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<読書録:世界標準の経営理論>

<読書録:世界標準の経営理論>

■同書にはそもそも何が書かれていて、狙いは何か?:

経営理論は突き詰めると、「人・あるいは人が織りなす組織が、普段から何をどう考え、どう意思決定し、どう行動するか」に他ならない。経営学とは人の考えを探求する分野だ。
そしてそもそも「本当の意味で経営理論は存在しない」
予測不可能な未来と、シンプルに説明することのできない複雑怪奇な人の思考について、それ等全てを網羅した理論は存在しない。
また「ビジネスとは何か?」という世界的に共通認識はない。
一方で、ではなぜ経営理論を学ぶのか?
それは、「なぜ企業はそのような行動をとるのか、なぜ組織はそのようになるのかの「WHY」に一つの道筋を与え、皆さんの思考をクリアにする」からだ。
クリアになった思考はその軸を端緒にしてさらに飛躍する。軸があるからこそ、そこを出発点として新たな考えも生み出せる。新たな考えはビジネスの未来を切り開く一助となる。
逆に正解のないビジネスにおいて、既存の型に無理やり当てはめてしまう経営のフレームワークは思考を停止させがちだ。
自身たちに課せられた共通の事象は、複雑で変化が激しく、答えが無いかもしれない世界で、意思決定だけはしなくてはならないことだ。何が正解かはわからなくても、ビジネスパーソンは意思決定をして前進しなければならない。
そして一流の経営者に唯一共通していることは、「常に考え続けている」こと。考え続けるには、何か思考のよりどころ(=軸)が必要だ。軸が無い中でやみくもに考えてもそれは羅針盤の無い中で航海する船のようなもので、思考はクリアにならない。

本書は経営理論を思考の軸として、さらに活用するための視座を得ることを狙いとなっている。

経理理論とは:
本書の理論は、経済学・心理学・社会学などの他学問の基礎から派生してきたものだ。
なぜ、経営学では他分野の理論を基礎とするのか?
経営学で扱う対象は、経営・ビジネス・組織などだが、それはあくまで「現象」に過ぎず、ビジネスをしているのは「人」である。経営理論とは(そして複雑怪奇なそもそも人はこのように考えるものだということに基盤を持った)社会学、経済学、心理学を応用している。

■理論とは?:
経営で起きる事象において、「WHY」について説明すること。
HOWやWHENではない。WHYが伴わないフレームワークは理論とは呼べない。


第一部:経済学ディシプリンの経営理論

経済学の前提:
経済学の前提は、全ての人が合理的な行動をしているわけではないということ。
各人は「自分にとって可能な範囲の行動の中で最も好ましいものをとる」
全ての人がいつも100%合理的とは限らないが、人はそれなりには合理的である。

■SCP理論:「ポーターの戦略」の根底にあるものは何か
S:ストラクチャー(構造)
C:コンダクト(遂行)
P:パフォーマンス(業績)

産業そのものが儲かる構造になっているかどうかということを説明する理論
※注意点としては、SCPは安定と予見性を前提にしている。市場を規定する参入・移動の条件が目まぐるしく変わり、均衡が定まりにくく、結果不確実が高い状況では適用できない。

<完全競争より寡占が、寡占より独占が儲かる構造>
経済学観点からの完全競争が儲からない理由、独占が儲かる理由は割愛。

寡占はなぜ儲かるのか?:
寡占産業では企業数が少ないので、一社の行動が他者の行動に影響を及ぼしやすい。

SCP理論をベースにした戦略フレームワーク
<5フォース理論>
フォースが強い産業ほど、完全競争に近づき、フォースが弱いほど独占・寡占に近づいていく。
要素:―――――――――――――――――――――――
① 潜在的な新規参入企業
② 企業間の競合度合い
③ 顧客の交渉力
④ 売り手の交渉力
⑤ 大体製品の脅威
―――――――――――――――――――――――
戦略グループとは:
どの企業が自社にとって直接のライバルか、どのグループが優位か(移動障壁が高いか)などを分析していくフレームワーク

ジェネリック戦略とは:
自社が業界内でとっている「ポジショニング」を検討するフレームワーク

<メモ>
「米国では持続的な競争優位を実現できている企業は全体のわずか2~5%しかない」ということ。

なぜ現代の企業は競争優位を持続できないのか?:
規制緩和、グローバル化、ITの発展などにより以前より著しく競争がはげしくなっているかだ。
業績がおちかけても、すぐに新しい手を打って業績を回復できる企業が増えている。

一方で
今の時代に勝っている企業はSCPが前提としていた持続的な競争優位ではなく、「一時的な競争優位を連鎖して獲得している企業」である。

■資源ベース理論(RBV):
企業が持つ人材、技術、ブランド等、複数のリソースの組み合わせによって、一つ一つの価値より価値が上昇し、競合からの模倣も困難となり優位性が生まれる。
条件: ―――――――――――――――――――――――
① 蓄積経緯の独自性
企業が時間をかけて組み合わせて蓄積したリソース郡ほど模倣されにくい
② 因果曖昧性
因果関係が複雑なリソースの組み合わせほど、その中で何が一番大事なのか、価値を出す根本の原因は何かがはっきりしないので模倣しにくくなる
③ 社会的複雑性
リソースが複雑な人間関係・社会的関係に依拠すると他者がそのリソースを使うことができない。

※RBVの理論にも不明明瞭なことが多く、理論化、フレームワーク化が進んでいないことも事実。
①曖昧な表現が多く、具体的に何かが不明瞭になる。
②社内リソースはブラックボックス化、定性的なものが多いため、実際にRBVを用いて、では実際に何を戦略として落とし込むか?という判断が難しい。

SCP理論とRBV理論 の競争の型の違い:
SCP理論はIOの競争であるという。

IO型の競争とは?:
競争環境は完全競争から乖離するほど、そこにいる企業の収益性が高まる。
この場合、有効な戦略は環境構造そのものを変えることで、参入障壁を築いたり、差別化で企業グループ間の参入障壁を高めたりすることが重要な要素となる。

RBV理論で有効なチェンバレン型の競争
チェンバレン型の競争とは?:
製品・サービスが企業ごとに差別化されている状況を所与として組み込んでいる。他方で、参入障壁が無いので、新規参入企業も差別化された製品・サービスを持って参入できる。結果企業同士は差別化されながらも厳しい競争をすることになり各企業は超過利潤がゼロにはならないものの完全独占よりははるかに収益性が低くなる。
ある程度の差別化がされた状態からさらにどうやって「勝つ差別化をするか」が重要。

シュンぺーター型の競争とは:
原則として「不確実性の高さ」「予測のしにくさ」を前提に置く。

理論の使い分けで重要なことは競争環境を見分けること:
参入の難しい、医薬品、エネルギー型はIO型、技術力・開発力で差別化が図れている自動車業界はチェンバレン型、イノベーションの変革スピードが激しいIT業界はシュンぺーター型等と業界の構造、及び競争環境を鑑みて理論を使い分けることが重要。
必要なのは鷹の目だ。自分のいる業界だけでなく、より多くの他業界を幅広く俯瞰して、自社を取り巻く環境はどの型の競争に近いのか(近くなっていくのか)を比較検討・予測することだ。
※一方で今どの業界も不確実性は高まっている。

<※なぜ?>
戦略的に参入障壁を高めたり、移動障壁を築いたりしたこと(=ポジショニング)で国際的に成功した企業は少ない。

■情報の経済学①:
<悪貨が良貨を駆逐する>のはビジネスの本質である

完全競争の条件の一つ
「ある企業の製品・サービスの完全な情報を、顧客・同業他社が持っている」
この状態が成立ケースは稀だ。
「アドバース・セレクション」悪貨が良貨を駆逐する
例)アカロフのレモン市場中古車はその正確な品質情報が、買う側にわからないことにある。中古車はそれまで別の誰かがのtt得居たのだから、胡椒歴、事故歴があるかもしれない。「本当の価値」がわからない状態なりがち。当然ながら中古車ディーラーの営業マンは当然ながら本当の価値を知っている。この状態を「情報の非対称性」と呼ぶ。
この時、営業マンは、本当の価値が100万円の価値だっとしても合理的であれば、150万円の値を提示する。一方で買い手は「これは中古車であり、営業マンが情報を隠しながら、本当の価値より高い売値を提示する可能性がある」ことを知っている。だとすれば買い手が合理的である限り、ディスカウントを求めるはず。
ここで起きることは、正直な営業マンが本当の価値が150万円の中古車を150万円の価格で提案したとしても、売り手にはその情報が伝わらないため、ディスカウントを求められることである。結果、ディスカウントを求められると利益破綻してしまうため取引が不成立となる。結果正直な営業マンが市場からいなくなり、虚偽提示をした営業マンだけが生き残る。

・対処法としての事例
メルカリ事例)
売り手の過去の取引評価が誰にでも見えるようになっている。どれだけ信頼できるかの判断材料になる。また売買が成立すると、買い手の支払金はメルカリが一旦預かり支払金がメルカリに届いたことがわかったら売り手が商品を送る。商品が受け取られたことがわかったら金額を売り手に届ける

その他の対処法としてシグナリングや、スクリーニングなども行われる。

シグナリング:
私的情報を持つ側の問題、「優秀である自分の情報が本当だと相手に信じてもらえない」とき
(わかりやすい発信は学歴)※シグナルには「裏付け」がなければならない。
スクリーニング:
「私的情報を持っていない(すなわち相手が私的情報を持っている)プレーヤー」が、複数種類の商品を提示したりするなど「顧客に選択肢を与える」ことで、顧客が勝手に自らの私的情報に基づいた行動を取って、アドバース・セレクションが解消されるメカニズムのこと。
例)保険。価格設定と見返りが異なる保険等。

情報の経済学②:(エージェンシー理論)人が合理的だからこそ、組織問題は起きる

エージェンシー理論:
取引事体にアドバース・セレクションが生まれる構造を見たが、エージェンシー理論は取引が成立した後に起きる問題を説明する理論。
発生因果は「目的の不一致」だ。これは両者の目指すところ・利害関係の乖離を指す。
そして「情報の非対称性」だ。
エージェンシー理論で起きるモラルハザード:
多くのビジネス行為は、経済主体(プリンシパル)が特定行為を代理人(エージェント)に依頼して、変わりに行動してもらっていると捉えれる。
自動車保険なら、加入者に注意深く会ってほしい保険会社(プリンシパル)が、「注意深く運転する」という行為を加入者(エージェント)に依頼していると解釈できる。
一方で元々注意深かったエージェントは、保険に加入したことによってある意味合理的に注意深くなくなる。そして保険会社は加入者の日々の行動を、逐一把握できないからだ。
これらは合理的な判断の帰結と捉えることができる。

