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メンタリストDaiGoの炎上に関連して知っておくべきこと

 社会批判としてヒトラーやナチスが持ち出されたとき、「またヒトラーかよ」「左翼かぶれのインテリはナチスが好きだな」と冷笑的に眺めている人はけっこう多いのではないでしょうか。
 そういう人には、「悪いことは言わないから、近代史を学んでごらんよ」と言いたいです。

※議論の前提はこちら。この後登場する引用はDaiGo氏の発言です。

近代ドイツ史は普遍的だからこそ何度も持ち出される

ドイツはなぜ第二次世界大戦の惨禍を引き起こしてしまったのか。戦後のドイツでは「ドイツ特有の道」論への賛否をめぐる歴史論争がありました。ドイツは他の西洋諸国と異なる特殊な歴史を歩んできたので、ナチ体制を生み出したのだ、というのが「特有の道」の考えです。

確かに、ヒトラーに至るまでのドイツ史を連続的に捉えることは大切です。しかし、「ドイツが特殊だったからホロコーストの悲劇が起きた」(別の国・民族ならそうなる心配はない)ということではありません。

ドイツ近代史を勉強すればするほど、独裁体制を生み出し虐殺を引き起こしたドイツの失敗は、全人類に普遍的な教訓を与えていると感じます。

詳細は、昨日書評を書いたこちらをお読みください。

そもそも優生思想とは何か

ナチスによる人権侵害の背景に、優生思想があったことはよく知られています。メンタリストDaiGo氏の発言が優生思想(優生学)につながるという指摘は、すでに多数なされています。

優生思想とは、「人間の優れた遺伝子を保存し、劣った遺伝子を残さないことで、人類をより優れたものにしよう」という考えです。これを追求する学問が優生学です。

優生学は19世紀~20世紀前半にかけて興隆しました。優生学が研究されたのはドイツに限りませんが、第一次世界大戦で多数の成人男子を失い、社会の立て直しが急務だったドイツでは、特に研究がさかんでした。

ドイツの優生学者アルフレート・プレッツは、犯罪の常習者や精神障碍者などを「劣等遺伝子の保持者」とみなし、国家の発展のために断種(子供を作れないようにすること)するべきだと主張しました。

「自分にとって必要のない命は、僕にとって軽い。だからホームレスの命はどうでもいい」

人命を「必要あるかどうか」で選別する思想が何を引き起こしたか。本人がいかなる弁明をしようと、軽率の誹りは免れません。

ナチスはどのように優生思想を実行したか

ヒトラーもまた、こうした優生思想の影響を受けていたと考えられます。彼は、ドイツ人(アーリア人)こそが最も優れた人種であり、劣った遺伝子の持ち主は排除すべきだと考えていました。

人種的に最も劣っているとされたのがユダヤ人ですが、国家的な排除政策の対象は精神障碍者、知的障碍者など広範囲にわたりました。著名な作曲家シュトックハウゼンの母親も、精神障害を理由にナチスに殺害されています。

同性愛者も、「子孫を残さず共同体に貢献しない」という理由で殺害の対象となりました。移動生活を行うロマ(ジプシー)、さらには定職につかない労働忌避者、今でいう「ニート」も迫害の対象でした。

「言っちゃ悪いけど、どちらかというホームレスっていない方がよくない?正直」

ナチスはまた、街中にいる物乞いやホームレス、不良少年なども拘束して強制収容所に入れ、断種手術を施しました。しかし、世間の人々は、「街中の得体の知れない連中がいなくなって安心した」と歓迎したのです。

「生活保護の人に食わせる金があるんだったら猫を救ってほしい。生活保護の人が生きてても僕は別に得しないけどさ、猫は生きてれば得なんで」

役に立たない人間よりも有益な動物の命の方が重い。ナチスは非人道的な行いをする一方で、きわめて先進的な動物保護政策も実行していました。

アウシュヴィッツへの一本道

アルフレート・プレッツが『民族衛生学の基本指針』を出版し、ドイツ優生学の出発点となったのが1895年。
ミュンヘン大学に人種衛生学(優生学のこと)の講座が設けられたのが1923年。
ヒトラー政権の成立が1933年。
精神障害を患う者の結婚が禁止されたのが1935年。
重度の障碍者などを安楽死させる「T4作戦」が始まったのが1939年。
アウシュヴィッツ強制収容所でのユダヤ人殺戮が始まったのが1942年。

虐殺はいきなり起こったわけではなく、破局には予兆がありました。しかし、ドイツの民衆の大半はそれを止めることはありませんでした。

現代日本に生きる私たちは、過去の教訓を参照することができます。歴史を学ぶ営みを止めてはいけないと、切実に思います。

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