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#12【股関節】股関節不安定性の原因・評価・施術について

股関節は球関節に分類され、同じ球関節の肩には劣りますが、とても広い可動域を持っています。それ故に、股関節が動かなくなってしまうと全身に多大な影響が出てしまいます。
特に股関節の不安定性から疼痛が出て、関節運動に偏りや制限が出ている方はかなり多いような印象があります。

今回は股関節不安定性の原因・評価・施術について書いていきます。知っていると施術をする際のヒントになることが盛りだくさんだと思います。


1.寛骨臼形成不全症について

股関節不安定性の原因と言えば、「寛骨臼形成不全症」はよく効く病名だと思います。患者さんからも、「私整形外科で寛骨臼形成不全と言われました」とよく言われます。
寛骨臼形成不全症はアジア圏の国々で有病率が高いと言われていおり、潜在的に股関節不安定性を有する日本人はかなり多いと言われています。

寛骨臼蓋 Thanks to @visiblebody

赤色で強調しているのが寛骨の臼蓋です。臼蓋という受け皿に大腿骨頭がスッポリとハマっています。寛骨臼形成不全症というのはこの受け皿である臼蓋が浅くなっている状態です。受け皿が浅いということは、大腿骨頭がしっかりとハマらず、動きすぎてしまうということです。動きすぎてしまうということはすなわち、不安定性が出るということです。

寛骨臼形成不全症では、臼蓋が浅くなっているが故に大腿骨頭が動きすぎることで、骨同士が衝突し痛みに繋がるケースがあります。特に変形性股関節症に繋がるケースが多く、酷くなれば歩けなくなる可能性もあります。

お察しの通り、寛骨臼形成不全症は骨の問題なので手を使った施術でどうこうできるような病気ではありません。変形性股関節症まで進んでしまった股関節はそれこそ整体ではどうすることもできません。
ただ変形がまだ進んでいない初期の段階で、インピンジメント症候群が疑われるくらいのようであれば、できることはあると思います。後述します。

さて、股関節不安定性について抑えておくべき問題が実はもう一点あります。それは、obligate tlanslationと呼ばれるものです。

2.obligate translation

obligate translationという現象があります。直訳すると「義務的な移動」という意味です。定義は、「軟部組織の柔軟性低下があると、関節の回転に伴って回転方向と同方向に骨頭が変位する現象」です。

例えばこちらの画像を見てください。(簡易的な絵で申し訳ありません)

obligate translation Thanks to @visiblebody

赤い線は仮に関節包だとしておきます。今、関節後面の関節包(右の赤線)の柔軟性が低下し、関節前面の関節包(左の赤線)は正常な柔軟性を保っています。後面の関節包は、本来は前面同様に骨頭に沿って丸みを帯びているはずですが、柔軟性が低下しているので伸びることができず一直線になってしまっています。

察しの良い方はもうわかるかと思いますが、柔軟性が低下した関節後面の関節包は自分が伸びれない代わりに、骨頭を前に押し出すような力を大腿骨頭に与えてしまうことになります。

obligate translation② Thanks to @visiblebody

大腿骨頭が前に押し出されると、骨頭の前側と受け皿である臼蓋の前方がぶつかってしまうことが想像できるかと思います。

oblligate translationは、肩関節において骨頭変位の原因としてよく挙げられます。股関節は肩関節に比べると受け皿が深いので、obligate translationによる影響は少ないと考えられます。
しかしながら、寛骨臼形成不全症が見られない方でもFADIRテストが陽性になる方がいます。骨に異常が無いにも関わらずインピンジメントが起こっているということは、これは軟部組織の問題でありobligate translationがその原因になっている可能性が示唆されます。

FADIRとは、「Flexion」「ADduction」「Internal Rotation」の頭文字を取った名前です。股関節を「屈曲」「内転」「内旋」させたときに、股関節前方に疼痛が出れば陽性です。股関節のインピンジメントを疑います。