エージェンシー理論説明できること。(株主と経営者の関係について):
失脚を恐れリスク回避を選択し大胆な戦略が取れない経営者
利益よりも企業規模を重視する経営陣(利益か成長か)
経営者の報酬(企業利益の伸長よりも経営者報酬の伸長率が高い※特にアメリア)
粉飾決算等の企業スキャンダル
解決例)
同族企業の経営の実践
同族企業のほうが、非同族企業よりも業績が高くなる
特に業績がいのは経営者が婿養子の場合
何故か?:
創業家が大株主なので「所有と経営が一致」株式会社制度の基本は所有と経営の分離だが、逆に言えばそれによってモラルハザードがおきる。同族企業は主要株主と経営者が一枚岩で創業家がビジョンを共有しているので、目的の不一致がない。創業家と一枚岩であれば大胆な戦略をとっても解任のリスクが少ない。
反面、創業家から選ばれれる経営者の能力が高いとは限らない。婿養子ならそのような問題も解決できる。

■取引費用理論(TCE):100前も現在も、企業の在り方は「取引コスト」で決まる

ビジネスの取引において、発生するコストを最小化する形態・ガバナンスを見出すのが目的。ここで取り込む「人についての仮定」は「限定された合理性」だ。
いわゆる人の将来を見通認知力には限界があり、人はその限られた将来予見力の範囲内で合理的に意思決定を行う。

ホールドアップ問題とは?:
事例)
ノウハウが外注先にまってしまい、外注先に依存せざるを得ない状態では、不利な条件で取引を飲まざるを得ない。
ホールドアップ問題は下記要因によって起きる
① 予測自体の予見困難性
② 取引の複雑性
③ 資産特殊性
④ 機会主義(相手を出し抜いてでも利する行動を取ること)

<解決策>
取引先の買収
人件費・製造原価のような実際の製造コストも重要だ。
一方で市場ベースの取引には実は取引コストが多大にかかっている可能性がある。製造原価の安さを相殺する以上になりうることもある。その中で「外注か・内製か」を考える必要がある。
(外部化における取引コスト>外部化による原価メリット)→内製化
(外部化における取引コスト<外部化による原価メリット)→外注化

ハイラーキーとは:
不等質な構造を持ち階層構造をもつもの。
順にハイラーキーな組織。ただし、取引コスト以外のコストも順に高い(投資する資金、生産コスト、販管費等)
状況に応じて下記を取引コストとそれ以外のコストを鑑み、ガバナンス形態の意思決定をしていく。
① 一企業による統治(現地企業の買収による海外進出100%独自資本)
② ジョイントベンチャー(合弁)
③ 共同開発(国際間R&D)
④ ライセンシング(海外へのフランチャイジング)
⑤ スポット市場取引(輸出)

一般的に司法システムが機能しにくいという意味で新興市場の取引コストは高い。
ただこれからは軒並み取引コストがITの進展により国境をまたいで行えるため、全般的に低下傾向にある。

■ゲーム理論①~このようのかなりの部分はゲーム理論で説明できる~

ゲーム理論は相手の意思決定・行動の相互依存関係メカニズムと、その帰結を分析するもの。
かみ砕くと互いの意思決定を読みあった結果として何が起きるかを考えるのが、競争戦略でのゲーム理論の中心課題。

ベルトラン・パラドックスとは?:
価格を下げることによる競争により、結果両者ともシェアが変わらず利益だけが落ちること

クールノー競争(非協力・同時)とは?:
増産することによる競争。これらも供給過剰になれば結局ベルトランの競争に陥らざるを得ない。
※ただしリーダー、フォロワーの関係が成り立ち、相手の出方を伺っておおよそどう動くか想定できるときは、そうならない。

逐次ゲームとは?:
そもそも同時ゲームは逐次(じゃんけんとチェスの違い)ゲームに変えられる。(ゲームルールは変えられる)
フォロワーの行動をリーダーの都合の良いように先導できるため、逐次ゲームのリーダーになること(先手が打てること)が大きなメリットを生む。

ただし、逐次ゲームのリーダーとなるために必要なポイントがあり、下記が成立しない場合はリーダーになっても意味がない。
① 先に宣言をすること
② その宣言が信用に足ること(戦略的コミットメント) 
  フォロワーに先駆けた宣言を信じさせて選択を誘導できないと意味がないということ。

無限繰り返しゲームとは?:
無限繰り返しゲームは前提が異なる。
一度きりではなく、無限繰り返しのゲームが前提になると、合理的な判断の帰結の仕方が変わる。ゲームを繰り返す中で相互に学び、ベルトラン・競争の不毛さに気づき、お互いが結託をしていなくてもお互いが一番メリットを保てる構図に落ち着く。

人を信頼するとはどういうことか(経済学的な観点から):
人間の心の中には見返り無しに「無償で人を信じる」部分があると考えがちだが、経済学のゲーム理論では、人の信頼は「無限繰り返しゲームをする人々が自身と相手の損得を考えたうえでの合理的な判断の帰結として起きている」と捉える。ある人と長い付き合いになるということは無限繰り返しゲームを行うことだ。

■リアルオプション理論:不確実性を恐れない状況は自らの手で作り出せる

DCF法(ディスカウントキャッシュフロー):
将来その企業が生み出すキャッシュフローを現在価値に直してうえで合計し、そのキャッシュフロー合計から初期費用を含めたコストを差し引くことである。
=+なら投資すべき、マイナスなら投資すべきではない。

一方で 必ずしも事業環境は見通せる状況ばかりではない。高い不確実性も秘めている。
うまくいかないと思ったことがうまくいくこともある。

リアル・オプション:
当初計画よりも小さい初期費用でとりあえず事業を始めてみることを考える。検証的に行ってみて実際に残りの資本を投下するかを判断する。
(※オプションとは、自分が使うか使わないか決められる選択権のこと)

メリット:
① 市場下ぶれの時の大幅損失を抑えることができる
② アップサイドのチャンスを逃さない
③ 不確実性が高いほど、オプション価格は増大する
④ 学習効果

リアル・オプションの分類
① コールオプション
不確実性が高いときは一部のみ投資、不確実性が減った事後に残りの投資
② スイッチングオプション
不確実性の高い市場に複数投資してポートフォリオを組む。アップサイドを逃さない戦略
③ 撤退オプション
不確実性が高いときに撤退をしやすくすること。下振れのリスクを鑑みながら小さいリスクで参入。

リアルオプションが成立する条件:
① 投資の不可逆性が高いこと(結果がどうであれ投下した分を事後的にとり戻せるのであれば有用性は低い)
② オプション行使コストが低いこと
③ 事業環境の不確実性が高いこと
  ※事業環境の不確実性が高いときのみオプション価値は上昇する

<メモ>
日本電産永守社長の目利き力は認知心理学の領域。事業環境を見抜く力とは人・組織がいかに事業環境を「正確に認知できるか」である。


第二部:マクロ心理学ディシプリンの経営理論

■認知の限界という理論
サティスファイシングとは?:
人は合理的に意思決定をしているということには間違いない。しかしその認知力・情報処理力には限界がある。結果、「現時点で認知できる選択肢の中から、とりあえず満足できるものを選んでおく」となる。

カーネギーの人・組織の意思決定:
「限られた選択肢」→「現時点でとのとりあえず満足できる選択」→「実際の行動」→「行動することで認知が広がり、新しい選択肢が見える」→「より満足な選択」という一連のプロセスとなる。

人・組織は合理的であるがゆえに、慢心する:
組織は満足度がひくいほどサーチ(外部情報の取入れ)をする傾向がある。逆に言えば満足度が高まれば企業はサーチをしなくなるということでもある。

ルーティーンについて:
認知に限界のある企業がサーチを繰り返すと、その認知的な負担が大きくなる。
認知負担を減らすために、内部で「当然とされるルール・標準的な手続き・習慣」を形成するようになる。社員が企業のルール・習慣に当然のように従えば、それだけ認知負担が減り、認知をサーチ活動に回すことができる。

組織学習とは?:
キーワードは「経験」であり、「組織の知の変化」である。この定義に当てはめれば、「イノベーション」も「知の探索」という経験を通して、新しい知を生み出すと捉えられる。

組織学習の循環プロセス:
「組織・人・ツール」「経験」「知」という三つの要素をつなぐ、3つのサブプロセスに分解できる。
組織・人は何らかの意図をもって行動する。行動した結果「経験」する。
組織は経験を通じて、新たな「知」を獲得する。
知の獲得経路は創造と(外部からの)移転と代理経験(他者の経験の観察)。
組織の記憶(知の保存と知の引き出し)、及び組織メンバーの頭脳だけでなく、ITツール・製品・サービスそのもの等から知を獲得することが可能。

知の探索と知の深化とは?:
探索は「新しい知の追求」である。深化は「すでに知っていることの活用」である。

何故知の探索と知の深化がイノベーションに重要か?:
認知に限界があるから。
目の前の知だけをひたすら組み合わせるから、ある程度時間が経つと組み合わせが尽きてしまい、新しい知が生まれなくなる。
人・組織が新しい知を生み出すためには「自分の現在の認知の範囲外にある知を探索し、それを今自分の持っている知と新しく組み合わせること」である。

そしてとくに重要なのは「知の探索」を怠らないこと。
長期的な(組織の)知性は知の探索を十分なレベルで持続できるかにかかっているので、知の深化を増大して、知の探索を減じさせる傾向は、組織の抵抗プロセスを自己破壊的なものにしかねない。

Willと伊佐山氏の仮設:
「知」は既に日本の大企業の中で活用されないまま、埋もれている人材にある」という仮説

組織が知を効果的に引き出すために:
SMM(シェアード・メンタル・モデル)
チームメンバー間で共有される知についての、認知体系のこと。
(※メンタルモデルとは周囲の環境や、周囲に期待できる行動に対する心理的な表現のことである)

・SMMの2分化について
タスクSMM:
組織の行う仕事や、組織が持つ技術・設備などに関するメンバー間の共有認識のこと

チームSMM:
メンバー同士の行動の役割分担、メンバーそれぞれの好み、強み、弱みなどに関する共有
一例)トヨタ生産方式のブレーンストーミングルール:
① トピックに忠実であれ
② ぶっ飛んで良し
③ すぐに判断・否定するなかれ
④ 会話は一人ずつ
⑤ 質より量を
⑥ 描け、視覚的であれ
⑦ 他者のアイデアに乗っかれ

TMS(トランザクティブ・メモリー・システム):
「組織内の知の分布」についてのメタ認知。すなわち「組織メンバーが【他のメンバーの誰が何を知っているのか】を知っている」こと。
TMSを高めるためには「顔を突き合わせての交流」である。

SECIモデルとは?:
組織内における個人と個人、あるいはより多くの人たちの間での、暗黙知と形式知のダイナミックな相互作用。
共同化(暗黙知→暗黙知)
個人が他社との直接対面による共感や、環境との相互作用を通じて暗黙知を獲得する。
表出化(暗黙知→形式知)
個人間の暗黙知を対話・思索・メタファーなどを通して、概念や図像、仮設などを作り、集団の形式知に変換する。
テクニックは比喩、類似推論、アプダクション、デザイン思考。
連結化(形式知→形式知)
集団レベルの形式知を組み合わせて、物語や理論に体系化。
テクニックとして、ナラティブ(物語る)
内面化(形式知→暗黙知)
組織レベルの形式知を実践し、成果として新たな価値を生み出すともに、新たな暗黙知として個人・集団・組織レベルのノウハウとして「体得」。

