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音楽素人が一日一曲の鑑賞を1000日続けてみて思った12のこと―音楽鑑賞のススメ。

1. はじめに

音楽とは、毎日同じ教室にいるのに顔を合わせていないような気がしていた。

毎日YouTubeのミックスリストや自動再生で音楽を流したり、Spotifyで音楽を聞きながら駅を歩いたりしているのに、改めて考えてみると音楽を味わうための時間は意外とない。それに気が付いたのが、2019年のゴールデンウィークでした。

映画館で映画を観る時は、映画だけに集中する。
家でゲームをするときは、コントローラーを握らないといけないしゲーム以外のことはなかなかできない。
でも、音楽は何かをしながら、触れることができてしまう。
その分、音楽と触れ合っている時間は長いのに、音楽とむきあって、音楽のためだけの時間をとることはあまりないような気がします。

その一方で、楽曲が生演奏であれ打ち込みであれ、またその音の存在を聴き手が認知していようがしていまいが、楽曲内の全ての音は職人さんたちがこだわりぬいた味わい深いもののようです。

「誰も分からないようなとこをこだわるんですよね。まぁそれがミュージシャンですかね。やっぱりね。

とレコーディングの直後、ベーシストの笹本安詞さん。たまたま見たわずか9分のレコーディング動画の中で、楽曲のディレクターさんと笹本さんは、素人目にも圧倒的な技術でものすごく楽しそうに音を作っていました。(数分だけでもぜひ見て頂きたい…!)

自分の聞こえていなかったところで、音楽はこんなに豊かで味わい深かったんだ…!そしてそれ以前に、音楽を聴こうとさえしていなかった…!

ここで笹本さんのレコーディング動画と、その日にたまたま出会った『メロンソーダ』という楽曲の綺麗さをきっかけに一念発起。一日に一曲、できるだけ聴いたことのない曲を鑑賞して毎日ツイートするという試みを始めました。そして2022年2月6日に音楽鑑賞を続けて1000日になったので、改めて思ったことや考えたことをまとめようと思います。

いろいろ書きましたが、音楽をじっくり鑑賞するのはいいぞ。という趣旨の文章です。

2. 実際にやったこととルール

一日一曲の鑑賞で、具体的にやったことは次の4つです。

(1) 一日一曲、音楽を鑑賞する。

音楽を聞き流す、作業用として音楽をかけるのではなく、音楽を聴くためだけの時間をとることにしました。音楽の前面に立つボーカルや歌詞、メロディ以外のパートでも、作曲家さん、編曲家さんは練りに練った構成に楽器・音選びをしているし、演奏者さんはこだわりぬいた音を奏でているはず。それは音楽素人が1, 2回鑑賞しても全てを受け止めきれるものではないけれど、できるだけ受け止めたいと思いました。

(2) 鑑賞するときは、できるだけ聴いたことのない曲を選ぶ。

(難しいときは、昔聴いていた曲に向き合う鑑賞でもOK)

死ぬまで毎日聴いたことのない曲を聴いても、余命より世に存在する曲の方が多いのは明らか。それなら、音楽の幅を楽しむためにもできるだけ知らない曲を聴くことにしました。

(3) 公式で配信されている楽曲リンクで聴く。

気付くのがとても遅かったのですが、今ならYou Tubeで検索すればほとんどの曲は聴くことができるけど、音楽を作っている人への敬意として公式の動画や音楽配信を使って、敬意と感謝を示すことは必要だろうと思いました。(初期の感想ツイートはポツポツと怪しいリンクがあって恥ずかしい…。)

(4) 歌詞だけの言及はできるだけ避けて、音楽とのリンクを考える。

音楽の感想を書くときに、楽曲の既に言語化されている側面、すなわち歌詞だけに言及するのは、楽曲を味わったと言い難いのではないか、と思いました。一般の詩と違って、音楽が伴ってこその歌詞。曲が先であれ、詩が先であれ、そのための作詞家さんのノウハウもあるし、作曲家・編曲家さんの工夫もあるなら、やっぱりその全体を味わいたい。カレーライスの具だけを食べて、カレーライスを食べた気になるのはもったいないと思いました。

3. 思ったことと考えたこと

(1) 現代ポップミュージックには無数の過去音楽へのリスペクトがある!

