「好まれるパッケージデザイン」の特徴は? 統計的な分析手法を使って調べてみた
商品開発をする際に、「お客さんに好まれるパッケージデザイン」を意識していますか? 企画者、デザイナー、色んな立場で開発に関わる人がいる中で、商品に込めたい思いを正しく伝達して形にしていくのってなかなか難しいですよね。
更に市場に出回った後、デザインに込めた思いがお客さんにどの程度正しく受け取ってもらえているか、気になりませんか?
そこで、「多くの人が商品の見た目の印象に対して、どういう印象を受けるか」という潜在的な深層心理を知るための手法を使いつつ、「好まれるパッケージデザイン」の特徴を調べ、考察してみることにしました。
日本酒パッケージのデザインを印象調査してみた
商品の見た目の印象だけをピックアップした場合、消費者が「どんなポイントに惹かれて購入するか」は商品のジャンルによって異なります。
「日本酒パッケージ(ラベル)のデザイン」の印象調査をした場合、どのようなことが分かるのでしょうか!?
調査に使ったのはすべて島根県の酒造『簸上清酒(ひかみせいしゅ)』さんで作られた日本酒です。回答者は全国からランダムにピックアップされたモニターの方々で、「どこの銘柄のお酒か」ということは意識せず回答してもらっているため、みなさん味は意識していません。純粋なビジュアルからの評価です。
同じデザインの色違いのものを含め、20種類のパッケージをピックアップしました。デザインによる印象の違いだけでなく、色によって結果がどう出るのかも楽しみです。
調査票を作り、30~50代の男女100名にURLを配信し、「パッケージひとつずつに対して感じた印象」を回答してもらいました。ここでは、画像に対してイメージを測る「SD法」という手法を採用しています。
「伝統感」「洗練感」「甘辛」のバランスで、日本酒パッケージの印象が決まる!?
集まった回答を分析すると、「1.伝統感」「2.洗練感」「3.甘辛」の視点が出てきました。回答者は日本酒パッケージを見る際に、これらの要素に強い反応を示しているようです。つまり、この3要素のバランスがパッケージそれぞれの印象を決めている、ということになります。
ちなみにここでは、回答者の「潜在意識」や「隠れた想い」のようなものを見出す目的で使われる「因子分析」という、統計学上のデータ解析手法を使って要素をピックアップしています。
間接的に「好き」に繋がる重要な要素、「伝統感」
ここで、集計された好きな日本酒パッケージランキングを見てみましょう!
「洗練感」「統一感」の得点が高いパッケージが集まりました。これらの印象は、「好き」という評価に強く影響しているようです。
逆に、「伝統感」という印象は、「好き」という評価にあまり影響しない、という結果も出ました。これは、30~50代男女にとって「伝統的要素は、見た目が好きの理由にはなりにくい」という意味です。
こういったお正月やお祝い事などに使われそうな商品は、見慣れた安心感もあるためか、敢えて「好き/嫌い」の評価をされにくいのかもしれません。これらは「ビジュアルだけで選ばれる」というよりも、「シチュエーションに合わせて選ばれる」パッケージなのかと思います。
また、印象の要素同士の関係性(相関関係)は、このような数値でも出てきています。「好き」に対して一番相関が高いのは「洗練度」、一番低いのは「伝統感」ということになります。
「伝統感」と「信頼感」は関連性が強い一方で、「信頼感」と「ユニーク」は関連性が薄く、相反するという結果も出ました。「ユニーク」もまた「好き」への影響が薄いようです。
ここから、「伝統感」は「好き」と直結はしてはいないが「信頼感」を通して間接的に影響はする、無視できない存在ということが分かります。なので、30~50代向けに「見た目が好き」という評価を追求したい場合、「伝統感」な要素のみだけでなくほかの要素も取り入れる必要がありそうです。
さらに「ほかとは違ったうちの店らしさ」を追求するために「ユニーク」という要素をくわえたい場合は、「伝統感」をスパイスとしてちょっと取り入れることで、「信頼感」を損なわないようにするというような方法も取れそうです。
キリっとした印象が「好き」へと繋がる……!?
日本酒パッケージの印象を決めている3つの視点「1.伝統感」「2.洗練感」「3.甘辛」を使って、各パッケージが与えた印象のポジショニングマップを作ってみました。
マップを観察すると、「洗練感(強)」・「辛い」の座標に「好き」ランキング上位のものが多く入っていることが分かりました。辛口でクールというキリっとした印象のほうが、洗練された印象を与えているんですね。
中でもトップ3に共通して言えるのは、瓶とラベルが同系色だということです。全体の雰囲気に「統一感」があるため、「洗練感」に影響を与えたのでしょう。
同じデザインの色違いでも、色の組み合わせによって随分「洗練感」は異なります。更に日本酒という商品の特性上、日本古来の色使いのほうがより「洗練感」を与え、「好き」へと繋がりやすそうです。
「好まれるパッケージ」をデザインするには?