上記のサイクルが回ることで、やがて形式知と暗黙知がそれぞれ増大し、組織は知識を生み出していく、そして暗黙知として昇華させていく。
 
ルーティーン:
暗黙知を形式化してメンバーの繰り返され業務・行動プロセスは標準化される。
ルーティーンの充実した組織は、認知キャパシティに余裕が生まれ、サーチ、行動がしやすくなり、新たな知を受け入れられるようになる。
※ルーティーンは組織が「進化」の阻害要因ではなく、むしろ必要条件である。

とはいえ、ルーティーンは組織の硬直を招く恐れもある。
特に急激なビジネス環境の変化が起きると足かせにもなりえる。
ルーティーンが組織の硬直化を招く要素:
①繰り返し行動の頻度が高いといき
 頻度を高めすぎればルーティーンは硬直化する。
②行動パターンの一定性
 行動パターンが一定のペースであまりにも長く繰り返されることもルーティーンの硬直化につながる
③時間プレッシャーなどの外部ストレス
 すぐに結果を出さなければならないといったストレスのある環境では、組織がいま持っているルーティーンに無条件に従うことが効率的と考えるメンバーが増える
※問題は、ルーティーンは「経路依存性(フロー)があるから簡単には変えられない。ゼロベースで作り直す覚悟が必要になる」
作るべきは「進化を前提としたルーティーン」である。

■ダイナミックケイパビリティ理論:企業が変わる力は組織に宿るのか、個人に宿るのか

何故変わる力が必要?:
多くの業界・ビジネス環境が、将来予見が十分にできない状態になりつつある。グローバル化の進展、規制緩和、急激なITの発展・デジタル化により事業環境の変化スピードが格段に速くなっているから。

ダイナミックケイパビリティとは:
能動的に、様々なリソースを組み合わせ直す企業の能力。環境に合わせて変化する力。

センシングとは:
事業機会・脅威を感知する力

サイジングとは:
センシングにより感知した事業機会を実際に「とらえる」こと。
例)
①遠くの事業機会に投資する
②現場の生情報を取り入れるため戦略部門の人材の多くを実践豊富な事業部門のゼネラルマネージャーにターム事に転換する
<メモ>
上記を実施する場合、カニバリが想定されるが、カニバリも、事業をより良く進化させることを叶えるクライアントファーストであるとジェフベゾスは奨励する。

ダイナミックケイパビリティを発揮するために重要なこと:
ルーティーン、ルールを最低限の絞ったシンプルなものにすることで、変化の激しい環境下でも状況に合わせた柔軟な対応ができるようにする。


第三章:ミクロ心理学ディシプリンの経営理論

・半世紀をこえる研究が行き着いた「リーダーシップの境地」
リーダーシップとは?:
状況あるいはメンバーの認識・期待の構成・再構成がしばしば行われる構造の(2人以上からなる)グループにおける、メンバー間の相互作用のこと。
この場合リーダーとは「変化」を与える人、すなわち他社に対して(その他者がリーダーに影響を与える以上に)影響を与える人のことを指す。
グループ内のある人が他のメンバーのモチベーション・能力を修正する時、それをリーダーシップという。

リーダー・メンバー・エクスチェンジ(LMX)とは:
リーダーがメンバー全員を「えこひいき」することで部下のモチベーション、パフォーマンスを管理することができることを説明する理論
具体的には
リーダーと部下の関係を「暗黙の交換・契約関係)」とみなし以下のような心理メカニズムを描く。
リーダーからの業務・権限の付与、パフォーマンスに応じた報酬・評価を前提としているが、部下もリーダーが自分の期待する仕事を与えてくれるか、適切な評価をしてくれるかなどを観察する。
それに満足できれば信頼と忠誠心を持ってさらに件名に働くが不満があればリーダーと交渉したり、場合によっては業務を怠慢にこなす。
これらの心理的な交換・契約関係は日々の業務を通じて何度も繰り返されるプロセスの蓄積だ。一般にリーダーと「質の高い交換関係」を築けた部下ほど、業務パフォーマンスが向上し、組織へのコミットメントが高まり、離職率が低下する。

LMXを高めるためのコミュニケーションのコツ:
①部下の悩みや課題を聞き出す「アクティブ・リスニング」
※アクティブリスニングを通じて部下が出してきた課題に対して、自分の考えを押し付けない。
②部下への期待を部下自身とシェアする

TSLとTFL:
TSL(トランザクショナル・リーダーシップ)とは?:
部下を観察し、部下の意思を重んじ、あたかも心理的な取引・交換のように部下に向き合うリーダーシップ。
飴と鞭を使いこなす、心理的な意味で「管理型」の側面を持ったリーダーシップともいえる。
特徴:
① 状況に応じた報酬
② 例外的な管理(部下が成果を上げている限り、たとえそれが古いやり方でも続けさせ、部下への直接的な指示を避けること)

TFL(トランスフォーメーショナル・リーダーシップ):
ビジョンと啓蒙のリーダーシップのこと。
特徴:
①カリスマ(企業・組織のビジョン・ミッションを明確に掲げ、それが「いかに魅力的で」「部下のビジョンに叶っているか」を伝え、部下にその組織で働くプライド、忠誠心、敬意を植え付ける)
②知的刺激(部下が物事を新しい視点で考えることを奨励し、部下にその意味や問題解決を自身で深く考えさせてから行動をさせることで、部下の知的好奇心を刺激する)
③個人重視(部下に対してコーチングや教育を行い、部下一人ひとりと個別に向き合い、学習による成長を重視する)

リーダーは「自分の率いる組織が、部下の目指していることといかに親和性があるか」を啓蒙する
フォロワーはビジョンに盲目的に追従するわけではなく、自立性を持つ、したがってリーダーがフォロワーを啓蒙・刺激することで、フォロワーを「自らの意思で」リーダーに追従させる。

※TSLとTFLは決して相矛盾するものではなく、両者はむしろ「優れたリーダーシップ」として補完関係にある。
 TFLは組織・部下のパフォーマンスのいずれとも正の相関を持つ。一方で、TSLでは特に状況に応じた報酬が部下のパフォーマンスと正の相関を持つが、相関度はTFLよりも弱い

今後のTFLの重要性:
何故重要になるか?
① 人々が物質的に豊かになってきているから。
物質的な欲求を満たされた人間は、より精神的な豊かさを求めるようになる。
② ビジネス環境の不確実性が高まっているから。
将来何が起きるかわからない状況では、単なる将来予測は意味を持たず、むしろ「将来はこうしたい」というビジョンを掲げ、周囲を啓蒙することが有用たりうる。互いに期待するものを交換し合う前提のTSLは、将来がわからない状態では、互いの期待が変わりうるので機能しにくい。

SL(シェーアード・リーダーシップ)とは?:
「グループ複数の人間、時には全員がリーダーシップを執る」こと。
SLは知識ビジネス産業において、極めて重要。

何故か?:
「自分がそのグループに属している」という心理的アイデンティティを持てるなら、その人は他メンバーと知識を積極的に交換する心理メカニズムが働く。
もしグループにSLがあるなら、そのメンバー全員がリーダーとしての役割・当事者意識を持てる。メンバー全員が「これは自分のグループである」というアイデンティティを持ちやすくなる。

これから多くの知識産業・知識ビジネスは参加者全員がTFLを目指す必要がある。
「自分のビジョンは何か」「自分は何者で、何をしたいのか」を全員が、真剣に内製することが求められる。
そうでなければ全員がTFLを持てず、SLが十分に効果を発揮しない。

■モチベーションの理論~半世紀を超えてたどり着いたし時代のモチベーションとは~

モチベーションとは:
下記に該当する「行動」に影響を与えるもの
・方向性
・活力
・持続性
人を特定の行動に向かわせ、そこに熱意を持たせ、持続させる のがモチベーションになる。

職務特性理論とは?:
仕事には、従事者の内発的動機を高めるものと、そうでないものがあるという視点に立つ。一般に内発的動機を高める職務は下記。総じて「ワークデザイン」ともいう。
① 多様性(職務の遂行において、従事者の多様な能力を必要とすること)
② アイデンティティ(従事者が最初から最後まで職務に携われること)
③ 有用性(職務が、他社の生活・人生等に影響を与えること)
④ 自律性(従事者が自律性を持って仕事ができること)
⑤ フィードバック(従事者が職務の成果をきちんと認識できること)

期待理論とは?:
人の動機は、その人が事前に認知・予測する「期待」「誘意性」「手段性」の3つに影響をうける。
※誘意性とは:目標とする対象の魅力の度合い。
「誘意性×期待(確率)」が高い程、その人は行動へのコミットメントを高める
※高い業務成果を上げてもそれが誘意性に結び付くとは限らない。
<メモ>
能力給であるほど、その人はより長い時間働く

ゴール設定理論とは:
期待理論を前提にしながら、「ゴール・目標の設定」をモチベーションの基礎として加えたもの。
「人は自身の目的を実現するために働く意思を持つ」という仮定を置く。
そして人は目的(アスピレーション)が高いほど、それが実現した時の満足度は高くなる。と期待する。だから行動にコミットする。

社会認知理論とは:
目標の高さに影響を与えるのが、自己効力感であるとし、自己効力感が高い程、自分はもっとできると考えるので、より高い目標を設定する。
さらに自己効力感が高い人は実際の行動・努力の自己管理を徹底して行う。逆境でも努力を持続できる。結果優れた成果を上げやすく、そのフィードバック効果でさらに自己効力感が増していく。

自己効力感は何に影響を受けるのか?:
① 過去の自分の行動成果の認知
② 代理経験(他者の行動・結果を観察することで起きる)
③ 社会的説得(君ならできるというポジティブな言葉を周囲が投げかけること)
④ 生理的状態(人は精神・生理的不安に陥ると「自分ではこの責務は果たせない」という心理につながりがち)

PSM(プロモーシャル・モチベーション)とは?:
他者視点のモチベーションのこと。PSMが高い人は、関心が自分だけでなく他者にも向いており、他人の視点に立ち、他人に貢献することにもモチベーションを見出す。
(例:顧客、取引先、部下等)

※内発的動機がクリエイティビティを高めるが、そこには高いPSMを持つ場合のみ成立する

■認知バイアスの理論:
人は認知の届く範囲に限界があるので、自分の周囲の情報全てを収集できない。無意識のうちに、自分が優先すべき情報を認知のフィルターで取捨選択をしているのである。

認知バイアスについて:

個人レベルでの認知バイアス理論:
ハロー効果とは?:
評価をその人物・製品サービスのある顕著な特徴だけに基づいた印象を持ってしまいその印象を元に評価するバイアスのことを指す。

利用可能バイアスとは?:
人が記憶にとどめていた情報を引き出すときに、簡単に想起しやすい情報を優先的に引き出し、それに頼ってしまうバイアス。

対応バイアスとは?:
他者が何か事件に巻き込まれたときに、その本当の理由は周辺環境などにあるのに、理由を当事者の人柄・資質などに帰属させてしまうバイアス。
例)担当者の責任論