股関節不安定性を考える際、最初に述べた寛骨臼形成不全症がまず主な原因として挙げられます。一方寛骨臼形成不全症が無いにも関わらず股関節の不安定性(インピンジメント)を訴える方もいます。そういう方は、obligate translationの可能性も考えながら、施術にあたることが大事です。

そして、これは私見ですが、寛骨臼形成不全症の方でもobligate translationによる前方不安定性を呈している方が多いのではないかと思われます。股関節というのはその構造上、骨頭が前方に動いてしまう可能性の方が高いと思われます。そして現代の生活習慣を考えても、座っている時間が圧倒的に長く、股関節の後面は長時間圧迫されているので柔軟性低下も起きやすくなっていることが想像できます。
つまり股関節不安定性とobligate translationは切っても切れない関係になっているのではないか、というのが私の意見です。実際こういう視点で施術をすれば、インピンジメントは即座に解消されることが多いです。

3.股関節不安定性の評価

前方不安定性があるかどうかのチェックは、先程のFADIRテストやパトリックテストでチェックします。パトリックテストは本来仙腸関節炎のテストだと書かれていることもありますが、私は股関節の可動性をチェックするためによく使います。

パトリックテストは、股関節を屈曲・外転・外旋させ、踵を対側の膝の上に乗せるテストです。正常な可動域があれば、大腿が床面と並行になるまで膝が下がりますが、疼痛などで大腿が下がりきらなければ陽性です。

これらは、具体的な症状として現れていない方でも陽性になることがあります。股関節が痛いと訴えていない方でも陽性になるということです。これは潜在的な股関節不安定性でしょうから、私はその施術中にテストが陰性になるように施術しています。
また症状としてある方でも鼠径部の痛みを訴える方もいれば、大腿部の痛みを訴える方もいる、というような印象です。これは私の経験上の話で確証があるわけではありませんが。

他にも、prone instability testというのがあります。患者を伏臥位にして、股関節を外旋位にします(膝を90°屈曲させて足首を持って股関節を外旋させるとやりやすい)。外旋位にした大腿骨の大転子を把持し地面に垂直方向に押して疼痛が誘発されれば陽性です。
大腿骨頭を無理やり前方に押し出すようなイメージですね。股関節の前方不安定性があれば、陽性になることがあります。

4.股関節不安定性の施術

FADIRテストで陽性が出ると、たいていの場合患者さんは「足の付け根が痛い」「つまる感じがする」と言って嫌な顔をします。obligate translationだから関節後面の軟部組織の柔軟性低下が原因だと言って、そのまま後面を伸ばそうとすると、さらにつまりが強くなり痛みが増すこともあります。

そんなとき私は先に内転筋やハムストリングをしっかり緩めていきます。内転筋やハムストリングがちゃんと収縮することで、大腿骨頭の動きが安定するようになります。これらの筋をゆるめるとFADIRテストが陰性になりますので、そうなってから殿筋など後面の組織のストレッチをしっかり入れます。

大事な視点ですが、股関節後面の柔軟性が低下する要因は必ずあります。例えばスウェイバック姿勢は、股関節の前方不安定性に繋がる代表的な異常姿勢です。スウェイバック姿勢とも関連しますが、腸腰筋の機能低下なども大きな要因となります。
股関節の施術をすることはもちろんですが、根本的な原因となっている姿勢不良や筋バランスの変化なども改善していく必要があるでしょう。

5.まとめ

以上が股関節不安定性の原因・評価・施術についてです。

obligate translationはそのまま肩関節の評価にも応用できる考え方ですので、知っておいて損はありません。これが股関節でも起こっているのではないかと考えて施術をすると、実際に辻褄の合うことが多いなという印象です。
是非こうした視点を股関節の施術に取り入れてみてください。

股関節について学ぶ際は、股関節の形態など解剖学の「か」の字から勉強するのがいいと私は考えています。二足歩行をするヒトにとっては股関節の形態は不自然そのものだと私は思います。だかこそこうした不安定性に悩む人が出てくるのでしょう。
機会があれば、ヒトの進化と股関節の形態についてもダラダラと記事を書いてみたいですね。

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