1000日鑑賞を続けていると、「このフレーズ、どっかで聴いたことあるぞ…?」と思うことがちらほら出てきました。調べれば調べるほど、現代の音楽は本当に過去の音楽をリスペクトしていたんだなぁと気付きました。
一例として、アニソンでも『星間飛行』を聴くときに明確にDEEP PURPLEの『Smoke on the Water』を感じられれば、同じリフがこんなに違う印象になるのを楽しめる。(『星間飛行』の0;29の箇所です)

これは分かりやすい例でしたが、音楽をたくさん聴いている人は音楽を深く味わえているだろうし、楽しいだろうなぁと思いました。

「今の音楽は分からない」とうそぶく人こそ、昔の曲を知っていて今の曲を若い人より味わえるんじゃないかなぁと思いました。昭和当時の音楽の盛り上がりをリアルで知っている方々がうらやましい。

逆に音楽体験が乏しい自分としては、今をときめくアーティストさんの楽曲から、ルーツをさかのぼるのがとても楽しいです。

(2) みんな自分の全く知らない曲を聴いている。

自分だけで一日一曲ひねり出すのが難しいときに、周りの人に好きな曲や今聴いている曲を尋ねてみると、それぞれ自分の全然知らない曲を教えてくれました。友だちに聞けばガチガチのUKロックやアニソンだったり、妹に聞けば韓国でデビューしたてのアイドルユニット、上司に聞けばなんとでんぱ組現地勢でライブの良さを語られたり。

今や紅白歌合戦を見ても、「みんなが知ってるあの曲」はないかもしれないけど、あえて話すまでもない自分の好きな曲はみんな持っていて、それが全然かぶっていないのはちょっとおもしろかった。それだけたくさんの音楽があるということだし、これからもどんな曲を聴いているか聞いていきたいです。オススメの曲があったら教えてください!

(3) 最低限の音楽環境と音量は大事。

自分が鑑賞している音楽が、スピーカーを通した時点ですでに100%のものでなくなっているなんて思ってもみなかったのですが、スマホやPC等のスピーカーでは物理的に低音が出せないようでした。

1000日鑑賞の中で出会った推し作曲家の宮野弦士さんの楽曲を味わうためにも、ヘッドホンで音楽を聴くようになると、素人でも低音の鳴りをしっかり認知できるようになりました。楽曲を支える音がしっかり聴こえると、なんとなく音楽で体を揺さぶられることが多くなった気がします。

(4)リズムがとにかく体をゆさぶる。

ベースやドラムの低音が大事な理由って、リズムを作るからなんだと身をもって実感しました。ベースやドラムが作る基礎のリズムがあって、そのうえでさらにベースやドラム自体が楽しく踊る。さらにそれにのってメロディやそのほかの楽器が伸びやかに歌ったり、心地よく休符を刻んだり。このリズムが作る快感が音楽自体の魅力の一つだと思いました。だからこそ最低限の音楽環境は大切。

しっかり低音が聴こえる環境で聴くこの2曲は本当に気持ちがいいです。
(カラオケでリズムがしっかりハマると快感ですよね)

(5) クラシックやカバー楽曲は演奏を味わえる。

クラシックって、有名な曲であれば無数の人が演奏していて、その数だけの表現や味わいがある。現代の音楽はコラボなどを除いてアーティストに曲が属しているけど、クラシック音楽では楽曲自体は演奏者みんなが共有していて、それぞれが自分の表現で楽曲を演奏する。だからこそ、楽曲そのものというよりはピアニストや指揮者といった表現者・演奏家に注目が集まるし、これはクラシック音楽のジャンルの特質なのかもしれないと思いました。

構造としては、過去の名曲をカバー・アレンジするのもクラシック音楽と似た楽しみ方ですね。それぞれの良さやカバーの意図を考えるのも楽しいです。

(6) 世界には(ネタとしての?)楽しい音楽がある!