代表性バイアスとは?:
典型例として類似している事項の確立を過大評価しやすいバイアス。
例)海外の事例を環境の異なる日本のことと同確率と定義し、評価をする

組織レベルの認知バイアス:
社会アイデンティティ理論とは?:
個人の組織への帰属意識のバイアスのこと。
例)中国、ブラジル、インドなど、いわゆる新興国の企業が先進国の企業を買収した場合、平均よりも約16%ポイントも高い買収プレミアムを払う傾向がある。グローバル化を進める新興企業の経営者は「自分が国を代表している」という母国へのアイデンティティを強く持ちやすい。結果「自分が母国を代表して先進国企業を買収している」というバイアスが働き、プレミアムを払ってでも買収を完遂するよう動く。

社会分類理論とは?:
人をグループ分けして認知するなかで、自分と同グループに属す人に対して好印象を抱きやすいバイアス。

社会分類理論のバイアスで何故ダイバーシティは失敗するのかを説明する:
社会分類理論のバイアスが働くことで、日本人グループ、米国人グループ、男性グループ、女性グループ等、組織内の認知バイアスグループが生まれ両者間で軋轢が生じる。交流が滞り、組織全体のパフォーマンスの停滞を生む。Googleですら容易に防ぐことができないのが同バイアスである。

アテンション・ベースト・ビュー(ABV)とは?:
人の認知的な注意・関心の理論。企業は「人の認知の集合体」という前提に立つ。
人は認知に限界がある。その前提を元に、「企業の意思決定・行動はその意思決定者の限りある認知アテンションを、企業内外のどの諸問題にどのくらい分配するか、そしてそれをどのくらい十分に解釈できるかに大きく影響される」という理論。

そしてABVでは認知バイアスは経営者を取り巻く組織構造・人脈・メンバー編制にも強く規定される。

<メモ>
マインドフルネスについて:
今その瞬間に向けて意識を高めるといった意味。
幅広い対象の、その瞬間の状態に意識を傾けることになる。

■意思決定の理論:~意思決定の未来は、直感にある~

行動意思決定論とは?:
現実に人はどのように意思決定をするのかを探求する理論。
現実の人の意思決定は規範的な意思決定論が示すようにはいかない。何故人は合理的に意思決定できないのか、そのバイアスをあぶりだす分野である。

第三の意思決定論、「直感」とは?:
「人は合理的・論理的にじっくり意思決定するよりも、時に直感で意思決定した方が望ましい結果を得られる」という研究成果が提示されつつある。

直感と論理的思考について:
意思決定の過程は直観と、論理的思考で異なるスピード・メカニズムで起きている。
直感(早く、とっさに、自動的に。思考に負担をかけずに)
ヒューリスティック(直感と似た概念で「周囲の情報を多く精査せず数少ない情報のよりどころに頼って即座に意思決定する」こと)
論理的思考(時間をかけて、段階的に、思考を巡らせながら、意識的に)

※人は直感・ヒューリスティックにたよりがちなので意思決定バイアスがかかり、正確な意思決定が難しくなる。

「玄人の勘」が有効なとき:
下記条件を満たす場合は直感・ヒューリスティックに頼った意思決定がモノをいう。
① 周囲の環境の不確実性が高いとき(今後の予測に使えない変数が多く論理的に思考ができない、ずれてしまう、エラーが出てきてしまうパターン)
② その直感・ヒューリスティックがその人の様々な経験に裏打ちされたものであるとき(認知バイアスが大幅に増加するので、予測エラー度は増すため)
例)現在の優れたエンジェル投資家が、投資先の選定のかなりの部分を直感に頼っている。

■「期待値」について:
不確実性・リスクを恐れるリスク性向について:
資産が大きくなるほど追加的効用の上昇が小さくなるということは、「同じ成功確率の事業でも、人は資産が大きい程その事業への投資をためらいがちになる」ことと同義。
逆に資産が少ない人ほどリスク投機型となる。

ダニエル・カーネマンのプロスペクト理論とは?:
① 人は投資効果に対して「主観的なリファレンス・ポイント(参考点)」を持つ。
② 人は追加的な利得より、追加的な損失を心理的に重く受け止める傾向がある。「人は損失を、より避けたがる」
③ 人は大きな利得を得るほど効用効果の追加的な伸び幅が減少する。損をするほど追加的な損失に対して鈍感になる。(例:企業が事業の損切りをできなくなる)

フレーミング効果とは?:
ポイントは「人のリファレンスポイント」を主観的にどこに設定するかで、ある客観的な結果を「利得」にも「損失」にも解釈できうる。
人の主観にうまく働きかけて、リファレンスポイントを動かしてやれば、それは他人の意思決定に影響を与えうる、ということ。
例)
「フレーミング1」
この事業に投資すれば3分の1の確率で300万ポンドを手に入れられるが、3分の2の確率で利得はゼロになる
「フレーミング2」
この事業に投資すれば、3分の1の確率で目標を達成できるが、3分の2の確率で目標から300万ポンド下回ることになる。

相手にリスクを避ける行動をとってほしいのなら利得を強調するフレーミングをするべきだし、逆にリスクを積極的に取ってほしいなら損失を強調するフレーミングを使うべきである。

■感情の理論:感情のメカニズムを理解してこそ組織は動き出す

何故感情のメカニズムを知ることが重要なのか?:
心理学で発展していた感情の理論が、経営学でも取り込まれつつある。
理由:
① 感情は認知に多大な影響を与える
②人の脳には的確で合理的な判断を促す認知の部位と、生物進化の早い段階から進化した感情をつかさどる部位があり、両者は依存しあっている。したがって感情をうまく扱わなければ人は意思決定も十分にできないし、他者も動かせない。
③認知情報とは異なり、感情は遠くに伝播しにくい特性がある。感情は「表情」「声のトーン」「身振り手振り」「体の感触」「声のトーン」等非言語表現を通じて伝播する側面が強い
④感情は属人的なもので表情、身振り手振り、声のトーン等、非言語情報で伝わる。AIが最も扱いにくいもの

感情の種類:
感情は3種ある。「分離感情」「帰属感情」「ムード」

分離感情とは?:
外部刺激で引き起こされ、短期間で収まりやすい感情。
喜怒哀楽、驚き、嫉妬、恐れ、妬み、苛つき、幸福感 等

帰属感情とは?:
人それぞれが持つ感情の個性、特質。
彼女は心配性だ、陽気だ 等

ムードとは?:
分離感情とは違い、明確な外部刺激がない状態でもなんとなく、そこに漂っている感情。雰囲気。

3者は互いに深く影響しあっている。

改めて感情の理論とは?:
人は仕事上のポジティブな出来事よりもネガティブな出来事を思い出しやすい。
人は同じ外部刺激でも人によって、認知的にどう評価するかが異なる。
人は分離感情を何度も経験すると、その蓄積が帰属感情に反映される。何度もポジティブな分離感情を経験していれば、次第いその人のポジティブ影響は高くなる。そうなれば、その人はいっそうポジティブな分離感情がさらに蓄積する。

・ポジティブ感情・ムードは知の探索を促す。多少の精緻さ、厳密さを欠いても、より大胆で新規性の高いアイデアを求めることを促す。
・ネガティブな感情・ムードは知の深化を促す。現状を正確にミスなく、修正・改善する意識を高めるため。

組織の成長ステージと感情の理論:
組織に求められる感情は成長ステージや組織が置かれた状況で大きく異なる可能性がある。
スタートアップはチャレンジし続けないと、淘汰される。知の探索が重要である。ネガティブ感情で満足度を引き下げる必要がない。
既に成熟した大企業は従業員が現状に満足してしまっており、そもそも「知の探索」が促されない。気持ちが緩んだ状態。

感情が組織に与える影響経路は複雑。逆に言えば、だからこそ、そのメカニズムを思考の軸として、理解しておく必要がある。
それは従業員・組織の行動に決定的な影響を与えうる。経営者・リーダーには組織の現状に合った、適切なバランスの感情マネジメントが求められる。

エモーショナル・インテリジェンス(EI)とは?:
感情をうまく取り扱える個人の総合能力のこと。
構成要素:
① 自身や他者の感情にきちんと注意を払えているか
② 特定の感情が認知にどのような影響を与えるかを把握できているか
③ 感情が時間とともに変化するなどの仕組みを理解できているか
④ 感情をうまく制御できるか

EIスコアの高い従業員が様々な側面でパフォーマンスが高いという結果は出ている。

■感情労働の理論:
サーフェス・アクティングとは?:
自分の本心にギャップを持ったまま感情表現をすることを指す

ディープ・アクティングとは?:
人が何かの外部刺激に直面した時に、「まず自分の意識・注意・視点の方向を変化させることで、感情そのものを自分が表現したい方向に変化させてから、それに合わせて自然に感情表現する」ことを指す。いわゆる「顧客の態度をどうとらえるかお認知的な視点をずらす」こと。
例えば、
あのお客が起こっている後は、実は妥当な理由があるのではないか、この辞退は別の角度からこう解釈できるのではないかなどと、考えて・視点を意識的にずらすことで自分の感情を変化させるのが、ディープ・アクティング。その状況に適した表情が本心から湧いてくるようになる。

上記を踏まえ、「感情マネジメントがビジネスの勝敗を決める時代」とも言える。もはや感情は精神論ではない。理論的に科学的にとらえ、マネジメントできる時代になりつつある。

■センスメイキング理論:~「未来は作り出せる」は決して妄信ではない~

センスメイキングとは?:
納得であり、腹落ちである。組織のメンバーや周囲のステークホルダーが、事象の意味について納得し、それを集約させるプロセスと捉える理論。
センスメイキングは新しかったり、予期しなかったり、混乱的だったり、先行きが見通しにくい環境下で重要になる。
そして人は認識のフィルターを通じてしか物事を見ることができない。そうであれば、同じ環境でも感知された周囲の環境をどう解釈するかで、その意味合いは人によって異なる。すなわちこの世は多義的になる。環境の多様性は、「新しく」「予期できず」「混乱的で」「見通しが立てにくい」これからの時代に顕著になる。周囲から確かな情報は得られず、これまでに直面した経験もない。したがって「今何が起きているのか」「我々は何をすべきか」などについて、絶対的な一つの見解を見つけることが不可能である。

求められることは「ストーリーテリング」:
「現状はどうなっているのか」「我々は何をすべきか」についておおまかな方向性だけを示し、それに意味を与え、説得性のある言葉で周囲に語りかけて納得してもらい、足並みをそろえる。
例)新規事業の計画:まず初めはとにかく行動し、次第に大まかな方向が見えてきて、さらに形になっていくような事業の進め方。

センスメイキングはどのような効果があるか?:
「思い込み」による妄信の実現。
大まかな意思・方向性を持ち、それを信じて進むことで客観的に見れば、起きえないはずのことを起こす力が人にはある(セルフフルフィリングという)

