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人のニンジンを笑うな

さやです。家族でおじ夫婦の家に遊びに行ってきました。
そこで見た衝撃の光景と、考えたことを書きます。


・おじ家族のこと

父の弟であるおじには、私のいとこにあたる子供が二人います。
長男は私の一つ年下で、小さいころから長期休みや年末年始には、父の実家の祖父母宅に集合して一緒に遊ぶのが恒例でした。0歳のとき、私といとこは並んで座り、交互に離乳食を食べさせられていたそうです。
食べ残しなどを決して許さない私の両親と違い、おじ夫婦の子育て方針は一言でいうなら「激甘」。嫌いなものは残してOK、嫌なことはしなくてOK、ゲームは好きなだけやってOK。ずっとそんな感じでした。

我が家とは正反対の家庭環境が、子ども心にうらやましかったです。
彼らと過ごす間、私はまるでおじ夫婦の子どもになったような、不思議な幸せを味わっていました。

甘やかされまくって育ったいとこたちは、それぞれしっかり自分の人生を生きています。
子育ては何が正解なのか、本当に謎です。

・8年ぶりの再会

長女が小さいころ、おじ夫婦の家に何度か遊びに行ったことがあります。
子ども用の食器やいすを準備してくれて、お土産をたくさんもらって帰ってきました。
しかし、そこからコロナ渦に突入、おじは肺がんを患い肺を一部切除。車の運転を担っていたおばも、物忘れがひどくなり免許返納し、いまはシニアカーで外出する生活。たまにおじと電話で話すと、少し認知症気味のおばのことなど、愚痴が増えていました。

言葉の端々に寂しさがにじんでいて、
「おばちゃんのことも気になるし、久しぶりに顔を見せにいこう」
と決心しました。

・衝撃の光景

おじの家は郊外の一軒家、緑も多く閑静な住宅街にあります。おばが嬉しそうに出迎えてくれました。

いつもなら、玄関を入って右側のリビングに案内されるところ、今回は左側の和室に入るよう促されました。少し暗い和室の真ん中にテーブルが置いてあります。
手を洗いに洗面所へ行くと、浴室前の床に洗剤の詰め替えがたくさん。洗面台の上も雑然と散らかっていて、掃除をした形跡がない。
「これ、洗ってあるから」と、ためらいがちにおじが手拭きタオルを渡してくれました。
ジュースや果物をごちそうになり、お皿を下げようとキッチンに向かったところ、リビングとダイニングの全貌が目に入りました。
物、物、物だらけ…
以前は何もなかったダイニングテーブルの上には、食料品が大量に積み上がり一角が崩れかけている。
キッチンの床に未開封の食用油が4-5本転がっている。
すっきり片付いていたリビングも、テレビ台の上に殺虫剤が何本も並び、床に色々な物が放置されている。

見てはいけないものを見てしまったような気がしました。
以前、隅まできれいにしていた頃と比べあまりの落差に、ショックでした…。

今回私達が通された和室だけが、原形を留めていました。
置いてあるのは電子ピアノや使っていないペットケージ。以前はこの和室が、不用品置き場だったのです。
今やここが、家の中で一番物が少ない部屋でした。

・2階のニンジン

いたたまれない気持ちの私をよそに、おばは屈託のない笑顔で、いつもと変わらず接してくれました。こちらの話にもテンポよく相槌を打って、受け答えも自然だし、異変は感じません。(たまにおじとの会話で、とんちんかんな発言をして怒られてはいましたが…)
おじも、子どもたちと楽しそうに触れ合ってくれて、最初は緊張で黙っていた娘たちも、打ち解けてきゃあきゃあ笑い出しました。

「ねえ、2階が見てみたい」長女がねだり、おばと子どもたちは楽しそうに階上へ。ふだんは人の目に触れないプライベート空間へ行くのは申し訳なく、私は一階に残りました。しばらくして子どもが足を踏み鳴らす音が聞こえてきたので、何か壊しては大変と、仕方なく2階へ…。

2階にある3部屋のうち、2つは夫婦それぞれの寝室として使用しているとのことでした。残りの一部屋は物が溢れ、ドアが閉まらない状態。入口付近にネットショップの段ボール箱が数個、未開封のまま積んであり、その上に人参が一袋、ひっそり置かれていました。

・微笑う人

子どもたちは、おばの寝室にいました。
大きなベッドの上に、おばが腰掛け、子どもたちは横になって気持ちよさそうにテレビを眺めていました。散らかった室内は、洋服、ヨーグルトメーカー、電動ブラシの替え、箱にぞんざいに突っ込まれた運動靴など、なぜここに?と思うようなものだらけ。
私は物を避けて床に座り、入ってまずかったかなと遠慮がちにおばを見ると…
おばは満足そうな顔で、「ふふ、いいでしょ。ここが最高」

・それでも、これでいいのだ

「最高」ならいいじゃない。ふっと肩の力が抜けたような気がしました。
たしかにそこは、爽やかに風が吹き抜ける気持ちのいい空間でした。
おばの言葉を聞く前は、以前とは変わってしまった家の様子に気持ちをかき乱され、いつか自分も溢れかえった物と生活する日が来るのかと、不安でした。
でも、子どもたちとお腹を抱えて笑い合うおばの笑顔をみて、それまでの不安が、ふわっと霧のように消えました。

一方で、物で埋もれないために自分がすべきことは何だろうと、考えました。正常な認知状態でも、歳を取れば片づけや物の処分にエネルギーをさくのは難しくなるし、やりたくても体力がなければできない。
まだ40代で、気力も体力もある今しかない。自分の身辺整理、物を減らすこと、真剣にやろう。

でも最終的には、きっと自分のコントロールできないこともたくさんあるはず。不本意ながら、家族や周囲にも迷惑をかけてしまうだろうし、落ち込んで悲しいこともあるだろう。

そんなとき、おばの笑顔を思い出して、
「でも、これが最高」と言いたい。
そう思ったのでした。

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