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イスラエルにおける医療従事者のBNT162bワクチン4回目接種とSARS-CoV-2感染との関連性

Association of Receiving a Fourth Dose of the BNT162b Vaccine With SARS-CoV-2 Infection Among Health Care Workers in Israel
Accepted for Publication: June 10, 2022. Published: August 2, 2022. doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.24657

https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2794864

概要

 イスラエルでは医療従事者(HCW)の3回接種率が高いにもかかわらず、オミクロンの波でこのグループのSARS-CoV-2のブレークスルー感染が高い割合で観察された。その結果、イスラエル保省は、各病院の医療従事者達に4回目のワクチン接種を推奨することを決定した。
目的
 4回目のBNT162b2(ファイザー)ワクチン接種がHCW間のブレークスルー感染率に及ぼす効果を評価すること。
デザイン・設定・参加者
 この多施設コホート研究は、4回目接種期間の最初の月である2022年1月に、オミクロン変種波の急増時に実施された。2021年9月30日までに3回接種を受け、接種キャンペーン前にCOVID-19に感染していなかったイスラエルの11の総合病院の全医療従事者を対象とした。
曝露時期
 2022年1月中のBNT162b2ワクチンの4回目の接種。主要結果判定および測定法
 4回投与患者と3回投与患者におけるCOVID-19のブレークスルー感染は、ポリメラーゼ連鎖反応検査のSARS-CoV-2陽性という結果で測定。医療従事者は症状または曝露に基づいて検査された。
結果
 合計29,611人のイスラエル人医療従事者(19,381人[65%]女性;平均[SD]年齢44[12]歳)が2021年8月から9月の間に3回のワクチン投与を受け,このうち5,331人(18%)が2022年1月に4回目を受け、接種後1週間までに感染していなかった。全体のブレークスルー感染率は、4回接種群では5,331人中368人(7%)、3回接種群では24,280人中4,802人(20%)だった(相対リスク、0.35;95%CI、0.32-0.39)。3回目のワクチンを接種した正確な日によるマッチング解析(相対リスク、0.61;95%CI、0.54-0.71)や時間依存のCox比例ハザード回帰モデル(調整後ハザード比、0.56;95%CI、0.50-0.63)でも同様の減少が見られた。両群とも、重篤な疾患や死亡は発生しなかった。
結論および意義
 このコホート研究において、BNT162b2ワクチンの4回目の接種により、医療従事者のブレークスルー感染率は低下した。しかし、オミクロン変異体の感染力が高く、医療従事者の不足が深刻であることを考慮すると、医療従事者の感染率を低下させるために4回目のワクチン接種を検討する必要があると思われる.

図解


概略
調査方法
グラフ分析

図解スライド(6ページ)

English Presentation Slides

日本語翻訳ファイル

背景

 2021年12月、イスラエルで広がった第5次COVID-19波はほとんどがオミクロン変種株によるもので、ワクチン未接種者とワクチン接種者両方に影響を及ぼした(1,2)。イスラエルは、2021年8月から成人全人口に対して3回目のワクチン投与を行った最初の国である。医療従事者(HCW)の95%以上を含む全イスラエル成人の90%が、2021年9月までBNT162b2ファイザーワクチンの3回接種を受けている(3)。この3回目のワクチン接種(ブースター接種)は、デルタ変種株コロナ波中のブレークスルー感染、重症化、死亡率を顕著に減少させた(4)。この高い接種率にもかかわらず、感染力の強いオミクロン変種は、3回接種した集団の中で相当数の大規模な感染を引き起こした。イスラエル保健省は、3回目の接種が感染と重症化を防ぐのに成功し安全であったことを受け、また3回目接種した時より免疫が低下したと仮定して、60歳以上の成人、免疫不全者、医療従事者(HCW)に自主的な4回目のBNT162b2ワクチン接種を推奨した。その際我々はオミクロン株活動のピーク時に、BNT162b2ワクチンを3回接種したHCWと4回接種したHCWの間でのブレークスルー感染率を比較した.