センスメイキングの7大要素とは?:
① アイデンティティー(自身、あるいは組織が「何であるか」のアイデンティティに基づいてい)
② 回想・振り返り(人は物事を経験しているその瞬間にそれをセンスメイキングできず、事後的に振り返ることでのみセンスメイクできる)
③ 行為(人は行動することで環境に働きかけることができる)
④ 社会性(主体と周囲の人々を含む「客体」は常に切り離せないのでセンスメイキングは常に他者との関連性の中で起きる)
⑤ 継続性(センスメイキングは、繰り返される循環プロセスである)
⑥ 環境情報の部分的感知(人は認識のフィルターを通してしか事象が認識できないので、認識・解釈されたものは常に全体の一部でしかない)
⑦ 説得性・能率性(人は「正確性」ではなく、「説得性」を持って自身や他者をセンスメイクできる)


第四部:社会学ディシプリンの経営理論

■エンベデッドネス理論:ソーシャルネットワークの本質は今も昔も変わらない

エンベデッドネスとは?:
「埋め込み・根付き」という意味。「人は他者とのつながりのネットワークに埋め込まれており、その範囲内でビジネスを行い、したがってその関係性に影響を受ける」ということ。

エコノミック・ソシオロジーによる「つながり」の3つのルール:
完全合理主義と、ヒエラルキーによる一方通行なつながりの対局を示す。
① アームレスリングなつながり:
市場取引
特性)市場のメカニズム
意思決定の基盤)合理性、利己性

② 埋め込まれたつながり:
人脈、社会ネットワーク
特性)相互依存と信用
意思決定の基盤)ヒューリスティック、信用

③ ヒエラルキー上のつながり:
企業の制度所的な上下関係
特性)監視・インセンティブ
意思決定の基盤)合理性、利己性

エンベデッドネス理論において「埋め込まれたつながり」は、互いに心理的に近い状態にあるので、利己性が弱まっていく。
結果、ときに自身より相手の利得を優先したり、逆に相手にもそのような利他性を期待したりするようになる。
このような上記依存関係を「レシプロシティ」と呼ぶ。
また埋め込まれたつながりでは「合理性を得る精査」にかける時間が減るため人は意思決定のスピードが速くなる

■「弱いつながりの強さ」理論:弱いつながりこそが、革新を引き起こす

・弱いつながりの強さ(SWT)とストラクチャーホールの理論:
強いつながりとは?:
接触回数が多い、一緒にいる時間が長い、情報交換の頻度が多い、心理的に近い、血縁関係にある等の状態。

弱いつながりがもたらす効能とは?:
弱いつながりは伝播する力、感染する力を持ち合わせている。

ブリッジという概念:
AとCはつながっている、かつBとCがつながっている、かつAとBはつながっていない状況をブリッジという。
AとBもつながっている状況はブリッジではなく、ボンディング型という。

ソーシャルネットワークの役割:
① 情報・アイデア・知をネットワーク全体に伝播すること。
そして「幅広く、多様な情報が遠くまでスピーディーに伝播する」のに向いているのは、弱いつながりからなる希薄なネットワーク。
そしてブリッジは弱いつながりからなるので、強いつながりよりも簡単に作れる。
② イノベーションを引き起こすのは「弱いつながり」。
は0からは何も生み出せない。人は認知に限界がある。放っておくと目の前の知だけを組み合わせがちになり、やがて組み合わせは尽きる。結果新しい知は生まれなくなる。
すべきことは目の前ではなく、自分から離れた遠くの知を幅広く探索し、それを今自分が持つ知と新しく組み合わせること。
そしてイノベーションを起こせる「知」はブリッジの多い希薄なネットワーク上にあり、遠くから多様な情報が、早く、効率的に流れてくることが多い。
例)共同開発・技術ライセンス等、両者のコミットメントが弱くて済むタイプのアライアンスを多く持つ企業頬、事後的に利益率を高める傾向がある。

■ストラクチャル・ホール理論~「越境人材」が世界を変える、そのメカニズムとは~
人のつながりを通じて情報・知識・噂話・アイデア等が伝播するからこそビジネスでソーシャルネットワークは重要な要素となる。

ストラクチャル・ホールとは?:
ブリッジが複数つながりより多くのブリッジを生む結節点をストラクチャル・ホールという。
そしてブリッジの橋渡し人をブローカーと呼ぶ。このブローカーは情報コントロールの優位性を持つ。

※人とのつながりにおいては単純に多くつながっていればいいというものではなく、その「つながり方の構造」が重要。より望ましいつながり方とは、ストラクチャル・ホールが豊かなつながり方。このストラクチャル・ホールは商売の基本である。
そして重要なことは同じタイプではなく、「異なるタイプのプレーヤー間の結節点になること」。
何故か?:
① 同質内の知では創造性が生まれにくい
② 同質なプレーヤー間でブローカレッジを行うと、ネットワーク上の他プレーヤーとの関係が損なわれる可能性がある。

バウンダリー・スパナーとは?:
企業と企業、組織と組織、部門と部門、地域と地域などの「境界を超える」人のこと。
異なるプレーヤーをつなぎ、自身のメリットだけではなく、ネットワーク全体のパブリックベネフィットを追求する役割。言わずもがなビジネスにおける優位性が高い。

■ソーシャルキャピタル理論~リアルとデジタルのネットワークで働く、真逆の力~

社会共通資本のソーシャルキャピタルとは?:
人と人とのつながりは我々に様々な便益をもたらしうるもの。その便益を総称して、ソーシャルキャピタルと呼ぶ。
ボンディング型のソーシャルキャピタル:
ブリッジの逆で全員がつながっているネットワークのこと。
特徴:
① 信頼(高密度、閉じたネットワークだからこそ生まれやすい関係)
② ノーム(ネットワーク内での暗黙の規範がある)
「我々はこのようにふるまうべき」という規範が、ネットワーク上の人々の間で、暗黙に共有されること。
③ 相互監視(公共財という側面がある。ネットワーク全体でみんなが出し合って貯まった知見・あいであてんコンテンツ・じょうほうなどは、つながった誰もがアクセスできるので、公共財の性質を持つ)

ボンディング方のソーシャルキャピタルが機能するためには、仮にノームを破るものがいたら、その者には十分な制裁が必ず加えられることが最低条件となる。

経営における「ソーシャルキャピタルのジレンマ」とは?:
企業内の情報・知識の移転は欠かせない。有用な知は共有される必要がある。しかし大きな組織になるほど、社内の人脈が分断し、社内を横断する高密度ネットワークが作れない。加えて、一般に大企業の従業員は自分の知見・経験を提供したがらない。出世ライバルである同僚に無償で使われればフリーライダーとなられる可能性があり、自分にとってマイナスになる可能性がある。

<メモ>
デジタル上の世界では、フリーライダー問題が起きやすい。結果的にそのままでは公共財の「集合知・貯まった情報やコンテンツ」を安心して使ってもらえない。したがって課題を乗り越えるためにはボンディング方の要素を取り込むことが欠かせない。
フェイスブック、メルカリ、ウーバーはそのような仕組みを作り上げることを意識している。
そもそもブリッジング型が強いデジタルではボンディング型を取りこむ流れがある。

■社会学ベースの制度理論:「常識という幻想」に従うか、活用するか、それとも塗り替えるか

人は「合理性」よりも、「正当性」で行動する:
人・企業は「他社がやっているから」「社会的風潮だから」といった何となくの理由で行動することが実に多い。
※そしてマクロ視点で、人・組織・企業は同質化する

同質化プロセス:
① 強制的圧力(政策・法制度)
② 模倣的圧力(皆がやっているから)
③ 規範的圧力(この職業はこうでなければならない)
※様々なビジネス慣習、制度、仕事の仕方が同質化し、それが見えない常識となっている。しかしその常識は国によって異なる。したがって自国では常識だったビジネス慣習が、他国ではむしろ非常識になる。

<メモ>
今アフリカ諸国で中国企業が圧倒的なスピードでプレゼンスを高めている背景には、中国企業は新興国で「常識の衝突」に悩まないで済むという側面がある。(賄賂の習慣等)

レジティマシーとは?:
企業が求める「社会的な正当性」

レジティマシーの普及と衝突の時代を勝ち抜くためには?:
・「非市場戦略で、制度に働きかける」
特に強制的圧力に働きかける。行政司法への戦略的なアプローチの重要性。
ロビイング(議員等を通した政治への介入)やCSR活動を巧みに使って政府部門にアプローチし、自社に有利な方向にもっていくことは、新興市場で極めて重要(非市場戦略)
<メモ>
IBMは非市場戦略の専門家部隊を持っている。Facebookは政府・司法分野のキーパーソンを次々に採用している。

インスティテューショナル・チェンジ(「既存の常識に調整し、それを破壊して変えてしまう」というアプローチ):
必要な要素:
① 変化に向けたビジョンを掲げる:
・診断的フレーミング(既存の常識が、現実に照らし合わせて不都合になっていること)
・予知的フレーミング(新しく提示する常識が既存のもののより優れていて、既存プレーヤーへも害が少なく、望ましい状況になること)
・動機付けフレーミング(新しい常識を支援することが、フィールド上の人々にとって重要なこと)

② 支援者を巻き込み、動かす:
・講演・談話の活用
・人的資源を動かす(周囲の仲間支援者を巻き込む)

■資源依存理論:中小企業が大企業を抑え、飛躍する「パワー」のメカニズム

資源依存理論(以下RDT)とは?:
他社と比べてどちらが強い交渉力を持ちうるか?といった、相対的な力関係のこと。
AのBに対するパワーは、Bが価値を見出し、A以外からは手に入らないリソースをAが保持しているときに生まれる。売り先が特定の顧客に固定されてしまう場合等。
例)
① 材料・部品・技術などのリソース
② 金銭的リソース
③ 情報リソース
④ 正当性リソース(大手企業と取引をすればその名前を通して社会的な正当性が得られる)
※双方向で強く依存しあうケースもある。

交渉力が弱い場合どのようなソリューションがありうるのか?:
① 特定の企業からの依存度を引き下げること
新たなベンダーの開拓・販路の開拓等がそれにあたる。
② 抑圧の取り込み
潜在的に外部抑圧となる相手を自分側に引き入れ味方につける。戦略依存度が高い企業の役員を社外取締役等に迎え入れる。※特に規制産業にいる企業は政治家出身の取締役が多いほど、企業価値が高まる傾向を明らかにしている。
③ 抑圧の吸収。いわゆる買収

この理論では互いの依存度の合計が高いほど、互いが互いを必要とするので友好的にM&Aなどの吸収戦術が行われやすい。逆に依存度に差があるとその逆の理論が働く。

パワーインバランス(PI)とは?:
両者の依存度の差。
例)
大企業のベンチャーキャピタル(CVC)が投資先のスタートアップ企業の持つ技術を盗用する事例は多数存在する。
連携当初は技術を欲する大企業と、資金・販路開拓支援などを望むスタートアップ企業の両方で依存度が高いが、しかしやがて大企業がスタートアップ企業の技術を吸収すると、大企業のスタートアップ企業への依存度は弱まる。当初は良好な関係だったはずの大企業が圧力をかけ始めスタートアップ企業が苦しむ。