毎日音楽鑑賞をしていて、音楽を使ったおもしろい表現をされている方がいらっしゃったのでご紹介です。音楽で笑うことってこんなにあるんだなぁ。この他にもきっと楽しい音楽を作っておられる方がいらっしゃるはず。どんどん出会っていきたい。音楽って楽しいなあ!

ここまでではないけど、Leroy Andersonさんの曲も時代を考えるとかなり攻めているし、今見ても面白い、そしていい曲…。紙やすりの音を楽曲の中心に据える視点と構成よ。Voces para la Pazさんの演出も素晴らしい。


(7)新しい音楽と出会う経路は意外と狭い? 

一日一曲を続けるときに曲探しに困ることがあったので、普段どうやって新しい音楽と出会っていたか改めて考えてみると、なかなか出会う機会は少ないように思いました。

思い返すと、コンビニに行ったり外食したら音楽は流れているけど、帰って曲を検索なんてしない。テレビに触れる時間もネットで短くなっている。そう思うと、受動的に新しい音楽に触れる機会って、YouTubeの自動再生や、Spotifyなどのミックスリストくらいなのかもしれない。能動的に新しい音楽を聴くときって、自分の好きなアーティストさんのYouTubeチャンネルや、気に入った映画やドラマの曲を検索したりするときになりそう。

音楽と無縁の生活は難しいかもしれないけど、新しい音楽とほとんど出会わない生活が普通になっているのかも。

(8)音楽の制作された目的と機能を前提に鑑賞するのも大切。

楽曲が映画やアニメの主題歌や、ドラマやゲームのBGMとして作られる場合もあります。そのときに音楽だけを切り取って鑑賞するのはある程度限定的な味わいになることを自覚することは大事だと思いました。

音楽それ自体が目的で作られるのではなく、音楽に何らかの機能を期待して楽曲が制作されることもあるときは、その機能も考慮できてはじめて楽曲の真の魅力を感じられるようでした。
一例として、「ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」のメインテーマも、音楽だけで聴くのと映像つきで聴くのとでは印象が変わりますね。

ゲーム音楽の場合、もちろん楽曲それ自体も非常に価値のあるものだけど、楽曲はゲームの価値を高めるものとして作られるものだと思いますし、またそのゲーム体験がゲーム音楽の価値を高めてくれるような気がします。

(9) 音楽って、何度も繰り返し楽しめるからすごい。

物語も、ゲームも本当にお気に入りの作品なら繰り返し楽しむことはあるけど、それには相当の労力を要するし、実際に2回目に触れることって少ないと思うのですが、音楽は簡単に何度も楽しめます。何なら鑑賞のために30分以上1曲リピートをするなんてザラにありましたし、でもそれが全く苦にならない。これって音楽という形の強みでおもしろさだなぁと思いました。

音楽にも1回目の鑑賞しか味わえないネタバレ要素はもちろんありますが、頭に回るフレーズで何回も聴きたくなる感じ。そしてそのたびいろんな感覚を与えてくれるのは、音楽というジャンルの性質なのかもしれない。

その点で一度聴いただけで覚えてもらえて、頭にぐるぐるまわるキャッチーさは重要なのかも。AKB48の『ヘビーローテーション』はもはや洗脳かと思うレベルのリフレインで絶対頭に残る。これこそが『ヘビーローテーション』…!

(10)「歌詞が好きなら詩を読めばいい」なんてことはまったくない!