方法

デザイン・設定

 イスラエルの11の病院が最初の研究に参加した。すべて学術センターであり、そのうち5病院は3次医療センターである。医療従事者には、ファイザーのBNT162b2メッセンジャーRNAワクチンが接種された。参加施設は、イスラエルの全急性期病床の約半分を占め、イスラエルの全地域をカバーしている。本研究は、すべてのデータが研究データベースに追加される前に非識別化されるため、インフォームドコンセントの放棄を含め、各施設の地元の倫理委員会により承認された。本研究は、Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology(STROBE)報告ガイドラインに従った。

データ収集

 研究コホートは,BNT162b2ワクチンを3回接種し,接種キャンペーン(2022年1月2日)以前に一度もCOVID-19に感染していないすべてのHCWを対象とした。2022年1月31日までの全参加者について、匿名化された職員の人口統計学的特性(性別、年齢層、職業)、ワクチン接種日およびブレークスルー感染日のデータを収集した。4回接種者の99%が2021年8月と9月に3回目の接種を受けたため、3回接種者と4回接種者の分析・比較は、これらの月に3回目の接種を受けたHCWのみに限定した。2021年8月と9月に接種したHCWの性別、年齢、職業を全コホートと比較したところ、似通った分布が得られた。

データ分析

 医療従事者達は、曝露後、またはCOVID-19の症状が見られた時に鼻咽頭スワブのポリメラーゼ連鎖反応による検査を行い、組織的な検査は行わなかった。4回接種者(ワクチン接種後1週間以上経過したHCW)と3回接種者の2022年1月中に発生したブレークスルー感染率を算出した。次に、コホート全体と病院、性別、年齢層(40歳未満,40~59歳,60歳以上)、職業(医師、看護師、その他医療従事者)ごとの率比を作成した。
 結果の確実性を確認するために、マッチング解析と回帰モデル解析の2つの追加解析を行った。マッチング解析(1:1マッチング)では、4回接種の参加者ごとに、3回接種の参加者を性別、年齢層、職業、病院、3回目のワクチン接種の日付が同様になるように調整した(正確な日付調整)。対象となった3回接種参加者は、その対となった4回接種参加者がワクチン接種を受けた日までに感染していない参加者から選択された。複数のマッチング相手候補が見つかった場合は、無作為に1人を選択した。マッチング解析にはMcNemar検定を用い、相対リスクの 95% CI を Wald 法で算出した。粗分析とマッチング解析について逆Kaplan-Meier生存曲線を作成し、2022年1月にCOVID-19に感染したHCWの割合を各グループ(3回接種者群と4回接種者群)で示した。
 回帰モデリングでは、4回目の接種を受けるタイミングは参加者の自由裁量であり、HCWに4回目の接種が推奨された後のどの日でも可能であった、したがって、4回目のワクチンへの曝露状況は、時間とともに変化した。研究期間を通じて変化する曝露状況を考慮するため、曝露状況を時間変動共変量としたCox比例ハザード回帰分析を行い、2021年8月から9月にかけて3回のワクチン接種を受けたHCWの4回目の曝露状況に関連するハザード比を評価した。参加者全員を、研究開始時は未被曝、4回目の投与を受けた7日後に被曝と定義した。参加者は、SARS-CoV-2感染が確認されるか、あるいは研究期間が終了した時に調査を打ち切った。Cox比例ハザード回帰モデルは、性別、年齢層、職業、病院、および3回目のワクチン投与を受けた月で調整された。すべての共変量は、ハザード比例の仮定を評価するために、シェーンフェルト残差で検定した。非比例ハザードは層別化によって処理された。この非対照モデルは、前の解析で説明したように、完全なマッチングを含むモデルに続いて行われた。

統計解析

 マッチング解析では、粗曲線はlog-rank検定で、マッチングデータはPrentice-Wilcoxon検定とペアデータの比較のためのGehan検定で比較した。これらの解析はWINPEPIソフトウェア、バージョン11.65(J. Abramson)を用いて行われた。回帰モデリングのための統計解析は、Rソフトウェア、バージョン4.0.3(R Foundation for Statistical Computing)を用いて実施された。Cox比例ハザード回帰モデルはsurvivalパッケージを使用して計算された。その他のパッケージは、dplyr、tibble、ggplot2、およびsurvminerを使用した。両側P < 0.05を統計的に有意であるとみなした。

