【書評】西股総生「パーツから考える戦国期城郭論」(ワン・パブリッシング)
城ファン・戦国ファンの数の多さ故、城の解説書はたくさん出回っている。なので、一般人でも堀、土塁、天守といったパーツの基本的な知識はひととおり身に着けることができる。
が、「ひととおり」の知識では満足できない人には本書がお勧めだ。著者の西股先生は、従来のアカデミアが苦手としてきた軍事の視点から、独自の論考を世に出してきた。大学所属ではない研究者ならではだと思う。
軍事の世界では、失敗はすなわち死を意味するので、徹底的な合理主義以外の要素がほとんどない。軍事から物事を考えているためか、西股先生の論考も実際的・合理的で、あまり観念的なものがない。時に身もふたもないほどだが、なかなか痛快だ。
例えば、斜面にびっしり竪堀がめぐらされる畝状竪堀群。見た目は迫力があり、築城の名手が築いたのかな、と感じてしまう。
しかし、本書では攻城戦での機能や工事の容易さなどにも踏み込む。竪堀は比較的少ない労力でつくることができる。つまり小さな兵力で最大限の阻止効果を発揮するのが竪堀ということになる。畝状竪堀群は、実は「弱者の防御兵器」だったのである。
本書を読んで城めぐりをすれば、違った楽しみが見えてくるだろう。それは中世城郭・近世城郭でも変わらない。
※写真は本書にも登場する鉢形城の馬出。
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