そんな時スタートアップ企業はどのような対策をしている?:
特許や秘密保持契約などで、自社技術を守ったり、自社技術が成熟・複雑化してなかなか真似できない段階になってからようやくCVCの投資を受ける。
もしくはCVCではなくVC(スタートアップ投資専業)を活用をする。
<メモ>
日本企業の問題は下請け中小企業の立場が非常に弱いこと。
多くの下請け企業は販路が1,2社に限定されており、元請け・顧客への依存度が強くなりすぎている。

■組織エコロジー理論:変化の時代にこそ不可欠な「超長期」の時間軸

組織エコロジー理論とは?:
業界全体を社会システムとみなし、極めてマクロ的な視点をとる。個別企業内の細かな変化をそれほど重視しない。すなわち「一度生まれた企業はある程度その形が形成されると生涯その本質は大きく変化しない」と考える。
ビジネスにおいては、業界に多様な企業が生まれ、環境に適応できる個性を持った企業だけが生き残り、適応できない企業は淘汰されると考える。

VSRメカニズムとは?:
この多様化→自然環境による淘汰・選択→生き残り の流れのメカニズム。

企業が変化できない理由とは?:
① 限定された合理性に基づくことで、人・組織は認知に限界があるので、環境が変化しても自身はそれに対応する大きな変化ができないから。
② 特定の商習慣・ビジネス手法・商品サービスなどを多くの人が使い始めると、根拠が弱くてもそれが社会で「正当・常識」とされ、全員がそれを使うようになる傾向のこと。一度社会になじんでしまった企業は、その仕事のやり方、組織体制、事業内容などが取引先投資先から正当とされてしまうので、なかなか変更できない。

密度依存理論とは?:
生物同様、企業の密度も、業界全体の企業密度が、その業界における企業の誕生率・死亡率を規定する。
いわゆる、どんなに優れた製品・サービスを持つスタートアップ企業でも社会でレジティマシー(社会正当性)を獲得できなければ死亡する。

レジティマシー獲得に必要なことは?
再生産可能性と説明責任・透明性である。
そして一般に創業したての若い企業ほど、再生産可能性と説明責任の仕組みができていない。日々の仕事に手一杯であり、オペレーションを安定させて体制を整えることは2の次になる。しかしそれは結果としてレジティマシーを乏しいままにさせ、投資家・銀行・顧客・取引先等社会からのサポートを引き出しにくくし、死亡率が高まる。
企業は年を取るほどレジティマシーが高まるので社会のサポートを受けやすく、死亡率を下げられる。
※ただし条件として「企業の周囲の環境変化が緩やかであること」は欠かせない。

コントロールし淘汰されないためには?:
組織エコロジー理論では企業の運命は環境という生態系に制約・規制されている。抗うことは難しいが、生き残る方法は、「生態系を渡り歩くこと」である。
事業ポートフォリオを大幅に入れ替える。その生態系を作る領域が、まだ社会的レジティマシーを獲得する前であれば、その後環境の生存確率の上昇は期待できる。これまでのルーティーン(DNA)が生かしやすい生態系に移動すること。一度確立されたDNAは大きく変えられないのであれば、そのDNAが選ばれやすい生態系・環境進まなくてはならない。
現にデュポン、シーメンス、IBMなど長く生きながらえている企業の多くは、事業ポートフォリオが大きく変わっている。

生き残りのために重要なのは「メガトレンド視点」:
3年の中期事業計画ではなく、20年、30年、場合によっては50年、100年先までを見据える世界の超長期トレンドを経営陣が共有し、その認識について一枚岩になること。それを前提に各業種の長期にわたる生態系の変化を見通すこと。事業ポートフォリオを入れ替える際に様々な組織の、人の圧力がかかるため共通認識が持てることが重要。

■エコロジーベースの進化理論:生態系の相互作用が、企業進化を加速する

エコロジーベースの進化理論とは?:
「多様化と競争による自然淘汰」の類推を起点とし、多様化、選択、維持、苦闘のプロセスのメカニズムを指す(VSRSメカニズム)。

VSRSメカニズムとは?:
多様な生物、DNAを持つ種が生まれる
→自然環境にフィットしない生物種は淘汰され、フィットしたものが環境に選ばれて残る
→DNAがフィットした生物が生存競争を勝ち抜き、子孫を残す
→やがて環境が変化していくと固有種の持つ特性が環境にフィットしなくなるDNAは変えられないから環境に淘汰されていく。

ビジネスで言うと:
ホモフィリーの傾向(似たもの同士が交友をする傾向)の結果、同質的な創業メンバーが集まり同質化する→そして同質な人を選び続ける。視野・考え・情報の幅が狭くなり、環境の変化に対応できなくなる。

情報処理プロセスについても、これまでにない多様なものがあったとしても時間とともに、選別淘汰される→組織構造・規定は固定的なため、毎回同じような情報だけが経営陣に届きがちで維持される。

企業が生物と異なる点はどこか?:
ビジネスでは「企業組織が最小単位ではない」ということ。
企業ではその内部の組織・人材・情報の組み合わせや流れを変えれば企業は変えられる可能性がある。

そして「ほかの生態系のダイナミズムを活用することが、企業内部の進化につながる」という視点。これを「共進化」という。

共進化とは?:
企業がほかの生態系のダイナミズムを取り込むことで、企業の生態系も進化しうる。
例)
他産業同士、A産業×B産業×学術界等。そしてそれは産業単位の生態系ではなく、国境を越えた国・都市レベルの生態系。

■レッドクイーン理論:競争が激化する世界で、競争すべきは競争相手ではない

レッドクイーン理論とは?:
生存競争による共進化。
自身の進化は生き残りをかけ競争相手の進化も促す。互いに生き残りをかけて競っている限り、共進化の循環は永久に止まらないという理論。
そして企業はライバルとの競争が厳しいほど、自身を進化させること(経営で言うとサーチ)を怠らないので結果として生き延びやすくなる。
例)
規制が弱く、モノの輸出入を通じて容易に国際化でき、国際的に激しい競争にさらされる日本の製造業の生産性は今でもある程度伸び続けている。
逆に生産性が低いままなのはサービス業である。

レッドクイーン理論の落とし穴とは?:
切磋琢磨はガラパゴス化を生む。
激しい競争にさらされすぎると、やがて競争そのものが自己目的化してしまい、競合相手だけをベンチマークするようになる。結果として別の競争環境で生存できる力を失う。
当該領域で生き残れても、他領域に進出した時、あるいは大きな環境変化に見舞われた時、そこで生き残れなくなる。知の深化だけを進めてきた企業は認知の範囲が狭く、対応力が失われている。

真の競合相手は自身のビジョン:
あえて競合相手を見ないことこそ、いわゆるシュンペーター型の変化を目指すことこそ経営者に求められている。
※ただし、「競争環境」の変化しづらい産業・業界であれば切磋琢磨は重要となる。陥ってはいけないことは企業の目的が「競争」になってはならないこと。

第五部:ビジネス現象と理論のマトリックス

■戦略とイノベーションと経営理論:近未来に戦略とイノベーションは融合し、理論も重層化する

イノベーションが経営戦略の前提と捉えることの重要性:
環境の変化のスピードは加速する。企業の寿命は短くなっている。現在ではイノベーションは戦略の一部ではなく、イノベーションそのものが戦略になってきている。
世界の経営学では、長らく「戦略」と「イノベーション」は、別物として扱われてきた。
これからの時代はイノベーションが経営政略の前提でなければならない。競争戦略、企業戦略、戦略プランニングのそれぞれを「イノベーション・組織学習領域」の軸と融合させ、一本化させて捉える必要がある。

これからの勝つ企業は、相反する理論を高次に内包する:
これからの変化の激しい時代に活企業は、「複数の競争の型と経営戦略の組み合わせ」を内包し、そこで事業と資金を循環させる企業。
いわゆる競争環境を独占化に近づけることで圧倒的な収益を上げ、心理学ディシプリンが主張する変化のための不確実性の高いイノベーティブな領域に大胆に資金を投下する。そしてその事業をまた独占化に近づける。

■組織行動・人事と経営理論:これから人事がさらに面白くなる、5つの背景

個人レベルの経営戦略?:
企業を構成する最小単位は「人」である
① 評価
② 仕事への満足度
③ 採用
④ 研修
⑤ 仕事へのストレス

ビッグ・ファイブとは?:
人の性格を大くくりに分ける信頼性が高い基準として、学者のコンセンサスとなっている。
ビッグ・ファイブの個人の正確・個性が行動に及ぼす影響:
外向性(積極的、行動的、話し好き、陽気、活動的、楽観的)
神経症(物事をネガティブに捉えやすい特性の総称。恐れ、悲しみ、積みの意識、怒り)
開放性(様々な視点、知見、経験などを受け入れやすい人の特性の総称。好奇心と感受性が強い)
同調性(協力的で信頼性が高く、紳士的で他者にやさしい)
誠実性(自分の行動に対してきちんとした方向性を持ち、それに向けて懸命に働く特性の総称。伸長で、思慮深く、自己抑制が効いている)

チームレベルの経営戦略:
① チームワークの醸成
② パワーとポリティックス(社内政治)
③ 交渉と摩擦(感情の理論、認知バイアスの理論、意思決定の理論)

組織レベル経営戦略:
※これからは戦略とイノベーションとHRM(ヒューマンリソースマネジメント)が融合する

企業行動理論とモチベーション理論の癒合:
組織がサーチを促進するには、目線の高さが重要。
一方、ミクロ心理学では、目線の高さは自己効力感に影響さえる。したがって、自己効力感を高めるために、社会的説得(ポジティブなレコーディング)代理経験(周囲の成功事例)生理的状況(動きやすい現場)が重要になる。

HRMの未来像:
①ビッグデータとAIの浸透による変化:
HRM領域のビッグデータ・AIと経営理論は補完しあう。
仮にAI分析により人事担当者が「5回配置転換した人の方が、1回しか経験がない人よりパフォーマンスが高い」という結果を提示されても、AIはそれに対して「それはなぜなのか?」の説明を与えてくれない。人は納得性の生き物である。「AIがそう言っているから配置転換してくれ」と言っても、「なぜか」のロジックが無ければ納得できず、なかなか受け入れられないだろう。
経営理論はこの「なぜ」に答えられる。もし人事担当者が経営異論を知っていれば(思考の軸を持っていれば)データ分析の結果の「なぜ」に説明を与え、周囲にも納得性を与えられる。

<メモ>
HRMの研究者、と経済学の人事研究者には、いまだにアカデミックな交流が少ない。背景の一つは。人事分野は企業内データの収集が難しく、結果として経営学では心理実験の研究や、質問表調査を使った分析を使う研究が多かったこと。

大湾秀雄「日本の人事を科学する」
採用は情報の非対称性を伴う現象。結果、企業は様々なスクリーニング手法で、適切な人材を仕分けなければならない。その時に、どのようなスクリーニングが機能するのかといった疑問は「情報の経済学」理論が大いに活躍できる。今後は経済学とミクロ心理学視点の重層化が、HRMで期待される。

