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#38【股関節】グロインペイン(鼠径部痛症候群)は中殿筋をゆるめましょう。

私は高校サッカー部でトレーナー活動をさせていただいています。活動する中で、グロインペインに遭遇することがかなり多いなという印象です。
毎学年に1〜2人はいるような気がします。

私は自分の経験から、グロインペインを治すためには中殿筋をゆるめるのが重要であると考えています。
今回はそんなお話です。


1.グロインペインについて概要

グロインペインはスポーツ活動中に鼠径部に現れる痛みの総称です。「足関節捻挫」や「ハムストリング肉離れ」などと違って、痛みの責任部位を特定することが難しいため、「鼠径部痛症候群」という曖昧な表現に留まっています。

グロインペインはアスレティックトレーナーの教本でもかなりのページを割いて紹介されています。診断を重視する西洋医学にとってグロインペインの病態を掴むのは困難であるため、その評価方法とリハビリの手順について詳しく記載する必要があるのでしょう。

例えばグロインペインの原因として内転筋の起始部、腹直筋付着部、大腿直筋腱、腸腰筋腱などの炎症の可能性が書かれています。かと思えば、変形性股関節症の初期、はたまた潜在的な鼠径ヘルニアであるかもしれないなどとも書かれており、何ともまとまりがない印象です。

教本を読んでも本質的な記載が少なく、結局よくわからないという状態になりがちです。
私も教本でグロインペインを学びながら、実際に痛みを抱えている選手を相手にあれこれ試行錯誤をしてきました。そして今は中殿筋一択だと思うようになりました。

2.なぜ、中殿筋なのか

ここからは私独自の考えを多く含みますのでご了承ください。

中殿筋と言いましたが、正確には中殿筋の前部線維です。中殿筋の前部線維は股関節の内旋の作用があります。
なぜ中殿筋の前部線維がグロインペインの原因なのかを、いくつかの視点で説明していきます。

2-1.内転筋ではなく中殿筋なのか?

グロインペインは内転筋をゆるめましょうとよく言われています。実際病院に行った選手は、内転筋をグリグリとやられて痛かったと言っていました。
痛みを発するのがちょうどお股のあたりであることや、放っておくと恥骨の疲労骨折にもつながるため、内転筋が原因だと考えてゆるめているのでしょう。
しかし私の意見としては、内転筋を頑張ってゆるめても痛いだけであまり効果はありません。

確かにグロインペインの選手は内転筋の収縮時痛がありますし、内転筋を押すと患部の疼痛が再現されたりするのでこれが原因に違いないと思いがちです。硬くなった内転筋をゆるめれば患部の負担が減るはずだというのも筋が通っているような気がします。

しかし私がここで考えるのは、筋が縮み過ぎるのが原因で体を痛めるという現象が果たしてどれほどあるだろうか、ということです。
御存知の通り、筋肉は縮むのが仕事です。縮むのが得意な筋肉が縮みすぎて体を損傷してしまうのはおかしいと思いませんか。
人の体の組織はたいていの場合、伸ばされるストレスがかかったときに損傷するのです。

例えば足関節捻挫は靭帯が引き伸ばされて千切れてしまう怪我です。ハムストリング肉離れはハムストリングがエキセントリックに収縮して千切れてしまう怪我です。
つまり筋肉で言えば、エキセントリックに収縮したときに怪我をするのであって、コンセントリックに収縮したときに体を痛めるというのは考えにくいのです。

内転筋がエキセントリックに収縮しているのはいつかと言えば、当然股関節が外転しているときです。ということは股関節の外転が強くなりすぎているが故に、内転筋のエキセントリック収縮も強くなり、筋肉や腱の付着部に炎症が起こってくると考えるのが自然ではないでしょうか。

内転筋がいくら過剰に収縮しているとしても、それがコンセントリックな収縮であればグロインペインの原因とは考え難いです。
むしろ内転筋のエキセントリックな収縮を助長してしまう、股関節の外転運動を担っている筋に問題があるのではないでしょうか。

そして股関節の外転筋と言えば中殿筋です。
ですので、グロインペインの原因は内転筋ではなく中殿筋である、というわけです。

2-2.サッカーの競技特性から考える。

グロインペインがサッカー選手によく見られるのはサッカーの競技特性が関わっていると考えるのが自然です。
そしてサッカーといえばやはりボールを蹴る動作を多用するので、グロインペインの原因はボールを蹴る動作だと考えていいでしょう。

ボールを蹴る動作を専門用語で表現すると、股関節の屈曲+内転になります。正確なパスを出すときのインサイドキックなどでは、股関節を外旋させながら屈曲+内転させるという動きにもなります。