これまでの話から、日本酒パッケージをデザインする際に、「30~50代男女に対し、見た目が好まれる」という方向性を目指すのであれば、このような方法が有効ということになります。
キリっとした洗練された印象を与える
色の組み合わせを調整して統一感を出す。瓶とラベルの色を合わせる方法も有効!
伝統要素のみだけでなく、ほかの要素も取り入れる
ユニークさと伝統要素のさじ加減で、見た目の信頼感を調整する
簡単にまとめてみましたが、どう表現するかはデザイナーさんの腕の見せどころでもありますね。
【インタビュー】実際はどんな意図で考えられたパッケージだったのか
ここで、調査にご協力いただいた『簸上清酒』の専務の田村さんにお話を伺ってみます。
── この調査と結果をご覧になっていかがでしたか?
田村さん:試飲なしで純粋にパッケージから印象を計測する調査ということで、参考になりました。
今回は30~50代の方を対象に調査されたということですが、試飲販売などをしていると年配の方はクラシックなラベルを好まれる傾向もあるので、年代ごとの考察のようなものがあると面白そうだとも思いました。
──「純粋な見た目のみ」の意見を知る機会ってなかなかなさそうですよね。 お酒を購入した人から、パッケージの感想を聞くタイミング自体はあるんですか?
田村さん:私は仕事として社外の方と飲んだり取り扱いの料飲店に行く機会が多く、試飲販売やイベントに立つこともあるので味を含めて商品の感想を聞く機会はよくあります。
配送担当のスタッフは取引先の酒屋さんからお客様の反応を聞くこともあると思いますが、社内で働くスタッフはあまりないと思います。
── お酒のビジュアルを考えるときに、意識していることはありますか?
田村さん:お客様の印象に残りやすく、リピートしたいと思ったときにその商品にたどり着けるようなシンプルなパッケージを意識しています。
また、商品特性とパッケージイメージがかけ離れないようにしています。
例えば『愛山』という酒米のお酒(2023年12月発売の『The Seven -Aiyama-』)は、他社でも『愛山』を使ったお酒は共通して赤やピンクを使ったパッケージが多いので、同系統の色を使ってお客様の『愛山』のイメージと商品の間にギャップが生まれないようにしました。逆にギャップを狙う時もあるかもしれませんが。
── 調査で多く使わせてもらった『七冠馬』は、デザインをリニューアルされたばかりだそうですね。デザイナーさんにどのような思いを伝えましたか?
田村さん:シンプルなデザインにしたいと伝えました。何千何万という日本酒の商品がある中で、初見のお客様の印象に残るビジュアル情報はそれほど多くないと思います。「銘柄」+「色」+アルファくらいでしょうか。
── 今回好きなパッケージ1位にもなった『七冠馬 純米大吟醸』(上の写真中央)は、瓶とラベルの色が同系色だからか、特に印象に残りやすそうだと思いました。あまり馴染みがない商品だと、お店で探すときに「どれだっけなー……」ってなりますもんね。
田村さん:このラベルデザインであれば、「詳しい商品名は覚えてないんだけど、『七冠馬』の青いやつ!」と言えばたどり着けます。
また、『七冠馬』ブランドの中に『The Seven』というサブブランドがあります。このコンセプトの違いが以前は曖昧だったので、それぞれのコンセプトを明確に整理しました。『七冠馬』は「定番の簸上らしい酒質」、『The Seven』は「新しい技術や使ったことのない酒米へのチャレンジ」としパッケージにも統一感を出すようにしています。
【まとめ】もし、今後に繋げるとすると……?
インタビューのなかで、「リピートしたいと思ったときにその商品にたどり着けるようなシンプルなパッケージを意識している」というお話がありました。すなわち「印象に残る」のが重要なポイントになってくるのだと思います。
もし今後調査・解析をおこなう機会があれば、「印象に残るパッケージ」に視点を当て、「印象に残るということは、どういうことなのか」を深堀りすることで、もっと未知なる部分が見えてくるのではないでしょうか。
そうなれば、今回の調査で分かったポイントも守りつつ、つぎに繋げることもできそうです。
日本酒は用途も様々で、必ずしも「パッケージが好き」という評価に左右される商品ではないですが、今回は「好まれるパッケージ」にポイントを当ててみました。
さらに日本酒というジャンルは、「伝統」といった歴史的特性や「味」を想像する余地などの要素が複雑に混在するため、より深みを感じ、同時に考察のし甲斐を感じました。
実際に、このような調査・解析が戦略を立てるのにどう役立つのか、デザインされる際にどのように活かすことができるのか……というのは未知数です。
具体的に「使ってみたい」という声でなくても、「なんとなくこんなことができそう」というご意見でも、気軽にコメント欄でお声掛け頂けたらありがたいです。お待ちしています!
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