結果

 2021年8月から9月の間に本研究に参加した11病院において、全体で29,611人のHCW(女性19,381人[65%]、男性10,230人[35%]、平均[SD]年齢、44[12]歳)が3度目のワクチン接種を受けた。これらのHCWのうち、7370人(25%)が医師、8946人(30%)が看護師、13,295人(45%)がその他の職業であった(表1)。女性HCWに比べ男性HCWは4回目の接種を選択する割合が高かった(10,230人中2,503人[25%] vs.19,381人中3,016人[16%]、P< .001)。高齢のHCWは、若いHCWよりも4回目の投与をより頻繁に選択した(60歳以上、4172人中1749人[42%]、40~59歳、13898人中2605人[19%]、40歳未満、11,541人中1,165人[10%];P < .001)。また、看護職員(8,946人中1,215人[14%])やその他の職種(13,295人中2,417人[18%])よりも医師の方が接種頻度が高かった(7,370人中1,887人[26%])(P < 0.001)。HCWの特性は、すべての参加病院で類似していた(表2)。
 2022年1月中に、合計5,519人のHCWが4回目の接種を受けた。これらのHCWのうち、188人がワクチン接種後1週間以内にCOVID-19に感染したため、3回目投与群に加え、残り5,331人のHCWを4回目投与群とした(図1)。
 ブレークスルー感染の発生率は,4回投与群で5,331例中368例(7%),3回投与群で24,280例中4,802例(20%)であった。相対リスクは,粗解析で0.35(95%CI,0.32-0.39),マッチド解析で0.61(95%CI,0.54-0.71)であった。Cox比例ハザード回帰モデルにおける調整後ハザード比は0.56(95%CI, 0.50-0.63)であった。
 全体として、4回目の投与がCOVID-19感染率に及ぼす影響は、すべてのサブグループにおいて粗解析、マッチド解析、モデル解析で一貫していた(表3)。粗データおよびマッチングデータのKaplan-Meier曲線を図2に示す。両群とも、重篤な疾患や死亡は発生しなかった。

考察

 イスラエルの11の総合病院のHCWを対象としたこの多施設コホート研究では、オミクロン変種波による感染のピークの間で、4回目を接種したワクチン接種者は3回接種のワクチン接種者よりもCOVID-19の感染リスクが低いことが明らかになった。4回目のワクチンの有益性は,サブグループ解析(性別,年齢層,職業)およびほとんどの参加病院で有意であった(表3)。これらの結果は、マッチング分析およびCox比例ハザード回帰モデルにおいても一貫して有意であったが、顕著ではなかった。この結果は、今回の分析で調査した集団の人数規模が小さかったことによるものと説明できるかもしれない。イスラエルで4回目の投与の効果を調べた他の研究(5,6)では、高齢者集団において、同様の効果が報告されている。
 3回目のワクチン接種により、デルタ変種発生時のCOVID-19の感染率は著しく低下した(7)。4回目の接種でも同様に感染率が低下したが、その程度は小さかった。イスラエルの研究(8)では、4回目の接種後に観察された抗体の増加量は、3回目の接種後よりも顕著ではなかった。この増加は、別の多施設共同研究(9)や免疫不全者では認められなかった(10,11)。
 イスラエルではHCWのほぼ全員が3回目の接種を受けたのに対し(12) 、我々のコホートでは4回目の接種率は全体でわずか19%であった。この結果は、2度目のブースター接種の必要性についてHCWの間で疑問が持たれていることを反映している。オミクロン変異型の病原性の低下と最初の3回のワクチン接種による防御の組み合わせがあるため、4回目のワクチン接種に更なる価値はないというのが共通の仮説であった。しかし、HCWへのワクチン接種にいついて考える場合、パンデミックの初期に見られたように多数のHCWが隔離されることで医療システムの機能が損なわれる可能性があるため、合併症や死亡率と同様にウイルスに対する感染率も重要である(13)。
 HCWと比較して、60歳以上の高齢者と免疫不全者(イスラエルでは4回目までの接種が推奨されている)の接種率が非常に高かった。1この結果は、おそらくこれらの人々がより高いリスクを認識していることと関係があると思われる。このことは、本コホートにおける高齢HCWの接種率の高さにも反映されていた(表1)。さらに、看護師や他の職種に比べ、医師の接種率が高かった。他の研究(14,15)でも、看護師はCOVID-19だけでなくインフルエンザワクチンの接種率も低いことが示されている。

制限事項

 本研究にはいくつかの限界がある。第一に、HCWは日常的には検査されていなかったため、いくつかの感染が見落とされていた可能性がある.第二に、4回目のワクチン接種の判断は任意であったため、4回目のワクチン接種を選択した者は感染に対する意識が高く、より感染しないように注意した可能性がある。追跡期間が短いこともこの研究の限界であるが、全体の感染率はその後の数週間で急速に低下しており、この結果は確かな予防効果を示していると考えられる。

結論

 このコホート研究により、BNT162b2ワクチンの4回目の接種が、イスラエルのHCWにおけるCOVID-19感染率の有意な低下と関連することが明らかになった。今後のCOVID-19の流行においては、健康システムの機能を維持するための有効な方法としてワクチンの更なる追加接種を検討する必要がある。

 

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