筋の作用を見ていきましょう。
単純な屈曲+内転では、内転筋や大腿四頭筋などはコンセントリックに収縮され、拮抗筋である外転筋(中殿筋)やハムストリングはエキセントリックに収縮しています。
中殿筋に繰り返し伸張される負荷が加わるので、次第に中殿筋の筋力が低下していき収縮ができなくなってしまうことが考えられます。
ゴムを何度も何度も引っ張っていたら次第にゆるゆるになっていくのと同じことです。

ここにインサイドキックのような股関節の外旋が入ると、中殿筋の後部線維は収縮しますが前部線維はさらに伸長されてしまいます。
これが中殿筋の前部線維を特に重視している理由です。

股関節を内旋することがあれば中殿筋前部線維も収縮できる機会があります。しかしボールを蹴るという動作では、大抵が中殿筋前部線維を伸長させてしまいます。したがって、蹴る動作を多用するサッカーでは中殿筋前部線維の収縮力が低下してしまうことが言えます。

2-3.外旋制限だけでなく内旋制限も出る

グロインペインは股関節を外旋させると疼痛が出ます。外旋制限が出るため、内転筋をゆるめて外旋可動域を改善させましょうというように言われています。
しかしアスレティックトレーナーの教本には、股関節の内旋制限のチェックも推奨をしています。グロインペインは外旋制限だけではなく内旋制限も出るのです。これこそがまさに、中殿筋前部線維の機能のチェックだと言えます。

腹臥位で両膝関節を90°屈曲させ、足関節辺りを把持して両足を外に開いていきます。両股関節を内旋させるのですが、可動域制限がある方の足は外方に開きにくくなります。
そしてグロインペインを患っている方の股関節に内旋制限を認めることが多いです。

内旋制限があるということは、内旋作用を持つ筋の収縮能が落ちているということです。股関節内旋作用を持っている筋肉は中殿筋の前部線維です。

おそらく外旋位でボールを蹴るという動作を多用するので、股関節も外旋位が癖づいているのでしょう。
外旋位が癖づくと筋だけでなく関節を覆っている関節包や靭帯などの組織にも影響が出てきます。外旋しているということは、股関節後方の関節包や靭帯が短縮し、前方の関節包や靭帯が伸張してしまうということです。

球関節の後方組織の短縮は obligate translation という現象に繋がります。
肩関節疾患の要因として重要な考え方ですが、同じ球関節である股関節にも当てはまるだろうというのが私の個人的な意見です。
obligate translation については、記事を書いていますので是非ご覧ください。

obligate translation は股関節の内旋制限につながります。関節自体に内旋制限が出ると内旋筋の収縮能は増々低下してしまいます。
さらには前方の組織に伸張ストレスがかかりますので、前方組織の怪我につながります。

私は、股関節前方や内転筋に痛みが出やすいのは、この股関節前方組織への伸張ストレスが原因ではないかと推測しています。関節の前方が伸長されれば当然そこを上から覆っている内転筋なども伸長ストレスを受けますので、内転筋の付着部に炎症が起こってくるということです。

ですので、股関節を内旋させる中殿筋前部線維をしっかりゆるめて収縮できるような状態にする必要がありというわけです。
さらにobligate translation について考えるなら、内転筋への施術より外旋筋群や関節の後方組織の方に施術するほうが理にかなっているとも思います。
伸張ストレスを受けて傷んでいる内転筋にさらに施術をするのは傷口に塩を塗るようなことだと思いませんか?

3.中殿筋前部線維をゆるめるだけで股関節の可動域が変わる。

グロインペインの選手に対して、内転筋をしっかり緩めるという施術をしていた時期もありました。施術するとたいていの選手は強い痛みを訴えてきます。しかし、内転筋を施術して可動域が大きく変わるかと言われるとそれほど効果が無いように思っていました。

しかしいつからか、上記のように考えて中殿筋前部線維をゆるめるようにすると、可動域が大きく変わるのを私も選手も実感しました。
トレーニング前に痛いから見てくださいと言われ、中殿筋前部線維をゆるめるだけでその日トレーニングをこなす選手もいたくらいです。

論文とか報告を読んだわけではなく全て私の持論ですが、実際に施術をしている実感としては間違ってはいないのではないかなと思います。
グロインペインは選手生命にも関わる怪我だとも言われています。正直、怪我の進行具合によっては、私の考え方でも歯が立たない症例はあるかもしれません。
そういう場合は、整形外科等で画像を撮るなどして正確な病態把握に努めるべきだと思います。

けど「最近脚の付け根が痛いです」というくらいの初期の段階では、中殿筋前部線維への施術をしっかり行うのがベストなのではないかなと考えています。
現場でグロインペインをみることがある方がいらっしゃれば、是非お試しください。

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