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Offline hearts.

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サイバーパンク✖️青春物語。 デジタル社会に生きる少年少女の物語。
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#サイバーパンク

第1話『ポーン23』

第1話『ポーン23』

はじめに順応したのは、子供たちだった。
IT関連の製品を作る業界最大手、エイデン社が世に送り出した、コンタクトレンズ型ウェアラブル端末、『eye-think:3』。
眼に装着することで、脳波と視覚を用いてデジタルコンテンツにアクセスすることが出来る端末だ。
また、専用のBluetoothイヤフォンを用いることで、音声コンテンツを利用することもできる。
史上最もコンパクトなウェアラブル端末として売り

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第2話『野球とコネと単細胞』

第2話『野球とコネと単細胞』

それからの日々は、アイサン漬けだった。

朝から晩まで、起きている全ての時間、とにかくアイサンを使いまくった。

3日目くらいになると、流石に目が疲れてきて、少し使わなかった時間もあるし、1日くらい休もうかと思ったこともある。

しかし、コネを使ったやりとりを1日休むと、一気にみんなとの会話が噛み合わなくなる恐れがあった。

それほどまでに、コネでの会話のウェイトは重い。

特に、テステロの話題は

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第3話『天体観測』

第3話『天体観測』

「えーと、まず状況を整理しようか」
発言したのは、ニイクラだ。
今日は、7月7日。
テステロから、2週間が経っていた。
あの日、俺たちは確かにテステロを実行に移した。
テステロは理科のみで行うことにしたので、その他の教科はいつも通りだった。
とはいえ、アイサンのあるテストは、もはや学力を問うものではなかった。
わからない問題は検索できるし、コネで相談することもできる。
だから、アイサンは、テステロ

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第4話『根』

第4話『根』

週が明けた月曜日。
さっそく、コネではテステロ失敗の原因解明が進められていた。
俺はもう原因を知っていたが、だからと言って、それを言う気はなかった。
解答用紙が出揃えば、自然と分かることだ。
俺が何かを言わなければならないのは、その後だろう。
「と、いうわけで、解答用紙が出揃ったわけだけれど。うん、見事に一人分足りないね」
ニイクラだ。
タマキが続ける。
「んーと、足りないのは、メイちゃんのだね。

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閑話休題『とある中学の裏サイト』

閑話休題『とある中学の裏サイト』

723:2年3組のテステロ、あれってどうなった?
724:なんか、失敗したらしい
725:なんで?
726:一人、参加しなかった奴がいるんだって
727:なにそれ。ありえなくない?
728:なんでなんで?
729:それ誰よ?
730:さあ?
731:そこまでは知らない
732:関係者とかいないの?
733:2-3の奴なら知ってるんだろうけど
734:誰かー、2年3組の人いませんかー??
735:い

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第5話『We can't read our hearts』

第5話『We can't read our hearts』

人の心は見えない。
ある時から、アタシはそう考えている。
自分が親友だと思っていても、たやすく裏切られる。自分が何も思っていなくても、大事に思われていることもある。
だから、友情なんてまやかしだ。
でも、それでも人は生きていかなければならない。
誰かと関わり合いながら……。
アタシは芽依。
堀北芽依。
中学2年生の、どこにでもいる……ちょっとワケアリな女の子。
「練習終了! お疲れさん! 片付けた

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第6話『The first step』

第6話『The first step』

「おはよ、有紗。今日はもう行くの?」
「あ、お、おはよう。芽依……」
次の日の朝、アタシは、いつもより少し早く有紗との待ち合わせ場所にやって来た。
いつもアタシは有紗を待たせてしまう。でも今日は、昨日、一緒に帰れなかった分、アタシが待っていようと思ったのだ。
しかし、なぜか、有紗はもう待ち合わせ場所から少し離れたところまで歩いていた。
「もしかして、昨日言ってた用事って、朝もあるの?」
有紗は昨日

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第7話『A fighter』

第7話『A fighter』

明確に異変を感じたのは、体育が終わった時だった。
今日は、なんだかやけに視線を感じる気がした。
そして、その感じは、体育の時、頂点に達したのだ。
今日は、1学期最後の体育の日で、水泳の授業を終えたアタシは、水着から体操着へと着替えようとしていた。
水着を脱ぎ、下着をつけるまでの間、猛烈に視線を感じたのだ。
更衣室には女子しかいないし、身体を見られても別になんとも感じない。
しかし、今日は明らかに変

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閑話休題その2『2030.7.18』

閑話休題その2『2030.7.18』

2030.7.18(晴)

今日、芽衣ちゃんから、プラネタリウムへ誘われた。
鈴木くんと、私と、芽衣ちゃんで、プラネタリウムへ行こうって。
そんなことになったら、きっと、きっと楽しいと思う。
行きたい……。
でも、今は……。

さっき、鈴木くんからコネが来た。
嬉しかった。
芽衣ちゃんと私の仲を心配してくれてるみたい。
なんでもないよって言ったけど、ホントは、そんなことない。
何があっても

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第8話『パンとコーヒーと共通項』

第8話『パンとコーヒーと共通項』

この間の木曜日、俺はホリキタからプラネタリウムに誘われた。もともとは、ノグチも誘って、3人で行く予定だった。しかし……。
「なんていうか、ゴメンね」
目の前にいるホリキタが、ぺこりと頭を下げる。
一瞬、ホリキタの着るタンクトップの隙間から胸が見えそうになり、俺は慌てて頭を下げた。
「いや、なんつうか、俺のほうこそすまん」
俺は結局、ノグチとホリキタの仲を取り持つことができなかった。
だから、俺たち

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第9話『プラネタリウム』

第9話『プラネタリウム』

科学館やプラネタリウムへ続くエレベーターは、ロケットの打ち上げをモチーフにしている。エレベーターが動き出す前には、カウントダウンをする音声が入り、動き出してからは、ロケットブースターの射出音が轟々と響く。そして、エレベーターの外には、宇宙空間を模した空間が広がっているのだ。
何度来ても、この光景には心が躍る。
「俺、このエレベーター好きなんだ。なんか、ワクワクしねぇ?」
ホリキタに問いかける。ホリ

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