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2.未来ファンタジー_ホロパース2121

#小説   #価値ネットワーク #全11話

<<< 1.統一された世界

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 自宅に送られてくる食料はバランス良く配達され、好き嫌いは多少の融通がきいた。もしそれ以外に欲しいとき、自分の「世界リン」を使って食材や料理を取得することができた。衣服やファッションもおなじく、上限枚数から選べ、それ以外の欲しいデザインやブランドに関しては自分の世界リンを使うことができる。生命維持に必要な福祉サービスや情報は一律に提供され、事業に必要な情報などはまとまった世界リンとして「地球リン」に変換し、取得することができた。

一見、社会主義に思える思想基盤ではあるが、それら生活インフラを提供する企業内では「社会貢献度」に寄与した人材には、世界リンが付与されていたし、公平な競争ができる法の整備も白い飛行体がおこなっていた。そのため、この世界には弁護士と会計士はすでに歴史上の職業となっていた。

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100年前の2021年でいう職業や仕事、ボランティアという概念のものは「アクション」と呼ばれるようになった。アクションは世界リンや地球リンを特に大きく獲得できるもので、人によっては一つだけ選んだり、複数行ったりしていた。アクションの情報は、3歳の頃から配布される「リング」から獲得され白い飛行体に送られていた。リングは脳と体の電気信号を読み取り、データに変換され、そのまま白い飛行体のもとへ送られていた。

例えば、ある子どもが迷子になったとする。すると近くの警察に通報され、安否が確認できる。その警官には世界リンが付与される。または、その子どもが落とし物を拾い、警察に届けたときはその子に世界リンが付与され、さらに落とし主がお礼をしたいときは、リングを通して匿名で世界リンが付与される。そして学校で良い成績を収めたとき、社会に出て良いサービスを考えたり、作ったり、提供したときもまた、世界リンが付与される。

つまり、人の良識ある行動や社会に貢献する行動そのものの価値がポイントに変換される仕組みが「世界リン」なのである。言論の自由が許されている2121年でそのプライバシーは完全に守られ、不正利用された例がニュースに取り沙汰されることは一度もなかった。

そして、コスモルールではいわゆる成人とされる年齢は18歳と決められていた。18歳までの教育を管理することも白い飛行体の役目だった。

世界共通の教育憲章があった。「法を冒さず、個性をアクションに変換すること」。

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子供たちは17歳になると、僧侶に扮した白い飛行体との面談が行われる。その方が人間が話しやすいから、という理由らしい。「17歳の問答」と呼ばれるそれの期間は1年。そのあいだ7回の面談で自分の価値観や将来設計をまとめ、それに対し白い飛行体がアクションの質を高められるような質問を繰り返す。そこで子どもたちは、自分や社会に対して考え、調べ、答えを導き出す自発性の確認が行われる。そして最後の面談で自分が次に住むエリアとアクションを決定しなくてはならない。最初の面談でそれらが決まり、更なる未来のアクションについて問う子もいれば、その面談を通してようやくアクションを見出す子もいた。面談は人それぞれ違い、バラバラな内容であった。

一般に「モンドー」と呼ばれ、社会に出るための関門だった。モンドーに通過すると、その子どもには旅行がプレゼントされた。いま自分が住んでいる半径100km外のエリアを1つ、好きに選べるというものだった。


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- 夏。とあるハイスクールの放課後 -

彼の名前は、サトリ。モンドーに通過したのはつい昨日のこと。そして同じくモンドーを通過した友人、ユラ。ふたりはプレスクールからの友人だった。

この時代、1歳になったすべての子供は幼稚園のような「プレスクール」に預けられリングが渡される。6歳までの基礎教育が始まり、マナーを身につけることと、個性を発見することが最大の目的とされていた。民間の教育機関もあるが、質が異なった。公共のプレスクールは白い飛行体が子どもの一挙手一投足、地球上全データの収集と解析をし、一人ひとり個別の教育方針がいくつか提案されていた。感情、感覚、思考、直感。子供の頃に研ぎ澄まされた心身データとその提案を見ながら、教育者は子供にあったそれぞれのあやし方や教え方などを行った。そして日報データは教育者のリングから両親のリングに送られる。そのため教育の質は格段に上がりつづけ、人手不足も解消、教養は人類へ平等にもたらされるようになっていた。さらにプレスクールでは星の数ほどの体験が提供される。絵画、砂遊び、読書、楽器、運動など。例えば音楽でいうとフルオーケストラや雅楽の笛全種類など楽器が園内にあり、すべて自由に演奏でき、楽譜データはどこでも広げられた。与えるものが驚くほど細かく、多い。それは子供の個性や特技がどこにあるのか、正確に、迅速に見極めるための方法だった。

そしてサトリは6歳の頃に出会った弓道にハマり、弓道の強いスクールへと入学をした。スクールとは小中学校のことで7歳から14歳までの教育機関。ユラはすでに3歳の頃からソーシャルゲームで才覚を現し、ハイスクール入学時にはeスポーツでフォロワーを10,000人を持つ、国内トップチームの一員になっていたのである。

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サトリ
「ユラ旅行どこ行く?」サトリは好きな板チョコレートをかじりながら、ユラに声をかけた。
ユラ
「ん〜せっかくだから美味いもの食べたいね」
サトリ
「良いね!パクチーたっぷりの生春巻きとか、ハワイのロコモコとか?」
ユラ
「イタリアでパスタ…フランスで鴨料理…スペインでパエリア!」
サトリ
「ユラ姉ちゃんのスペイン料理、最高だもんな」
ユラ
「一昨日は青森まで行って、キノコのピクルス作ってたよ」

 この時代、料理人や働く人の価値を経営者が決めることはなかった。というより、経営者という概念は過去のもので組織のリーダーというものはあったが、それは一つの役割。リーダーの意思決定に賛同する者だけが「チーム」として集まるような事業システムになっていた。料理人ならばそのスキル向上のため、世界リンが増えると「食材を探しに行く」という価値へも交換できた。つまり料理の美味しさは顧客が、その働きぶりは共に働くスタッフが、組織への貢献度はリーダーがする「心的評価という価値」が脳の電気信号でリングに送られ、世界リンへと変換されるのである。

サトリ
「そういえばさ」
ユラ
「ん?」
サトリ
「リングを持たない部族がいるって今日習ったじゃん?」
ユラ
「あー、それ気になった」
サトリ
「南米のアマゾンに1000年前から住んでて、ジャガー信仰してるって部族。このリングってすごい便利だけどさ、これがいらない生活ってどんなかな?」

するとユラが、南米の地図ビジョンをリングから写した。

ユラ
「アマゾン。アマゾン川流域。コロンビアとペルーとブラジルに流れる川。プレスクールで習ったね。懐かしい。へー、ペルーには有名な料理人もいるのかぁ」

サトリ
「おー。でも怖くない?大きい虫とか苦手だなぁ」
ユラ
「ね。どうやって生きてるんだろう。免疫とかやばそうだね」
サトリ
「せっかくのモンドー旅を恐怖に使うのはなぁ」

という話をさいごに、サトリは自分の部活である弓道の道場へ。ユラはゲーム部の部室へ向かっていった。

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>>>3.巡りあわせの森

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