僕が徹底反復させるのをやめた理由。(6min)

子どもたちと一緒に学ぶこの仕事に出会って早10年、どうすれば子どもたちがもっと勉強が得意に、そして好きになるかずっと考えてきた。もちろんそれは現在も進行中。
今回はそんな僕がなぜいま授業で小学生に徹底反復練習をさせていないか、というお話をしようと思う。

徹底的な大量反復練習

何を隠そう、数年前までの僕の指導の仕方は「とにかく身につくまで何度も何度も徹底的に反復する」をモットーにしていた。
なぜならうちの教室には、計算すら満足に出来ない、漢字すらまともに読み書きできない子たちがあまりにも多かったからだ。

「計算や漢字の読み書きはいわば、学力の基礎になる部分。せめてそれだけでも出来なければ、この子たちはこの先もっと苦労することになるだろう。」

そう思った僕は、授業のはじめには時間を測りながら百マスプリント。その後は計算の速さと正確性を高めるため、大量の問題を制限時間を決めて解かせた。さらに授業に真剣に取り組ませるため、授業でたくさん問題が解けたら宿題を少し減らすよ、というエサまで用意していた。
宿題では基礎計算の練習になる問題を大量に出し、漢字の練習もノートに何度も書かせた。

すぐに表れた成果

すると、その成果はすぐに表れた。子どもたちが自分から進んで問題に取り組むようになったのだ。
計算のタイムが縮まると「よっしゃー!」と声を上げて喜んだ。逆にタイムが遅くなったり間違えたりすると「先生、プリントもう一枚やっていい?」と言ってくる。

また保護者さんたちからも、

「子どものテストの点数が上がりました!」
「漢字テストで満点をとってきたんです!」
「通知表で『よくできる』がつきました!」

そんな嬉しい報告をたくさんいただいた。

僕の指導が評価されたことよりも何より、子どもたちの成長が心から嬉しかった。
自分の目指す教室像に一歩一歩近づいている気がした。

少しずつ表れてきた異変

しかし、しばらくすると子どもたちに気になるところが出てきた。

まず、授業中の落ち着きがなくなった。いつもどこかそわそわざわざわしている。
僕が話をしていても、目は周りをキョロキョロ。「どうかした?」と声をかけても「何が?」と逆に聞き返される。自分が落ち着きのない状態だということに気づいていないらしい。

次に、ノートに書いてある字がびっくりするほど雑で汚くなった。宿題の字なんか、読めたもんじゃない。
「もっときれいに丁寧に書かないと読めないよ」というと「はい」と返事はする。するけれど、一向に改善されない。

そしてついには、文章問題が解けなくなってしまった。正確には「文章を読まずに解こうとする」ようになった、という感じ。
わり算の授業をしているとき、わる数とわられる数を逆にして式を立てている子がいた。「どうしてこの式にしたの?」と尋ねると「だって今日わり算の授業だから」と。単元名と数字だけを見て式を立てていて、文章問題の意味なんてこれっぽっちも考えていなかった。
しかし、これだけならまだいい方である。終いには僕が文章問題を解こうと言っただけで、

「難しい」
「わからん」
「面倒くさい」

多くの子がこう口にするようになってしまったのだ。

一体どうしてこうなったのだろう…。
それを考えるとやっぱり、僕がやってきた徹底反復・大量練習の授業以外に原因は見当たらなかった。

量より質、ゆっくり考える授業に

このまま続けても子どもたちにプラスはない。
いや、子どもたちの成長の芽を摘み取ってしまうマイナスになるかもしれない。

そう判断した僕は、僕と同じように考えている人はいないか探してみた。そしてここで「どんぐり倶楽部」という教育方法に出会った。

どんぐり倶楽部が提唱するやり方はこれまで僕がやってきた方法とはまさに真逆で、『ゆっくり・じっくり・丁寧に、思考力を育てること』を大切にしている。

僕はホームページやブログ、本などから「どんぐり理論」を学び、またシュタイナーやモンテッソーリなどの有名な教育理論を分析した。そしてこれまでの徹底反復と大量練習をすべてやめ、いまの思考力向上型の授業スタイルを作った。

授業のやり方を変えてすぐは、子どもたちにも戸惑いがあったようだ。
また正直、徹底反復や大量練習を支持してくれていた保護者さんの子どもの退会もあった。

しかし、思考力向上型の授業をはじめてから半年経ったくらいだろうか。下の学年から順に少しずつだが学習の効果が表れてきた。
具体的には、授業中の子どもたちに落ち着きが見られるようになった。(お家でも落ち着きが出てきた、と保護者さんから連絡をいただいた)
そしてノートの字も丁寧に書けるようになった。まるで別人のようだ。
さらに嬉しいことに、難しい問題でも「わからん」「面倒くさい」という声が全くなくなり、考えようとする姿勢が出てきたのだ。

計算のスピードはもちろん多少落ちはした。
しかし、文章問題での正答率が上がったため、点数としては逆に高くなっている。

学んだこと

これら一連の出来事から僕は、大人が与える環境が、どれだけ子どもたちに強く影響するのかが本当によくわかった。
そして今でも大量の反復練習をしている先生たち、させられている子どもたちには、全く逆の「のびのび落ち着いて楽しく学ぶやり方」があることを、声を大にして伝えたい。

過去に僕が徹底反復・大量練習をさせてしまった子たちには、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「その時はそれがベストだと思っていた」なんて言い訳はもちろん通用しない。

しかしだからこそ、これから出会う全ての子どもたち一人一人を大切に、じっくり考える力や勉強の楽しさを伝えていきたいと思っている。


おわり。

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考えることが好きになれば、算数も国語もぜんぶ好きになる。すべての子どもたちに学ぶ楽しさを感じてもらうべく奮闘中。TRES代表。