時は、向かい合うよりもこういう角度の方がやりやすいなと感じます。

この記事は、2022年12月7日配信のここみち便りをリライトしたものです。
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