音楽鑑賞をするまで、ずっとこう思っていたのですが作詞のことをちょっと考えるだけで「歌詞が好きなら詩を読めばいい」なんて言えなくなりました。
楽曲が作られるとき、曲が先にできるパターンと詩が先にできるパターンがあるようです。曲が先にできる場合を少し考えてみると、メロディのリズムの制約、ことばの認識の制約、メロディの高低の制約など、いわゆる自由詩や俳句・短歌などより圧倒的に制限がありそうです。この制約の中で、さらに韻を踏んだり、物語を紡いだり、キャッチーさを演出したりと考えると目がまわりそうです…。さらにこれがアニメのOPなら求められる機能はさらに増えたり…。作詞家さんは偉大。
(実際に歌詞を考察してもその奥行きは終わりの見えないものでした)

詩が先に生まれることも少なくないようですが、いずれにせよ歌詞は音楽ありきであるという認識は重要なことだと思いました。

(11) 感想はアーティストさんに届く!(こともある)

毎日音楽の感想をツイートする中で、作曲家さんや編曲家さん、作詞家さん、アーティストさんから直接反応をもらえることがありました。反応をもらうことを目的にするものではないけど、ひとりの音楽を楽しんだ感想が作り手に届いて、もしかしたら喜んでもらえているかもしれないと思うと、そのこと自体がさらに嬉しい。良い音楽を楽しませてもらって、嬉しいのは聴き手側なのにな。

好きなアーティストさんの曲はどんどん感想ツイートして、楽しんでいることを伝える形でお礼をしていきたいです。

(12)もしかすると「音楽」の感想を語れていないかもしれない。

音楽鑑賞をしたかどうかに関わらず、多くの人が人生のうちどこかでは音楽の感想を話したことがあると思います。感想を話すのは難しくなかったでしょうか。自分のことをふりかえると、「なんか良い!」とか「この部分の歌詞がおもしろい!」とか言っていた気がします。さらに踏み込んで、なぜ良いのか、おもしろいのかと考えると自問自答なのに言葉に詰まるような感覚がありました。

楽曲解説などの記事を探すと、「歌詞の解釈」という限定された範囲で感想が述べられているか、コード進行などの音楽知識を前提とした高度な語り口になっているものが多いように感じました。

楽曲のうち、音楽自体のことを直接語ろうとすると音楽知識がないと難しいように思いました。一方で言語化されていて語りやすい歌詞についてのみ語ってしまっては、楽曲としての良さを十分に語れている気がしない…。鑑賞を進めるうちにこのモヤモヤを抱えることになりました。

1000日の鑑賞を通して音楽知識のない自分がとったアプローチは、楽曲の印象(テンポやメロディ、リズム、使われる楽器など)と曲名・歌詞の関連性を直感的に言語化することでした。この方法であれば、音楽についての直感的な印象をもとに、それを構成している音やことばについて素朴に語ることができるような気がしていますが、今後さらに試行錯誤が必要そう…。

4. 音楽鑑賞のススメ

ここまでいろいろ書きましたが、もちろん今でも音楽を作業しながら聞くことも多いですし、今も『メロンソーダ』を聞きながらこの記事を書いています。

ただ、音楽を味わうのは楽しいし、曲を知れば知るほど今まで聴いた曲もこれから聴く曲もより味わい深くなる!というシンプルなことが分かったという感想でした。

音楽鑑賞に必要なのは、音楽だけで事前知識なんてなくても大丈夫だし、5分もあれば音楽を聴けて、その感想をツイートするだけでアウトプットになります。そしてそれが楽曲を作ってくれた作曲家さん、編曲家さん、作詞家さん、アーティストさんへのエールになるかもしれない。良いことばかりですね!

みんなそれぞれ好きなアーティストは追っていると思うけど、一歩踏み込んで作曲家さんや編曲家さん、作詞家さんを意識して追ってみたり、好きなアーティストさんの好きなアーティストさんを追ってみるだけで、楽しみも簡単に広がります。

今まで何かを1000日続いたことなんてほぼなかったと思うけど、一曲の音楽にたくさんの人が見えないこだわりや工夫を詰め込んでいるからこそ、ここまで音楽鑑賞を続けられたのかなと思います。

これからどこまで続けるかは分かりませんが、音楽を作る人へ一層の敬意を持ち、顔を合わせた音楽の数を増やしながら、さらに音楽を楽しんでいきたいと思います。

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