②社会学との重層化:
これまでOB(組織行動学)&HRMは社会学の視点がほぼ空白状態だったが、ICTやビッグデータの活用により、社会学理論との親和性も高くなる。特にソーシャルネットワークの理論。企業内の人のパフォーマンス、モチベーション、感情、職場の雰囲気などは、社内の人間関係・ネットワーク構造に多大に影響を受けている。従来は社内の人と人のネットワーク構造を可視化するデータがなかったが、IoTやセンサー技術の進歩により社内の人と人の交流データが大量に蓄積されるようになればより社会学の活用が進むようになる。

③ミクロ心理学理論の質的変化:
AIとビックデータの浸透が、我々の仕事の在り方を変えることはほぼ間違いない。
が、重要なことは「人間にできて、AIにできないことは何か」を理解すること、AIが得意なのは学習・知識・推論・予測等。逆にできないことは問題認識、メタ認知、定型的ではない意思決定、感情表現等だ。
そしてAIには、全く見通しの立たない不定形な世界でリーダーシップを発揮することはできない。何もデータ・情報が無い新興市場でゼロからビジネスを始めることはAIにはできない。逆にいえばそのような状況でもリーダーシップを発揮しうる人の能力を育成することが、HRMで重要になる。それを思考の軸で支えるのは、TFLやセンスメイキング理論かもしれない。
不定形な世界で必要なのは、周囲にビジョンを示し、啓蒙するリーダーだからだ。
感情の理論も重要。AIには感情の分析はできても、自ら感情を持つことは当面ない。

<メモ>
従来はほぼほぼマクロ心理学のみに基づいていた経営学のOB&HRM領域は、大転換を迎えると筆者は予想。OBとHRMで求められる理論は全方位に広がっていく。
現象面でも理論面でもOB&HRMほど、今後ダイナミックに変化する領域はないのかもしれない。人事の世界はこれからさらに広がりを見せ、複雑に、そして面白くなっていく。

■あるべきガバナンスを考え抜く時代に、必要な理論は何か

企業ガバナンスのあり方とは?:
必ずしも一様ではない。企業ガバナンスとは社会的(価値観や文化・制度的背景)に形成される言葉であり、それは時代によって変化する。結果、その定義は「当時者が世界をどう見ているか」によって異なりうる。


株主だけが第一の時代は終わりつつある:
「ステークホルダーの多様化」からだ。現在、世界の様々なところで株主や債権者に限らず、従業員、顧客、さらには地域社会、BPOなどの多様なプレーヤーをステークホルダーに位置付ける流れが起きている。
例)
ジョンソン・アンド・ジョンソンの日本法人社長を務め、その後2009年から2018年までカルビーの会長兼CEOに就任し、同車を制憲させた功労者である松本市の話では、
ステークホルダーの優先順位は第一に顧客、第2に取引先、第3に従業員とその家族、第4にコミュニティ、そして最後に株主といっている。
何故か?:
①様々な企業・組織間のネットワーク化が進み、その関係性が顕在化してきている。結果株主以外のステークホルダーの利害を、十分に考慮する必要が出てきた。
② 世界的な社会問題・環境問題等の行き詰まり
③グローバル化
企業が様座な国でビジネス活動を行うようになり、あるくにでビジネス活動を行うようになり、ある国で通用したガバナンスが他国で通用しない。という事態が発生している。結果的に様々な国・地域でのガバナンスの在り方が比較・検討されるようになってきた。

世界の潮流は「多様なステークホルダーを前提とした時代に、どう企業ガバナンスを機能させていくのか」に移ってきている。結果世界の経営学のガバナンス研究で用いられる理論にも、新しい理論視座が台頭しつつある。

新時代のガバナンス理論は「社会学ベース」:
多様なステークホルダーとつながっていることを前提にすれば、人と人、組織と組織の「つながり」のメカニズムを解き明かす社会学ベースの理論が有用だ。

スチュワードシップ理論とは?:
経済学が前提とする「人は自己利益のために合理的に意思決定する」という前提とは異なる「人についての前提」として、金銭目的ではない「達成感」「承認欲求」「優れた実績を上げることへの本能的な満足感」「目上の者への敬意」「職業倫理」のモチベーションを強く前提とする。
エージェンシー理論と全く異なる示唆が得られる。
なぜならこの前提に立てば、「人は自分の所属する企業のために、与えられた職責を全うする」という帰結になる。
特にスタートアップ企業や同族企業ではスチュワードシップ理論が当てはまりやすい。

スチュワードシップ理論から見た取締役会の在り方:
必ずしも独立社外と利子や利益を大幅に増やすことは、企業にプラス効果をもたらさない。独立社外と利子や利益は外部の人間なので、会社を良くしようとする「責任感」が弱いから。
スタートアップ企業と落ち着いた上場企業を比べれば、一般にはスタートアップ企業の方が、一体感・達成感・情熱・責任感等に満ちているはず。自己利益以外のインセンティブで働いているから、そうであれば内部メンバーが多いほうが、自己規律も働き、パフォーマンスがいいはず。

ガバナンスへの示唆:
人は多様な考えを同時に持つ生き物であり、「自己利益追求の合理性」と「責任感」とが常に入り混じることだ。人のその複雑性を前提にした上で、経営者・ビジネスパーソンは自社の目的、置かれた状況、国、文化、制度背景、そして時代の変化を含めて、自分の頭で考え抜いて最適なガバンスを目指さなければならない。

<メモ>
企業倫理の研究は「規範(倫理的とは何か、企業・ビジネスパーソンが倫理的に行っていいこと悪いことは何かの基準の追求)」と「実証(人はどうして時に倫理的に望ましくない行動をとるのかという行動そのものを研究すること)」に分かれる。
そして今、ユニリーバやセールスフォース・ドットコム等の世界トップクラスの経営者や、国際機関が、人類にとって普遍的な規範を提示し始めている。

■グローバル経営と経営理論:「国境」の本質を見直すことが、グローバル経営の未来を映し出す

世界標準の経営学にはグローバル経営固有の理論が存在しない。
グローバル経営領域は、そのような固有理論が乏しい、逆に言えばグローバル経営の理解には経営理論のフィルターを通せば、グローバル経営と国内経営には、本質的なメカニズムの差はない。

OLIパラダイムとは:
企業が海外に進出して法人を設立するには、強みの所有、進出、内部化の三つの優位性を基準に判断すべき。
強みの優位性(技術力、ブランド、ノウハウ、経営手法等、企業が持つ固有の強み)
BTF理論が基盤になっている。

ウプサラ・モデル:
海外進出企業の学習の方向性は2つある。
① 自国と文化・制度・距離等が近い国から進出
② リスクの小さい形態での進出
認知に限界がある企業が、自国から文化的・制度的に離れた企業に進出するのはリスクが大きい。
自国と文化・制度・距離等が近い国から進出し、そこで経験を積んで学習し、徐々にサーチの範囲を広げ、「遠い」国への進出を進めるというもの。
そして認知に限界のある企業が、慣れない外国でのビジネスに最初から多額の資金を投下するのはリスクが大きい。そこで企業はまず輸出・フランチャイズなどリスクの小さい形態で海外ビジネスを始め市場の状況や商習慣を学習したうえで、徐々にサーチの範囲を広げ、やがて学習が進んだら現地法人による現地拠点・製造拠点の設立などを行うという考え方。

リバースイノベーションとは?:
先進国に本拠を置く多国籍企業が、(技術的に劣るとみなされていた)新興国のイノベーションを本国に持ち込むこと。

<メモ>
企業が実際に直面する課題はビジネス環境の違いである。企業の業績や生死に直結するのはあくまでビジネス環境の違い(代表格は法制度・社会制度)であり、国境を超えることそのものではない。

なぜ企業活動は一国内の特定都市に集中するのか?:
それは企業活動では得意インフォーマルな情報・暗黙知が重要だから。インターネット上の形式値は、誰もが手に入れられるのだから、逆に言えば、「価値がない」。むしろインターネットが普及板時代だからこそ、ビジネスで勝負を決めるのは、例えば都市の起業家コミュニティに入り込んで、他者と何度も顔を合わせることでのみ得られる暗黙知や「ここだけの話だけど・・・」といったインフォーマル情報になるはず。
※とはいえコロナによる人の移動の制限と、密集の制限によりいかに「実質的距離」以外でインフォーマルな情報がやり取りできるような状態を形成するかは鍵。

■アントレプレナーシップと経営理論:アントレ領域が拡張するミリアに起業かがどう育てるべきか

アントレプレナーとは?:
リーダーとして、創造的破壊の改定に貢献するもの。
そして会社を新しく立ち上げても、それが創造的破壊を目指すものでないならアントレプレナーではない。
<メモ>
アーリー段階での起業家に重要なのは、投資家との信頼関係の構築や、ネットワーキングであるという研究も多く出てきている。

アントレプレナーシップの進出領域:
①大企業に進出:イントレプレナーシップ
大企業にてイノベーションと創造的破壊が求められている中で、大企業の中で起業家のようにふるまう社員が増加。

②多国籍企業を代替(インターナショナルアントレプレナーシップ)
従来の多国籍企業はまずは国内市場で成功し、経験と能力を蓄積したうえで、徐々に海外進出するものだった。しかし現在では、創業間もないスタートアップを企業が新結合を起こし、その創造的破壊の力がグローバルに展開しやすくなっているため急速に多国籍化する現象が世界中で起こっている。
なぜ起きるか?:
ICTの発展は取引費用を下げる。強いコア資源さえ内部化しておけば、小さなスタートアップ企業が国境をまたいで活動できる。

③NGO、NPOを代替(ソーシャル・アントレプレナーシップ)
社会的、公共的な目的を優先して設立されたスタートアップ企業がそれにあたる。従来はNPOセクターが占領していた領域にもアントレプレナーシップが浸透してきた。
先進国を中心に経済的な欲求が満たされ、人々の間に社会的なモチベーションや信頼・共感などを大事にする傾向が出てきた。

④政府機関を代替(インスティチュ―ショナル・アントレプレナーシップ(制度アントレ))
通常なら政府機関が主導して取り組むべき制度改革を、民間人が旗振り役となって、社会ムーブメントを作りながら進めだした。
我々の住む世界には様々な社会上の「常識」がある。一見それは当然のように、空気のように我々の社会を規定しているが、「社会的な正当性を獲得するプレッシャーの中で様々な組織・ビジネスパーソンを行動様式が同質化している結果として、みんなが何となく従っているだけ」だ。
社会常識とは一種の幻想のようなものだから、逆に打つ破ることも不可能ではない。社会的な常識を打ち破り新たな常識を打ち立て、周囲を巻き込んで社会を動かそうという行動を起こす人を制度アントレプレナーと呼ぶ。


事業開発の発見型と創造型の違い:
発見型とは?:
事業機会は、「起業家の存在とは独立して、何かの外的な環境変化により発生する」と考える。
例)人工知能の台頭という技術環境の変化がまず新しい事業機会を生み出す 等

創造型とは?:
事業機会とは起業家が行動を起こすことで、起業家によって作られ、後になって認知される。と考える。起業家がAIを使って様々なサービスを試行錯誤し、いろいろな潜在顧客に試しているうちに、収益化の仕掛けが見えてくる。

どちらの立場をとるかによって、起業家をどう育てられるのかの示唆が全く異なる。
発見型:大事なのは周囲のビジネス環境を精緻に分析すること。
創造型:様々な試行錯誤・行動を繰り返し、事業機会が事後的に、徐々に浮かび上がってくるという立場。

<メモ>
センスメイキング理論に基づく創造型は、そもそもまずはやってみなさいということに。加えて言えばビジョンを熱く語る人を原落ちさせる内製する感情をあらわにして周囲を巻き込むといったことは極めて属人的、暗黙知的なことであり会議室・教室の座学だけで身につくものではない。
だからこそ多くのビジネスパーソンが、デザイン思考、マインドフルネス、ストーリーテリング等創造型を高めてくれそうな様々な仕掛けに注目している。

■企業組織の在り方と経営理論:「5つのドライビングフォース」が示す、未来の企業組織の姿~

5つのドライビングフォースとは?:
① 効率性(取引費用論が中心)
② コンピタンス(RBV、ダイナミックケイパビリティ、リアル・オプション)
③ パワー(SCP理論、資源依存理論)
④ アイデンティティ(認知心理学ディシプリンの理論、制度理論)
⑤ ネットワーク(ソーシャルネットワークの理論が中心)

ティール組織の理解:時代とともに変化する「あるべき組織の姿」
① 衝動型組織(レッド)
② 達成型組織(オレンジ)
③ 多元型組織(グリーン)
④ 進化型組織(ティール)

中世の封建制度の中での統治、君主と市民の依存関係の在り方は「パワー」。レッドに近い。
産業革命以後、資本主義社会が台頭し、資本家が労働者を雇用して商品を生産し利潤を追求する経済体制が主流化。この時代に求められたのが「効率性」。組織に求められる高い生産性を実現するためにオレンジに。
21世紀は「不確実性の高まり」を背景に、企業の多産多死が加速する時代に入った。どの企業もイノベーティブになって、新しいものを生み出さなければ生き残れない。結果「認知・アイデンティティ」と「ネットワーク」の組み合わせがドライビングフォースとなりグリーンが主体となった。
そしてこれからの未来の組織の在り方:
中心のないネットワークの時代。未来でも「ネットワークと認知の組み合わせ」が重要なドライビングフォースと考える。ただそのあり様は、グリーン型とは異なる。未来の世界では今よりもさらに組織を超えた人の流動化が進む。1人2~3社に所属するような状況も普通になってくる。世界中で弱いつながりの広がりが広がり、スモールワールド現象がさらに進む。ルーティーンワークの自動化が進み、人はより自らの自由意志で、企業の境界線を越えて動き回り、そこで新しい価値を生み出すことになっていく。
結果としてネットワークから中心がなくなり、その中で人が自律分散的に動く組織になるはず。

グリーン型では、リーダーが「こういうビジネスをやりたい」「高世界を変えたい」というビジョンが求められた。
中心がない組織でのビジョンは「全体がつながっている緩いコミュニティの範囲」を何となく示すような、より緩かなモノになるはず。「こうしたい」という動詞の欲求よりも、「こっちの方向が楽しいよね」「面白いよね」などの価値観がベースになる。
ほぼ全ての仕事が組織単位ではなく、プロジェクトベースになっていく。(逆に言えば、プロジェクトが終了してしまえば、その組織の存在価値もないかもしれない)
※筆者としてはティールが実現するのは、ブロックチェーンの技術が普及したタイミングからであると想定。
例)ティール例は、ヤッホーブルーイングやザッポス等

資本主義社会構造再考への示唆:
これからの未来では、株式市場メカニズムを前提にした資本主義する再考を求められるかもしれない。
プロジェクトが終了してしまえばその組織に存在価値もないかもしれない。企業もビジョンややりたいことが達成出来たらそこで「死んでいい」はず。
現代の資本主義社会では「企業は永続を目指すべきもの」という前提がある。ゴーイングコンサーンと呼ばれるこの考えは、株式会社の基本である。企業は有限責任の株主から資金を集め、かれらにそのリターンを常に還元し続ける必要がある。上場すれば、企業価値を永続的に高めるプレッシャーに常にさらされる。やりたいことが実現したから、当社は解散しますとは言えないのだ。結果として現代の企業は新たなビジョン・戦略的方向を無理やり掲げて、そちらに組織をドライブする必要に迫られる。
大胆に言えば、ここにきて急に「デジタル企業」というミッションを新しく掲げて変化しようともがくゼネラル・エレクトリックはその典型例かもしれない。
結果として、本来はプロジェクトが終了したから死んでいいはずの組織が、組織を生きながらえさせるという自己目的のために苦しむ。
今はクラウドファンディングやICOの仕組みが既存の株式会社の在り方に再定義を迫るかもしれない。

■ビジネスと経営理論:現代の経営理論はビジネスを説明できない

「現代の経営理論はビジネスを説明できない」どういうことか?
当章以前のビジネスプランニングにおいて、計画派(PDCA)と、行動派の説明をしきれる経営理論が存在していない。
現代経営学における大前提として、「世界の経営学において、ビジネスモデルの研究はほぼ確立されていない」という事実。
理由としてはビジネスモデルという定義が曖昧であり、ビジネスモデルを定義するための4つの要素が、それぞれ、異なるディプリンからの経営理論を用いられている。そもそも理論が重なり合って複雑になることは「完結に本質のメカニズムだけを切り取る」ということができない。
それぞれの細かいメカニズムは既存の理論で多くが説明可能だが、「ビジネスモデルの全体像」を説明する理論は、現時点でこの世に存在しない。
① 効率性(取引費用理論:情報の経済学)
② 補完性(RBVが該当)
③ 囲い込み(SCP理論)
④ 新奇性(ソーシャルネットワーク諸理論)

世界共通のビジネスの目的のコンセンサスはない:
現代社会におけるビジネスの目的は何?この根限定な問いに、我々は世界共通のコンセンサスを持っていない。一方でポイントは現代のビジネスにでは必ずしも我々が経済的な収益を上げるだけが目的ではない。

ビジネスで生み出すべき「価値(コレクティブバリュー)」は何か?:

直近の潮流はウェル・ビーイング:
精神的・社会的に良好な状態。「我々一人ひとりがよりよく生きる」こと、そしてそれが「幸せである」こと。2016年の世界最大の経営学会であるアカデミー・オブ・マネジメントでのテーマがまさにウェル・ビーイング。
近年多くの経営者が、「ビジネスの目的は社会の様々な人々は従業員、ステークホルダーの幸せを追求すること」だと主張し始めている。ユニリーバも、セールスフォース・ドットコム、ヤフーも同意をしている事実。

<メモ>
法は正義のために、医療は健康のために、では「ビジネスは何のため」に?


第六部:経営理論の組み立て方・実証の仕方

■経営理論の組み立て方:ロジックの賢人ほど「人とは何か」を突き詰める

「ロジックの賢人ほど「人とは何か」を突き詰める」とは、どういうことか?
WHYを突き詰めていくと、最終的には、「人はそもそも、どう物事を考えるものなのか?」という問いに必ず行き当たる。これは社会科学の「心理法則のようなもの」全てにいえること。
複雑で怪奇な人間の思考を、「そもそもこういうものだ」と一元化することは、極度に難しい。
だからこそ、世界の経営学では「そもそも人間とはこういうものだ」ということについて確立された前提を持つ、他分野の理論を借りている。

「人とは何か」について偉人の言葉のまとめ:
・人間は「自分だけよければいい」と利己的に考えがちです。しかし本来。人間は人を助け、他の人の為に尽くすことに喜びを覚える、美しい心を誰もが持っています。(稲盛和夫)

・人間はインセンティブの奴隷です。お金が欲しい人はお金の、権力が欲しい人は権力、名誉がほしい意図は名誉の奴隷になります。それが友情でも、家族愛でも、集団への帰属意識でも、本人にとっては重要な欲求であればインセンティブの一種です。そしてそうした欲求は本人の正確とも深く関係します。要は「人はインセンティブと性格の奴隷」なのです。(富山和彦)

・人間とは、ポリス的動物である(=ポリス(共同体)とは切っても切り離せない強い結合のもとにある、という意味)(アリストテレス)

それぞれの経験や思考から「人とは、そもそも同物事を考えるのか」を自分なりに考えて、突き詰めている。だからこそこういう発言が湧き出てくる。自分なりの芯が通っているからこそ常にWHYを突き詰める軸がぶれず、結果としてロジック・思考がクリアで、ひいては行動まで伴う。

■経営理論のさらなる視座:経営理論こそが、あなたの思考を解放する

本書の狙いは、特にビジネスパーソンが、経営理論を思考の軸として、さらに活用するための視座についての考察。ポイントは言うまでもなく「経営理論」と「思考の軸」。
そして「そもそも本当の意味で経営理論は存在しない」ということであり「したがって経営理論をこれ以上深く学ぶ上で、経営学書は必要ない」そして「思考の軸に必要なのは、経営理論を信じないこと」だ。

本書の理論は、あくまで他ディシプリンから派生してきたものにすぎない。なぜ、経営学では他分野の理論を基礎とするのか?経営学で扱う対象は、経営・ビジネス・組織などだが、それはあくまで「現象」に過ぎないから。
ビジネスをしているのは誰か?「人」である。経営理論とは「人・あるいは人が織りなす組織が、普段から何をどう考え、どう意思決定し、どう行動するか」を突き詰めたものに他ならない。
経営学とは人の考えを探求する分野だ。(そして複雑怪奇なそもそも人はこのように考えるものだということに基盤を持った社会学、経済学、心理学を応用している)

経営理論の基盤となっている、経済学、心理学、社会学の各ディシプリンや、それに関連する分野の書籍を読み、そこで「人の考え」へ洞察を深めることだ。

■各ディシプリンの推薦図書の例:
経済学:
・マンキュー経済学
・ミクロ経済学の力
・組織の経済学
心理学:
・ファスト&スロー
・知ってるつもりー無知の科学
・予想通りに不合理
社会学:
・信頼の構造
・つながり、社会的ネットワークの驚くべき力
・新ネットワークの思考

一流の経営者に唯一共通していること:
「常に考え続けている」ことだ。考え続けるには、何か思考のよりどころ(=軸)が必要だ。軸が無い中でやみくもに考えてもそれは羅針盤の無い中で航海する船のようなもので、思考はクリアにならない。

フレームワークではなく経営理論を:
この複雑で変化が激しく、答えが無いかもしれない世界で、意思決定だけはしなくてはならないことだ。何が正解かはわからなくても、ビジネスパーソンは意思決定をして前進しなければならない。
正解のないビジネスにおいて、無理やり当てはめてしまう経営のフレームワークは思考を停止させがちだ。
経営理論はWHY一つの道筋を与えるもの。理論は決して正解ではない。
なぜ企業はそのような行動をとるのか、なぜ組織はそのようになるのかのWHYに、一つの道筋を与え、思考をクリアにする。クリアになった思考はその軸を端緒にしてさらに飛躍する。軸があるからこそ、そこを出発点として新たな考えも生み出せる。
新たな考えはビジネスの未来を切り開く一助になる。

~終了~

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